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旅写真家・三井昌志が送るビジュアル・メルマガ。等身大のアジアの表情を、美しい写真と旅情溢れる文章で綴ります。大きな反響を得て、写真集として出版されました。 




[ たびそら+写真 No.111 ロシアのあるもの ロシアにないもの(1) ]

発行日: 2004/10/1

リーガの花屋にいた娘
 ポーランドからバルト三国のリトアニアに入り、すぐにラトヴィアに向かった。
 バルト三国はいずれもとても小さな国である。旧ソビエト連邦の広大な領土を足の形と見るなら(実にサイズ1万kmの巨大な足である)、バルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアはそれぞれ小指、薬指、中指に相当する位置にある(ちなみにベラルーシは人差し指に、ウクライナに親指にあたる)。
 ソビエト中央政府から見れば、地勢的にも経済的にも足の指ほども重要視されていなかったようだけれど、バルト三国の国民からすればソ連という大国に一方的に主権を奪われたという思いは相当強かったらしい。だからソ連邦の崩壊はまずバルト三国の反逆で始まったのである。

 東欧圏を旅していると、ロシアという国が周辺諸国から相当に嫌われているということがよくわかる。多くの人は「ロシアが我々を支配したせいで、自由を奪われ、こんな風に遅れた国になったんだ」と思っている。だから旧ソ連が崩壊して中央集権体制のくびきから解放された途端、東ヨーロッパの国々はロシアにそっぽを向いて、EU諸国を見るようになった。皮肉なことに、今ロシアと最も接近しようとしているのは、かつての敵アメリカであるようにも見える。

 リトアニアの首都ヴィリニュスもラトヴィアの首都リーガも、小綺麗で落ち着きがあり居心地は悪くなかったのだけど、旅をしていて楽しいところではなかった。ヨーロッパの端っこにある、これといった特徴のない田舎町だった。
 バルト三国に立ち寄ったのは、ここでロシアビザが簡単に手に入るという情報を聞きつけたからだ。バルト三国の人々がロシアよりも北欧や中欧の方に親近感を抱くようになった現在でも、かつてソ連の一部だった関係上、これらの国々ではロシアビザを簡単に発給してくれるのだ。
 実際、ロシアビザの取得はとても簡単だった。リーガにある旅行代理店に行き、35ドルを払ってパスポートを預けると、翌々日にはビザが手に入った。

リーガの中心にある聖ペテロ教会の尖塔
 日本からロシアに入る場合にはこれほど簡単にはいかない。旅行会社の主催するツアーに参加するか、ホテルや交通機関を全て予約して費用を払い込んだことを証明するバウチャーが無いと、ビザが発給されない。少なくとも建前としてはそうなっている。
 何故そんな回りくどいシステムを取っているのかというと、少ない外国人旅行者からきっちりと外貨を巻き上げておきたいというロシア政府の思惑があるかららしい。ミャンマーで行っている強制両替と基本的な発想は同じである。

 至るところに外国人料金が設けられているという点も、ロシアとミャンマーは共通している。例えばエルミタージュ美術館の入場料はロシア人なら15ルーブル(63円)なのだが、外国人は300ルーブル(1260円)もするし、鉄道料金だってロシア人の二倍の外人料金を取られる。
 外国人料金というのは、外国との経済格差が圧倒的である貧しい国(例えばベトナムやミャンマーやインドなど)が設定しているものであったから、理不尽ではあるけれどある程度は仕方ないものだと思っていた。しかし、かつて世界を二分する超大国であったロシアが、発展途上国と同じような考え方をしているというのは、どうにも納得できなかった。それほどまでにこの国は困窮しているのだろうか。


 ロシアの町を歩いてみて、まず目に付いたのは、物乞いの姿だった。インドやバングラデシュのように町に物乞いが溢れているというわけではないけれど、他の東欧諸国に比べると数が多いように思った。社会主義時代のソ連は物乞いやホームレスなどがいないという点を、欧米の資本主義国との違いとして華々しく宣伝していたはずなのだが、資本主義経済への移行に伴う大インフレと不況によって、社会の底辺を支える受け皿が機能しなくなってしまったのだろう。

 サンクト・ペテルブルグの路上には「物乞い犬」がいた。二匹の痩せた犬が首にプラカードを下げ、どことなく哀しそうな視線で通行人を見ているのである。彼らの目の前に毛羽立った帽子が置かれていて、その中にはいくらかの小銭が入っている。状況から見て、物乞いをしているとしか考えられない。僕はロシア語が読めないのだが、きっとプラカードには「ボクたちおなかが空いているんです」とでも書かれているのだろう。

 人間と動物が一緒に物乞いをしている姿はルーマニアなどでも見かけたことがあったのだが、犬だけの物乞いを見るのは初めてだった。彼らのそばでしばらく観察してみたのだが、物珍しさも手伝ってか、お金の集まりは悪くなさそうだった。同じ人間よりも犬の方が同情を集めやすいのかもしれない。それも何だか切ない話だけど。


彼女はロシア人ではなくラトヴィア美人
 ロシアには美人が多い、という噂を耳にする機会は何度かあったが、実際に町を歩いていると思わず振り返りたくなるような綺麗な女の子が何人もいた。肌が透き通るように白く、ナチュラルな金髪で、目鼻立ちの整ったスラブ系美人。要するにバレリーナのような造形美を持つ女性である。

 しかし働く女性の無愛想ぶりには閉口した。ブルガリアに入ったときにも同じように感じたのだが、かつて社会主義の宗主国だったロシアは、愛想の無さでもワンランク上だった。食堂でも雑貨屋でも駅の窓口でも、笑顔で働いている女性の姿は一度も見なかった。

 ロシアは男女の労働機会均等が徹底している国である。「働く女性が多い社会は活気に溢れている」ということはよく言われるし、僕も基本的にはその意見に賛成なのだけど、労働そのものに何の喜びを見出せていないような顔で渋々働いているロシアの勤労婦人を見ていると、制度的に平等を押しつけられた社会というのも結構問題が多いんだなぁと思ってしまう。
 何度も言うけど、女性が怒っている国は全然魅力的じゃない。これだけは間違いない。


赤の広場の「ワシリー教会」もご覧の通り
 ロシアでは修復中の建物がやたらと多かった。最初に訪れた街サンクト・ペテルブルグでは、世界で三番目に大きいという「イサク聖堂」が修復中だったし、エルミタージュ美術館の前の宮殿広場に聳える「アレクサンドルの円柱」も周囲を無粋な足場に囲まれていた。
 モスクワの「赤の広場」では、見事なたまねぎ型ドームが印象的な「ワシリー教会」がネットを被せられて修復中だったし、クレムリン内にある「ウスペンスキー大聖堂」も大がかりな修復作業中だった。シベリアの町イルクーツクにある教会も、やはり足場で囲まれていた。

 僕はそれほど熱心に観光名所を見て回るわけではないのだが、訪れる場所がどこもことごとく修復中なのにはがっかりした。ロシア政府の巧妙な嫌がらせなんじゃないかと疑いたくなってしまった。

 こうした宗教的建造物というのは、社会主義時代にはろくな手入れもされずに放置されていたので、老朽化が進んでいるようだ。「宗教はアヘンだ」と言ったのはマルクスだから、社会主義国で宗教がないがしろにされたのは当然のことだったのだろう。

 しかし社会主義体制が崩壊した後、ロシア人は再び教会に集まるようになった。そして、そのことが教会の修復を進めている原動力なのだろうと推測する。それに加えて、これから積極的に観光地開発を進めていこうというロシア政府の方針もあるのかもしれない。




■ 新メルマガ「アジア美少女紀行」より
 マオイストの青年バサンタが持っていたのは小さなショルダーポーチひとつだけだった。その中にはマオイストの指導者が書いたという分厚い本と、手製の手榴弾が入っていた。
「僕は戦闘員ではないけれど、政府軍がいつ襲ってくるかわからないからね。自分の身を守るためにいつもこれを持っているんだ」
 彼はポーチの中から手榴弾を取り出して、テニスボールでも扱うような気軽さでひょいと僕に手渡した。
 (→続きを読む)



■ Blog「旅空日記」より 【迷い込んだ子猫 10/01】
 中学生らしき女の子二人組が僕の家と隣の家との隙間をじっと覗き込んでいた。二人とも髪の毛をショートカットにしていて背がすらっと高い。バレーボール部の練習の帰りか何かなのだろう。
 何をしているの、と訊ねてみると、二匹の子猫が家の隙間に.... (→続きを読む)



■ 三井昌志 / Mitsui Masashi

1974年、京都市生まれ。旅フォトグラファー・フリーライター。機械メーカーでエンジニアとして2年間働いた後退社し、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。帰国後立ち上げたホームページ「たびそら」が「@niftyホームページグランプリ2002」で準グランプリを受賞。2003年12月に初の写真集「アジアの瞳」を出版。2004年1月から6月に再びアジア(カンボジア、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール、アフガニスタン)を巡る旅に出る。



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