トップ > 旅行・レジャー > 海外旅行 > 素顔のアジア(たびそら写真編)

旅写真家・三井昌志が送るビジュアル・メルマガ。等身大のアジアの表情を、美しい写真と旅情溢れる文章で綴ります。大きな反響を得て、写真集として出版されました。 




[ 素顔のアジア 津波が残した傷跡(1) ]

発行日: 2005/9/12


■ 「素顔のアジア」は旅フォトグラファー・三井昌志が2001年から2005年にかけて旅したアジア各国の表情を綴る写真付き旅行記です。バックナンバーはこちら(2001年)こちら(2004-5年)をご覧ください。


 スリランカ南部のツナミエリアを訪れた後、しばらくスリランカ中部の町を旅した。ローカルバスを乗り継いで、山岳地帯の町バンダーラウェラや、古都のキャンディ、遺跡の町アヌーラダプラなどを転々とした。
 しかし、僕にとってこれらの町はひたすら退屈だった。仏教遺跡は壮麗なものだったし、切り立った山の連なる景観や、流れ落ちる滝もそれなりに見応えがあった。しかしそれは「すぐに薄らいでしまうだろう」という予感を伴った感動だった。

 おそらく僕の中に刻み込まれた津波の傷跡の記憶が、普通に旅を楽しむという事を難しくさせていたのだと思う。こうなった以上は、やはり津波被害に正面から向かい合って旅を続けるしかないだろう。僕はそう腹をくくって、再びツナミエリアに向かったのだった。

アヌーラダプラにある巨大なお椀型の仏塔。


 僕がまず訪れたのは、スリランカ東岸に面した港町トリンコマリーだった。トリンコマリーの市街地は外海に対して閉じた入り江の奥にあるので、津波の被害はほとんど見られなかった。港には何十隻もの漁船がとも綱に繋がれて、静かな波に揺られていた。壊れた漁船も見当たらず、港は平和そのものだった。

 しかし港の反対側にある砂浜に面した漁村は、あちこちで家が倒壊するなどの大きな被害を受けていた。砂浜には津波の影響によって打ち上げられた漂流物が散乱していた。ゴミや海草類だけではなく、重そうな流木も数多く横たわっている。船を失った漁師達はこの流木を斧で細かく切断し、煮炊きの燃料として町に運んでいた。今のところそれぐらいしか仕事がないのである。

「昨日は流木と一緒に、死体が流れ着いたんだ」と漁師の一人が流れる汗を拭いながら言った。「どうもインドネシア人のものらしいね。一ヶ月以上前のものだから、ほとんど白骨化していたいようだが」
 何千キロも離れた場所に大木を送り、さらに死体まで送りつける。僕は今更ながら津波の威力の凄まじさを思い知らされた。

インドネシアから流れ着いたという流木を切り出している青年。


津波で恋人を失った仕立屋の男。
 トリンコマリーの郊外をぶらぶらと歩いていると、古い足踏み式ミシンを使ってスーツを仕立てている男に呼び止められた。彼の仕立て屋も津波の被害を受け、四台あったミシンのうち使い物になるのは一台だけになってしまったという。電気式のいいやつはみんな壊れたが、もっとも古株の足踏み式だけは壊れなかった。

「でも仕事が続けられているだけ好運だよ」と彼は苦笑いを浮かべて言った。
 彼の左腕の手首のあたりに丸い火傷の痕が三つ並んでいたので、それはどうしたんだと聞いてみた。傷はまだ生々しかったから、津波で負ったものなのかと思ったのだ。

 彼は陽気な男だったが、僕が傷跡について質問したときだけは表情を曇らせた。言葉に詰まり、どう話したらいいのか、しばらく考えていた。
「俺の恋人がツナミで死んでしまったんだ」
 と彼は表通りに目を向けて言った。その目は少し充血しているように見えた。
「悲しくて、痛くて、涙が止まらなかった。だから火のついたタバコをここに押しつけたんだ」
「火のついたタバコを?」
 僕は驚いて聞き返した。
「ああ。馬鹿馬鹿しい事だってあんたは思うかもしれない。でもそうしないわけにはいかなかったんだ」

 彼はそう言うと、その痛みを確かめるように右手で傷跡に触れた。「根性焼き」という言葉が日本にもあるが、彼はそれと同じ行為をしたというのである。しかも火傷の痕が三つ並んでいるという事は、彼が一度ならず二度三度と火傷の痛みに耐えた事を意味していた。

 彼は恋人を失った心の痛みを肉体の傷として体に刻み込みたかったのだろう。その痛みの記憶を忘れないための印を求めたのだ。あるいは彼は自分だけが助かって、彼女が死んでしまった事が、どうしても許せなくて、自分自身に罰を与えようとしたのかもしれない。

 しかし彼の本当の痛みの鋭さや、傷の深さは僕には到底知り得ない事だった。だから僕は彼に何の言葉もかけることができなかった。三つ並んだ薄桃色の火傷の痕を、ただ黙って見つめるばかりだった。






 3年半にわたって連載を続けてきた「たびそら・ユーラシア一周旅行記」がCD-ROMになりました。

 「たびそらCD-ROM」にはWEBで未公開の中国編を含めた全139回の旅行記の他、スライドショー用の高画質写真も約550枚収録しています。

 「ユーラシア一周旅行記」の最後を、このCDで見届けてください。
 (→詳しくはこちら)




 「たびそら」の世界が高画質のポストカードになりました。

 アジアの人々の日常と風景、そして美少女を切り取った厳選写真98種類を販売しています。
 (→購入はこちらから)





 死について考える夜 09/12

 僕が死について意識したのは、ふたつのニュースを相次いで聞いたからだった。
 ひとつは「インドネシアのメダンからジャカルタへ飛ぶ国内便が墜落した」というニュース。
 そしてもうひとつは、アフガニスタンで強盗に襲われて殺された二人の中学校教師のニュースだった。 (→続きを読む)




 1974年、京都市生まれ。旅フォトグラファー・フリーライター。機械メーカーでエンジニアとして2年間働いた後退社し、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。
 帰国後立ち上げたホームページ「たびそら」が「@niftyホームページグランプリ2002」で準グランプリを受賞。2003年12月に初の写真集「アジアの瞳」を出版。
 2004年1月から6月に再びアジア(カンボジア、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール、アフガニスタン)を旅する。2005年には東南アジアと津波後のインドネシア・スリランカを旅し、3月に帰国した。
 2005年9月には2冊目の著作「素顔のアジア」が出版される予定。 (→更に詳しく)



・ 「たびそら」ホームページは → http://www.tabisora.com/
・ 購読の解除・メールアドレスの変更は → http://www.tabisora.com/travel/mailmag-kaijo.html
・ このマガジンに対するご意見ご感想は → masa@tabisora.com

・ 当メルマガに掲載されている文章、写真等の無断転載・転用を禁止します。
  Copyright (C) 2005 Masashi Mitsui. All Rights Reserved.

 
このメルマガの読者になる
規約 
>> メルマ!の会報誌もお届けします

ブックマーク: はてなブックマークに追加del.icio.usに追加Buzzurlにブックマークニフティクリップに追加ライブドアクリップに追加Yahoo!ブックマークに登録My Yahoo!に追加Add to GoogleRSS

このメルマガを読んでいる人はこんなメルマガも読んでいます

週刊アカシックレコード
02年W杯サッカー韓国戦の「誤審」を世界で唯一「前日」に誌上予測し、誤審報道を「常識化」した推理作家(金正日の「遺書」で始まる「中朝戦争」後の北朝鮮...
≪ WEB 熱線 ≫≡アジアの街角から≡
中国やアジアの各地に暮らす人々が綴る、☆ビジネス情報☆ビジネスお助け中国理解情報☆息を抜けるお色気情報(?)☆中国三面ニュース噂話ーーーー硬軟混在、...
宮崎正弘の国際ニュース・早読み
 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析
【写真を楽しむ生活】
写真が好きなすべての人に役立つ情報クリップ。写真展情報は"日本最強"! インターネットにあふれている写真関連情報を便利に有効に利...
e-doctor ドクタースマートの医学なんでも相談室
読者の質問に内科医であるドクタースマートがお答えするメルマガです。病気に関するどんなことでも、なんでも質問してください。すべての質問に、ドクタースマ...


この記事へのコメント


コメントを書く
コメントはありません。

おすすめキャンペーン

おすすめカードローンのご案内
オリックスVIPローンカードなら
<<年率5.9%〜15.0%、利用可能枠最高500万円>>
ゆとりのカードローンです。

←詳しくはこちら

発行者プロフィール

ペンネーム :


このメルマガの読者になる

規約に同意する



このメルマガの最近の記事


このメルマガの最近のコメント


新着記事トピックス