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ある日の教室

発行日: 2005/7/13

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【ある日の教室】〜塾講師から見た子供の世界 Vol.139
   作者:荒木崇
(合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ)

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『古池や』

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「韻文」が好きだ。詩や短歌・俳句の授業になると、俄然燃える。
授業もいかようにも工夫してやれるし、生徒にもおおむね好評だ。

言葉の威力をまざまざと見せ付けられるのが詩であり、短歌であ
り、俳句である。

韻文は短い。全てを語りつくさない。一語の持つ意味の濃縮度合
いが非常に高い。それだけにそれぞれの言葉の意味を考え、一語
一語がつながって醸し出す全体的な雰囲気を感じなくてはならな
い。

「言葉の表情を読む」とでも言えばぴったりくるだろうか。眼前
の文字の裏に潜む意味・感情を読み取っていく作業が面白いのだ。

たとえば、松尾芭蕉の有名な俳句、『古池や 蛙飛び込む 水の音』。
僕は生徒たちに問いかける。

「池に飛び込んだ蛙の数って何匹だと思う?」

小学生であれ、中学生であれ、必ず「一匹」とほぼ全員が答える。

「ここってどんな雰囲気?」

これもほぼ全員の答えが「静か」である。
確かに、蛙は一匹で間違いないし、辺りは静かなはずだ。
しかし、『古池や 蛙飛び込む 水の音』のどこどこを探しても
そんなことは書いてない。

「じゃぁ、なんでそう思うの?」

この質問、さらっといくかと思いきや、意外と生徒達は戸惑う。
だって、はっきりとは書いてないのだから。

「う〜ん、なんとなく」

出た!生徒がお得意の「なんとなく攻撃」。
しかし、この場合、「なんとなく」としか答えられない気持ちも
よく分かる。

俳句なんて、理屈ではなく、感じ取るものなのだから。ここが
いかにも日本的である。多くを語らずとも、何かを感じ取りな
さい、ということだ。

この俳句を読んで、「蛙は一匹、あたりは静か」と生徒が答え
るとき、「侘び寂び」なんて言葉を知らなくても、生徒達の体
には、しっかりと日本的な情緒が刻まれているなぁと僕は感
じてしまう。

話を戻そう。まぁ、あえて言うなら、「古池」だから、普段
は誰も近づかないはず。よって辺りが賑やかなはずがない。
しかも、蛙が水に飛び込む音が聞こえるのだ。当然静かなはず
である。

では、そういう静かな古池に飛び込むのにふさわしい蛙の数は
何匹か。芭蕉が思わず俳句を詠んでしまいたくなるような。
と、なると当然一匹だ。

静かなところに蛙が一匹ポチャン。この音がしたことにより、
飛び込む前よりさらに静寂は深まることとなる。これが、数
匹、続けざまにポチャポチャポチャッでは台無しである。
(以上、あくまで僕の解釈であることを断っておく)

「いいか、書いてないことを読み取って感じるのが韻文で大
切なことなんだぜ。ぎゅっと詰まってるからな」ってな感じ
で授業を進める。まぁ、あとは問題をガンガン解くだけなの
だけど。

もし、仮にアメリカ人にさっき生徒にしたのを同じ質問をし
たのなら、「蛙の数だって?そんなの分かるわけないじゃ
ないか!どこにも書いてないぜ!!」と(もちろん、英語で)
答えるにちがいない。

う〜ん、嫌だ。こんな人たちとまともな会話ができるとは思え
ない(というのは、もちろん僕の勝手な偏見である)。

で、今日の結論。

『日本人で良かった。』

オチは特にない。

(登場する子供たちは全て仮名です。)

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