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[BoutReview EXp: 023] 総合格闘技はスポーツか?見世物か?

発行日: 2003/1/29

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■■□■ BoutReview EXpress Vol. 023 (Wed, 29 Dec. 2003) ■□■■
           http://www.boutreview.com/
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● Draw the Additional Line / ニューヨークMMA通信(4)

 アメリカ・ESPN特別番組:
 「Ultimate Fighting: Is It Sport or Spectacle?」
    (アルティメット・ファイティング:
          スポーツなのか、それとも見世物なのか?)

          Text by シュウ・ヒラタ(ニューヨーク在住) 
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 2002年最後の月の第1木曜日に、総合格闘技が遂にESPNへの進出を果たし
た。ほとんどの番組の平均視聴率が1%以下というESPN 2の方ではない。こ
の国のスポーツ・ファンが一日に一度はチャンネルを合わせると言っても過
言ではない、米スポーツ・チャンネルの王様中の王様ESPNだ。
 しかし残念な事に、プライムタイム(ゴールデンタイム)の夜7時に放映
された1時間の特番「Ultimate Fighting: Is It Sport or Spectacle?」は、
ファンが観たら嬉しくなって雄叫び(アメリカ人が好きなんだ、これが)を
あげちゃうような内容とはいえなかった。

 番組はアメリカを代表する総合格闘技イベント・UFC(Ultimate Fighting 
Championship)の歴史の説明から始まる。93年に始まった格闘技イベントUF
C は当時PPV(ペイ・パー・ビュー)のヒット番組だったが、アリゾナ州の
ジョン・マッケイン上院議員を筆頭とする多くの政治家たちから「暴力性が
強過ぎる」との理由でバッシングを浴び、一時はケーブルTVからも閉め出さ
れた。だが、01年ラスベガスのズッファという会社がUFCを買収し、安全性
を考慮したルールに改正し体重別の階級を設けることでスポーツ性を強調。
更に200万ドルも掛けて全米レベルの大キャンペーンを行い(プレイメイト
のカーマン・エレクトラがスポークス・ウーマンとして雇われたのもこのキャ
ンペーンだ)、一般社会への認知度を高めプロ・スポーツの聖地ラスベガス
での興行も成功させた。番組の最初10分はこの国のコアな総合格闘技のファ
ンにとってはありきたりの説明が続いた。
 次は「バックステージのランディー・クートゥアを追う」というスタイル
で彼の素顔を簡単に紹介しつつ、初のラスベガス興行までストーリーが進む。
そして今年3月にランディーがジョシュ・バーネットにタイトルを奪われる
という所から、一気にステロイドの話題に雪崩れ込む。ランディーの素顔は
ほんの5、6分ほどで、あとはバーネットとステロイドの話題一色。傍聴会で
「わたしの体を見て下さい。どう見てもステロイドを使っている体ではない
じゃないですか?まだベイビー・ファット(幼児のような脂肪)がついてい
るんですよ」とバーネット本人が弁解する場面も数秒だけ写った。だが結局
「彼はタイトルを失った」というナレーションだけで終り、ルール違反を犯
した者がチャンピオンになり罰せられた、というダークな部分だけが強調さ
れた描写であったともいえる。

◆「非合法」なファイト・イベントを紹介

 ここから番組は更にダークな領域に足を踏み入れる。次の約15分ほどの間
に紹介されたのは、アメリカ各地でいわば非合法的に開催されているファイ
ト・イベントの数々だ。
 ブラット・ピット主演でデビット・フィンチャー監督のハリウッド映画「
ファイト・クラブ」に登場した非合法的なファイト・クラブはフィクション
の世界だった。彼らは自宅の地下室や庭で行われる、殴る、蹴る、投げる、
絞めるといった行為を生き甲斐にしているのだ、といった風な紹介の仕方だっ
たと思う。
 そして一人の「非合法」選手がインタビューに「相手とぶつかり合う瞬間
は言葉では表現できない快感だぜ、絶対に止められない!ドラッグみたいな
もんだ」と吠えるように答えた。そして、アルティメット・ファイティング
(総合格闘技は言っていなかった)はアンダーグランドでかなりの人気を誇
り、地方によっては閉日のナイトクラブなどを使い、正式な許可を一切取ら
ずに、口コミだけで観客1000人以上の集める大きな興行を打っているプロモー
ターもいるという話題でこのセグメントを締めくくった。
 コマーシャルを挟んでの最後の20分は、グレイシー柔術とその創始のエリ
オ・グレイシーの紹介と、11月にベガスで開催されたUFC 40“Vandetta”の
話題。「同大会は今年のMGMGrand観客動員数の新記録を樹立したが、PPV購
入世帯数は93年のUFC初期の頃と比べると10分の1ほどで、まだまだ低迷して
いるという感は否めない」というナレーションの後に司会者が登場し「アル
ティティメット・ファイティングはスポーツなのか?それともただの見世物
なのか?」という番組のタイトル通りの質問を視聴者に投げかけ、幕を閉じ
た。


◆総合格闘技はセックス、ドラッグの代用品?

 総合格闘技をスポーツだと捉え支持しているファンの多くは、この番組を
観て、ESPN及びアメリカの一般社会はまだまだ総合格闘技に対して理解力が
無い、いや、理解しようとしない、と感じ落胆したはずだ。
 この番組が取材した非合法ファイト・イベントの描写がそのいい例だ。自
宅の地下室や庭、町の小さなジムで開かれているのかもしれないが、全ての
選手がオープンフィンガー・グローブを着用しており、全ての試合にメイン・
レフリーが一人、そしてサブ・レフリーが最低でも二人はついているようだっ
た。試合前には、ビール瓶がちょこんとのっかりそうな大きな腹をしたレフ
リーが、ちゃんと選手たちに注意していた。「昔のUFCルールを覚えている
な、眼を突くのは反則だぞ」といった具合にだ。何の許可も取らずに開催さ
れている点では確かに非合法だが、冷静にフェアな視点でみれば、映画「ファ
イト・クラブ」のような殺し合いと犯罪の世界ではなく、ただ単に総合格闘
技というスポーツが大好きな若者たちが集まって遊んでいる、とも受け取れ
る筈なのだ。いわばバスケットの好きな連中が、ちゃんとした暗黙のルール
にのっとり公園のコートでバスケに興じているのと大して変わらないのだ。
 だがESPNにはそのような角度で彼ら及び総合格闘技を観るだけの余裕はま
だまだないようだ。同局の人気ニュース番組「スポーツ・センター」で、電
動ノコギリを使い大木を切り倒すのを競ったりする「タフマン・コンテスト」
のニュースを流すことはあるのに、UFCもPRIDEもK-1も今だに取り上げない
のだから、仕方がないといえば仕方がない。
 パンクっぽい髪型をし「ドラッグみたいなもんだ!」と叫ぶ選手や、試合
を観て興奮し「腕を取れ!」とか「そこで殴れ!」と叫び続ける(指示を出
している、とも言えるが)若者たちのカットを多用することによって、社会
からドロップアウトした不良少年たちが暴力というドラッグに快感を感じて
いる...。そんな「総合格闘技はポルノ映画みたいなものだ」的な描写の
仕方しかできなかったのだ。


◆総合格闘技をスポーツと認めさせる方法はあるのか?

 ただ、売れないタレントがスキャンダルに巻き込まれると注目され息を吹
き返すケースがあるように、見方を変えれば、総合格闘技も全く相手にされ
ないぐらいなら、少々スキャンダラスでも取り上げて貰った方がましという
考え方もある。一般世帯へのケーブル普及率が80%を越えるこの国で、ス
ポーツ・チャンネルとしては圧倒的なシェアを誇るESPN。今まで見向きもし
なかった総合格闘技をESPN様が電波にのせてくれるんだから万々歳だ、と喜
ぶファンの気持もわかるが、ここはもう少し踏み込んで考えたい。
 同じスキャンダラスな話題として扱うのなら、もっと総合格闘技をスポー
ツだと認めさせるやり方があるのではないだろうか? 総合格闘技は街の喧
嘩ではないし、麻薬常習者の空虚な心を埋める刺激物でもないのだ。となる
と一つだけ明確なやり方があるではないか?それは、対ボクシングという挑
発的なプロモーションだ。
 アメリカのプロ格闘スポーツを独占しているボクシングを打ち負かすのは
並み大抵のことではない。喧嘩をするぐらいなら協力体制を敷いた方がいい
と考える人もいるかもしれないが、日本の総合格闘技やK-1が、実積のある
アマチュアの格闘技選手やプロレスラーを取り込み、打破することにより一
般社会での認知度を高めたように、この国でも総合格闘技とボクシング、どっ
ちが強いか勝負しろ!と打ってでればいいのだ。ボクシング関係者は怒り「
売名行為だ!」と非難するか、完全黙殺し他の一般マスコミにも無視するよ
うに促すかのどちらかだと思うが、同じスキャンダラスな取り上げられ方だっ
たらこちらの方がポジティブな結果を残すのでは?

 ノゲイラ、ヒュードル、リコ、バーネットらがレノックス・ルイスやマイ
ク・タイソン、デイビット・トゥア、クリス・バードらヘビー級勢に挑戦を
表明する。ティト・オーティズはジェームス・トニーでマット・ヒューズは
オスカー・デ・ラ・ホーヤだ。更にヴァダレイ・シウバ対フェルナンド・バ
ルガス、バーナード・ホプキンズの喧嘩マッチに、桜庭対ロイ・ジョーンズ
JRのテクニシャン対決。ファンとしては魂が揺さぶられる夢のカードの数々
だ。
 こういった「過激な仕掛け」(このフレーズに抵抗を感じるファンは多い
かもしれないが)をしながら、ボクシング側にはちゃんと交渉すればいいの
だ。プロ・ボクシングの世界には沢山の世界チャンピオンがいる。WBC、WBA、
IBFの三大組織だけでもチャンピオンの数は憂に三十人を越える。でもその
中で世界的知名度を誇っているボクサーはほんの一握りに過ぎない。だから
総合格闘技と絡み新鮮な闘いをファンに魅せれば、一般の人たちがまたボク
シングを観るようになる。もちろんボクサーの光を消すようなルール、つま
り総合の選手に有利なルールではなくボクサーの長所も巧く引き出せる特別
ルールの設定が必要となるが、今の時代ならアリ対猪木のように、興行とい
う観点を無視したかんじがらめの非現実的なものではなく、それなりにお互
いの技が有効に使えるルールに落ち着かせることは可能な筈だ。


◆カリスマプロデューサー出現を待望する米国の格闘技ファンたち

 ここまで辿り着ければ、総合格闘技はスポーツである、つまりレスリング
や柔道、空手、テコンドーなどの選手が、道場主や体育の先生になるだけで
なく競技選手としてメシが喰える道があるのだ、という事も多くの人に伝わ
り、業界は必然的に活性化される筈だ。
 そんなことをするとまたボクシングを支持する政治家たちにいじめられて
ケーブルTVから追放されちゃうよ、としたり顔で言う人もいるが、もうそん
な時代は過ぎた。そう信じたいと思っているこの国のファンは、総合格闘技
をスポーツとして普及させることのできるカリスマ格闘プロデューサーの出
現を望んでいるのだ。今回のESPNの特番を観た限りでは、ズッファ社社長の
デイナ・ホワイト氏にはどうもこのカリスマ格闘プロデューサーの役は荷が
重そうだし、K-1の石井館長も一線を退いた今、果たしてそんな人物がいる
のだろうか? いや、世界のどこかに必ずいる。そんな敏腕プロデューサー
を見つけるには、才能のある選手を発掘するのと同じで、総合格闘技という
狭い域を超越するしかないのだ。

 2001年にはベガスに進出。2002年には全米ケーブル・ネットのFOX SPORTS 
NETとESPN にも進出を果たしたアメリカの総合格闘技。そして2003年こそは、
あらゆる面で総合格闘技という狭い業界の壁をブチ破ってほしい。多くのファ
ンは、一般社会という名の、総合格闘技が熱く燃えられる最高の「舞台」を
まだ待っているのだ。◆◆◆


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