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旅写真家・三井昌志が送るビジュアル・メルマガ。等身大のアジアの表情を、美しい写真と旅情溢れる文章で綴ります。大きな反響を得て、写真集として出版されました。 




[ 素顔のアジア たくさんの神々(2) ]

発行日: 2005/11/8


■ 「素顔のアジア」は旅フォトグラファー・三井昌志が2001年から2005年にかけて旅したアジア各国の表情を綴る写真付き旅行記です。初めての方は、まずホームページをご覧下さい

■ 「たびそら卓上カレンダー2006」の販売を開始しました。

■ 11月19日(土)に京都で「帰国報告会+旅写真術を語る会」を開催します。



 津波後のスリランカ編も残すところあと3回です。(バックナンバーはこちら

 トリンコマリー・ジャフナ間には、このような厳しい検問所が三ヶ所もあった。そのたびに僕はバックパックの中身を全部出してチェックを受け、再び詰め直さなければならなかった。そんなこんなで、到着時間はどんどん遅れることになったのである。

 荷物チェックが最も厳重だったのは、タミル人自治区への入域のときだった。持ち物ひとつひとつが若い兵士二人の手で入念にチェックされ、使い道がわからないものがあると、その都度説明を求められた。カメラやパソコンなどはともかく、彼らが見たことのないようなもの(たとえば使い捨てコンタクトレンズなど)について説明するのは、かなり骨が折れた。

 一番問題になったのはDVDだった。僕はデジカメで撮った写真データーをDVDディスクに保存しているのだが、そのディスクの中身をチェックさせろというのである。タミル人自治区には「ポルノなどの猥褻なビデオCDを持ち込んではいけない」という規則があるらしく、そういうものでないかを再生デッキでチェックするというのである。

「でも、これはDVDなので、VCDデッキじゃ映らないと思うんですけど」
 僕はそう英語で説明したが、見事に無視された。たぶん担当の兵士は、DVDという規格のことをよく知らなかったのだと思う。案の定、兵士がデッキにディスクを入れても、テレビ画面には何も映らなかった。それでも彼は何度もディスクを出し入れしたり、他のディスクを試したりした。だから最初から映らないって言ってるじゃねーか、と僕は心の中で何度も叫んだ。すったもんだの末に、兵士がDVDのチェックを諦めて、ディスクを全部返してくれたのは、そんな無益な作業を15分ほど続けた後だった。やれやれ。

 ようやく荷物検査が終わると、別室に連れて行かれて、パスポートをチェックされた。スリランカ人はみんな自分のIDカードを携帯しているので、それをチェックすればいいようなのだが、外国人の僕の場合は対応が違うのである。
 僕はパスポートを提出し、係官の質問に英語で答えた。それを担当しているのは、三人の女性兵士だった。三人とも二十歳そこそこという年齢で、なかなかの美人だった。

 最初は「どこに行くのか?」「何をしに行くのか?」「スリランカに来てどれぐらいか?」といったお決まりの質問に答えるだけだったのだが、やがてそれは「スリランカをどう思うか?」とか、「日本はどんな国だ?」とか、「結婚はしているのか?」といったプライベートな質問へと変わっていった。たぶん、この検問所を外国人旅行者が一人で通るのは、とても稀なことなのだろう。だから彼女達も形式的な質問ばかりではなく、興味本位でいろいろと聞いてみたくなったのだと思う。

 帽子からズボンまで深緑色の渋い軍服で身を固めていたものの、話してみると彼女達はごく普通のスリランカ人の女の子だった。
「君たちは結婚していないの?」と僕が訊ねると、
「だって、ここにはいい人がいないんだもん」とケラケラと笑った。
 彼女達の陽気な笑顔は、「つい2年前までスリランカ政府と内戦を続けていた武装集団」というLTTEの強面のイメージとは、全く結びつかなかった。


 タミル人自治区に入っても、周囲の景色はほとんど変わらなかった。南国の農村風景が延々と続くだけだった。しかし、スリランカ南部では決して見なかったものもあった。それは田んぼの中に打ち捨てられた装甲車の残骸や、壁に銃弾の跡が刻まれた廃墟などの内戦の傷跡だった。透明バイザー付きのヘルメットを被って、地雷除去作業に当たっている男の姿も何度か目にした。長く続いた内戦から、まだ完全に立ち直ることができていないスリランカ北部の現実が、そこにはあった。

ジャフナの郊外にも立ち入り禁止の地雷地帯があった。

 最後の検問所を抜け、この日五回目のバスの乗り換えを行い、目的地のジャフナに辿り着いたのは、宿を出てから十一時間が経過した、午後七時のことだった。当初の希望的観測の実に二倍以上もの時間がかかってしまったのである。この種のハードな移動には慣れているつもりだったが、この旅はかなり堪えた。ただバスの座席に座っていればいいというわけにはいかず、荷物を背負って右往左往させられたからだ。

 後で地元の人にその話をすると、「バスを乗り継いでジャフナにやって来る外国人なんて、聞いたことがない」と呆れられた。普通は飛行機を使うのだそうだ。そうすれば、タミル人自治区との停戦ライン付近の複雑な事情なんて、ひとっ飛びにできるのである。

 それが最初からわかっていれば、おそらく僕も飛行機を使っただろう。長く旅をしていると、このように「後で振り返ればもっといいやり方があったのに」と思うことがしばしばある。特に下調べもろくにしないで、行き当たりばったりで行動する僕のような旅人には。

 でも、そんなときに「無知だったおかげで、ここでしか得られない貴重な経験が得られたんだ」と前向きに捉えることも大切である。「行き当たりばったり旅人的ポジティブシンキング」とでも言ったらいいのか。そうでもしないと、辺境の旅なんて馬鹿馬鹿しくて続けていられないのだ。正味の話。





 9月28日に発売になった写文集「素顔のアジア」には、現在更新中のスリランカ旅行記のほか、インドネシア、アフガニスタン、ネパールの旅行記と写真が収録されています。
 メルマガやホームページでは未公開のエピソードも多数含まれています。是非お買い求めください。
 (→詳しくはこちら)





 旅写真家・三井昌志が撮った写真の中から厳選された12枚が、2006年度の卓上カレンダーになりました。

 世界各地の人々の表情や風景がひと月ごとに入れ替わるので、仕事や勉強の合間に眺めるのにぴったりです。大切な方へのプレゼントにも是非どうぞ。

 (→詳しくはこちら)




 「帰国報告会+旅写真術を語る会」開催のお知らせ 11/07

 ネパールから帰国して1週間が経ちましたが、この旅の様子を新鮮なうちにみなさんに伝えるべく、「たびそら帰国報告会」を開きます。旅先で撮った写真を見ながら、僕が何を見てきたのか、何を感じたのかをたっぷりとお話しします。

 ・開催日時: 11月19日(土)13:00
 ・開催場所: 京都・御所(集合場所は地下鉄「烏丸」駅)

 (→続きを読む)




 1974年、京都市生まれ。旅フォトグラファー・フリーライター。機械メーカーでエンジニアとして2年間働いた後退社し、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。
 帰国後立ち上げたホームページ「たびそら」が「@niftyホームページグランプリ2002」で準グランプリを受賞。2003年12月に初の写真集「アジアの瞳」を出版。
 2004年1月から6月に再びアジア(カンボジア、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール、アフガニスタン)を旅する。2005年には東南アジアと津波後のインドネシア・スリランカを旅し、3月に帰国した。
 2005年9月には2冊目の著作「素顔のアジア」を出版。 (→更に詳しく)



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