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[ 素顔のアジア モロッコ編(12) 女には苦労するよ ]

発行日: 2007/4/10


■ 現在、三井は長旅に出ています。帰国は4月頃の予定。インドとカンボジアに引き続きベトナムでも気ままなバイク旅行『バタフライ・ライフ』を続けています。詳しくはブログ「旅空日記」にて。


 現在、メルマガ「素顔のアジア」では、2005年の旅行記をお届けしています。(バックナンバーはこちら
 モロッコは僕にとって初めての二人旅となりました。ウィリアムという相棒と共に過ごした1ヶ月は、これまでの一人旅とは違った刺激に満ちていました。

僕らがインタビューした三人組の一人。
 モロッコ人女性の写真を撮っているときに、警官とトラブルになったこともあった。それは僕らがメルズーガの町で出会った女の子三人組にインタビューしているときに起こった出来事だった。
 彼女たちは20代前半の都会育ちの若者で、高い教育を受けていて英語も話せたし、自分の考えをしっかり持っていた。そして三人ともが化粧映えのする綺麗な顔立ちをしていた。要するに僕らの取材相手としては理想的だったのである。

 僕らはテント型のレストランでインタビューを行い、写真を撮った。モロッコ人女性が置かれている現状について、彼女たちの正直な意見も聞くことができた。
 茶色い制服を着た三人組の警察官が突然レストランの中に入ってきたのは、インタビューを終えようとしていたときだった。警察官たちはパトロールの途中にお茶を飲みに来ただけのようだったが、僕らの姿を見かけると、「あれは何だ?」という訝しげな表情になった。
 まずいことになったな、と僕は思った。モロッコの警察がマスコミやジャーナリストに対して過敏な反応を示すということを、これまでの経験から知っていたからだ。

 案の定、僕らはすぐに警察官に呼ばれ、事情の説明を求められた。
「あんたらが砂丘の写真を撮るのは構わんよ。ラクダも好きに撮りなさい。しかし人は駄目だ。人を撮影するのには許可がいる。あんたがたは許可証を持っているのかね?」
 でっぷりと太って口髭を蓄えた警官はそう言った。もちろん僕らは許可証などは持っていなかった。取材といっても、ただ出会った人々と普通に話をしているだけなのである。それは他の旅行者がやっていることと何も変わらないことだった。


ラクダを撮るのには許可はいらない。


 僕は自分たちが旅行者であることと、写真撮影はあくまでもプライベートで行っているということを何度も繰り返し説明した。嘘を付くのは心苦しかったが、雑誌の取材だと正直に説明して事態をさらにややこしくしたくはなかった。
 警官たちは僕の説明に納得してはいなかったが、かといって僕らをどうにかしたいと思っているわけでもなく、女の子たちからも事情を聞いた上で、僕らを解放した。

「警官たちは女の子の服装が気に入らなかったみたいですね」と僕らのガイドが後になって教えてくれた。「ヨーロッパ風のジーンズ姿だし、髪の毛をスカーフで隠してもいない。化粧も濃いですからね。売春婦だと思われたのかもしれません」
「売春婦?」僕は驚いて聞き返した。
「ええ、そうです。ああいう派手な格好をしている女は売春婦に違いないと思う人もいるんです。特に田舎ではね。でも実際には、彼女たちは高い教育を受けていますからね。話をしてそれがわかったんでしょう」

 モロッコでは10年ほど前に法律が変わって、それまで低かった女性の社会的な地位が大幅に向上した。しかし男たち――特に旧態然とした官僚機構にいる人々――の頭の中は依然として変わっていないのだろう。警官たちの態度はそんなことを物語っていた。

 でも、そんな予期せぬハプニングが起こったことで、逆に僕らは女の子たちとより親密に話せるようになった。彼女たちの方も、外国人の異性と話すという滅多にない機会を積極的に楽しんでいた。小学校教師をしている女の子は、自分の恋愛観を話してくれた。

「私は今まで一度も男の人と付き合ったことがないんです。いい人を探しているんだけど、なかなか見つからないの。モロッコ人の男性は誠実じゃないんです。すぐに肉体関係を求めてくるプレイボーイが多いんです」
 彼女はもし恋愛をするにしても、結婚を前提とした交際しか考えられないし、婚前交渉なんて論外だと断言した。都会育ちの若者でも、欧米風の自由恋愛はなかなか受け入れられないもののようだった。

 しかし女性はともかく、男性の性欲は世界共通のものだろうし、若くて健康な男が肉体関係を求めるのは、ある程度仕方がないことだと思う。それを「誠実じゃない」とか「プレイボーイだ」などと決めつけられるのは、男にとっては酷な話である。

「結婚した後も仕事は続けたいんです」と彼女は言った。「それが難しいことはわかってるわ。今でも多くの人が『女は家にいるべきだ』って思っているから」
「あの警察官みたいに?」と僕は言った。
「ええ、そうね。あの人たちはきっとそう思っているでしょうね」と彼女は笑って同意した。


 モロッコは様々な容貌を持つ人が集まっている国である。モロッコ人を大きく分けると、先住民のベルベル人と後からやってきたアラブ人とに分かれるのだが、同じベルベル人の中にも住む地域によって様々な部族があり、それぞれ顔つきが異なっているのである。ヨーロッパに近い青い目をした人もいれば、サハラ以南のアフリカから来た黒人系の住民もいる。だから典型的なモロッコ人の顔というものを特定するのは、なかなか難しい。

 それと同じように、典型的なモロッコ女性の考え方を特定するのも難しかった。1ヶ月の旅の中で、僕らは何人かのモロッコ人女性から話を聞くことができたのだが、育ってきた環境や世代や受けた教育によって、一人一人の考え方や価値観が大きく違っていたのだ。その振れ幅の大きさは、日本人の何倍もあるように感じられた。

 いずれにしても、異なった顔や考え方を持つモロッコ人女性の魅力を、写真に残すことが十分にできなかったのは、とても残念なことだった。






 旅写真家・三井昌志の2冊目の著作「素顔のアジア」は、2004年から2005年にかけて旅した国々を写真と旅行記で綴るフォトドキュメンタリー(写文集)です。

 津波後のインドネシアやスリランカ、混乱の続くネパール、内戦後のアフガニスタンなどを歩き回り、人々の逞しさと笑顔の価値を知った旅になりました。
 足かけ2年にわたる旅の軌跡を、アジアの人々への思いを、ぜひこの本から感じてください。


>> 本の内容とご注文はこちらから





 ベトナムの写真(3) 4/09

今回の旅で撮った写真のごく一部をご紹介します。ベトナム中部から南部の海岸線沿いで撮った写真です。
 強い日差しと青い海、穏やかな波、陽気な人々に出会える場所でした。
 題して「僕の青いバイクで海へ行こう」
 (→続きを読む)




 旅写真家。1974年、京都市生まれ。
 機械メーカーでエンジニアとして2年間働いた後退社し、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。
 帰国後立ち上げたホームページ「たびそら」が「@niftyホームページグランプリ2002」で準グランプリを受賞し、2003年12月に初の写真集「アジアの瞳」を出版。
 2004年からは「旅写真家」としてアジアを中心に旅と撮影を続けながら、執筆や講演などを行っている。
 2005年9月には2冊目の著作「素顔のアジア」を出版。
 2006年8月には「美少女の輝き」「子供たちの笑顔」の二冊の写真集を同時出版。
 (→更に詳しく)



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