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NYBCT#144/ギャングスタ・ラッパーのリアリティ

発行日: 2003/2/8

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          New York Black Culture Trivia #144
     ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア

        ギャングスタ・ラッパーのリアリティ
        
             2003/02/07
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 ハーレムYMCAのコンピュータ教室の片隅で、11歳の少年ジェイソン
が短い作文を書いていた。というより、先生に書かされていた、という
ほうが正しいのだけれど。とにかく、それはこんなふうに始まる。


I can better my self not doing drugs.(原文まま)
ドラッグをやらないことで僕は良い人間でいられる。


 アメリカでは子供に、ドラッグ、アルコール、タバコに手を出さない
よう、繰り返し、繰り返し、執拗に教える。子供を飽きさせないために
アニメや音楽を使った教材もあるし、イベントが行われることもある。
ジェイソンが作文を書かされていたのも、そういった教育の一環だ。


 そのジェイソンのすぐ側のコンピュータには同年代の子供数人がかじ
りついていて、インターネットでギャングスタ・ラッパー“50セント”
のサイトをチェックしていた。13歳の双子のユージーンとジェロームは
2人ともコーンロウを編み、ストリートファッション・ブランドのシャ
ツとナイキ。ユージーンはシルバーの指輪もはめている。


 50セントは“Wanksta”という曲がエミネム主演の大ヒット映画『8 
Mile』のサントラで使われたことから人気が全国区に広がり、2月6日に
ドクター・ドレとエミネムがプロデュースを手掛けたメジャー・デ
ビュー・アルバム『Get Rich or Die Trying』(=金持ちになるか、
そうでなければ死ね)をリリースしたばかり。けれど地元ニューヨーク
では、昨年10月に一時は50セントが師と仰いでいた RUN - DMC のジャ
ム・マスター・ジェイが射殺された時に、同じく命を狙われる可能性が
あるとして警察の警護がついたことでメディアに大きく名前が出た。


 このエピソードで分かるように50セントは本物のギャングスタだ。
ニューヨーク・クイーンズ出身、父親を知らずに育ち、ドラッグディー
ラーだった母親は50セントが8歳の時に殺されている。以後、50セント
は少年院への出入りを繰り返してドラッグディーラーとなり、これまで
に一度刺され、一度は9発撃たれ、いずれも命を取り留めている。


 50セントは nigga, hoe, bitch, fuck, muthafucka といったカースワー
ドを羅列して、金・高級車・ドラッグ・拳銃・ナイフ・女についてラッ
プする。典型的なギャングスタ・ラップだ。そのメッセージの善し悪し
はここではいったん置くとして、例えば、自分が銃で撃たれたことや密
告について、または「人生は可愛い顔したビッチみたいなもんだが、彼
女は燃えている」(=人生は甘く見えるが、うかうかしていると痛い目
に合う)(“Ghetto Qua Ran”より)など、多少の脚色はあるとして
も、書かれていることのほとんどは事実だったり、そこから学んだ50セ
ント自身の人生哲学だったりするのだろう。だから妙にリアリティがあ
るように思える。(もっとも、今回のアルバム・プロモーションで使わ
れている過激なイメージはビジネス戦略でもある)


 今では黒人の子供だけではなく、郊外都市に住む中産階級の白人の子
供もギャングスタ・ラッパーに夢中だ。けれど、この2グループでは
ギャングスタ・ラッパーに憧れることの意味と、その結果が違う。本物
のギャングスタがいない環境でどれほどギャングスタ・ラップを聴いて
も、それは子供の実生活にはほとんど影響を及ぼさない。子供たちはや
がて大学に進学し、いつしかギャングスタ・ラップなど聴くことを止
め、卒業後は会社勤めを始めるだろう。


 ところがハーレムの子供たちは、一歩ストリートに出れば、そこで本
物のギャングスタと出会う。ハーレムの子供にとってギャングスタ・
ラッパーは“リアリティ”のある存在なのだ。ハーレムYMCAに通ってい
るのは、ハーレムの中では経済的に安定した家庭の子供たちだから、こ
の中に50セントほど過酷な幼児期を過ごした子はおそらくいない。けれ
ど彼らもハーレム育ち。ストリートでなにが起こっているのかを、小さ
な頃から肌で感じ取り、時には直接目にしている。さらにストリートに
は、YMCAのような託児所に通うだけの経済力が親になく、つまり50セ
ントと同じか、それに近い境遇の子供がいて、彼らもまた50セントの
ラップを聴いている。そんな子供たちにとって50セントは“あこがれの
スター”であると同時に“10年後の自分”なのかもしれない。


50セントがビジターの眉間を銃で狙うショッキングな画像のホームペー
ジへのリンクがあります。
http://www.nybct.com


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             お知らせ

 ホームページに<日誌>のコーナーを作りました。こちらはブラック
カルチャー以外のテーマを書いています。時々のぞいてみてください。
http://www.nybct.com

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             お知らせ

 ヒップホップ世代の天才タップ・ダンサー、セヴィアン・グローバー
が来日! とても残念なことに、これも東京オンリーですが、ブロード
ウェイで喝采を浴びたショー「ノイズ&ファンク」を再演します。私も
公演パンフレットにエッセイと写真を提供します。

内容:http://www.noise-funk.com/
公演スケジュール:http://www.tbs.co.jp/p-guide/event/noise/index-j.html


参照:セヴィアン出演、スパイク・リー監督の映画『Bamboozled』に
ついてのエッセイはこちら。(この作品、日本ではVHS/DVD化されてい
ないんですね…)
http://www.nybct.com/3-08-bamboozled.html


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         ハーレムに来てください!


リアルなハーレムを体験・ガイド付きハーレム散策ツアー
※ハーレムのエッセンスを3時間で体感できる!これより中身の濃いツ
アーは他にはないでしょう(主催者談)
http://www.nybct.com/11-tour.html


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発行人:堂本かおる Keideee@aol.com
バックナンバーはホームページで http://www.nybct.com
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