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NYBCT#174/ハーレム地下鉄ブギウギ

発行日: 2003/11/18

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          New York Black Culture Trivia #174
     ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア

          ハーレム地下鉄ブギウギ

            2003/11/17
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 ハーレムで地下鉄に乗ると、ティーンエイジャーが車両内でお菓子を
売り歩いているシーンに、ひんぱんに遭遇する。


 「アテンション・プリーズ! ボクたち、バスケ・チームのユニ
フォームを買うためにお菓子を売っています。1ヶ1ドル!」


 彼らが売っているお菓子にはいろんな種類があるけれど、チョコレー
トのM&Mが多い。寄付金集めのための販売キットがあるのだ。安い値
段で仕入れることができ、売上が収益金となる。


 乗客は、ティーンエイジャーの売り口上を信じてはいない。本当にユ
ニフォームのためだとしたら、ハーレムには一体いくつのバスケ・チー
ムがあるのだ? 30チーム? 50チーム? けれど、たまたま甘い物が
欲しくなった客は、気にせず1ドル札を渡してM&Mを買う。


 それでも、さすがに地下鉄に乗るたびに聞かされる「バスケ・チーム
のため」に乗客がウンザリし始め、売り上げが伸びなくなったのか、最
近のM&M売りのセリフは、こうだ。


 「これはバスケのユニフォームのためではありません! ボク自身の
ためです。服を買います!」


 ダウンタウンからハーレムに帰宅途中の乗客は、呆れながらも相変わ
らずチョコレートを買っている。ユニフォームのためだろうが、バギー
ジーンズのためだろうが、疲れた時のチョコレートは有り難いものだ。


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 夜の10時頃だったか、ダウンタウンからハーレムに向かう地下鉄の
中。向かいの座席には、50代くらいの黒人女性が座っていた。看護婦
だ。ドラマ「ER」でお馴染みの、薄い色のコットン製のVネック・シャ
ツにスラックス姿で、熱心に聖書を読んでいる。アメリカではよく見か
ける光景だ。


 そこへ白人の、やはり50代と思える女性が乗り込んできた。かなり小
柄で痩せている。ジャンキー(ドラッグ中毒者)特有のぎこちない歩き
方で、転びはしないかと見ている方が不安になる。


 ハーレムでは時々、白人のジャンキーを見かける。上記の女性と同じ
ようにおぼつかない足取りで歩き、なぜか皆、一様に伏し目がちだ。彼
らがなぜハーレムに住み付くようになったのかは分からない。ただ、
ジャンキーとはいえ、白人でありながら黒人街に流れ着いたということ
は、もう家族や友人たちとは縁が切れているということなのだろう。


 ハーレムの人たちは、黒人白人を問わず、ルーザー(人生の敗北者)
に寛容だ。もちろん黒人は、白人のジャンキーに同情心など持ち合わせ
てはいない。けれど、「まったく、しょうがないわね」「白人なんて、
どうしようもないもんだ」などと思いながらも、彼らを追い出すことは
しない。「ここに居たいんなら、迷惑だけど、ま、仕方ないわね」「そ
の代わり、関わりにはならないからな」といった態度だ。


 けれど、看護婦で、熱心なキリスト教信者である、この黒人女性は
少々違っていた。


 先の小柄な白人女性は車両内をフラフラと歩き、聖書を読んでいる黒
人女性の隣に座った。その瞬間、黒人女性は鼻の先に載せた老眼鏡ごし
に、なんとも言えない顔つきで白人女性を一瞥し、すぐに視線を聖書に
戻した。


 ふたりの座席の間に、小さな紙くずがあった。白人女性が「これ、あ
なたの?」と、黒人女性に尋ねた。丁寧な話し方ではあったけれど、そ
んなことを尋ねること自体が、どこかおかしいことの証拠だ。とは言
え、大人しくて、まったくの人畜無害。それでも黒人女性は、今度も眼
鏡ごしに一瞬だけ白人女性をにらみつけ、低い声で「ノー」とだけ言っ
て聖書に戻った。彼女のキリストは「汝の隣人を愛せよ」とは言わない
ようだ。


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 夕方の、そこそこ混んだハーレム行きの地下鉄の中。座っていて、ふ
と目を上げると、黒人の青年が目の前に立っていた。背が高くてスレン
ダー。20代前半に見えるけれど、一般に黒人は若く見えるから、おそら
く20代半ばから後半だろう。彼は黒いロングコートに、黒いフェドラを
被っていた。


 フェドラとは、ウールのフェルトで出来た中折れソフト帽のこと。
1950年代頃までは、スーツ姿の男性は必ず被っていた。(イタリアン・
マフィアのアル・カポネが被っていたと言えば分かりやすいか)


 80年代にはランDMCが、なぜか革ジャンやアディダスのスウェットに
合わせて被っていた。実のところ、ハーレムでは年配の人は今でも被っ
ているものの、ストリートファッションの若者には見向きもされない
「爺さんの帽子」だ。なのに、それがなぜかここ最近、お洒落な若い男
性の間で静かに復活しつつある。もちろん、若い人が被っていると、相
当に目立つ。


※フェドラ姿のランDMC 勇姿(合掌)
 http://www.100freewallpapers.com/music/run-dmc.jpg


 この青年も、フェドラとロングコート、アイロンの効いた純白のシャ
ツに黒いスーツと、完璧なコーディネイトだが、その分、人目を引いて
いた。しかも、彼は盲目だった。白い杖を持っている。サングラスはか
けていないので、白濁した瞳が宙を見据えている。


 けれど、この青年のスタイリッシュさに違和感はなかった。「たまた
ま盲目」なだけ、という印象だった。誰かが席を譲ろうとしたけれど、
彼は丁重に断って立ち続けていた。


 青年のあまりの品格に、ついつい見つめてしまうのを止められなかっ
たけれど、とうとう背後の座席に目を反らした。ところが、そこにも
フェドラに黒いコートと、黒いアタッシェケースの男性が座っていた。


 この男性はおそらく30代半ばだろう。やはり完璧な出で立ちだ。けれ
ど、濃いチョコレートブラウンの肌なのに、首筋のかなりの部分が明る
いベージュに変色している。稀に見かける、部分的に肌の色素が抜ける
病気だ。(マイケル・ジャクソンは、全身がこの病気にかかったために
あんな色になったと言っている)


 この症状が出ると、白人や黄色人でさえかなり目立つけれど、黒人
で、しかもダークスキンの場合はことさらだ。けれど、この男性は構わ
ず、目立つフェドラと黒いコートでびしっとキメていた。決して、これ
見よがしではなかった。


 このふたりの男性に、本当の意味での「粋」=「cool」を見たと思う。
 

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           お詫びと訂正

前回のメルマガで、アリシア・キーズの新曲「You Donユt Know My 
Name」の曲間に『135th St. & Lenoxのウエイトレス』というセリフが
ある」と書きましたが、以下が正しい歌詞です。
this is the waitress from the coffee house on 39th and Innis

ロケは Pan Pan というハーレムのレストランで行われ、その実際の住所
を言ってるんだと思ったんですが…。

レストランのオーナー役で出ているハゲ頭のおじさんは、本物のオー
ナーです。ちゃっかり出演しているわけです。ハーレムにお越しの際
は、ご飯を食べに行って「ビデオ見たよ」と言えば喜ぶと思います。


この曲のビデオは以下で見ることができます。
http://www.mtv.com/bands/az/keys_alicia/356019/album.jhtml


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             お知らせ


●連載エッセイ「NYエスニック事情」
   12/5号は「ハーレム」の巻(押し寄せるハーレム再開発の波。
   老舗フェドラ専門店の運命や如何に!)

   11/5号は「ジャマイカ系」の巻(ジャマイカンは果たして全員
   ラスタなのか? そんなワケないです)

  在米邦人向け雑誌 U.S. FrontLine 毎月5日号掲載  
  ※東京の有隣堂書店・各支店でも販売開始
   http://www.nybct.com/8-profile_yurindo.html

※入手希望の方は有隣堂もしくは以下に問い合せてみてください
  U.S. FrontLine News Inc.
  http://www.usfl.com
  toiawase@usfl.com(日本語)


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●連載エッセイ「125th Street, Harlem」
    ファッション雑誌 LUIRE(ルイール)
    リットーミュージック刊 1月号(11/26発売)
    「グッドタイム/バッドタイム」
    (ハーレムの犯罪発生率がもっとも高かった頃って…)


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 「地球の暮らし方・ニューヨーク04-05」が本屋さんに既に並んでい
ます。これは「地球の歩き方」の姉妹編で、長期滞在者を対象とした生
活ガイドブックです。今回、私は巻頭グラビア(マンハッタン/クイー
ンズ/ブルックリン/ブロンクス)の撮影と、3人の女性へのインタ
ビューを担当しました。

 巻頭グラビアは(撮影スキルはさておくとして)、なるべくニュー
ヨークのエスニック事情が表せる場所と人を撮りました。インタビュー
は以下の方たちです。

●ハーレムのライフスタイル・ストアXukuma(スクマ)の専属デザイ
ナー鈴木麻衣子さん http://www.xukuma.com

●ハーレム在住のフリーランスライターで、今は長男デニス君の子育て
に奮闘中の弘恵ベイリーさん http://members.aol.com/hiroem/

●ニューヨーク初の日本語日刊紙サンの制作をしているグラフィックデ
ザイナー兼エディターの鈴木奈緒さん

 海外で敢えて“外国人”として働くことの意味、そして結婚や育児…
男性も含め、全部で16名の「ニューヨークで生きる」人たちのインタ
ビューが掲載されています。渡米を予定していない人にも充分楽しんで
いただける内容だと思います。

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発行人:堂本かおる Keidee@earthlink.net
バックナンバーはホームページで http://www.nybct.com
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