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旅写真家・三井昌志が送るビジュアル・メルマガ。等身大のアジアの表情を、美しい写真と旅情溢れる文章で綴ります。大きな反響を得て、写真集として出版されました。 




[ 素顔のアジア 旅に出よう ]

発行日: 2008/6/17


素顔のアジア」は旅写真家・三井昌志がお送りする写真付き旅行記です。(ホームページはこちら)。

6月20日、21日、22日に東京で行われる帰国報告会2008が間近に迫ってきました!
まだまだ参加者を受け付けています。アジアの旅の魅力を伝えるスライドショー&トークライブです。


■ 旅に出よう ■


「最近、アジアで日本の若者を見かけなくなったよね」
 そんな話題になった。写真家の柴田さんと話をしていたときのことだ。

 柴田さんは15年以上も前からインド周辺を放浪して写真を撮っている筋金入りの旅人である。その彼が以前よりもアジアで出会う日本人の数が少なくなったというのだ。インドで出会う旅人も、日本人ではなくて韓国人の方が多くなっているという(これは韓国のインドブームにも一因があるようだが)。

 実は僕も柴田さんと同じように感じていた。でも僕の場合には、この数年はあまり旅行者が立ち入らないような妙な場所に一人バイクで迷い込むという旅のスタイルを続けていたから、その実感は薄かった。日本人だけではなく、外国人に会わなかったのだ。

 しかし、どうやら日本人の若者の「海外旅行離れ」は、本当に起こっているらしい。それを裏付けるデーターも出ている。例えばこの記事によれば、

 出国者数を人口で割った「出国率」を2000年と06年で年齢別に比べると、50代後半から60代で増加しているのに対し、20代前半で19.8%から17.1%に、同後半は25.7%から21.1%へと落ち込んだ。

 とのこと。少子化によって20代の絶対数が減っただけでなく、旅に出る人の割合も確かに減っているという結果が出ているのだ。

 どうして若者が旅に出たがらなくなったのか。
 まず考えられるのは、経済的な要因である。フリーターや派遣などの非正規雇用者が増えたことで、余暇に使えるお金が減ったのではないかということだ。
 若者のあいだで「格差」が開いているのは事実だろう。しかしそうだとしても、これだけ格安航空券が普及し、国内旅行並みの気軽さでアジアに行ける時代に、「海外旅行のような『贅沢』にお金をかけられない」という話は、現実とはズレているように感じる。行こうと思えば行けないことはないはずなのだ。

 柴田さんは「アジアに夢を持てなくなったからじゃないかな」と言った。10年ぐらい前までは、アジアには夢があった。どんな夢かはそれぞれ違っただろうけど、日本では経験できないような「何か」があると思えた。それが今はなくなってしまったというのだ。

 前出の記事には、「PCひとつで世界中の情報が楽しめる。『頭の中の旅』が新鮮さを奪った」のが原因ではないかという分析を載せている。この分析には「何を根拠に」という批判も寄せられているようだが、僕は「全く的外れ」とも言い切れないのではないかと思っている。

 今は海外の情報がテレビや雑誌やインターネットに溢れている時代だ。世界遺産だって秘境だって少数民族だってお手のもの。メディアの手垢がついていないものなどなく、わざわざ現地に赴いたとしても、そこで目にするのはすでに何度も仮想体験済みの風景の劣化したコピーのように感じられる。むしろテレビで見た景色の方が「本物っぽく見える」という感覚は、誰もが持っているものなのかもしれない。

 大いなる期待を込めて「チャンネルを回せば、お茶の間に世界の景色が再現される」という未来が語られたのは、そう遠くない過去のことだけれど、それが実現してしまったあとに残されたのは、皮肉にも現実に対して夢の持ちようがない平板な情報化社会だった。

 日本にいながらにして、世界中の料理が味わえるし、かわいいアジア雑貨だって買えるし、テレビで遺跡巡りができる。そんな世の中にあって、多くの人が「わざわざ外国に出かける必要なんてあるの?」と考えるようになるのは、自然な成り行きなのかもしれない。

「それでも旅に出る理由って何ですか?」
 そう訊ねられたときに、はっきりとした答えを用意するのは難しい。
 けれども、僕はこう言うだろう。
「やっぱり旅って面白いんだ」
 メディアが伝える情報ではない「何か」が、旅にはある。特に一人旅には。
 その可能性を僕は信じているから。

 一人旅が僕らに与えてくれる最大のもの。
 それは「自分を変える力」ではないかと思う。

 テレビのヴァーチャルトリップと違って、実際の旅は思い通りに行かないことの連続である。旅行者を騙そうと手ぐすね引いている現地人、決して時間通りに運行されない交通機関、食堂に潜む病原菌、予測できない天気の変化。
 そんな理不尽さ、不愉快さを前にして、きっと僕らは二つのことに気が付くだろう。
「自分はなんて無力なんだろう」ということと、
「こんなに無力な自分でも、何とか生き延びられるんだ」ってことに。

 旅先で、僕らは無力である。現地の言葉だって話せないし、困ったときに味方になってくれる友達もいない。何かトラブルが起きたら、全て自分の力で切り抜けなければいけない。
 でも、命を失うほどの危険は、そう滅多に出会うものではない。僕も冷たい汗が背筋を流れ落ちるような怖い経験を何度か味わったけれど、それでもなんとか生き延びている。

 こんなちっぽけな命でも、ちゃんと自分の力で守り抜くことができる。
 大丈夫。何とかなるはずだ。
 人間って意外に死なないものなんだ。
 一人旅をしていると、いつの間にかそんな実感を持つようになる。

 世界でももっとも安全で便利な国である日本では、そんな「生きている実感」を持ちにくくなったのかもしれない。
 生きているあいだに、人はいろんな困難にぶち当たる。「こうありたい」という理想の自分と、「こうである」という現実の自分との狭間で、しょっちゅう頭をぶつけ、軌道修正をしながら、何とか一人前の人間として成長していく。
 しかし今の日本の社会システムは、そういった個人の成長プロセスを、便利さと安全でもって先回りして、ことごとく潰しているように感じるのだ。

 日本にいればラクだし、便利だし、安全だ。
 しかし「だからこそ」僕らは旅に出るべきなのだと思う。
 一度便利さの外に出て、自分にとって本当に必要なものを見定めるために。
 今までの自分を捨て去って、新しい自分を発見するために。


 先週、秋葉原で連続通り魔事件が起こった。7人の命を奪った容疑者が犯した凶行は、決して許すことのできないものだけれど、彼が抱いていた(そして掲示板に書き込んでいた)ネガティブな感情の中には、僕にも共感できる部分があった。
 中学までは「出来の良い子」だったけれど、高校に入ると平凡な成績しか収められなくなったこと。女の子にモテたくてたまらないのに、この自分ではダメだと卑下するところ。高いプライドと自信のなさが混じった脆弱な自己。それは僕自身の高校時代にも共通するものだったのだ。

 だからこそ、と僕は思う。
「どうして彼はダメな自分を捨ててしまえなかったのだろう」と。
 凡庸な自分、魅力のない自分、弱い自分。そういうものを自覚していたのなら、それを捨ててみればよかったのだ。彼は(あくまでも象徴的な意味で)今までの自分を「殺す」べきだったのだ。そして、自分の無力さやちっぽけさを受け入れた上で、開き直って生き直せばよかったのだ。

 しかし彼はそうしなかった。
 自分を変えることを放棄した。そして、象徴的な意味での「自分の死」ではなく、現実的に「自分を殺し」たうえに、「見知らぬ他人をも巻き添えにする」という最悪の決断をしてしまった。彼は最後まで「今の自分」を手放そうとはしなかったのだ。

 たぶん、永遠に続くように思われる「退屈な日常」の中で、今の自分を捨てるのはかなり難しいことなのだと思う。何かを得る可能性よりも、何かを失ってしまうリスクの方に目が向きがちになってしまうから。
 だから一人旅なのだ。
 無理矢理にでもいいから一人旅という状況に自分を放り込むことが、楽しいことも苦しいこともひっくるめて自分の身に降りかかってくる巨大な洗濯機の中に自分を投げ入れることが、「今の自分」を捨て、「新しい自分」を見つける手助けになってくれると思うのだ。

 人生はいつも楽しいことばかりってわけではない。むしろしんどいことの方が多かったりもする。
 でも、理不尽な思いや、しんどさの中から、自分なりの楽しみの種を見つけ出すのが人生の面白さなんだと思う。
 一人旅はそんなことを僕に教えてくれた。

 行き先はどこだっていい。
 さぁ、旅に出よう。



 6月20日、21日、22日に東京で行われる帰国報告会2008が間近に迫ってきました。まだまだ参加者を受け付けています。
 「これからアジアを旅しよう」という方、「一人旅の魅力を知りたい」という方は、ぜひお越しください。旅のモチベーションが高まることは保証します。







 旅写真家。1974年、京都市生まれ。
 機械メーカーでエンジニアとして2年間働いた後退社し、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。
 帰国後立ち上げたホームページ「たびそら」が「@niftyホームページグランプリ2002」で準グランプリを受賞し、2003年12月に初の写真集「アジアの瞳」を出版。
 2004年からは「旅写真家」としてアジアを中心に旅と撮影を続けながら、執筆や講演などを行っている。
 2005年9月には2冊目の著作「素顔のアジア」を出版。
 2006年8月には「美少女の輝き」「子供たちの笑顔」の二冊の写真集を同時出版。
 (→更に詳しく)



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