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NYBCT#160/ハーレムの小さな風景

発行日: 2003/5/23

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          New York Black Culture Trivia #160
     ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア

           ハーレムの小さな風景

             2003/05/22
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 ハーレム125丁目でバスに乗った。座席に座ると、となりには5歳く
らいの女の子が座っていた。丸いおでこ、大きな目、ブレイズにはカラ
フルなプラスチックの髪飾り。


 目が合ったので、ちょっと笑いかけてみたけれど、女の子は真顔で
じっとこちらを見つめるばかり。その子とよく似た顔立ちの母親は座席
のすぐ脇に立っていて、窓の外を眺めている。


 しばらくして、また女の子と目が合った。小さな右手の人差し指を、
右の鼻の穴に突っ込んでいる。彼女はこちらを見つめながら、すっと指
を鼻の穴から抜いて、今度は左の人差し指を左の鼻の穴に入れた。指を
差し替えながら、私ににっと笑いかけた。


 母親は相変わらず窓の外を見ている。女の子と私は“小さなヒミツの
共有者”になったのだ。

            ・・・・・

 外出から戻り、自宅のアパートのエレベータに乗った。ドアが閉まり
かけたところで、おばさんが駆け込んできたので、ドアを手で押さえ
た。「開く」のスイッチは甘くて、押してもすぐには開かないからだ。


 「ありがとね!」とおばさんは笑った。ところが、今度はいつまで
たってもドアが閉まらない。おばさんは3層になっているドアの、真ん
中の層を触った。するとドアが閉まった。


 「私はね、ハーレム病院で働いてるの。だからこういうことを知って
いるのよ。稀に救急患者を乗せているのにエレベーターのドアが閉まら
ないことがあるからね」と一気に喋って笑った。


 ハーレムでは自分が黙っていても、いろいろな人が話しかけてくる。
みんなお喋りだから。ただし、こちらが「話、聞きますよ」という気配
を出していなければならない。

            ・・・・・

 アパートの地下のコインランドリーで洗濯をしていた。といっても最
近、磁気カードが導入されて、もう“コイン”ランドリーではなくなっ
てしまったけれど。


 それはさておき、平日の午後7時頃で空いていた。ふと見渡せば、私
ひとりになっていた。せっせと乾いた洗濯物をたたんでいると、トイレ
から若い男が出てきた。20代半ばでドゥラグを被っている。チラとこち
らを見てから無言で出て行った。このアパートではあまり見かけないタ
イプだ。


 約1分後、今度はトイレから若い女性が出てきた。このトイレには個
室がひとつあるだけだ。彼女も足音もたてずに、すう〜っとランドリー
から出て行った。


 数分後、警備員が巡回に来た。私を見ると「ハーイ!」と言って出て
行った。まあ、警備員に告げ口するほどのことでもないから。

            ・・・・・

 アパートのドアマン、アーヴィンはいつも朗らかで、何人かいるドア
マンの中ではもっとも住人に好かれている。おそらく30代半ばくらいか。


 ある週末、そのアーヴィンがいつもの制服ではなく、バギーなジーン
ズ姿で、ふたりの小学生くらいの男の子を連れてアパートから出て行く
のを見た。いつもはロビーに出入りする住人すべてに挨拶をするアー
ヴィンだけれど、今日はそんなことはなく、男の子たちと話しながらロ
ビーを出て行った。


 聞けばアーヴィンは離婚し、別れた奥さんと子どもふたりは、なんと
このアパートに住んでいるのだという。そしてアーヴィンは、週末だけ
子どもたちと過ごせるのだ。(離婚の際の親権調停でそう決められたの
だろう)


 ということは、しかし、奥さんと子どもたちは、毎日ロビーを幾度と
なく通過しているのだ。アーヴィンがドアマンとして立っている時に。

  
            <おまけ>

 以前、<ハーレムを知るためのお勧め図書>に挙げた
145th Street /  Walter Dean Mayer の日本語訳が出されました。

 今でもハーレム随一のゲットーである145丁目に暮らす、ひとりの少
年の目から見たハーレム描写です。近所には、生きているうちに盛大な
葬式をしてしまう男など、ヘンな人ばかり。けれどハーレムならではの、
なんといいましょうか、じんわりしたものが伝わってくる物語です。


 私はかつて145丁目界隈に住んでいましたから、ここに描かれている
風景がとても懐かしいです。現在はこの辺りも住宅の再開発が進行中
で、これからは新しい住人が入り、街の雰囲気も少しずつ変わっていく
かもしれません。


 著者ウォルター・ディーン・マイヤーズはティーンエイジャー向け小
説の大家ですが、この作品は大人が読んでも充分に楽しめます。(ただ
し英語はシンプルなので、原書も読みやすいです)


ニューヨーク145番通り/ウォルター・ディーン・マイヤーズ
訳:金原瑞人、宮坂宏美  小峰書店   \1,500

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             お知らせ

●連載エッセイ「NYエスニック事情」
    在米邦人向け雑誌 U.S. FrontLine
    6月5日号より連載開始予定

●連載エッセイ「125th Street, Harlem」
    ファッション雑誌 LUIRE(ルイール)
    リットーミュージック刊 毎月26日発売

●ホームページに新しいコーナーを作りました
    こちらはブラックカルチャー以外のエスニック事情、
    ニューヨーク事情から英語や日本語にまつわる考察
    などを軽く書いています。時々のぞいてみてください。
    http://www.nybct.com → <日々の考察>コーナー

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         ハーレムに来てください!

 リアルなハーレムを体験・ガイド付きハーレム散策ツアー
   ハーレムのエッセンスを3時間で体感できる!
   これより中身の濃いツアーは他にはないでしょう(主催者談)
   http://www.nybct.com/11-tour.html

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発行人:堂本かおる Keideee@aol.com
バックナンバーはホームページで http://www.nybct.com
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