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旅写真家・三井昌志が送るビジュアル・メルマガ。等身大のアジアの表情を、美しい写真と旅情溢れる文章で綴ります。大きな反響を得て、写真集として出版されました。 




[ 素顔のアジア・特別編 カバーガール ]

発行日: 2005/10/18


■ 「素顔のアジア」は旅フォトグラファー・三井昌志が2001年から2005年にかけて旅したアジア各国の表情を綴る写真付き旅行記です。初めての方は、まずホームページをご覧下さい



 今回の「素顔のアジア」は、スリランカ編を中断して、現在旅行中のネパール編をお送りします。

 僕が中学生ぐらいの頃に、「ニュー・キッズ・オンザ・ブロック」というボーイズ・グループが流行っていた。アメリカ版のジャニーズアイドルみたいな、かなりやわなグループだった。変声期前の高音で甘いバラードを歌っていた記憶がある。はっきり言ってしょうもないグループだったのだけど、どうして彼らのことを急に思い出したのかというと、彼らのヒット曲の中に「カバー・ガール」というのがあったからだ。

「君は僕のカバー・ガールさ。君は僕の全て。いつも君のことを想っている」
 というような、これまたしょーもない歌詞だったわけだけど、サビの「シー・イズ・マイ・カバー・ガール」という部分だけは、何故かはっきり覚えていたのだった。ヒット曲というのは、たとえ好きじゃなくても、サブリミナル的に刷り込まれてしまうのである。

 この「カバー・ガール」を口ずさみながら、僕は出来上がったばかりの写文集「素顔のアジア」を右手に持って、ある少女の住む村に向かった。
 その少女とは誰か。もちろん、写文集「素顔のアジア」のカバー・ガールである、天然アフロの少女・ソージタのことだ。

 前回この村を訪れたのは去年の4月のことだった。それからまだ1年半しか経っていないので、村のどの辺りに彼女の家があるのかまで、かなりはっきりと覚えていた。だから敢えて村の人に写真を見せて回る必要もないだろうと考えていた。そして予想通り、とてもあっさりと彼女に再会することができたのだった。


1年半ぶりに再会したソージタ。
 その家の前のベンチには、4,5人の子供達が集まって、「でんでん太鼓」のおもちゃを鳴らして遊んでいた。太鼓の柄の部分は笛になっているらしく、「ドンドンドン」「ピーピーピー」とやたら賑やかである。でんでん太鼓は「ダサイン」の縁起物として買ってもらったばかりなのだろう。ダサインとは10月10日から1週間ほど続いたネパール最大の年中行事で、日本のお正月に相当するものである。学校は休みになり、家族は故郷に里帰りし、山羊がたくさん殺される。

 でんでん太鼓で遊んでいる子供達の一人が、ソージタだった。なんといっても特徴的なそのヘアスタイルによって、遠目からでもすぐに彼女だとわかった。僕はまっすぐに彼女に近づいた。彼女は視線をこちらに向けた。何かしら、というように少し首をかしげて。

「ソージタだね?」
 僕は呼びかけた。そして右手に持っていた「素顔のアジア」の表紙を彼女に向けて微笑んだ。ほら、この写真を撮ったことを覚えているかい。

 ソージタは驚いてベンチから立ち上がった。まつげのカールした大きな目を、いっそう大きく見開いて。彼女は少し大人びてはいたけれど、1年半前に出会ったときの印象のままだった。魅力的な瞳も、唇の赤さも、少し首を傾けてこちらを見つめる表情も、何も変わっていなかった。

「シー・イズ・マイ・カバー・ガール」
 僕は思わず歌い出していた。ソージタは不思議そうに小首をかしげ、そして白い歯を見せて笑った。


ソージタに出来上がったばかりの写文集「素顔のアジア」をプレゼントした。彼女は自分が載っているページを飽きることなく眺めていた。
 1年半前に比べて唯一変わっていたのが、特徴的だったアフロヘアーだった。ぼわぼわと綿帽子みたいに広げることのできた髪の毛は、今は半分ほどの長さしかなかった。半年ほど前に、短く散髪してしまったのだという。

 僕が「あの頭がすごく可愛かったのにね」と言うと、周りにいた子供達から「サイババ、サイババ」という声が上がった。なるほど、ヒンドゥー世界でアフロヘアーというと、まず真っ先に思い浮かぶのは、あの聖者サイババなのである。サイババはネパールにおいても誰もが名前を知る有名人で、その写真を玄関に飾っている家も多かった。だから「サイババみたい」と言うのは、からかっているわけではないのだろう。

 ソージタ自身はサイババヘアーを気に入っているのだろうか。それとも、お姉ちゃんのような(ソージタの2歳上の姉は、ゆるくウェーブのかかった長い髪をポニーテイルにまとめていた)普通の髪質の方が良かったのだろうか。
 気になったので訊ねてみると、「私はこの髪型が好きよ」という答えが返ってきたので、少しほっとした。僕が彼女を「素顔のアジア」のカバーガールに選んだのは、なんと言ってもこの魅力的な髪型があったればこそだったからだ。

 どちらかといえば平凡な顔立ちの母親に比べて、ソージタの父親はなかなかハンサムな顔をしていた。ロシアのプーチン大統領を20歳若返らせるとこんな感じになるのではないか、というような顔である。彼に年齢を訊ねてみると、30歳だと答えた。僕と同い年だった。
「あなたは結婚しているのか?」
 今度は彼が僕に訊ねた。
「ノー」
「子供はいるのか?」
「もちろんいない」
 ネパールは男女ともに早婚であり、彼のように20歳で子供をもうけていても、とりたてて早いわけではない。むしろ30歳で結婚もせず、子供もいない僕の方が、ネパール人から見れば奇特な存在なのである。

 僕は普段あまり自分の年齢を意識することはない。「30歳だから」とか、「30歳なのに」という風に考えることはない。人にはそれぞれ個別の年齢の重ね方があると思うからだ。
 それでも同い年の人――既に10歳の長女を筆頭に3人の子供を持つ父親になっている男――を目の前にすると、自分はこんなところでこんなことをやっていてもいいのだろうか、という疑問が頭をかすめたりもする。まぁだからといって、どうすることもできないのだけど。


 ソージタの家は農家なのだが、父親は自分の田んぼと畑を持っているし、ここは水が豊富な土地なので、比較的余裕のある暮らしを送っているようだった。それはソージタの姉が中学校(セカンダリースクール)に通っていることからもわかる。ネパールでは小学校が5年生までで、その上は中学校なのだが、貧しい家庭の子供は、小学校を卒業することなく辞めてしまうことが多いのである。

 余裕があるといっても、例えばテレビが買えるほど現金収入があるわけではない。家財道具はごくシンプルなもので、ソージタは姉とひとつのベッドを共有して寝ているということだった。

 ソージタは現在8歳で、小学校4年生だという。それを聞いて、僕はもう一人の「カバー・ガール」であるサリタのことを思い出さずにはいられなかった。

 ソージタに再会する数日前、僕はサリタの家を再び訪れた。彼女は11歳になっていた。そして半年前から一度辞めていた小学校に再び通い始め、今は小学2年生なのだという。学校に戻ったと聞いたときは嬉しかったが、しかし自分の妹や弟と同じ年齢の子供達に混じって授業を受けるのは、彼女にとって決して楽なことではないだろう。また一段と大人びた顔になったサリタを眺めながら、僕はそんなことを考えていた。


 今回の増刊号はいかがでしたか?
 このメルマガは3週間のネパール山歩きを終えて、カトマンズに戻ってきてから更新したものです。出来たてほやほやというわけですね。もうひとりのカバーガールであるサリタとの再会については、また別の機会に書きたいと思います。

 さて、ソージタも手にしている写文集「素顔のアジア」はもう購入されましたか?
 まだだという人は、ぜひ書店かアマゾンでお買い求めを。
 読み終えたという方は、ぜひ感想をお聞かせ下さい。ブログへの書き込み、または直接メールをお送り下さい。お待ちしています。





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 青っぱなの理由 10/18

 ネパールの子供は、だいたい鼻の下に青っぱなを垂らしている。しかし青っぱなを垂らしていたのは子供達だけではない。何を隠そうこの僕も、ネパールの山村を旅する間中、ずっと鼻をグズグズと言わせていたのである。
 風邪を引いたわけでもないし、もちろん花粉症などではない。ただ、鼻水が出る。それだけなのだ。 (→続きを読む)




 1974年、京都市生まれ。旅フォトグラファー・フリーライター。機械メーカーでエンジニアとして2年間働いた後退社し、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。
 帰国後立ち上げたホームページ「たびそら」が「@niftyホームページグランプリ2002」で準グランプリを受賞。2003年12月に初の写真集「アジアの瞳」を出版。
 2004年1月から6月に再びアジア(カンボジア、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール、アフガニスタン)を旅する。2005年には東南アジアと津波後のインドネシア・スリランカを旅し、3月に帰国した。
 2005年9月には2冊目の著作「素顔のアジア」を出版。 (→更に詳しく)



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