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タイトル:1940年体制からの決別

発行日: 2002/12/22

2002年12月22日ベンチャー革命
                           山本尚利
タイトル:1940年体制からの決別

1. 1940年体制とは何か
 1995年、野口悠紀雄(現青学大学院教授)著「1940年体制、さらば戦時経済」
(東洋経済新報社)が出版されました。1940年とは、太平洋戦争突入直前、国家
総動員体制が確立した非常時代でした。1940年体制とは、対米開戦を控えた当時
の日本の、挙国一丸の戦時経済体制を指します。野口先生によると、21世紀現在
の日本の国家体制は半世紀以上経てもなお、1940年体制構造が温存されていると
のこと。多くの日本人は「ええー?」と驚くことでしょう。なぜなら、日本は戦
後、米国占領軍によって、それまでの天皇制国家が解体され、民主主義体制とな
ったと、多くの国民は理解していますから。だから日本は依然として戦前の戦時
国家体制を存続させているという野口先生の指摘を容易に理解できないのはもっ
ともと思います。ところで、2002年12月28日付けにて、新版「1940年体制、さら
ば戦時経済」が再出版されました。なぜ、今頃、またこの本が再出版されたので
しょうか。
 それは、野口先生の日本国家経済体制の分析が正しかったことが証明されてい
るからでしょう。筆者は、16年間の日本企業勤務を経て、米国企業に16年間勤務
した日米経営組織両体験者(両生類、Amphibian)です。日本では未だ、少数派の
ひとりでしょう。おかげで、日本国家や日本企業の構造体制とガバナンスが米国
のそれらとあまりに異なることを嫌と言うほど体験してきました。両生類の結論
としては、日本は、戦後半世紀を経てもなお、民主主義のコロモをまとった封建
体制国家であるというものです。だから野口先生の指摘には十分共感します。野
口先生は、日本が1940年体制から脱却しないと21世紀の未来はないという危機感
をもっておられます。筆者も全く同感です。さて戦後日本における民主主義思想
研究の第一人者として挙げられるのは、丸山真男(元東大教授)でしょう。丸山
真男の表現を借りると、戦後日本の「古層」とか「執拗低音」とか名付けられる
ものとは、日本的封建体質を指しているのではないでしょうか。1940年体制も、
その根底には「古層」が横たわっているとみなせます。しかしながら、この「古
層」を、日本固有の文化的特性と断じてしまうと、容易に変えられない構造とな
りかねないので、野口先生は、敢えて1940年体制と命名し、この「古層」が固有
文化によらず、仕組みによるものとしたかったと思います。ちなみに筆者は1940
年体制とは日本文化と国家の仕組みが融合化して形成された執拗でふてぶてしい
「古層」、すなわちStructural Impediments(構造障壁)であると思います。

2. 三本の矢
 1998年、榊東行著「三本の矢」(早川書房)が出版されています。この著者は、
東大卒、ハーバード大学留学、某官庁課長補佐の現役官僚の覆面作家です。三本
の矢とは、政官財の鉄壁の三角形構造(米国連邦政府の言うStructural 
Impediments)を指しています。同著によると、「日本の現行金融システムは、
社会に分配されるべき富(レント)を政官財の三者が不当に支配し、手許に残っ
た富を三者間で山分けするという、経済的にみて最悪のシステムである。」とい
う記述があります。
 この著者は恐らく、旧大蔵省の若手エリート官僚でしょう。三本の矢を支える
側の人物です。恐らく、彼は米国留学によって、日本の金融システムの構造矛盾
に気付き、やむにやまれぬ大和魂から、匿名出版につながったと思われます。こ
ういう若手エリートが今後、急激に増えると予想されます。否、もっと増えて欲
しい。特に、国民の税金で公費留学した公務員エリートは、彼等の留学費を負担
させられている国民に向けて、最低限度、日本の実態を知らしめる義務と責任が
あります。良心的秀才ならば、日米比較両体験して、何の疑問も持たないという
ことはあり得ないはずです。ところが、大多数の公費による日米両体験者は結局、
自己保身のため「みざる・いわざる・きかざる」を決めこむわけです。これは、
立派な「不作為の罪」といえます。特に、欧米留学経験のある国立大教授(国民
の税金で扶養されている国家公務員)の多くは非常に重罪(未必の故意)の疑い
が濃厚です。さて、公費によりハーバード大留学したと思われるエリート官僚、
榊東行氏の言う「三本の矢」こそ、筆者の言う封建体制(Feudal System)そのもの
です。この体制は日本の金融システムのみならず、大なり小なり、日本の政産官
学界、すべての権力支配構造に共通すると思います。それを支えるのは既得権益
者VIP(Very Important Persons, or Vested-Interested Persons)です。その
多くが、東大卒業生であるのも事実です。60年代末に突発した全共闘東大闘争
(知性の叛乱:東大解体まで)も医学部封建体制の告発を発端に勃発しましたが、
決して単純な一過性の事件とは言えません。

3. アンシャンレジーム(旧体制)からの脱却
 2002年11月1日付けで、経済産業省編「日本的組織の再構築、アンシャンレジー
ム(旧制度)からの脱却」(経済産業調査会)が出版されています。同著の言う
アンシャンレジームとは、工業化時代の日本の旧成功体制を指し、21世紀、ITベ
ースの知価社会の到来により、旧体制化したという認識です。この認識は実に説
得力があります。野口先生の「1940年体制からの脱却」と同様の問題意識から出
発しています。恐らく、やむにやまれぬ大和魂、経済産業省若手エリートの力作
と思われます。しかし、ひとつ残念なのは、実質的執筆者(恐らく若手官僚)が
覆面化していることです。その内容は、省庁レポートとして画期的なのに、相変
わらず、学識経験者の委員会お墨付き方式から脱していない。これでは若手官僚
自身がアンシャンレジームから脱せられていないという自家撞着に陥っています。
なぜなら虚妄の絶対権威を利用するのはアンシャンレジーム無責任体制の踏襲に
つながるからです。
 さて経産省若手エリートの問題提起に対し、日本の産業界はどのような反応を
示すのでしょうか。経済産業研究所、安藤晴彦・元橋一之著「日本経済競争力の
構想」(日本経済新聞)に、日本企業経営者の知能指数「組織IQ」調査結果が報
告されています。同著によると、ハーバード大学教授マイケル・ポーターいわく
「日本企業はオペレーション効率追求のみに傾注し、戦略欠如で、意思決定スピ
ードが遅い!」と。経済産業研究所の日本企業調査によって、マイケル・ポータ
ーの批判が裏付けられています。しかし経産省若手官僚がどれほど問題提起しよ
うと、多くの日本企業経営者は馬耳東風を決め込んでいます。「わかっちゃいる
けど変えられない!」この一語に尽きます。これこそが、三本の矢の「古層」す
なわちStructural Impedimentsそのものなのです。
 政産官学の権力支配層における「自己否定できない臆病性」と、欧米民主主義
ルールのチェリーピッキングによる、お手盛りセルフガバナンスという「途方も
ない無責任体制」がアンシャンレジームの「古層」を形成していると思います。
さらにもっとも厄介な問題は、日本の無垢なBelonger国民(集団帰属安住国民)
は、三本の矢の「無責任体制」による「抑圧の委譲」(無責任のツケを、最後は
すべて国民に押し付けること)の被害者であるという認識に決定的に乏しい点に
あります。なぜなら、虚妄の絶対権威が戦前の天皇から、戦後は民主主義平和憲
法へスリ替えてあるから、多くの日本国民は三本の矢による鉄の三角形構造に支
配・抑圧されていると自覚しなくて済んでいるからです。否、それどころか、鉄
の三角形構造(安全柵に見える)の内に庇護されているという意識が勝っている
ほどです。驚くべきお人好しです。これほどの幻想と錯覚はあるでしょうか?こ
れぞ日本国民BelongerのBelongerたる真骨頂です。この奥ゆかしい楽観的メンタ
リティは西欧人にはおろか、大陸の東アジア人にも理解の範囲を大きく超えてい
るのではないでしょうか。外から見れば、鉄の三角形構造(檻に見える)が国民
の知らぬ間に「米国製」にスリ替わる危険もいっぱいと言うのに・・・。否、既
にそうなっているかも・・・。
 さて野口先生が1940年体制は仕組みの問題だと盛んに強調すればするほど、そ
れは仕組みの問題などという生易しい問題ではないからでは?と疑いたくなりま
す。親切な主治医が末期ガン患者に向かって、良性腫瘍だから薬で治るよと励ま
している姿を連想します。それより、いっそのこと一度死んでから、来世で復活
した方がまだましなのでは・・・。今すぐ、暴力革命かクーデターなどの大手術
でもしない限り、1940年体制というガン病巣が日本体内から消滅するのはだいぶ
先の話でしょう。すなわち、それは帰国子女や、留学経験や海外経験を有する両
生類(Amphibian)など、脱Belongerの新日本人が、政産官学の日本組織のリーダー
となる頃でしょう。それは少なくとも10年以上先となるでしょう。ただ、リーダ
ーの世代交代をできるだけ早めるために、現在の少数派両生類は脱Belonger運動
を欠かせません。

山本尚利
http://gatecity.gaiax.com/home/hisa_yama
hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp


 
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