国際ニュース解説と評論記事
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AC通信 No.236
発行日: 2008/5/31[AC通信:No.236]Andy Chang (2008/05/30)
[AC論説]No. 236 「興票案」と李登輝
馬英九政権が発足するとすぐに「興票案」で法廷に凍結された宋楚瑜の
2.4億元を取り戻そうとする動きがでてきた。「興票案」の要点は李登輝
の同意がなければ小切手を換金できないことである。法廷は国民党と宋
楚瑜の同意だけで金を取り戻すのは不可としているが、国民党は李登輝
の同意を得ていない。
この記事を書こうと思っていたところへ友人が田中宇の[ 田中宇:国父
の深謀 ]を送ってきた(田中宇の国際ニュース解説 2008年5月23日)。
「李登輝が念願の二大政党を果たした」と書いているが、とんでもない
間違いである。我田引水はよくあることだが、事実とまったく違うので
見過ごすわけにはいかない。田中氏の記事の中の「台湾の例」の部分の
間違いを正してから「興票案」に入る。
●[間違いの1:蒋経国は台湾の民主化をやらなかった]
蒋経国は王朝を作ろうとして失敗したのである。蒋経国は次男の蒋孝武
をして政、軍、警を統括し、三男の蒋孝勇をして商、工社会を統括させ
た。しかし、アメリカに帰化した元部下で作家の江南(劉宜良)が「蒋
経国伝」を書いたが、国民党は版権を買収しようとして失敗したので、
蒋孝武は部下の汪希苓中将に暗殺を命令し、陳武門大佐が竹聯幇に命令
を通達した。陳啓礼の率いる数人がアメリカのデイリーシティの江南の
家で彼を射殺した。米国のFBIがすぐさま捜査を開始し、犯人が台湾の
暴力団竹聯幇の陳啓礼、呉敦、董桂森であることをつかんだ。米国は中
華民国政府に陳啓礼などの身柄を引き渡すことを要求した。
アメリカの強大な圧力がかかり、まもなく蒋経国はテレビで「蒋家の子
孫が政治に関与することは、今も将来も、ない」と宣言した。暗殺が発
覚したためアメリカに王朝の夢を潰されたのである。
●[間違いの2:李登輝は二政党制を推薦も推進もしていない]
台湾の選挙制度、国民投票法案などを推進したのは陳水扁の妥協派であ
る。民進党では林濁水などが国民党の提案、「小選挙区二票制度」に反対
したが、陳水扁は国民党と共に二政党制を確立させようとして法案を通
した。民進党の蔡同栄が推進した国民投票法案を無視して国民党の「国
民投票法」を通し、第6次憲法改正で憲法に組み入れたため、将来にお
いて住民投票で行う法案改訂はほとんど不可能となった。
小選挙区制度で二大政党政治をやろうとした民進党は、台聯党、親民党
などの小政党を潰すつもりだから、李登輝が賛成するはずがない。お陰
で1月の立法委員選挙で台聯党の議員はゼロとなった。李登輝は陳水扁
と不和だったのは事実だが、決定的な原因は台聯党を潰されたことであ
る。皮肉なことに民進党もこの選挙で議員の24%しか獲得できず弱小政
党に転落し、国民党独裁が確立した。
●[間違いの3:宋楚瑜の親民党結成は2000年の選挙のあとである]
「2000年の総統選挙は、国民党、親民党、民進党の三つどもえになり、
もともとの国民党の票は、国民党と親民党に分割されてしまい、民進党
に漁夫の利の勝利を与えた」は少し違う。宋楚瑜が国民党の連戦より多
い票を得たので選挙後の3月31日に親民党を結成したのである。
李登輝は宋楚瑜を冷遇したのではない。宋楚瑜は台湾省の省長だったが、
国会が台湾省を廃棄したため、宋楚瑜が国民党主席だった李登輝を逆恨
みし、国民党を脱退して2000年の総統選に立候補したのだった。巷間の
噂では宋楚瑜は省長時代から各地の隠し支持者に(噂では4000億元)の
隠し資金を預けていたので、人気は連戦をはるかに上回り、結果は僅差
で陳水扁が当選した。「興票案」がなかったら当選していたと言われる。
落選した宋楚瑜は李登輝を逆恨みし、国民党も李登輝が陳水扁に有利に
なるような発言をしたとして李登輝を除名した。負けると他人の所為に
する政治家は多いが、陳水扁に敗北した連戦と宋楚瑜は落選の原因を李
登輝の責任としたのである。
宋楚瑜の敗因は後で詳述する「興票案」である。当時の状況では宋楚瑜
が潤沢な隠し資金があったので有利だったが、窮余の策として国民党が
反撃したのが「興票案」である。宋楚瑜が国民党の集めた2.4億元を米
国の息子の口座に送金したことを暴露したのだった。連戦有利にするた
め李登輝が「興票案」を暴露したのなら、李登輝が暗裏に陳水扁を助け
た事実はないはずである。
●[間違いの4:その他の間違い]
そもそも田中氏は「国父と二政党制」という設定で記事を書いたが、李
登輝は中華民国の国父ではない。中国人は李登輝を国父と認めない。
二政党制が欧米の民主国家に受けると言う設定もおかしい。欧米では二
政党でない民主国、フランス、イタリーなどが存在している。
二政党制が「李登輝の念願」なら第三政党の台聯党を作ることはない。
李登輝が二政党制度を望むなら始めから民進党に参加するはずだ。
今年になって李登輝が再び国民党に擦り寄ったと言うのもおかしい。李
登輝は国民党に除名されたので復帰の可能性はない。
最後になるが、馬英九は李登輝を表敬訪問したけれども李登輝を招聘し
え顧問とした事実はない。国策顧問制度は廃止されたので馬英九が顧問
を招聘できるはずがない。
民主国家は二政党制を歓迎するというなら、馬英九が政権発足と同時に
独裁国家の中国と話し合いを始めることはない。国民党政権が独裁とな
り、中国の独裁政権と(統一の)話し合いをしている、台湾人の意思は
完全に無視されているのが現状である。
田中氏は中国人の台湾人蔑視、台湾人の中国人敵視、台湾人と中国人の
「民族の違い」がわかっていない。
●「興票案」の経緯
「興票案」とは、「特種の政党活動と、蒋経国遺族の補助金」という名目
で集めた資金のうちの2.4億元を、当時の国民党秘書長だった宋楚瑜が
盗用してアメリカの息子の口座に違法送金した事件である。この金は梁
柏薫、陳由豪、王又曾など、国民党のお陰で大富豪となり、それぞれ千
億元近い金を横領して国外逃亡した経済犯から集めた3.6億元の一部で
ある。宋楚瑜は事件の発覚と同時に「1.2億元を政治関係に使用した」
と弁解したが、残りの2.4億元の用途は説明できなかった。
2000年の選挙で、宋楚瑜は台湾省長を免除された恨みから国民党を脱退
して無党派で総統選挙に立候補したが、各地に隠匿した資金のお陰で当
選すると予測された。そこで国民党が暴露したのが「興票案」事件であ
り、この事件のため彼の得票率が下がって陳水扁が当選したのである。
●金を返せば「潔白の証明になる」?
宋楚瑜は国民党が「党首・李登輝の名義」で告訴したので、「金を返す」
と称して、2.4億元の小切手を法廷に預け、「潔白を証明した」のである。
金を返したから潔白であると言う理論はまったく成立しない。盗んだも
のだから返す、盗んでいなかったら返す必要はない。
馬英九も市政府の経費を自分の口座に入金して、問題になるとすぐに同
額のお金を「公益に寄付」した。これは横領の証拠になっても潔白の証
明にならない。こんなのは中国人の詭弁である。
●宋楚瑜の小切手の問題
宋楚瑜が法廷に預けた2.4億元の小切手の受取人は「国民党主席・李登
輝」と明記し、国民党党首で同時に李登輝といった二つの条件が揃わな
ければならないと明記した。そのために国民党が李登輝を除名したあと、
国民党は法廷から小切手を取り返そうとしても、小切手の受取人である
「国民党主席」と「李登輝」の二つの条件がなければ現金に替えること
は出来ない。後になって国民党は宋楚瑜に対する告訴を取り下げたが、
小切手を取り返すことは出来なかった。
つまりこの小切手は、現在の国民党主席がサインしてもダメ、李登輝が
サインしてもダメなのである。唯一の可能性は李登輝が国民党主席に復
帰してサインしないといけないのである。この小切手は法廷が10年間保
管するが、この期間に換金しなければ没収されて国家金庫に帰納される。
今が9年目で、あと一年である。
●李登輝には相談しなかった
ところで馬英九政権が発足すると国民党はすぐにも金を取り戻せると思
って宋楚瑜と呉伯雄が話し合いを始めた。今月24日、国民党の党首呉伯
雄は小切手を取り戻すことを新聞記者に発表した。独裁政権だから法廷
は反対しないと思ったらしい。
国民党がメディアに発表したのが二つの方式である。一つは李登輝が国
民党主席としてサインすることで、これは不可能。二つ目は宋楚瑜が受
取人指定は間違いだったと法廷に申告すること。これには三つの条件が
あり、(1)受取人指定が間違いであった、(2)小切手を法廷に預けた
原因が消滅した、つまり李登輝は他の方法で同額の金を受取った、(3)
李登輝が小切手取り戻しに同意することである。この三つの条件はいず
れにしても李登輝の同意がなければダメである。
ところが李登輝は記者に対し、「私はそんな話は全然聞いていない」と返
事したのである。つまり李登輝を無視した国民党の勝手さが暴露された
だけである。このあと小切手問題は李登輝と相談する時期に入る。
だが筆者は「興票案」の再燃には裏があるように思える。あくまでも憶
測だが、選挙の後で馬英九と国民党の間では2億元の宣伝費を誰が払う
かで論争してまだ決着がついていない。国民党は馬英九総統つまり政府
の金で払えという。しかし選挙資金は国民党が支給すべきであると馬英
九は主張している。そこで憶測だが、馬英九と国民党の間で同意があっ
て、宋楚瑜の2.4億元を馬英九の宣伝費を支払うのではないか。あくま
でも憶測だが、どのようにしても李登輝の同意なしでやれるとは思わな
い。いまのところ李登輝が同意するかどうかはわかっていない。
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