旅をして、
温泉をめぐりながら、
面白い物や人をみつけてきて、
地球上のどこかでイベントをするというのが、
温泉ジャーナルのコンセプトです。
- 最新号:2007-04-08
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温泉ジャーナル 東ティモール温泉紀行・前編
発行日: 2002/12/31温泉ジャーナル 東ティモール温泉紀行・前編
☆
2002年12月21日、土曜日、東ティモールの首都ディリでは、
“2002 ピース・マラソン”が、開催されていた。
主催は、韓国のNGO“ICAPA”。
ICAPA (International Culture Arts and Peace Association)
http://www.icapa.net/membership/
☆
平和でさえあれば、ディリの町は、マラソンにピッタリだ、と僕は思う。
町の北側は、港になっていて、青くて美しい海が広がっているし、
晴れていたら、海の向こうにアタウル・アイランドもきれいに見える。
海岸沿いには、灯台や教会などがあり、走っていて飽きない。
潮風だって気持ちいい。
一方、町の南側は、山々に囲まれているので、海の青さに飽きたら、
木々の緑を眺めることもできる。
ランナー達が、海岸通りから、政府庁舎の横を曲がり、
山側へと続く並木道に入る。
並木道を抜けると、ゴールはすぐそこ、ディリ・スタジアムだ。
☆
ディリのメインストリートを、少年少女ランナーが、走り抜けていく。
12月4日の暴動で店を焼かれ、営業を再開したばかりのスーパーの店員達も、
ランナー達を温かく見守っている。
☆
12月4日の暴動
600人以上の大規模暴動が起き、学生ひとりが死亡し、国会議員が負傷した。
☆
実は、このマラソン大会、もともと12月8日に開催予定だったのが、
12月4日の暴動のため延期され、今日の開催の運びとなっているのだ。
だから、ランナーも、観客も、主催者も、誰もが、この日、
マラソン大会が開催されるのを、本当に心から喜んでいた。
☆
僕はディリ・スタジアムに行き、ランナーのゴールを見届けることにする。
主催者に聞いたところ、スタジアムの観客は500人以上、
ランナーは2000人以上とのこと。
ランナーがゴールするたび、スタジアムに拍手と歓声が湧き起こる。
☆
しばらくして、最後尾の一群が、スタジアムに入場すると、
ひときわ大きな歓声が湧き起こった。これまでにない盛り上がりだ。
一体、なんだろう、と思って目を凝らしてよく見てみると、
100人くらいの少年少女ランナーの真ん中で、なんと、
この国の大統領が走っているのだ。
大統領の名は、シャナナ・グスマン氏。
2002年4月16日の大統領選において、全投票数の82.7%という、
国民の圧倒的な支持を受けて、この国初の大統領に就任した人だ。
少年少女ランナーは、みな、元気よく走っているが、
グスマン大統領は、ハアハアと息があがってつらそうだ。
少年少女が、口々に、大統領を励ます。
“ドンギブアップ・プレジデント!ドンギブアップ・プレジデント!”
☆
大統領はゴールすると、ハアハア息を吐き、タオルで汗をふきながら、
観客席に上がってきた。そして、僕のほうに向かって歩いてきた。
おっおー、近づいてくる近づいてくる、と思っていると、
僕の真ん前を通り過ぎた。
僕は、一国の大統領と、こんなにお近づきになれる機会なんて、
僕の人生の中で、そうはないだろうと思い、目の前を通り過ぎる瞬間、
記念にと、彼の背中を、人差し指でプスッとさしておいた。
それで、おー大統領にふれちゃったふれちゃった、と喜んでいたら、
なんと、彼の席は、僕の席の真後ろだった。3メートルも離れていない。
彼の席は、一応、主催者席の真ん中だけど、立ち入り禁止ではなさそうだ。
僕は、もっと近づいて、彼の写真を撮りたいなあ、とモジモジしはじめた。
☆
こんな時、男性よりも、女性の方が勇敢なものである。
韓国の女性達が、スタスタと大統領に近づいていき、
「写真を撮らせて下さい」なんて、お願いしはじめた。
グスマン大統領も、気軽に「オーケー!」なんて、
ニコニコ顔で、ピースまでしている。
いやいや、うらやましい。
☆
僕も大統領を激写せねば、と思い、思い切って彼に近づいて言った。
「写真、撮っていいですか?」
「ノー!!!」と、大統領。
それまで女性達に向けられていた笑顔が消えている。
僕は、えー?なんで僕だけだめなの〜?というアピールを全身でする。
「女の子はタダだけど、君の場合は、モデル料10ドルだ!」
などと、大統領はコミカルな身振り手振りで伝えてくる。
な、なんつー、お茶目な大統領だ。
そして、ノーノー言いながら、ちゃんとポーズまでとってくれた。
「ギブ・ミー・テンダラー!!!」(←こんな感じのポーズね)
☆
人間は順応する生き物である。
最初は、おー、こんなにも近くで大統領の写真が撮れるなんて!、
と、すごく興奮していたのに、何枚か写真を撮ると慣れてくるし、
大統領の方も、近くで写真を撮られるくらい、どうってことないじゃん、
どんどん撮ってよ、ってな感じで、フレンドリーに接してくるもんだから、
そうか、よく考えたら、どうってこともないのかもなー、
こんなフレンドリーな大統領がいてもいいよなー、と当たり前のように
感じてくるから不思議である。
だいたい、これまでの僕の大統領のイメージといったら、テレビの中の、
ブッシュ大統領、フセイン大統領、プーチン大統領なんかで形成されている。
彼らは、雲の上にでもオフィスを構えてそうだし、いつもしかめっ面で、
ちっともフレンドリーな感じじゃないもんなあ。
韓国の女性たちも、何枚か写真を撮ると満足したらしく、
それぞれの席へと戻っていく。その流れで、僕も自分の席へ。
☆
しばらくすると、また、韓国の女性達が、ワラワラと大統領に近づいていき、
「一緒に写真撮って下さい」と、お願いしはじめた。
な、なんつー、大胆不敵な。彼は、一応というか、仮にもというか、
一国の大統領ですよ。それを軽々しく、一緒に記念撮影だなんて!
そりゃー見た目は、単なるひげもじゃの陽気なおっちゃんに見えるけど、
いくらなんでも、一緒に記念撮影は、ダメなんじゃ……、
あ、グスマン大統領、気軽にOKしてる…。あれれ、腕まで組んで。
いやいや、うらやましい。
☆
韓国の女性達がいなくなったのを見計らい、僕は勇気をふりしぼり、
おそるおそる、大統領に近づいて、言った。
「一緒に写真とって下さい」
「ノー!!!女の子とはいいけど、君とはノーだ!」
「……」
☆
ほんのちょっとだけど、グスマン大統領に接してみて、
なぜ彼が、東ティモールの人々に好かれているのか、肌で理解できた。
彼のキャラは、愛すべきキャラだ。現代版、南の島の大王、みたいだ。
☆
2002年5月20日、東ティモールは独立を果たしたが、
独立までの道のりは決して平坦なものではなかった。
独立までに、おびただしい数の建物が焼かれ、多くの人が死んだ。
独立後、国連の協力のもと、道路や電力供給など、
インフラの整備が進められているが、今なお、ディリの町には、
ちゃんとした建物より、破壊された建物の方が多い。
12月4日には、独立後最大級の暴動が起こったばかりで、
治安的にも安定しているとは言い切れない。
それでも、人々の表情は明るい。
焼け焦げた建物の中で店を営業しているし、
掘建て小屋で食堂をしたり、道端にだってたくさん店がある。
そして、数日後に、独立後初めてのクリスマスを迎える。
東ティモールでは、人口の90%以上がクリスチャンなのだ。
人々の表情が明るいのは、クリスマスのせいかもしれない。
これからの建国も、決して平坦な道のりではないだろう。
東ティモールの産業といえば、コーヒー豆の生産くらい。
失業率も、かなりの高さと聞いている。
この建国の険しい道のりに、リーダーの存在は重要だ。
僕も、少年少女ランナーと同じように、グスマン大統領に声援を送りたい。
“ドンギブアップ・プレジデント!”と。
☆
僕は願っている。
このピース・マラソンが、来年も再来年も、ずっとずっと続いていくことを。
そして、いつの日か、僕もランナーとして、
ディリの海岸沿いを、ティモールの人々と走りたいと思う。
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