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温泉ジャーナルのコンセプトです。




温泉ジャーナル 東ティモール温泉紀行・前編

発行日: 2002/12/31

温泉ジャーナル 東ティモール温泉紀行・前編 

☆ 

2002年12月21日、土曜日、東ティモールの首都ディリでは、 
“2002 ピース・マラソン”が、開催されていた。 

主催は、韓国のNGO“ICAPA”。 

ICAPA (International Culture Arts and Peace Association) 
http://www.icapa.net/membership/ 

☆ 

平和でさえあれば、ディリの町は、マラソンにピッタリだ、と僕は思う。 

町の北側は、港になっていて、青くて美しい海が広がっているし、 
晴れていたら、海の向こうにアタウル・アイランドもきれいに見える。 

海岸沿いには、灯台や教会などがあり、走っていて飽きない。 
潮風だって気持ちいい。 

一方、町の南側は、山々に囲まれているので、海の青さに飽きたら、 
木々の緑を眺めることもできる。 

ランナー達が、海岸通りから、政府庁舎の横を曲がり、 
山側へと続く並木道に入る。 

並木道を抜けると、ゴールはすぐそこ、ディリ・スタジアムだ。 

☆ 

ディリのメインストリートを、少年少女ランナーが、走り抜けていく。 
12月4日の暴動で店を焼かれ、営業を再開したばかりのスーパーの店員達も、 
ランナー達を温かく見守っている。 

☆ 

12月4日の暴動 
600人以上の大規模暴動が起き、学生ひとりが死亡し、国会議員が負傷した。 

☆ 

実は、このマラソン大会、もともと12月8日に開催予定だったのが、 
12月4日の暴動のため延期され、今日の開催の運びとなっているのだ。 

だから、ランナーも、観客も、主催者も、誰もが、この日、 
マラソン大会が開催されるのを、本当に心から喜んでいた。 

☆ 

僕はディリ・スタジアムに行き、ランナーのゴールを見届けることにする。 

主催者に聞いたところ、スタジアムの観客は500人以上、 
ランナーは2000人以上とのこと。 

ランナーがゴールするたび、スタジアムに拍手と歓声が湧き起こる。 

☆ 

しばらくして、最後尾の一群が、スタジアムに入場すると、 
ひときわ大きな歓声が湧き起こった。これまでにない盛り上がりだ。 

一体、なんだろう、と思って目を凝らしてよく見てみると、 
100人くらいの少年少女ランナーの真ん中で、なんと、 
この国の大統領が走っているのだ。 

大統領の名は、シャナナ・グスマン氏。 

2002年4月16日の大統領選において、全投票数の82.7%という、 
国民の圧倒的な支持を受けて、この国初の大統領に就任した人だ。 

少年少女ランナーは、みな、元気よく走っているが、 
グスマン大統領は、ハアハアと息があがってつらそうだ。 

少年少女が、口々に、大統領を励ます。 

“ドンギブアップ・プレジデント!ドンギブアップ・プレジデント!” 

☆ 

大統領はゴールすると、ハアハア息を吐き、タオルで汗をふきながら、 
観客席に上がってきた。そして、僕のほうに向かって歩いてきた。 

おっおー、近づいてくる近づいてくる、と思っていると、 
僕の真ん前を通り過ぎた。 

僕は、一国の大統領と、こんなにお近づきになれる機会なんて、 
僕の人生の中で、そうはないだろうと思い、目の前を通り過ぎる瞬間、 
記念にと、彼の背中を、人差し指でプスッとさしておいた。 

それで、おー大統領にふれちゃったふれちゃった、と喜んでいたら、 
なんと、彼の席は、僕の席の真後ろだった。3メートルも離れていない。 

彼の席は、一応、主催者席の真ん中だけど、立ち入り禁止ではなさそうだ。 
僕は、もっと近づいて、彼の写真を撮りたいなあ、とモジモジしはじめた。 

☆ 

こんな時、男性よりも、女性の方が勇敢なものである。 

韓国の女性達が、スタスタと大統領に近づいていき、 
「写真を撮らせて下さい」なんて、お願いしはじめた。 

グスマン大統領も、気軽に「オーケー!」なんて、 
ニコニコ顔で、ピースまでしている。 

いやいや、うらやましい。 

☆ 

僕も大統領を激写せねば、と思い、思い切って彼に近づいて言った。 

「写真、撮っていいですか?」 
「ノー!!!」と、大統領。 

それまで女性達に向けられていた笑顔が消えている。 
僕は、えー?なんで僕だけだめなの〜?というアピールを全身でする。 

「女の子はタダだけど、君の場合は、モデル料10ドルだ!」 

などと、大統領はコミカルな身振り手振りで伝えてくる。 
な、なんつー、お茶目な大統領だ。 

そして、ノーノー言いながら、ちゃんとポーズまでとってくれた。 

「ギブ・ミー・テンダラー!!!」(←こんな感じのポーズね) 

☆ 

人間は順応する生き物である。 

最初は、おー、こんなにも近くで大統領の写真が撮れるなんて!、 
と、すごく興奮していたのに、何枚か写真を撮ると慣れてくるし、 
大統領の方も、近くで写真を撮られるくらい、どうってことないじゃん、 
どんどん撮ってよ、ってな感じで、フレンドリーに接してくるもんだから、 
そうか、よく考えたら、どうってこともないのかもなー、 
こんなフレンドリーな大統領がいてもいいよなー、と当たり前のように 
感じてくるから不思議である。 

だいたい、これまでの僕の大統領のイメージといったら、テレビの中の、 
ブッシュ大統領、フセイン大統領、プーチン大統領なんかで形成されている。 
彼らは、雲の上にでもオフィスを構えてそうだし、いつもしかめっ面で、 
ちっともフレンドリーな感じじゃないもんなあ。 

韓国の女性たちも、何枚か写真を撮ると満足したらしく、 
それぞれの席へと戻っていく。その流れで、僕も自分の席へ。 

☆ 

しばらくすると、また、韓国の女性達が、ワラワラと大統領に近づいていき、 
「一緒に写真撮って下さい」と、お願いしはじめた。 

な、なんつー、大胆不敵な。彼は、一応というか、仮にもというか、 
一国の大統領ですよ。それを軽々しく、一緒に記念撮影だなんて! 

そりゃー見た目は、単なるひげもじゃの陽気なおっちゃんに見えるけど、 
いくらなんでも、一緒に記念撮影は、ダメなんじゃ……、 

あ、グスマン大統領、気軽にOKしてる…。あれれ、腕まで組んで。 

いやいや、うらやましい。 

☆ 

韓国の女性達がいなくなったのを見計らい、僕は勇気をふりしぼり、 
おそるおそる、大統領に近づいて、言った。 

「一緒に写真とって下さい」 
「ノー!!!女の子とはいいけど、君とはノーだ!」 

「……」

☆ 

ほんのちょっとだけど、グスマン大統領に接してみて、 
なぜ彼が、東ティモールの人々に好かれているのか、肌で理解できた。 
彼のキャラは、愛すべきキャラだ。現代版、南の島の大王、みたいだ。 

☆ 

2002年5月20日、東ティモールは独立を果たしたが、 
独立までの道のりは決して平坦なものではなかった。 

独立までに、おびただしい数の建物が焼かれ、多くの人が死んだ。 

独立後、国連の協力のもと、道路や電力供給など、 
インフラの整備が進められているが、今なお、ディリの町には、 
ちゃんとした建物より、破壊された建物の方が多い。 

12月4日には、独立後最大級の暴動が起こったばかりで、 
治安的にも安定しているとは言い切れない。 

それでも、人々の表情は明るい。 

焼け焦げた建物の中で店を営業しているし、 
掘建て小屋で食堂をしたり、道端にだってたくさん店がある。 

そして、数日後に、独立後初めてのクリスマスを迎える。 
東ティモールでは、人口の90%以上がクリスチャンなのだ。 
人々の表情が明るいのは、クリスマスのせいかもしれない。

これからの建国も、決して平坦な道のりではないだろう。 

東ティモールの産業といえば、コーヒー豆の生産くらい。 
失業率も、かなりの高さと聞いている。 

この建国の険しい道のりに、リーダーの存在は重要だ。 

僕も、少年少女ランナーと同じように、グスマン大統領に声援を送りたい。 

“ドンギブアップ・プレジデント!”と。 

☆ 

僕は願っている。 

このピース・マラソンが、来年も再来年も、ずっとずっと続いていくことを。 

そして、いつの日か、僕もランナーとして、 

ディリの海岸沿いを、ティモールの人々と走りたいと思う。 









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