□ ごかいの部屋〜不登校・ひきこもりから社会へ〜 No.153
発行日時: 2008/5/17
━━・● コ ラ ム ●・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ひきこもりの<ゴール>とは
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前号で私は、「時計反応」という化学用語や「体内時計」をもじった
「体内カレンダー」という造語を用いて、不登校やひきこもりを結末へ
と導く“心の変わり目”が「あらかじめ用意されている」と感じられる
ケースが多いことをお話ししました。
そのうえで、「変わり目が来るのが遅すぎた」「長引かないよう早め
に厳しく支援すべきだ」などと語る経験者が少なくないことにふれ、変
わり目が来るのを待つことには、経験者の間でも賛否が分かれることを
示しました。
特に、青年がひきこもりを終えて社会に出ることの厳しさは、経験者
がいちばん身にしみています。「長引けばそれだけ社会に出ることが難
しくなるのに、変わり目が来るのを待っていたずらに歳月を費やしてい
いのか」というのが彼らの主張だと思います。
確かに、本人がいつ変わり目を迎えるかは誰にもわかりませんし、特
にひきこもりの場合は、変わり目を迎えて支援を利用することができる
ようになり、その結果社会に出られるようになっても「遅すぎた」と後
悔する人がいることは“敗者復活”のチャンスがほとんどないこの社会
システムではやむを得ないでしょう。
さらに「就労」は、ひきこもり青年たちの悲願です。彼らは、一度の
アルバイトでも過酷な労働条件に心身を壊して退職しても「働いたこと
がある」ということを宝物のように感じているようです。
ただ私は、前々号でもお話ししたように「自然に変わり目が来て終わ
る」というプロセスを、時間の無駄とは思っていません。変わり目が来
たときに沸き上がるエネルギーの“成分”は、それまでに本人が経験し
た出来事や喜怒哀楽のすべてによって構成されているからです。
今回は、そのことに関連した内容の、ひきこもりをテーマにした社会
学書をご紹介したいと思います。
石川良子氏(横浜市立大学非常勤講師)の『ひきこもりの<ゴール>
「就労」でもなく「対人関係」でもなく』がそれです。
氏は、当スタジオ主催「青少年支援セミナー2006春夏」の特別分
科会「“ニートブーム”を疑え!」発題者(話し手)をつとめるとと
もに、その前に当メルマが121号に発題の骨子を寄稿されています。
字数の都合で、今回のテーマに合ったところだけをつなぎ合わせるよ
うな紹介の仕方しかできないのが残念ですが、本書で氏は、ひきこもり
支援のなかで「“対人関係の獲得”や“就労の達成”といった外面的な
ところを何より重視する支援観を「<社会参加>路線」と呼び、それが
「徹底される過程で削ぎ落とされていった内面的な問題」を、経験者へ
の聴き取りを通じて探求し、次のように解き明かしています。
ひきこもりを続けることに対して「忍耐力の欠如や精神的な弱さのた
めだと周囲から責められ、それと同じように自分を責め続けるうちに、
当事者は自分の存在価値を根本から疑い、生きること自体を問わずに
はいられなくなる」ということ。
そのため、彼/彼女らは「生きるとは、働くとは、自分とは」とい
う“問い”を抱えていて、それに自分なりの“答え”を得るための内
的作業をせざるを得ない、ということ。
このプロセスの指摘は具体的で、当事者・経験者にはなかなか自覚で
きないところです。私も「7年間のうち後半の3年間悩み考えていたこ
とは、そういうことだったな」と、読んで初めて気づいたほどです。
さて、彼らはもともと“対人関係の獲得”や“就労の達成”を自ら望
んでおり、そのための試行錯誤を繰り返しているわけですが、氏はそれ
と並行して前述の内的作業――「問う」という営み――を続けることで
「生きることへの覚悟、生きることや働くことの意味といったものを手
にすること」すなわち「存在論的安心の確保」に到達する、と説きます。
これが氏のイメージする「ひきこもりの回復」なのです。
したがって、ひきこもりの回復の指標として多くの専門家(特に相談
関係者)がイメージしている「対人関係の獲得」だけでは、本人の苦し
みはなくならないし、多くの自治体や支援団体が試みている「就労支援」
も前述の内的作業の機会を奪うことになりかねない、と氏は警告して
いるのです。
私も、勉強会などで何人ものひきこもり経験者に出会っています。と
いうことは、彼らは勉強会や自助グループなどの「社会」には参加でき
ているわけです。アルバイトをしている人も少なくありません。
しかしその多くは、仕事が「長続きしなかったり」、心に「常に苦し
さを抱えていたり」(前々号)しているのです。
それに対して本書が重視しているのは、前々号でお話しした表現を使
えば「決まっているゴールに一直線に到達するプロセスではなく、自分
でゴールを探しながら歩くプロセス」ではないか、つまり、ゴールは人
それぞれが「自分の人生はこんなものかな」と、自己納得できる境地な
のではないか、と私は本書を読みながら感じたのでした。
そういうプロセスのなかで、本人が対人関係を獲得したり就労したり
したくなってから受ける支援であれば、納得のいく展開になるのではな
いでしょうか。
本書にはまだまだ含蓄のある指摘や共感した部分がたくさんあります。
あとはぜひ実際にお読みいただきたいと思います。
最後に、25日に開催する「青少年支援セミナー2008春夏」の特
別分科会『出口を求めて〜ひきこもり・ニートは何を求めているのか?
〜』では、ここに書いた趣旨のもと、さらに内容を広げて問題提起させ
ていただき、参加者の皆様のご意見をうかがいたいと考えています。
青少年支援セミナーのページ↓
http://homepage3.nifty.com/Husta/hope/hope2.html
:筆者:丸山 康彦(まるさん)
スクールソーシャルワーカー(訪問子ども援助職)。高校時代、
不登校と留年の末、入学7年後に卒業。高校講師・ひきこもりを経て、
1999年4月に個人事務所「教育対策研究所」を開設。2001年10月に
当ヒューマン・スタジオを設立し代表に。
━━・● 来月のスタジオ●・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
家族学習会が始まります
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◎「家族学習会・ひきこもり編」を初開催します
今年度から、ご好評いただいているコラムの一部を収録して順次発行
している「ワンポイントブックレット」をテキストに、ひきこもり青年
のご家族限定の、3回シリーズの学習会を年1回開催します。
同じ悩みを持つご家族が集まり、肩の荷を下ろしながらお子さんへの
深い理解へと進んでいく少人数の会です。
安心できる場で、丸山を囲んで語り合いあいませんか。
開催時期:6月最終週〜7月のうち3回の週末
開催地域:湘南地域の会館の一室
参加要項:通信発行時、青少年支援セミナー開催時、ホームページ、
と順次発表していきます。詳しくは案内チラシをご請求ください。
◎スタジオが移転します
資金難による存続の危機を乗り切るため、2001年10月の設立以来初
の移転に踏み切ります。
連絡先は変更ありませんので引き続きよろしくお願いいたします。
━━・● ご あ ん な い ●・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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◎ 当メルマガ執筆者丸山が代表をつとめる教育相談機関・・・
「ヒューマン・スタジオ」は、
スクールソーシャルワークという援助法にもとづき、面接のみならず、
相談員自ら家庭や学校を訪問し、本人を支えつつ周辺状況を改善する
ことで、当事者主体の問題解決をめざしています。
詳細は「ヒューマン・スタジオ」のホームページでご覧ください
→ http://homepage3.nifty.com/Husta/sodan/
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…─── ★ 次回発行は2008年6月11日です。お楽しみに ★ ────…
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