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NYBCT#158/映画「レイジング・ヴィクター・ヴァルガス」

発行日: 2003/5/1

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          New York Black Culture Trivia #158
     ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア

       映画「レイジング・ヴィクター・ヴァルガス」

             2003/05/01
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 映画「レイジング・ヴィクター・ヴァルガス」は、ニューヨークのロ
ウアーイーストサイドのラティーノ・コミュニティが舞台となってい
る。マンハッタンの地図を見てもらえば分かるように、ロウアーイース
トサイドとは細長いマンハッタンのほぼ北端の東側にある地区。そのま
ま西へちょっと歩けばリトルイタリーとチャイナタウンがあり、さらに
それらを超えればお洒落なSOHOへと出る。けれど映画「レイジング〜」
の登場人物はすべてドミニカ系やプエルトリコ系の移民で、誰ひとりと
してSOHOのギャラリーでアートを鑑賞したりはしない。おそらくSOHO
になど出掛けたこともないようなキャラクターばかりだ。


 ニューヨークとは小さなエスニック・コミュニティのパッチワーク
か、もしくはステンドグラスのような街。さまざまな色付きの布やガラ
ス片の寄せ集めだ。誕生、成長、恋愛、出産、そして死。人生に於ける
すべての事柄は、その小さなコミュニティの中で始まり、そして終わ
る。しかし、それは決して退屈で悲惨な人生などではなく、それどころ
かカラフルで、エネルギッシュで、ちょっと窮屈なこともあるけれど、
大きな愛情に溢れている。


 時は夏〜おそらく夏休み。主人公はドミニカ系の16歳の少年ヴィク
ター。プロジェクトと呼ばれる低所得者用の公団アパートに祖母、弟、
妹と共に暮らしている。祖母はドミニカ共和国で生まれ、ニューヨーク
に移民としてやって来た。ドミニカとはカリブ海に浮かぶ島国で、特有
のトロピカルな文化と、かつての宗主国であったスペインの文化を併せ
持つ。しかし島は貧しく、そのために大量の移民がニューヨークへと移
住している。


 若い頃はドミニカで牛の乳搾りをしていたという祖母はニューヨーク
に来てからも働き者で、今は3人の孫をひとりで育てている。孫たちの
両親、つまり祖母の娘か息子とその相手については語られない。


 スペイン語訛りの英語を喋り、敬虔なカソリック教徒である祖母は、
女の子を追いかけ回してふらふらしているヴィクターが頭痛のたね。弟
のニーノはヴィクターとうり二つだけれど、祖母のためにピアノを弾
き、祖母のお供をして教会通いも欠かさないから大のお気に入り。末っ
子のヴィッキーは兄ふたりとは母親違いで、口が達者で文句屋だが、
まぁ、この子も大丈夫。ところが、まだまだ子どもだと思っていた弟
ニーノや妹ヴィッキーまでが急に色気づき始め、これはすべて不良の
ヴィクターの影響だと思い込んだ祖母は非常手段に出た…。


 実際のところ、ヴィクターはどこにでもいる16歳の少年。女の子のこ
とが気になって当然の年頃であり、不良などではない。ニーノやヴィッ
キーにしても、まだまだ可愛いもの。けれどそれに我慢できない祖母は
3人を叱っては「さぁ、これからはまた“良い家族”に戻ろう」と言っ
てご馳走を作る。(といっても安っぽいハンバーガーだが、祖母にとっ
てはドミニカの料理ではなく、アメリカのハンバーガーこそがご馳走な
のだ)


 そんな祖母の小言をなんとかかわしながら、ヴィクターは親友のハロ
ルドと無料の市営プールで泳いだり(正確には女の子の品定め)、自転
車の中古部品が積まれている空き地でニワトリを飼ったりしている。他
に行くところがない時は近所のボデガ(食料品屋)に出入りし、それで
も時間が余るととうとうアパートに帰って弟と共有しているベッドに寝
転がる。クーラーなどもちろんないから汗びっしょりだ。


 ヴィクターも、良い子であるはずの弟ニーノも、暑いから上半身はい
つもハダカだ。生真面目な祖母もそれには何も言わない。ハーレムでも
黒人の若者は時折ハダカでストリートを歩いているけれど、この兄弟ほ
どいつもハダカというわけではない。これが南洋ドミニカの島の習慣だ
としたら、西洋のマナーとは相容れない文化だが、それがアメリカのラ
ティーノ・コミュニティには今もまだ残っているということだ。


 話は映画から逸れるけれど、ブロンクスやイースト・ハーレムといっ
たニューヨークのラティーノ・コミュニティでは違法の闘犬や闘鶏が行
われている。これはカリブ海の伝統で、先週もブロンクスの闘鶏場に警
察の踏み込み捜査があり、約80人の逮捕者が出ていた。捜査には
A.S.P.C.A.(動物愛護協会)も同行していたという。闘鶏はニワトリに
とって残酷な行いだから止めねばならないのだ。その通りかもしれない
のだが、カリブ海の伝統を引き継いでいるコミュニティに西洋の常識に
よる強制捜査を続けても、それは根本的な解決策にはなっていないよう
な気もするが…。


 ちょっと笑えるのは、100人もの賭け客で賑わっていた闘鶏場の階下
にあるボデガのラティーノ店員のコメント。「騒音もなかったし、警察
が来るまで2階で闘鶏やってたなんて、知らなかったなぁ」。


 それはさておき、映画には他にもヴィクターが夢中になる美人のジュ
ディと、その親友のメロニー(プエルトリコ系)、太り気味の妹ヴィッ
キーに思いを寄せる、やはり肥満児カルロスが登場し、ラティーノ・コ
ミュニティの楽しくて、にぎやかで、ちょっと切なくて、なんだかノス
タルジックな夏の日々を彩ってくれる。


 ラスト近く、ヴィクターとジュディがアパートの屋上で語り合うシー
ンがある。背景にはエンパイア・ステート・ビルが見える。同じマン
ハッタンのオフィス街に建っているあのビルには、ロウアーイーストサ
イドからでも地下鉄に飛び乗れば20分もかからずに行けるだろう。けれ
どヴィクターやジュディや祖母やニーノやヴィッキーにとって、そこは
まったく別の街なのだ。


Raising Victor Vargas 公式サイト
http://www.raisingvictorvargas.com

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             お知らせ

ホームページに新しいコーナーを作りました。こちらはブラックカル
チャー以外のエスニック事情、ニューヨーク事情から英語や日本語にま
つわる考察などを軽く書いています。時々のぞいてみてください。
http://www.nybct.com → <日々の考察>コーナー

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http://www.nybct.com/11-tour.html

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発行人:堂本かおる Keideee@aol.com
バックナンバーはホームページで http://www.nybct.com
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