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[GEN 677] 毒餃子事件報道を検証する【第16回】
発行日: 2008/5/13
毒餃子事件報道を検証する 原田 和明
第16回 今度は除草剤
毒餃子事件が何の進展もみせないまま報道も次第に少なくなってきた頃、今度
はペットボトル入りの緑茶飲料に除草剤が混入していたという事件が発生しま
した。
「花王」(東京都中央区)が販売する清涼飲料水のペットボトル「ヘルシア緑
茶」(350ミリリットル)を飲んだ 練馬区の会社役員の男性(43)が下痢の症
状を訴え、花王が成分を調べたところ、グリホサートという除草剤の成分が検
出されました。(4.6 毎日新聞)
男性の妻が3月26日に練馬区内のスーパーでヘルシア(350ml)2本を購入。
男性は1本目を27日に飲んだが異常はなく、31日の夜に2本目を男性が飲ん
だところ、洗剤や薬のような味(4.6 毎日新聞)、あるいは 漂白剤のような
においと苦い味(4.7 日刊スポーツ)がしたため、のどに指を入れて吐き出
した。男性は下痢を訴えたが、既に回復しており入院などはしていない。他
の客からの被害の訴えもない。男性によると、ペットボトルのキャップが少
し緩かったといい、警察は混入経路を調べている。(4.6 毎日新聞)
花王によると、除草剤の成分が検出されたものを含むヘルシアは3月5日に
委託先の日本果実工業(山口県山口市)で33万本が製造され、14日に出荷さ
れた。埼玉県内の物流拠点には約2万本が残っているが、開封して確認した
ところ異常はみられなかった。練馬区のスーパーには20日に納入され、翌21
日から26日まで陳列されていた。(4.7 日刊スポーツ)
31日の夜、連絡を受けた花王は翌4月1日に男性宅を訪問し製品を引き取っ
た。問題の製品は異臭や味のほか、色も通常より濁っていたという。花王が
鹿島工場で分析したところ、除草剤成分「グリホサートイソプロピルアミン
塩」を一致率約80%で検出した。(4.7 日刊スポーツ)5日に緊急記者会見
を開いた花王の青木秀子品質保証部長は「製造工場内には存在しない、通常
除草剤などに含まれる成分が検出された。致死量ではないがかなりの量」と
説明、製造段階の品質管理を繰り返し強調し、出荷後に混入されたとの見方
を強調した。(4.6 産経新聞)
これらの記事からは、花王が自社での分析で、毒物を特定し、その濃度も把握
して、記者会見で発表したのだと受け取っていました。4月7日付日刊スポー
ツでは、花王の分析で「一致率80%」だったとのことですし、部長が記者会見
で「(ヘルシア1本を全部飲んでも)致死量ではない。」と断言していること
から、花王は問題のヘルシアを入手後まもなく、毒物を特定し、その濃度も把
握して緊急記者会見を開いたものと思われます。花王の技術陣なら容易いこと
だったことでしょう。
ところが、花王の4月5日付発表資料では、「当該品を分析した結果、異物の
混入が確認されました。」とあるだけで、物質名は記載されていません。さら
に、4月8日付発表資料では、「(記者会見した4月5日)の時点では、異物
は、弊社分析結果から除草剤様の成分と考えられましたが、特定までには至ら
ず、警視庁で詳細な鑑定がなされているところだったため、内容をお知らせす
ることができませんでした。」とあり、警視庁が花王の発表に「待った」をか
けたことを匂わせています。
では、なぜ花王が発表しなかったにも関わらず、「毒物はグリホサート」とい
う報道がなされたのでしょうか? 4月6日付毎日新聞には「グリホサートと
みられる成分だったことが警視庁の調べで分かった。」と書かれていますので、
何のことはありません。花王には公表するなと言っておいて、警視庁は自らが
リークしていたのです。毒物の特定は民間企業ではなく、警察の手柄だと言い
たかっただけのことかもしれませんが、花王が把握してはずの濃度については
一切リークされていないところをみると、この事件について、早くも警視庁が
情報を規制しようとしている方針が垣間見えます。
さらに、花王の4月8日付発表には、「混入していた『異物』について新たな
お知らせ」が付記されており、その内容は次の通りです。(以下引用)
「今回混入していた異物は、園芸用としても 市販されている 除草剤の一つ
「グリホサート」で、低毒性のものであることが、警視庁の鑑定結果として
発表されました。なお、弊社の分析結果においても、その混入量は致死量に
は至らないことを確認しております。」(引用終わり)
すると、「グリホサートと みられる成分だったことが 警視庁の調べで分かっ
た。」(4.6 毎日新聞)のは、その時点で警視庁が分析を終えていたわけでは
なく、花王の分析結果をリークしただけということになります。しかも警視庁
は濃度について一切ノーコメントだったらしく、花王は「弊社の分析結果にお
いても、その混入量は・・・」と苦しい言い回しを強いられています。
警視庁は花王に発表を制限しつつ、「グリホサートは低毒性」と発表していま
す。そもそもグリホサートとは何でしょうか? 新聞各紙は「国内で一般に買
える除草剤」と紹介しているだけですが、化学名はN-ホスホノメチルグリシン
で、米国化学企業のモンサント社(枯葉剤のトップメーカーでもある)の除草
剤「ラウンドアップ」の主成分です。化学名にメタミドホスと同様「ホス」が
つくように、同じく 有機リン系の 農薬です。ここで、毒餃子事件とつながる
「有機リン系農薬」というキーワードが登場しました。警視庁が花王に発表さ
せなかった理由もこのあたりと関係はなかったのでしょうか?
ラウンドアップはグリホサートのイソプロピルアミン塩41%に界面活性剤15%
を加えて水に溶けるようにしたもので、黄褐色で酸性(pH=4.8)のグリホサー
ト液剤として市販されています。ラウンドアップの毒作用は、グリホサートの
みならず、溶液中の界面活性剤にも起因しています。ラウンドアップとして、
(山内教宏「救急医学」12巻10号1470-1747ページ、1988年刊)
ヒト経口最小致死量 100ml
ヒト経口推定致死量 2ml/kg(体重70kgのヒトなら140ml)
グリホサートを摂取した場合の半数致死量(その量を摂取すると半数の動物が
死ぬ)がウサギで 2000mg/kgで、メタミドホスの半数致死量が「マウス、ラッ
ト、ウサギなどで、10〜25mg/kg」(安井至の ホームページ「市民のための環
境学ガイド」)ですから、確かにメタミドホスに比べれば「低毒性」ではある
でしょう。しかし、ラウンドアップの毒性は様々なホームページで紹介されて
いますし、「ラウンドアップの毒作用は、グリホサートのみならず、溶液中の
界面活性剤にも起因」しているのですから、グリホサート以外の成分も検出さ
れたかどうか、それらの濃度はどの程度かなどが公表された上で、毒性の評価
は なされるべきでしょう。ところが、警察庁は それらの事実を隠したまま、
「低毒性」とだけ発表し、事件を矮小化しようとしています。
「花王は、除草剤は多量に入っていたとみられるものの、1本すべて飲んでも
致死量には達しないと説明している」(4.6 毎日新聞)のですから、350ml の
ヘルシア1本に混入していたグリホサートの量は最大でも10ml程度(濃度では
3%)ではないかと推定されます。また、「色も通常より濁っていた」(4.7日
刊スポーツ)のですから、それほど薄くもない濃度であったと考えられます。
黄褐色であることから同色系の緑茶飲料が選ばれたのかもしれません。
こうしてみると、有機リン系農薬という毒物、全部飲んでも死ぬことはないと
いう絶妙の混入量、そして、毒物濃度を公表しないという公安当局の対応など、
毒餃子事件との関連は不明ながらも、いくつかの共通項を見出すことができま
す。そして、花王の緊急記者会見の直後、「連続性」という4番目の共通項と
なる、第二の事件が発生しました。それも西日本で唯一毒餃子事件があった兵
庫県で。
兵庫県警社(やしろ)署は7日、同県加東市内の無職女性(54)が市内のスー
パーで購入した日本コカ・コーラ(本社・東京都渋谷区)のペットボトル入
り飲料「爽(そう)健(けん)美(び)茶(ちゃ)」(500 ミリ・リットル)を飲ん
で気分が悪くなり、病院で治療を受けているが、命には別条はなく、快方に
向かっている。県警による飲み残しの鑑定で、除草剤成分の「グリホサート」
が検出されたと発表した。(4.8 読売新聞)
読売新聞では「爽健美茶(500ml)」と商品名がはっきりと書かれていますが、
同日付 高知新聞は、毒物が「ペットボトルのお茶」に 混入と報道、「同署は
『商品名は公表できない』とし、」と今度は兵庫県警が商品名を隠そうとした
ことを伝えています。毒餃子事件に続いて、兵庫県警はまたもや情報操作を画
策していることを窺わせます。
社署によると、女性の家族が保管していたジャスコ社店のレシートから、女
性は4月4日午後2時ごろ、他の食料品と一緒に爽健美茶(500 ミリリット
ル入り)を購入したことが判明。6日午後3時すぎ、女性が散歩中に一口か
二口飲み、味の異変に気付き吐き出し、夕方になって気分が悪くなり入院し
た。(4.9 時事通信)
事件は花王が記者会見を開く前に発生していたことになります。ところで、事
件の通報は、販売店→イオン本部→保健所→兵庫県警で止まったようで、製造
元のコカ・コーラ社には新聞社の問い合わせで事件が伝わっています。
ジャスコ社店が7日夕に、爽健美茶を店内から撤去したのに対し、日本コカ・
コーラ社の広報担当者は「7日夜に新聞社からの問い合わせがあり、初めて知
った。情報収集中なので、何もコメントできない」(4.8 読売新聞)と語って
います。ここでも情報が伝わらなかった部分が明らかになっています。
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