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NYBCT#161/NYPD 再び〜繰り返される警察暴力

発行日: 2003/5/26

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          New York Black Culture Trivia #161
     ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア

        NYPD 再び〜繰り返される警察暴力

             2003/05/26
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 NYPD(ニューヨーク市警)の捜査ミスで、一週間のうちにハーレムの
住人ふたりが亡くなった。


 5月16日(木)午前6時10分、ハーレム143丁目と8番街の角にある
アパートの6Fという部屋に、NYPDの強制家宅捜査が入った。警官はド
アを打ち破り、震盪(しんとう)手榴弾(威嚇・攪乱用に大きな破裂音
と閃光を出す手榴弾。爆発はしない)を投げ込んだ。


 NYPDは密告者から「同じビルの別の部屋に住む麻薬と銃の売人(逮捕
済み)が6Fに商品を隠しており、獰猛な犬も飼われている」という情
報を得た。そこで情報内容の確認作業をしないままに、通称「ノー・
ノック・サーチ」(住人の承諾を得る必要がなく、強制的に家宅に入れ
る捜査)の礼状を取り、平日の早朝に実行したのだ。


 ところが室内にいたのは、出勤のために身支度をしていたアルベル
タ・スプリールという57歳の女性だけ。彼女は手榴弾となだれ込む捜査
官に驚いているうちに手錠をかけられたが、捜査官は麻薬も銃も猛犬も
見つけられず、アパートの間取りも密告情報とは違うことに気付いた。


 けれど時すでに遅く、心臓の悪いアルベルタ・スプリールは心臓マヒ
を起こし、ハーレム病院に運ばれたものの、午前7時50分に亡くなって
しまった。

           ・・・・・

 23日(金)にミス・アルベルタの住んでいた143丁目のアパートに足
を運んでみた。(ファーストネームに“ミス”を付けるのは南部の習慣
だが、南部出身者の多いハーレムでもよく使われる。ミス・アルベルタ
も近所の住人からそう呼ばれていた) アパートのロビー入り口には、
生前のミス・アルベルタの写真、花束、ロウソクが飾られ、NYPDへの抗
議文が貼られていた。


 ミス・アルベルタは独り暮らしで、29年間ニューヨーク市の公務員と
して働いてきた。公務員就職希望者の書類管理をしていたのだという。
その“公務員”の中にはNYPDの警官も含まれる。彼女はもしかしたら、
かつて自分が書類作成をした新人警官のミスによって死んでしまったの
かもしれない。信仰熱心だったミス・アルベルタの葬儀は、翌24日
(土)に、彼女が生前に通っていたコンベント・アベニュー・バプティ
スト教会で行われた。 


 事件直後や、葬儀の際にテレビ・新聞のリポーターにインタビューさ
れた人々は、怒りを表しながらも概ね落ち着いていた。今回の事件で
は、さすがに市長も警視総監も平謝りだが、「謝罪は当然。しかし警察
の捜査方針を変えない限りは、同じことが繰り返される」「個々の警官
を責めても仕方がないが、白人の居住区では起こりえないことだ」と、
平静に答えていた。


 これがハーレムの人たちの流儀だ。中には怒りを露わに叫ぶ人もいる
が少数派。今のハーレムでは、どんな事件が起こっても1991年のクラウ
ンハイツ暴動(*1)、1992年のロサンゼルス暴動(*2)のようなこと
にはならないように思える。


 かつてO.J. シンプソン事件を手掛けた高名な黒人弁護士ジョニー・コ
クランが、ミス・アルベルタの家族を代行して、ニューヨーク市に対し
て500万ドルの訴訟を起こすことが既に決まっている。

           ・・・・・

 その事件から6日後の22日(木)の午後4時頃、チェルシー27丁目と
11番街にある貸し倉庫ビルでも、ハーレム在住の男性が、犯罪捜査に巻
き込まれて亡くなった。


 この貸し倉庫ビルは内部が無数の小部屋になっていて、一般人が自宅
に収容しきれない荷物を預けるのが本来の用途。けれど、いつのまにか
一部の部屋が、西アフリカからの移民がアフリカ産の彫刻や布などを売
るバザールになってしまった。


 ハーレムやダウンタウンのアフリカン・ショップで売られているもの
と同じような商品だが、倉庫ゆえに家賃が安く、価格も安い。アフリカ
移民(主に男性の)たまり場にもなっている。本来は倉庫なので照明も
薄暗いけれど、何人かが輪になって座り、茶飲み話に花を咲かせてい
る。客が来ればおもむろに立ち上がり、「いらっしゃい。何を探してい
るの? これ、安いよ」と話しかけてくる。


 これらの店では商品をアフリカから航空便や船便で取り寄せるが、搬
送中に壊れてしまうことがよくあるらしく、西アフリカ・ブルキナファ
ソからの移民オウスマネ・ゾンゴ(35歳)は、別室でその修理職人とし
て働いていた。


 この貸し倉庫ビルは、違法な海賊版CD・DVD業者にも使われていた。
やはり西アフリカからの移民たちだ。今回の捜査はその海賊版業者を逮
捕するためのものだったのだが、捜査官はオウスマネ・ゾンゴに5発を
発砲、4発が命中し、オウスマネ・ゾンゴは亡くなった。

            ・・・・・

 捜査官は私服で、NYPDのバッジを首から下げていたという。捜査官は
「オウスマネ・ゾンゴともみ合いになり、彼が私の銃を奪おうとしたの
で、撃たざるを得なかった」と発言。事件現場には防犯カメラはなく、
目撃者もいない。オウスマネを知る人々は、「話し相手の目を見られな
いほど内気だった」と故人を語っている。


 オウスマネは母国に残してきた妻とふたりの子どもに仕送りをするた
めに働いていたがアメリカ永住の意志はなかったらしく、英語も話せな
かった。


 先のミス・アルベルタの件とは違い、NYPDはこの事件に関しては「捜
査を続ける」と発表。つまり、オウスマネの行動に問題があり、警官の
発砲は必然だった、というニュアンスだ。


 1998年に、やはりアフリカ移民のアマド・ディアロが白人警官4人か
ら41発を発砲されて亡くなった事件があった。当時、ハーレムの黒人
リーダー、アル・シャープトン師は八面六臂の活躍をしたが、今回の件
に関してはその頃のような勢いがなく、発言も慎重だ。アル・シャープ
トン師は2005年の大統領選への立候補を表明しており、黒人コミュニ
ティをベースにした姿勢は変えていないものの、白人票の獲得を考える
と中庸的にならざるを得ないのだろう。

           ・・・・・

 人々やアル・シャープトン師の態度が控えめであっても、ニューヨー
クの黒人がNYPDの暴挙に再び腹を立て、不安がっていることは確かだ。
ただ、1997年〜2000年に黒人に対する警察の暴力事件が頻発した時に
は、悪名高きジュリアーニ市長(当時)が「敵」だった。ジュリアーニ
前市長は“ニューヨークのクリーンナップ”という名目のもと、徹底的
なレイシャル・プロファイリング(人種によって予め捜査の対象を絞る
こと=黒人とラティーノの若い男性が標的とされた)を行い、態度も強
硬だったからだ。


 しかしながら、現ブルームバーグ市長は、ジュリアーニ時代の“市長
と黒人の衝突”を反面教師とし、市長に当選した当初からマイノリ
ティ・コミュニティのリーダーたちとの対話を始めた。今回も、少なく
ともミス・アルベルタの事件では既に謝罪を表明している。


 NYPDを統括しているのは、最終的には市長。だからこそ、警視総監と
は別に、市長自らも謝罪したのだが、ハーレムの住人の中には「ブル−
ムバーグは、ジュリアーニの“礼儀正しいバージョン”ね」と、皮肉を
言った人もいる。しかし、態度の柔らかい相手を「敵」と定めるのは難
しい。今、ニューヨークの黒人社会は2件の悲惨な事件を目の当たりに
して、しかし抗議するべき相手を見つけあぐねている。


*1 クラウン・ハイツ暴動:ニューヨーク・ブルックリンのクラウン・
ハイツ地区にはユダヤ教徒と黒人(カリビアン)が隣り合わせて暮らし
ており、二者間には摩擦があった。1991年、ユダヤ系男性が黒人少年を
車でひき殺してしまったことから暴動が起きた。


*2 LA暴動:1991年に黒人青年ロドニー・キングが複数の白人警官に
殴打されたが、翌92年、警官は無罪となった。その判決に憤った黒人が
暴動を起こした。事件には関係のない韓国人商店が攻撃の的になったこ
とでも知られる。


※ホームページには関連エッセイへのリンクがあります

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             お知らせ

●連載エッセイ「NYエスニック事情」
    在米邦人向け雑誌 U.S. FrontLine
    6月5日号より連載開始予定

●連載エッセイ「125th Street, Harlem」
    ファッション雑誌 LUIRE(ルイール)
    リットーミュージック刊 毎月26日発売

    6月26日発売8月号は<子どもたちのハーレム
    〜 子どもたちはハーレムが好き?嫌い?インタビュー>の巻
    結構ディープです 

●ホームページに新しいコーナーを作りました
    こちらはブラックカルチャー以外のエスニック事情、
    ニューヨーク事情から英語や日本語にまつわる考察
    などを軽く書いています。時々のぞいてみてください。
    http://www.nybct.com → <日々の考察>コーナー

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         ハーレムに来てください!

 リアルなハーレムを体験・ガイド付きハーレム散策ツアー
   ハーレムのエッセンスを3時間で体感できる!
   これより中身の濃いツアーは他にはないでしょう(主催者談)
   http://www.nybct.com/11-tour.html

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発行人:堂本かおる Keideee@aol.com
バックナンバーはホームページで http://www.nybct.com
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