トップ > 旅行・レジャー > 海外旅行 > 素顔のアジア(たびそら写真編)

旅写真家・三井昌志が送るビジュアル・メルマガ。等身大のアジアの表情を、美しい写真と旅情溢れる文章で綴ります。大きな反響を得て、写真集として出版されました。 




[ 素顔のアジア 津波が残した傷跡(3) ]

発行日: 2005/10/7


 旅写真家・三井昌志の2冊目の著作「素顔のアジア」がソフトバンク・パブリッシングから発売されました。
 今回の作品は、2004年から2005年にかけて旅した国々を写真と旅行記で綴るフォトドキュメンタリー(写文集)です。足かけ2年にわたる旅の軌跡を、アジアの人々への思いを、ぜひこの本から感じてください。

 →詳しくはこちらをご覧ください




ニラヴェリ近郊の村で。カメラを向けると何故か楽しそうに踊り出した。
 セルバラージさんが僕に語ってくれた半生は波瀾万丈だった。彼がまだ二十代の頃、内戦が起こる前には、ニラヴェリにもヨーロッパ各地からバカンス客が訪れていたという。彼は学校で英語を教わったことはないのだが(だから読み書きはできない)、観光客に話し掛けることで英会話をマスターしたのだそうだ。

 しかし、国を二分する内戦が始まると、旅行者の足はぴたりと途絶えてしまった。そこで彼はそれまでに貯めたお金を使ってビジネスを始めることにした。コロンボで漁船を何隻か買い付け、村の漁師を集めて共同で使うことしたのだ。

 ところがこのビジネスがうまく軌道に乗った矢先、彼は突然逮捕されてしまう。そしてほとんど言いがかりのような容疑で、二ヶ月間も刑務所に入れられてしまう。多数派であるシンハラ人が支配するスリランカ政府が、セルバラージさん達少数派のタミル人に対して行った抑圧政策の一環だろう、というのが彼の見解である。結局、釈放してもらうために、彼は三十万円という大金を支払わなければならなかったという。

 三年前にようやく内戦が終わると、外国人観光客もぼちぼち戻ってくるようになった。そこで彼は自分の漁船を使ってツアーガイドを始めた。他に商売敵はいなかったから、このビジネスも成功を収めた。月に五万円もの収入が得られるようになり、再び将来に向けて希望の光が見え始めた。

「・・・というところにツナミがやってきたってわけだよ。家も船もエンジンも、何もかも壊れてしまったんだ。あとに残ったのはこの老いた体だけさ」
 彼は自嘲気味に笑って、話を締めくくった。セルバラージさんの人生は波に揺さぶられる船のマストのように、常に不安定なものだった。平和が訪れたと思ったら、すぐに破局がやってくる。何かを築いたと思ったら、それがあっさりと崩されてしまう。一本の映画にして二時間にまとめられるのならそれもいいかもしれないが、実際にそのタフな人生を生き抜くのは、並大抵のことではなかったことだろう。

 しかし僕は投げやりにも思える彼の口調の中に、一貫して前向きな、希望を捨てない姿勢を感じることができた。
「戦争が続いているとき、それがいつ終わるかなんて誰にもわからなかった。そういう日々を毎日過ごしてきたんだ。それに比べたらツナミなんて一度きりのものじゃないか。壊れた家はまた建て直せばいいだけさ」

スリーウィーラーの中でポップコーンを頬張る子供。


ダルマさんのタマネギ畑を耕す少年。
 ニラヴェリで津波被害を受けたのは、セルバラージさんのような漁民だけではなく、農民も同様だった。津波がもたらした大量の海水によって、多くの畑が使い物にならなくなってしまったのだ。ニラヴェリの町を歩くと、何も植えられずに放置されている畑が目立った。

 しかしそんな中でも、仕事を再開し始めている農民もいた。数人の男女が農作業をしている畑のそばを通りかかったので、近寄って声を掛けてみた。
「もちろん、ここも海の水をたっぷりと被ったよ。だから、うまく育ってくれるかはまだわからないんだ」と農場主のダルマさんが僕に説明してくれた。「でも、このあいだ試しにタマネギを植えてみたら、ちゃんと芽が出て育ったんだ。ほら、あそこの小さな畑だよ。だから、今度は本格的にタマネギを植えてみることにしたんだ。いつまでも何もしないというわけにはいかないからね」

 鍬を手にして乾いた畑を掘り起こしている男達の中には、十五歳ぐらいの子供もいれば老人もいる。汗を拭い、水を飲み、再び鍬を手にして掘り進む。男達が柔らかくした畑に、女達がタマネギの球根を植えていく。女達が身にまとっている原色に近い衣服が、強い日差しを受けて鮮やかに輝いている。

 水は井戸から電気式のポンプによって畑に供給されている。この時期のスリランカ北部には雨が降らないから、灌漑施設は欠かせないのだ。
「幸いなことに井戸水は無事だったんだ。飲んでみろよ、しょっぱくないから」
 ダルマさんはそう言って、柄杓で汲んだ水を僕に渡してくれた。潮の匂いが微かに残ってはいたが、冷たくて美味い水だった。

「タマネギ、うまく育つといいですね」
 僕がそう言うと、ダルマさんは自信ありげに頷いた。






 現在取り上げているスリランカ旅行記は、9月28日に発売になった写文集「素顔のアジア」にも収録されています。 (→詳しくはこちら)




 現在・三井はネパールの山村を旅しています

 現在、三井はネパールの山村を旅しているはずです。(というのも、このメルマガは出発前に予約して発行しているものだから)
 ネパールではネットはおろか電気も使えないような辺鄙な土地を歩く予定なので、しばらくのあいだ音信不通になりますが、10月末に帰国するときには、いい写真と面白い旅話をどっさりと持ち帰ってくるつもりです。お楽しみに! (→続きを読む)




 1974年、京都市生まれ。旅フォトグラファー・フリーライター。機械メーカーでエンジニアとして2年間働いた後退社し、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。
 帰国後立ち上げたホームページ「たびそら」が「@niftyホームページグランプリ2002」で準グランプリを受賞。2003年12月に初の写真集「アジアの瞳」を出版。
 2004年1月から6月に再びアジア(カンボジア、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール、アフガニスタン)を旅する。2005年には東南アジアと津波後のインドネシア・スリランカを旅し、3月に帰国した。
 2005年9月には2冊目の著作「素顔のアジア」を出版。 (→更に詳しく)



・ 「たびそら」ホームページは → http://www.tabisora.com/
・ 購読の解除・メールアドレスの変更は → http://www.tabisora.com/travel/mailmag-kaijo.html
・ このマガジンに対するご意見ご感想は → masa@tabisora.com

・ 当メルマガに掲載されている文章、写真等の無断転載・転用を禁止します。
  Copyright (C) 2005 Masashi Mitsui. All Rights Reserved.

 
このメルマガの読者になる
規約 
>> メルマ!の会報誌もお届けします

ブックマーク: はてなブックマークに追加del.icio.usに追加Buzzurlにブックマークニフティクリップに追加ライブドアクリップに追加Yahoo!ブックマークに登録My Yahoo!に追加Add to GoogleRSS

このメルマガを読んでいる人はこんなメルマガも読んでいます

週刊アカシックレコード
02年W杯サッカー韓国戦の「誤審」を世界で唯一「前日」に誌上予測し、誤審報道を「常識化」した推理作家(金正日の「遺書」で始まる「中朝戦争」後の北朝鮮...
≪ WEB 熱線 ≫≡アジアの街角から≡
中国やアジアの各地に暮らす人々が綴る、☆ビジネス情報☆ビジネスお助け中国理解情報☆息を抜けるお色気情報(?)☆中国三面ニュース噂話ーーーー硬軟混在、...
宮崎正弘の国際ニュース・早読み
 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析
e-doctor ドクタースマートの医学なんでも相談室
読者の質問に内科医であるドクタースマートがお答えするメルマガです。病気に関するどんなことでも、なんでも質問してください。すべての質問に、ドクタースマ...
花岡信昭メールマガジン
政治ジャーナリスト・花岡信昭が独自の視点で激動の政治を分析・考察します。ときにあちこち飛びます。


この記事へのコメント


コメントを書く
コメントはありません。

おすすめキャンペーン

三井住友銀行カードローン
金利 年6.0%〜12.0%。最高500万円までお借入可能。
最短30分審査、即日カード発行可能。
お申込はこちら⇒

発行者プロフィール

ペンネーム :


このメルマガの読者になる

規約に同意する



このメルマガの最近の記事


このメルマガの最近のコメント


注目情報


新着記事トピックス