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国際ニュース解説と評論記事




AC通信 No.227

発行日: 2008/2/29

[AC通信:No.227] (2008/02/28)
[AC論説]No. 227 ヒラリーとオバマの違い

いつもお世話になっている茅野先生から櫻井よし子氏が週刊ダイヤモン
ドに掲載した「日本人が知っておくべき国際情勢を読み取る“ツボ」を
メールしていただいた。ツボとは物事を理解するための要点で、ツボさ
え抑えておけば、たとえ細かな国際情報に欠けていても読みスジを大き
く間違えることはない、と言う。

2日前の23日にわれわれ「緑の会」と「在米台湾人論壇」の合同企画で
行った講演会で、白井真由美氏をお招きして「台湾の総統選挙の行方」
という題で講演していただいた。講演会は総勢65人の日本人、台湾人の
参加者を集めることが出来て、講演後は台湾料理の昼食と日台交流、食
後にまた一時間の討論会があり、かなりの盛会だった。

私は司会者で聴衆の興味をそそるため、講演が始まる前に「謎解き」問
題を出して、食後の討論会で参加者の「謎解き」を聴くことにした。私
が出した謎とは「ヒラリーとオバマの違いは“M”と“W”である、何故
でしょう?」

●「ミーミーミー」と「ウィウィウィ」

この謎の回答はかなり活発な議論があって、最初は今森さんの
Man/Woman、つまり民主党の候補者は男と女だけでなく、男のオバ
マは黒人で、女のヒラリーは白人だが、両方ともハンデを背負っている
ようなもの、黒人がアメリカの大統領に選ばれたことはないし、女性が
大統領に選ばれたこともない、つまりどちらにしても史上初の選挙にな
るだろうという。多くの人が同意した回答だった。

続いて佐藤さんは、MとWとはMix/Whiteのことで、ミックスとはオバ
マのことで、彼は黒人でもアフリカ系の黒人と白人の混血児である、こ
れに対抗するのがホワイトは白人のヒラリーで、人種問題の方が男女の
選択よりも大きいと提案した。アメリカの人種問題の複雑さを如実に示
す回答である。

さて、私の回答とは、「ヒラリーはミーミーミー(Me Me Me)と自分の宣
伝しかやらない。オバマはウィウィウィ(We We We)と民衆にワシント
ンの政治改革を呼びかける」、つまりヒラリーは自分を売り込むことだけ
で、すぐに飽きられるが、オバマはチェンジ(Change改革)を大衆運動
に持ち込んで人気を得ている。

テレビで見るとよくわかるが、ヒラリーの講演会では「Hilary」と書い
たプラカードしかない。しかしオバマのプラカードは「Change」と書い
てあり、オバマではない。これがMeとWeの違いである。だから二人の
違いの“ツボ”はMとWなのである。

半年前は当選確実と言われていたヒラリーが十二月以来オバマの人気に
上昇に押されて既に11州の初期選挙で敗北し、残る重大な州はテキサス
とオハイオとなった。ヒラリー敗北の“ツボ”は自分を自慢しすぎるヒ
ラリーに対し、オバマは大衆を味方にしたことにある。

●ヒラリーの自己顕示欲

ヒラリーは自分が大統領になる資格が充分と宣伝している。彼女は女性
で弱弱しいと見られるのを恐れてタフなヒラリーを見せかける戦術を取
った。「私(ミー)が当選したら…」、「私はたくさん素晴らしいアイディ
アがある」、「私は30年の経験がある」と言い続けてきたが、第一回のア
イオワ州初期選挙で意外にもオバマに負けて参謀は慌ててしまった。

次のニューハンプシャーでは彼女が「私にはたくさんアイディアがある
のに…」と涙ぐんで、これが好評で勝利を収めた。そのあと参謀たちは
彼女をタフな大統領候補にするか、ソフトな女性にするかで混乱した。

●オバマと小泉の類似点

オバマの成功は「民衆と一緒に政治を変える」と宣言したことである。
これは小泉元首相が「自民党をブッ壊してやる」といって民衆に受けた
のと同じで、民衆はワシントンの腐敗、政府に対する不満などを攻撃す
る、しかも自分ではなく「われわれが」やると言えば民衆がすぐに味方
になったような錯覚を覚える。その実、オバマのチェンジ宣言にあまり
中身はないが聞こえはよい。小泉首相にしても改革を目指すと言っても
結果は知れたものだった。

私は12月のオバマがChangeをスローガンに挙げたときからこれはマッ
ケインにとって強敵となると思っていた。民衆は反戦、厭戦気分が強く、
ワシントン(政府、国会)の腐敗ぶりに不満がある。だからワシントン
を改革すると言えば、それがどんなに空虚でも若者たちの共感を呼ぶの
である。

ヒラリーの方は悪名高いビル・クリントンが後押ししているのがマイナ
スで、全国的にヒラリーには絶対反対するパーセンテージが高い。

●障害となったビル・クリントン

ヒラリーが30年の経験があると自慢するのもおかしい。30年のファー
ストレディ経験がどうのこうのといっても民衆はすぐにわかってしまう。
社長の妻だった経験からすぐに社長になれると言うのは誰も信じない。

ここで夫のビルクリントンが選挙にしゃしゃり出てオバマ批判を繰り返
し、しかも新聞記者を叱り付けるなどでマイナス点を増やしてしまった。
ヒラリー陣営の参謀たちにはビルに出て欲しくない、言動を慎んでもら
いたいと建言する人も多かったが、自己顕示欲のつよいビル・クリント
ンは聞き入れなかった。しかし民衆が「ヒラリーが当選すれば大統領が
二人でてくる」懸念を大っぴらに言うようになって、流石の鉄面皮なビ
ルも引っ込んでしまった。

●「シェームオンユー」強硬路線の分析

11州の敗北でヒラリー陣営はマネジャーが辞職したり、選挙参謀の戦略
の衝突などが起きて、ヒラリーはソフト路線を取るか(選挙参謀ハロル
ド・イッキの建言)、タフ路線を取るか(ヒラリー個人の志向)で意見が
分かれた。

3月5日のテキサスとオハイオではヒラリーがこれまで人気があったの
にオバマに追い上げられてきた。ヒラリーはメキシコ移民の多いテキサ
スの選挙公聴会ではオバマに友好を示すソフトな態度を取ったが、その
次の日オハイオ州ではすぐタフレディに変身して「シェームオンユー、
オバマ」と公言したので民衆はあっけに取られてしまった。

筆者が前の記事(No.225)で書いたように、「討論で相手を罵倒するな」
というルールを破ったのである。Shame on you、恥を知れとまで罵倒す
る態度は一時的に人気を得ることが出来ても、民衆はなぜヒラリーがあ
れほどヒステリックになったのかと訝り、その理由を詮索するようにな
る。そしてその意味がわかると、ヒラリーが怒ったのは弱点を突かれた
からだとわかる。逆効果である。

ヒラリーがヒステリックに怒ったのはオバマが批判した二つの政策、つ
まり彼女の国民健康保険の提案と、ビル・クリントンが強引に推し進め
た北米自由貿易協定(NAFTA)のため、オハイオ、ミシガンなどの米国の
自動車産業がメキシコに移転して失業者の増加で困っていることを指摘
されからである。

●ヒラリーの国民健保

大統領選挙の主要点は、イラク戦争、国民健保、移民問題、経済、増税
と減税の議論不景気と失業者対策などである。

ヒラリーには昔から国民健康保険に対する執念がある。ビル・クリント
ンが大統領に就任するとすぐにヒラリーを国民健保政策の主導者に指名
したが、ヒラリーが10ヶ月あまりかけて発表した健保政策は、発表した
第一日目で国会、医業界、保険界からすべて拒否された苦い経験がある。
過去の失敗を指摘されると怒るのである。

そういう関係でヒラリーは今回の選挙で国民健保に力を入れて宣伝して
いたのだが、彼女の政策についてオバマが「彼女の健保政策は全国民に
強制加入をさせるもの」と断定したので、彼女がカンカンになって怒っ
たのである。だがオバマは彼女の「シェームオンユー」に大きく反発し
なかった。そしてメディアの分析では、ヒラリーの健保政策にはたしか
に全国民を強制加入させる可能性があり、やがて掛け金の増加で支払不
能の貧乏人をどうするかと言う問題が出てくる。痛いところを指摘され
て怒ったのが実情らしい。

●北米自由貿易協定(NAFTA)の失敗

NAFTAについてはかなり深い国際間の摩擦の経緯がある。経済大国のア
メリカに対抗するため欧州連合(EU)が発足して、これが数年の間にア
メリカと対抗できるほどの経済圏を作り上げた。同じような多国間の経
済合作はアジアでもあり、ASEAN(東南アジア諸国連合)の構想が出来た
のは60年代のことだが、80年代頃からマレーシアのマハティール首相
が力を入れてNAFTAの加盟国の増加を呼びかけた。これはアメリカにと
って脅威と映った。

クリントン大統領は強引にASEANを妨害し、1992年12月に北米自由貿
易協定(NAFTA)に署名し、続いて1989年にオーストラリアのホーク首
相の呼びかけで発足したアジア太平洋経済協力(APEC)を推進して1993
年に米国のシアトルで第一回の会議を開いた。APEC の発足によりASEAN
構想は大幅に影響力を失い、これに抗議してマハティールはシアトル会
議に参加を拒否したのである。

それはともかく、NAFTAのお陰でアメリカの高賃金工業、ことに自動車
業者は労賃の安いメキシコに移転し、お陰でメキシコは潤ったがアメリ
カの自動車工業は大打撃を蒙ったのである。いまではミシガン、オハイ
オあたりの元自動車業のメッカは人員削減のため失業率が増加し、失業
者は生活に困り、健康保険費も払えず民間の怨嗟の声が高い。

そこでオバマがNAFTAの撤廃または見直しプランを提案したので、クリ
ントン夫妻が怒ったわけである。しかし失業者の多いオハイオ州で
NAFTA問題を取り上げればオバマに軍配が上がるのは当然で、ヒラリー
も失業問題を取り上げればNAFTAの見直しを迫られるのである。

●最新情報ではヒラリーの負け

だからヒラリーやビル・クリントンがいかに頑張ってもオバマ有利にな
り、自動車工員組合はオバマ支持を宣言したのであった。ヒラリーは激
怒した態度でタフレディを装ったけれども逆効果だった。26日にクリー
ブランドで行われた候補者討論会ではソフトな態度で、「恥を知れ、オバ
マ」発言に遺憾を示し、「私は少しばかりホットな言い方をしたかもしれ
ません」と謝罪に似た発言をしている。そしてNAFTAの撤廃か見直しか
についても「私が思うに、NAFTAは見直しが必要かもしれません」と妥
協に似た発言をしたのである。全面的な敗退である。

今日(2月27日)のLAタイムスの報道によると、民主党の人気投票で
はテキサス州では逆転してオバマがヒラリーを上回ったが、オハイオ州
では依然としてヒラリーがオバマを上回っているという。初期選挙の結
果は来週にならなければわからないが、オバマの上昇が顕著である。

同じ27日の午後になると、ジョージア州の国会議員・ジョンルイスがこ
れまでのヒラリー支持からオバマ支持に鞍替えしたと発表した。ルイス
議員は嘗てキング牧師の助手だったこともあり、黒人の間で大きな影響
力を持つ人である。これがヒラリーに決定的な打撃を与えたのはいうま
でもない。マッケインにしてもオバマは強敵となるのは必定である。

調査によると今の時点で総選挙が行われた場合、マッケイン対オバマで
は44%対42%でマッケインの勝ち、マッケイン対ヒラリーでは46%対40%
でマッケインの勝ちと出ている。つまり現時点では共和党が優勢である。

民主党は中国よりで、共和党は台湾を支持している。報道では在米中国
人の7割がヒラリー支持だったそうだが、オバマ支持に変るかどうかは
わからない。在米台湾人の9割はマッケイン支持である。

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