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AC通信 No.229
発行日: 2008/4/4[AC通信:No.229] (2008/04/04)
[AC論説]No. 229 台湾は民主国家でなかった
総統選挙にまけて遂に国民党独裁に戻ったのを悲観して焼身自殺者がで
てしまった。海洋之聲というラジオステーションの台北所長で廖述炘と
言う方である。謹んでご冥福を祈る。
私は台湾で選挙を見聞し、他の人の意見も読んで私なりにいろいろ考え
てみたが、結論を言えば「台湾は62年来国民党の独裁が続いていた。
台湾は民主国家でなく、民進党政権の八年は民主国家の幻想に過ぎなか
った」ということである。
選挙が終わっていろいろ意見がでている。悲観的な人も多いが、中には
ブッシュ大統領、李登輝元総統やジョン・ボルトン元駐国連大使といっ
た大物政治家もいて、台湾の将来にかなり楽観的な意見を述べている。
しかし彼らの意見はいずれも「表面的な観察」を元にした声明で同意で
きない部分も多い。彼らは馬英九に対し「中国の侵略を防ぎ、民主制度
を維持する強い牽制」しているように思われる。これに応えて馬英九も
当面のところ中国との話し合いはないと述べた。
外国人のコメントで今回の選挙が平穏に済んだこと、民進党の抗議がな
かったことを民主主義の進歩と結論付けている人が多かった。これは民
主の進歩などではない。221万票の大敗北をすればグウの音も出ない、
完全な敗北で抗議も出来ない状態である。
また民主国家では政権交替が当然だから、台湾でそれが出来たのは進歩
だと考える人も多いが、台湾の政治事情は非常に複雑で、一部の人は政
権交替ではなく国家の存亡であると認識している。
民進党が中華民国の名義と民主国家の看板に拘るあまり、選挙は民主国
家のシンボルとして行われた。それを利用した国民党によって国家存亡
の愛国意識は希薄となり、「勝ち馬に賭ける」ゲームとなったのである。
民進党が国民党の制圧を受けて和解共生をとったのが敗因である。国民
党は民進党を打倒するため、8年間も水面下で復讐の下準備をやってき
た。民進党はそれを知っていながら打つ手がなく、陳政権は「民主国家
の仮面」を棄てきれず、中華民国に固執していたのである。
陳政権になっても国民党独裁は続いていたという結論を検証してみると
この八年来のさまざまな現象が説明できる。政権が変っても立法院は予
算を審議せずに却下した、総統の月給と総統府の予算をカットした、軍
備購買予算を審議せず、事あるごとに政府を麻痺させたのである。メデ
ィアは陳政権が無能で腐敗していると攻撃を繰り返し、メディアに洗脳
された人民は民進党を罵倒し、馬英九に投票したのである。
国民党に制圧された民進党は「台湾は民主国家である」と主張する以外
に何も出来なかった。陳水扁は民主国家を強調するあまり台湾の独立を
忘れて国民党と二大党政治で選挙に臨んだが、陳政権は国民党の制圧を
逃れることが出来ず、惨敗したのは当然の帰結である。
民主制度の下では独立に賛成する多くの台湾人も選挙になると謝長廷を
支持せざるを得ない。李登輝は「独立派は口先だけの人が多すぎる」と
批判したが、独立派も、台湾が民主国家と認めた李登輝も同じように謝
長廷に票を入れざるを得なかった。独立派にとっては国民党と民進党の
選挙に投票したのではなく「独立と併呑」の二者択一である。
いろいろな人が台湾が民主国家である限り中国に併呑されることはない
としているが、これは楽観的というより実情に目をつぶっているという
他はない。李登輝も台湾は既に立派な民主国家であると強調し、ブッシ
ュ、ボルトンも民主制度の選挙の結果を「自由、公平」と賞賛した。し
かしこれらは都合のよい解釈でしかない。
ブッシュは「台湾の選挙は全世界及びアジア諸国の民主の灯台である」
と賞賛したが、それならブッシュはなぜこの民主国家を承認しないのか。
ジョン・ボルトンは台湾の選挙を自由で公平だったと賞賛したのはアメ
リカが台湾を認めないことへの皮肉であろう。今回の選挙は自由でもな
く公平でもなかったことは彼もよくわかっている。その様な評論を書い
たボルトンも最後に「アメリカはこれまでのアイマイ政策を棄てて台湾
政府を承認すべきである」と主張したが、これが本音であろう。
いろいろな理由、原因などを勘案してみると、国民党独裁は少しも衰え
ていなかった。2000年と2004年の選挙で陳水扁が当選したのは国民党
がいろいろな失策をしたからである。
2000年と2004年の陳水扁支持率は35%で、今回の謝長廷の支持率と変
わりはない。今回は国民党が8年来の恨みを晴らすべく周到な準備をし
たので民進党は勝てなかった。つまり資金、組織、メディア、政治圧力
などに加えて中国の恫喝など、すべて独裁のコントロールのもとに行わ
れた選挙であり、民主、自由、公平などはなかったのである。このこと
を詳しく分析してみよう。
●自由、公平な選挙ではなかった
選挙で大切なのは資金、組織、メディア宣伝、政治力などである。この
いずれにおいても国民党が比較にならないほど絶対的に優勢だった。
資金について言えば、民進党の発表によると過去二回の総統選挙では20
億元を使ったが今回は5億元だけだったという。これに反し、国民党は
全国に掲げた宣伝旗だけでも20億元を使っているという。国民党は日本
政府の残した資産を全部私有化したので、国会で資産の返還を要求する
法案が長年討論されていたが、国民党は毎回の選挙で膨大な資金を使い、
今回の選挙では表向きに100億元以上、実際には150億元使ったといわ
れている。
票買収の金は全国に散らばっている国民党の組織を利用して民衆の買収
に使ったが、賄賂の使い方が巧妙で噂はたくさんあっても確証は挙がっ
ていない。証拠を挙げても揉み消されるだけだった。
組織について言えば国民党は全国市町村の里長村長の80%以上を傘下に
おさめていたから、この八年間に里長村長を使って近隣の住民にたいす
る秘密調査と票買収を進めていたといわれる。国民党の調査では泛藍、
泛緑などの政治的偏向はもちろん、金で買収できるものと出来ないもの、
金でなく利権とか地位など、家庭内の事情などの弱点を調べ上げて精密
な帳簿を作っていたとされる。つまり買収して露見する可能性のある人
には金を使わないから証拠が上がらない。
情報組織がこれほど緊密なのは独裁国家の特徴である。一例を挙げれば
去年からこれまで里長や農会、漁協の会長などが「個人の招待」名義で
村人を団体旅行に招待して、資金は村長が出したと称していた。または
有力者の誕生日などの名義で近隣を晩餐に招待したことなども多い。
メディアについては何度も書いたが、例えば陳水扁と周辺の腐敗汚職の
報道で民進党は腐敗した政党というイメージが出来上がった。だが国民
党の腐敗と民進党の腐敗では桁が違う。もちろん民衆はそれを知ってい
るが、8年間も毎日のように陳政権批判の報道を繰り返せば、毛沢東が
言ったようにウソも百辺繰り返せば真実になる。民進党に失望した民衆
はメディアに洗脳されたお陰である。
台湾の経済が非常に悪いと言うのが馬英九の宣伝で経済を改善するとい
うのが彼の政見だった。しかしボルトンが指摘したように、台湾の2007
年の経済成長率は5.6%で、この数字は決してその他のアジア諸国と比べ
て悪いといえない。民進党の無能もさり乍ら、メディアの操作に対抗で
きなかったのは国民党の恐ろしさの証明でもある。
投票の結果、データによると謝長廷に票を入れた女性は182万票で、馬
英九に入れた女性票は480万票であるという。つまり謝長廷は女性票だ
けで300万票の差があったという証拠である。イケメンの馬英九に票を
入れたのはメディア操作を端的に表している。女性にとって投票は見栄
えのよい人を選ぶ遊びに過ぎなかったのだ。
●現状維持を選んだ台湾民衆
民衆は「独立と統一」よりも現状維持を選んだという指摘がある。ここ
にもいろいろな原因が錯綜している。一つには台湾人の国家意識がアイ
マイであること。「自分は台湾人である」と認識する人は82%を超えたと
いわれるが、別の面では「台湾は中国の一部である」、「中国と台湾は二
つの中国」、「独立すれば中国が武力攻撃する」など、国家意識は混乱を
極めている。現状維持のほうが安全、商売がやり易いなどと言った認識
も強い。彭明敏が指摘したように、台湾人意識は強くても国家意識、愛
国、護国の意識は希薄である。
現状維持を選んだ原因は国家意識の希薄さの他に、中国への経済依存、
武力恫喝の恐怖、アメリカの圧力などがある。ことに選挙に臨んでアメ
リカがダグラス・パールを派遣して国連加盟の住民投票に反対した影響
はかなり大きかった。
●「統独問題」と選挙
統独問題は今回の選挙で問題にされなかったという指摘がある。多くの
外国人は「統独問題を単純な選挙問題にしななかったのは台湾人が利口
になった」と解釈したが、これは明らかな謝長廷の失策である。
謝長廷は「私が当選しても国民党員を行政院長に据える」と確約したの
である。つまり「当選しても国民党独裁、落選しても国民党独裁」と認
めた、それで統独問題は始めから問題にならなかったのである。
台湾人が総統になれば台湾人の国作りが出来る、馬英九が当選すれば中
国接近が始まると民衆は理解していたが、謝長廷は自ら国民党独裁に変
りはないと表明した、行政、立法、司法の諸権限を国民党に任せると宣
言したのである。これでは選挙にならない、誰が当選しても同じなら謝
長廷に票を入れる必要はない。統独問題は国民党が既に決めた路線を歩
むことになるので問題にならない。
●アメリカの大失策
アメリカが台湾の国連加盟に反対する理由は、アメリカが台湾の暫定占
領権を維持しているからである。台湾の地位は未定とし、しかし未定の
ままアイマイな政策を取るのはイラク、アフガニスタン、北朝鮮などに
加え、パレスチナやイランの核開発問題で手一杯だから台湾問題に手を
つけられない、だからアメリカは現状維持を強要するのである。
陳水扁は「台湾名義で国連加盟」することを住民投票にかけて、投票者
の台湾アイデンティティを鼓舞するつもりだった。しかしアメリカは台
湾の国家地位は未定でアメリカが握っているから当然のように反対した。
結果として陳水扁の政策はアメリカの反対に遭って逆効果となった。
アメリカの内政干渉は、国際間、ことに中国に対して台湾の国際地位は
未定であることを明らかにしたものである。選挙に臨んでキティホーク
を台湾海峡に派遣したことも含めて、台湾の領土問題について中国と一
戦をも辞さないと言う表現でもあった。
しかし干渉することによってアメリカの曖昧政策は限度に達していると
いう見方も出来る。アメリカは「一つの中国」を主張しているが、同時
に「台湾は中国の領土ではない、中華民国は存在しない、台湾の独立は
反対」と表明している。これはつまり将来において台湾問題は必然的に
アメリカの主導で解決しなければならないことを示している。
だが馬英九が当選して中国接近を始めると、航空路線の解放や観光客の
受け入れ、相互の経済投資が活発になり、金と人口の交流が始まれば中
国の経済、人口による浸透が始まり、やがてアメリカの影響力は希薄に
なってしまう。そのときになって「台湾問題は台湾人が解決する」と主
張しても台湾内部に浸透した中国人が多数になれば統一勢力が主流を占
めるだろう。明らかにアメリカ政策の失敗である。ボルトンが「アメリ
カは台湾の主権を認めてアイマイ政策を中止しろ」と主張した理由は、
いつまでも台湾問題を放置するわけに行かないという警告である。
●台湾の未来
台湾人はあと数年の時間しか与えられていない。民進党が政権を握って
から8年が経過したが国民党の独裁は続いていた。そして今回の選挙が
国民党の大勝利となって、台湾人が中華民国体制のもとで独立を果たす
ことは不可能であることが明瞭になった。国民党独裁が確立して、民進
党の推進した中華民国から脱皮して正名制憲を成功させる計画は不可能
となったのである。民進党が政権を握っていても国民党の独裁から逃れ
ることは出来なかったのである。
今の台湾に出来ることは早急にアメリカに曖昧政策を放棄させることで
ある。アメリカが台湾の国際的地位を保持していることを明確にすれば
中国の圧力はもちろん国民党独裁もなくなる。これがわれわれに残され
た唯一の道である。いまこそ台湾の独立派は団結してこの道を採るべき
である。台湾はアメリカの暫定占領領土であること、アメリカが曖昧政
策を続けられないよう、国民の国家観念 教育と国際的な宣伝を強化す
ることが大切である。
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