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現役 オックスフォード大学院 留学生がリアルタイムでお届けする、愛と肉欲(ウソ)の留学叙述詩。 日記?紀行文?詩?短編?エッセイ? イギリスや留学の話を交え、セキララにお届けしてます。 必見!!




英国留学『牛津録』第九録の三

発行日: 2005/1/30

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■DOMI|MINA■  くるり学 の                ■■■■
■ NVS|TIO ■          牛津録           ■■■■
■ILLV|MEA ■        oxford  record         ■■■■
■ |VVV| ■                第九録の三   ■■■■
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●第九録「ブリティッシュショック」(三)
 
  かしこまりながらドアを抜けると、明るい空間がぱっと目の前に開けた。
 大きな窓が、ドアの反対側にある部屋の一面をおおい、春の陽光がそこか
 ら部屋全体にしみ込むように降り注いでいる。窓の向こうからは先ほどの
 桜並木と川が目に飛び込んできて、軽く覗き込むと人が歩いている様も見
 える。今からこの部屋で行われる物とはあまりにも対照的な光景が繰り広
 げられていた。
 
  気を取り直して部屋の内部を眺めると、右手の壁にはホワイトボード、
 中央から左手にかけてモダンな長机が置かれていた。その曲線の向こう側
 に、三人の白人がゆったりと腰掛けている。一人は四、五十ほどの恰幅の
 よい女性で、もう一人は同じく高年と思われる痩身の男性、最後に、品の
 よい服を着て悠然と微笑をたたえている白髪の男性がひとり、明るい色調
 の椅子に揺られて座っていた。みな一様に白い歯をのぞかせて、無遠慮な
 威圧感はない。しかし紛れもなく、僕を射抜いている目は面接官のそれだ。
 
  意を決して長机へと歩みを進め、三人とそれぞれ握手をしながら軽く挨
 拶を交わし合った。
  最初の女性から順に歴史学者、経済学者、オブザーバーとのこと。最初
 の二人がオックスフォードの教授なのは予想通りだったが、白髪の男性が
 ブリティッシュカウンシルのヘッドだと聞いて、一瞬ブルッと震えそうに
 なる。ブリティッシュカウンシルと言えばつまりは英国政府観光局。そこ
 のヘッドということは、イギリス一省庁の幹部ということだろう。ただの
 学生にこんな人まで引きずり出すかと僕は少なからず驚いていた。驚いて
 はみたけれど、実は、周りの様子を観察できている自分に安堵もしていた。
  周りをちゃんと観察できているかが、面接での緊張を測るひとつの目安
 だからだ。
 「Please sit down.」
  挨拶を終えて、いよいよ僕の運命を左右する面接が始まった。
 
  まず自分の名前と現在の所属を訊かれる。続けて志望している学部とそ
 こで予定している研究のテーマ。それから、その志望動機。定型のやりと
 りを無難にこなしながら、僕の感心は違うことに向けられていた。
  バリバリのイギリス英語だ。古い物語で出てくるような宮殿やお城で話
 されるような響きを持つ、あの言葉だ。これがクィーンズイングリッシュ
 と言われているものなんだろうか。僕は、彼らの話す言葉をまるで映画の
 中の会話のように感じながら、とにかく気を奪われすぎないよう、面接に
 集中しようと焦っていた。
 
  ところで留学を志している人なら実際誰でもやるように、面接をやるもっ
 と前から僕はある練習をしていた。独学で英語の勉強だ。過去の受験や研
 究の関係で、とにかく読み書きに関してはそんなに怠っていないから、集
 中してやっておかなければならないことは決まっている。会話の練習。特
 に耳。とにかく耳を慣らしておこうとイギリスの映画をいくつか見た。例
 えば「トレインスポッティング」。実際は何を言っているのかロクすっぽ
 分からなかったから結局字幕を追いかけるはめになっただけだった。その
 後の二本目か三本目には、定番の007を観た。確か「ゴールドフィンガ
 ー」だったと思う。その映画の冒頭あたりで、二、三人のおやじが007
 を囲んで会議をしているシーンがある。ここで、そのシーンと僕の面接の
 イメージがかさなっていく。
 
 「君の言うことはもっともだと思うがね、そのほかにもいくつか非常に興
 味深い疑問があるのではないのかね? ミスターボンド」
 「イエス。とても興味深い疑問がありますな」
  少しの間もったいぶった風をみせてから、僕は続ける。
 「その疑問とはつまり、なぜ日本ではだめなのか、と、そういうことでしょ
 う?」
  痩身の男性に目を合わせた。
  それを受けて彼は、カウンシルの老紳士と女性に目配せし、僕の言葉に
 続けた。
 「それと、なぜ英国に行きたいのか、なぜオックスフォードなのか、だね」
 「I see.(ああ、そうですね)」
  僕も同じように残りの二人に目配せした後、軽く微笑を見せ、一呼吸置
 いてから話を続けた。
 
 「答えは簡単ですよ。つまり、僕のやりたい研究をしている機関が日本に
 はなく、寧ろ外国にあった。ただそれだけです。僕がこう答えると、あな
 た方はこう思うかもしれない。その外国とは英国だけだったのか、と。そ
 れに関しては、別に英国である必要はなかったかもしれないと答えておき
 ます。実質的には英国だけだったんですけどね。具体的に挙げれば、ブラ
 ジル、ポーランド、ドイツの一部、フランス、そしてイギリスがあります…
 …あなた方が期待するような国、つまりアメリカ合衆国は入っていません
 が。しかし実際どこの国に行くのかと聞かれれば、答えはほぼ明白でしょ
 う。イギリスです。なぜ? スペイン語でもフランス語でもドイツ語でも、
 まだ女性をベッドに誘う言葉を知らなかったからですよ」
 
  痩身の男性は体を小気味良く揺らしながら、口をほんの少し緩ませた。
 かすかに笑っているようだ。
  すると今度は、二人の間を割ってはいるように、白髪の老紳士が口を開
 いた。
 「それで……」
  僕はすぐさまその口を制止して、
 「次の疑問は、なぜケンブリッジじゃなかったか、ですね?」
  老紳士は目をゆっくりと閉じて軽く頷いた。
 「理由は同じです。僕は僕の研究をしたかった。そしてその研究をしてい
 る人が、オックスフォードにいた。勿論あなた方の奨学金のことを知った
 ことも大きいですし、英国、ひいてはオックスフォードに惹かれているの
 も本当です。それが後押ししていることは本当ですが、僕は僕のやりたい
 ことをしたかった。それだけです。ベッドの中と同様にね」
 
  話しながら僕は内心大爆笑していた。
  もちろんこんな言葉を吐いてはいないし、いやらしい冗談も交えていな
 い。それっぽい雰囲気で答えただけだ。
  しかしなんという気障(キザ)ったらしい文句、しゃべり方、立ち居ふ
 るまい、落ち着き方。そのどれを取っても普段僕がやっているような調子
 とはものすごく違う。これがずたぼろのジーンズをはいて道端に座り込み
 ホームレスのおっちゃんと語りあってる人間には見えない。上出来を通り
 こして滑稽ですらあった。
  そんな僕の心地よさとは無関係に、面接官は先を急いだ。
 
 「それでは、次に、君の研究テーマがどれだけ魅力的かを知りたいので、
 説明してもらえないか。そうだなー」
  と痩身の男性は目を細めた後、おもむろに窓の外に目を向けた。僕もつ
 られて思わず窓の外を覗き込む。窓の外は相変わらずの春の陽気で、うら
 やましい限りだ。桜の花びら一枚一枚が、ゆっくり風とたわむれるように
 落ちていく。近くに大学か予備校でもあるのだろう、ハイティーンな若者
 が、その桜並木の足元を闊歩している。まだ四月だからか気の抜け放題な
 奴らがのほほんとアホ面さげて歩いている。例えば今、すぐ下を歩いてい
 る18、9の奴なんてどうだろう。明らかに予備校のテキストを小脇に抱
 えている大学落ちたばかりの予備校生なのに、そもそも全く勉強をする気
 のない男。耳にはヘッドホンをあててだらしなく背を曲げて、ポケットに
 は手をつっこんでひっきりないしにガサガサしている。近くを通る女の子
 をいやらしそうな目で逐一チェックして、あ、今自分が落としたテキスト
 にも気付かない。……格好なんてどうでもいい。頭が茶髪だろうが蛇にピ
 アスだろうが、結局そんなものはどうでもいい。ただ、そのぺたんこのカ
 バン、そのやる気のなさ、そういうのをどうにかしてほしい。自分が今置
 かれている状況を本当にわかっているのかと問い詰めたい……。
  そこでふと嫌な予感がかけめぐって、目を細めた痩身の面接官の方を向
 いた。これまた嫌なことに目が合ってしまった。
 
 「あの人、見えるね」
 
  と、念を押すように彼はこちらを見据えた。僕には全く見えません。と、
 その言葉をどれほど言いたかったことだろう。僕は静かに頷いて、既に判っ
 てしまった彼の次の言葉を、待たなければならなかった。
 
 「彼にもわかるように、あなたの研究テーマを説明してくれないかい?」
 
  僕は笑顔で答えた。
  もちろん今度は引きつった顔で。
 
 (つづく)


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◎編集後記

 どうもくるり学です。今週の話、どうだったでしょうか。まだ全然終わって
ないけど(苦。
 7月に終わらせるみたいなこと書いておきながらなんなんでしょうかこの体
たらくは。我ながら笑わずにはいられません。もうこの際だから一緒に笑いま
しょうか。わっはっはーー。

 ところで実は何を隠そう日本に帰ってきて住んでいるんですが、また来月末
あたりにイギリスにいきそうな気配です。こんなこと書いてるとますます誰が
誰か、オックスフォードの奴らにばれそうなんですが、まあ、もういいですね。
わっはっはーー。

 ところで2、実は先々週に上海に行ってきました。人生初めての有給休暇を
使って上海行ってきました。なんて言ってもこれで5、6回目ぐらいなんです
が、いやー随分変わっててビックリしました。それでもまたまた気に入って、
もうこのまま牛津録やめて上海録にしようかなと思ったぐらいです。もちろん
冗談です。

 来週はといわず、最近はいつも研究でごたごたしてるんですが、善処したい
と思います。後生ですから見捨てずに着いてきてください。ていうか着いて来
いやー!!(壊

 ハッスルハッスル

by Kururi

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