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[GEN 678] 毒餃子事件報道を検証する【第17回】

発行日: 2008/5/15


 毒餃子事件報道を検証する                                 原田 和明

第17回 未明の対策会議

東京、兵庫県と連続して起きた毒飲料事件は、毒餃子事件のように大きく報道
されることはありませんでしたが、政府に与えた衝撃は相当なものだったよう
です。4月8日 大雨の中、午前4時半からという異例の時間に、内閣府で関係省
庁の担当者による「臨時食品危害情報 総括官会議」が開かれたのです。(4.8
IZAニュース)

政府は中国製ギョーザ中毒事件を受け、各省庁に食品安全を担当する食品危害
情報総括官を設置しており、臨時の会議が開かれるのは初めてでした。岸田文
雄・国民生活担当相が「各省庁がしっかりと連携をし、政府一丸となって対応
したい」と語り、各省庁に対し、早期の原因究明に向け全力を挙げるとともに、
被害の拡大防止に努めるよう指示しました。

朝4時半の開催とは尋常ではありません。「相次ぐ食品汚染が国民の生命、健
康に及ぼす影響が大きいと判断した。」とのことですが、警視庁はこの直前に
「グリホサートは低毒性」と発表したばかりです。事件の経過を時系列で並べ
ると次の通りです。

4月4日午後2時  女性(54)がジャスコ社店で「爽健美茶」購入
4月6日午後3時すぎ 女性が「爽健美茶」の異常に気付く
4月6日夕方   気分が悪くなり、入院。
4月7日夕方   ジャスコ社店で「爽健美茶」撤去。
4月7日夜    日本コカ・コーラ社、新聞社からの問い合わせで事件を知る。
        兵庫県警が「グリホサート混入」と発表。商品名は隠そうと
        した。
4月8日午前4時半 政府が「臨時食品危害情報総括官会議」開催

女性が入院したのは6日の夕方ですから、保健所への通報は7日の朝になった
と思われます。女性は入院しているのですから、問題の「爽健美茶」は、家族
の承諾を得て、まもなく保健所あるいは兵庫県警が押収したものと推定されま
す。そして、兵庫県警は夜には毒物を特定して公表、翌朝未明には政府が臨時
会議を開催しています。餃子と違って分析は比較的容易とはいえ、あまりに迅
速な対応です。この動きによって、新聞報道の小ささとは対照的に、政府にと
って大事件であると認識していたことがみてとれます。政府は、毒飲料事件を
毒餃子事件と関連がある、あるいは少なくともその関連性を否定できないと認
識したのではないかと推定されます。

ところで、臨時会議のあと、厚生労働省は次のような発表をしています。

 「兵庫県で女性が飲んだペットボトル入りのお茶に除草剤が入っていた問題
 で、厚生労働省は8日、飲料の包装状態に異常があったり異臭を感じた場合
 は保健所に届けることを消費者に周知徹底するよう、全国の自治体に要請し
 たことを明らかにした。」(4.8 IZAニュース)

通常、消費者は購入した商品に異常があれば、まず購入した店に苦情を伝え、
商品を返品するという行動をとるのが一般的でしょう。それを保健所に届け出
るように周知徹底するとはどういうことでしょう? 花王には情報開示に「待
った」をかけました。花王のように自社で分析できてしまうと困ることがあっ
たのでしょう。未明の臨時会議の性格が表れているように思えます。「国民に
真実を知らせるな」と。

兵庫県警の発表で ひっかかる点が他にもあります。高知新聞が 指摘している
「商品名を隠そうとした」ことです。練馬区で起きた事件では毒物名を隠そう
としました。今度はなぜ商品名を隠そうとしたのでしょうか? 読売新聞が公
表してしまいましたが、商品名が公表されなかったら、一般市民はどう受け止
めたでしょうか? 練馬区の事件と同じく花王が標的ではないかと思わないで
しょうか?

その疑問を考える上で参考になるかもしれないヒントが第3の事件で出てきま
す。第2の事件と同じく兵庫県下で発生しました。

兵庫県警は26日、兵庫県姫路市内のコンビニで購入したペットボトル飲料「爽
健美茶」(500ミリリットル入り)を飲んだ 男性会社員(27)が、腹痛や下痢
などの症状を訴え、飲み残しから除草剤成分「グリホサート」が検出されたと
発表した。

男性は入院はしておらず、症状は軽いという。製造工場内で除草剤成分は使わ
れておらず、県警は製造後に混入された可能性があるとみて、威力業務妨害な
どの疑いで捜査。コンビニの防犯カメラの映像を調べている。

姫路署などによると、男性は23日昼ごろ、同市西今宿の「ローソン姫路西今宿
店」で同僚が購入した爽健美茶を飲み、味に違和感を感じ吐き出した。腹痛や
下痢、吐き気の症状が出て、24日朝に病院で診察を受けた。(4.27 朝日新聞)

姫路の事件の特徴は、中身がすり替えられていたと推定される点です。なぜ、
そんなことが言えるのか? 根拠は次の記事です。

「男性から連絡を受けたコ社が飲み残しのお茶を調べたところ、糖度などが通
常の商品と異なっていることが判明。さらに県警の鑑定で、グリホサートが検
出された」(4.27 産経新聞)との ことですから、コカ・コーラ社は「爽健美
茶」の品質管理項目に「糖度」を入れていたことがわかります。

糖度だけなら簡便な測定器で測ることができます。化学会社である花王と違っ
て、コカ・コーラ社には混入した毒物を特定するなどの化学分析はできなかっ
たことでしょう。

ちなみにネットで調べると、コカ・コーラ社の「爽健美茶」はカロリーゼロで
すが、花王の「ヘルシア緑茶」は14キロカロリーとのことです。風味調整成分
として糖分である環状オリゴ糖をいれているためだそうです。ですから、男性
が異常を訴えた飲料は、「爽健美茶」の容器に他社の飲料が代わりに入れられ
たもの」と推定されるのです。もちろん、代わりに他社の飲料が入れられたと
しても、それが「ヘルシア緑茶」であるとは限りませんし、あるいは、「爽健
美茶」そのものに砂糖などを犯人が加える可能性もないではありませんが、そ
のようなことをする必要性がありません。

日本コカ・コーラ社は姫路の事件について発表資料で次のように言っています。

 「当社で、お客様から当該製品をお預かりし、社内で製品検査したところ、
 異物混入の疑いがあったため、姫路警察署へ届け出ると共に、明石保健所に
 連絡いたしました。その結果、本日26日未明、姫路警察署ならびに保健所か
 ら除草剤グリホサートが検出されたという連絡を受けました。」

コカ・コーラ社がいう「異物混入」とは、「同社のペットボトルに他社製品が
充填されていた」つまり、コカ・コーラ社にとって、中身すべてが「異物」で
はないかと訴えたのに、兵庫県警はその部分は無視して、毒物だけを分析して
発表したことになります。

こうなると、加東市の事件も、お茶そのものが入れ替えられていた可能性が出
てきます。残念ながら、加東市の事件では、現物の「爽健美茶」は警察が押収
しています。コカ・コーラ社は事件そのものを知らされなかったのですから、
糖分がどうだったのかは不明です。しかしながら、兵庫県警が事件の翌日に早
くも、商品名を隠そうとした意図はこのあたりにあったのかもしれません。

理由は不明ながら、犯人は最初に花王を標的に選んだ。しかし、花王だとたち
どころに毒物を特定されてしまうことに気付いたかどうかはわかりませんが、
容器を飲料専業メーカーのものに変えることで、警察以外に分析されることが
回避されました。もし、標的がコカ・コーラ社に変更された理由が「メーカー
による独自の分析の回避」であったとしたら、奇妙なことに気付きます。8日
未明の臨時会議の結論もまた、「保健所への通報の周知徹底」であって、問題
の商品が販売店を通じてメーカーに回収されないことへの配慮だけが会議の結
論であるかのように見えるのです。

「メーカーによる独自の分析の回避」という点において、犯人、警察、政府の
間で奇妙な連携がとれているのはどう解釈したらよいのでしょうか?

そして、第4の事件が姫路の事件とほぼ同時期に発生しています。(5.10 日経
新聞夕刊)4月25日に 東京都千代田区の 自販機で、ポッカコーポレーション
(名古屋市)の缶コーヒー「アロマックス ラテ イタリアーノ」を購入して飲
んだ男性(48)が味の異常を訴え、飲み残しから殺虫剤成分の「プロポキスル」
が検出されたことが5月10日に判明したのです。ここで、「厚生労働省による
と、男性がポッカに通報して発覚、健康被害はなかったとのことです。同省は
全国の自治体に対し「飲料に異常がある場合は、速やかに保健所などに連絡し
てほしい」と呼びかけている。」(5.10日経新聞夕刊)とのことですので、厚
生労働省は未明の臨時会議の結論が実行されず、再び異常があった飲料がメー
カーによって回収されたことを問題視しているようです。

同社の5月10日付発表資料にも次の記載があります。

 「この度、4月25日に弊社製品「アロマックス ラテ イタリアーノ」(170ml
 リシール缶)を飲用されたお客様から味がおかしいというお申し出があり、
 弊社でお客様から当該製品をお預かりし、社内外において種々検査を行いま
 したところ、5月9日に殺虫剤成分のプロポキスルが検出されました。同日、
 所轄の保健所と万世橋警察署に届けを出すとともに、全国清涼飲料工業会を
 通じ厚生労働省に届け出を行いました。」

4月27日には再び「爽健美茶」で事件が起きたのですから、ポッカが2週間も
警察に届け出ないまま、自社で検査を続行するということがありうるのか疑問
ですが、更なる疑問は厚生労働省の呼びかけです。国民の安全を守るという視
点からは、「飲料に異常がある場合は(当該メーカーは)速やかに保健所など
に連絡してほしい」と飲料工業会はじめ各食品組合などに呼びかけるならいざ
知らず、「飲料に異常がある場合は、(消費者が)速やかに保健所などに連絡
するよう(自治体が)指導してほしい」と自治体に要請することに何の意味が
あるでしょう。あるとしたら、情報は警察(あるいは政府)が管理するという
点だけです。

なお、製造後の缶コーヒーに毒物を入れることが可能かどうかですが、ポッカ
の「アロマックス ラテ イタリアーノ」という商品は「リシール缶」でペット
ボトルと同じようにキャップができるタイプでした。なお、「プロポキスル」
は有機リン系ではなく、一連の事件との関連は不明です。

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