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独学をすスめ(MM版) 統計的研究法編

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独学をすスめ(MM版) 統計的研究法編 005号

発行日: 2001/11/12


卓:このメルマガは「等幅フォント」推奨環境で  ┏━━┓
  作成されています。例えば右側の図がちゃん  ┃  ┃
  と四角形に表示されていれば等幅フォント設  ┗━━┛
  定になっており,発行者の意図通りの表示がされています。
  もし四角形になっておらず縦線表示がずれている場合,メールソフト
  の受信設定がこの「等幅フォント」になっていないからだと考えられ
  ます。下記HPを参考し各自で再設定してください。

   http://www2.osk.3web.ne.jp/~kazikeda/mua/

  また「統計tool」は下記HPから入手して下さい。

   http://www2.justnet.ne.jp/~vine-7/Stat&Metd/index.htm


□■◆◇◆■□◇□■◆◇◆◇□■☆□■◆◇◆■□◇□■◆◇◆◇□■

    独学をすスめ(Mail Magazine 版)  統計的研究法編
             2001年11月12日     005号

□■◆◇◆■□◇□■◆◇◆◇□■★□■◆◇◆■□◇□■◆◇◆◇□■

 本号の構成
 ・登場人物紹介
 ・疑問点
 ・統計的仮説検定
 ・データ収集の困難性
 ・母集団と標本
 ・怪しい卓と綾姫の話
 ・有意水準
 ・次回予定

=================================

▽登場人物紹介△
・雪本 卓(たく):メルマガ発行者。先生役。
・雪本 綾(あや):卓の姉。生徒役。時折教師。
・雪本 篠(しの):卓の妹。生徒役。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▽疑問点△

綾:予め宣言しておくけど,今回もさらに長いわよ。

卓:いきなり出鼻を挫くようなことを言わなくても。
  今回も前々号・前号に続いて「t 検定」「相関係数/分析」の結果解
  読法を説明します。
  早速ですが下のデータについて「平均値」「t 検定」「相関係数/分
  析」を「統計tool」で実行して下さい。なお「t 検定」については
  「対応なし(等質)t 検定」を参考にして下さい。

  ──────────────────
   A  80 45 76 73 81 71 68
   B  78 72 82 67 44 52 60
  ──────────────────

綾:「統計tool」のデータ入力法は前々号(003号)を参照してね。

   http://www2.justnet.ne.jp/~vine-7/Stat&Metd/MM003.htm

  結果は小数第二位まで表示させるならこんな感じになるけど。

   平均値     t 検定        相関係数
    A 70.57    t 値=0.80      r =-0.17
    B 65.00    自由度=12      検定t値=0.38
            確率=43.96%     確率=71.72%

篠:そして前号(004号)でこれら数値の解読をある程度勉強しました。

   http://www2.justnet.ne.jp/~vine-7/Stat&Metd/MM004.htm

  ◆t 検定  → 「AとBには有意な差は見られない」
  ◆相関係数 → 「AとBには有意な相関関係は見られなかった」

  このように【翻訳】できます。
  相関係数の「r」の数値が直線的相関関係を示していますが,「0.0≦
  |r|≦0.2」であり「相関はない」と判断できます。

綾:そしてこれが今回のポイントなんだけど,どちらも

  【簡略確率RULE】:「確率<5%」の場合「有意な」と表現!

  このRULEを満たしていない,よって「有意ではない」となるの。

卓:多分篠や皆さんは「t 検定」「相関係数/分析」を「統計tool」で実
  行処理しようとしてもいくつか疑問点が残っていると思います。

  (1)複数の「t 検定」結果のうちどれを参照するのか?
  (2)何故単純な平均値比較ではなく「t 検定」を使うのか?
  (3)何故「確率<5%=有意な」と表現するのか?
  (4)「有意な」とはそもそも何を意味しているのか?

  おそらくは上の四点が挙げられると思います。このうち(2)〜(4)は今
  回のメインである「統計的仮説検定」という統計的研究法の最重要思
  考法を理解することで納得できるようになります。

綾:説明の都合上(2)〜(4)の統計的仮説検定の話を先にするから。(1)の
  「t 検定の参照先」は後に回すわ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▽統計的仮説検定△

卓:説明の都合上「t 検定」に限定しますが「相関分析」も同様に考えて
  下さい。
  さて統計的仮説検定とは何か,を理解してもらうにはやはり実際に統
  計的仮説検定を行ってみることでしょう。
  ということで参考の「表003 統計的仮説検定の方略図」です。

== 表003 統計的仮説検定の方略図 ============================
  ┏━━━━━━━━━━━━┓‖□■統計的仮説検定の手順概略■□
  ┃     母集団    ┃‖
  ┃ 本当に調べたいデータ ┃‖(1)採用したい対立仮説,及びそれ
  ┗━━━━━━━━━━━━┛‖  と対立する帰無仮説を立てる。
   ∨∨∨     ∧∧∧  ‖(2)有意水準(α)を設定する。通常
  ┏━━━┓   ┏━━━┓ ‖  は「α=0.05(5%)」を設定。
  ┃無作為┃   ┃統計的┃ ‖(3)帰無仮説に基づく現象の確率を
  ┃抽 出┃   ┃推 論┃ ‖  計算する。
  ┗━━━┛   ┗━━━┛ ‖(4)算出された確率と有意水準を比
   ∨∨∨     ∧∧∧  ‖  較する。
  ┏━━━━━━━━━━━┓ ‖  ・確率<有意水準
  ┃    標 本    ┃ ‖    ⇒ 《有意差あり》
  ┃ 実際に調べたデータ ┃ ‖  ・確率>有意水準
  ┗━━━━━━━━━━━┛ ‖    ⇒ 《有意差なし》
=============================================================

綾:ふぇー,久々の「表」シリーズだけど,随分文字が多くない?
  しかし随分専門用語を羅列してるわね。「母集団」「標本」「無作為
  抽出」「統計的推論」「統計的仮説検定」「対立仮説」「帰無仮説」
  「有意水準」……あとは「第一種の過誤」と「第二種の過誤」を追加
  すれば統計的仮説検定に関する基本的な用語は紹介したことになるわ
  ね。

篠:いっぱいです。

卓:それが正直な感想だろうね。まあ最初は用語にはこだわらないで。
  えーと。それでは始めましょう。今回は前々号・前号のみならずこれ
  までのまとめになりますのでできましたら,事前に復習を行ってもら
  うのが望ましいです。

  ☆研究案(仮想案):新しい教育法の効果を調べる

   ある教育家がこれまでの伝統的教育方法とは異なる新教育方法を
   開発したと発表しました(具体的な教育法は不明)。しかし果た
   して本当にその教育法の効果があるかは実際に確かめなければな
   りません。そこで教育家はデータを収集することにしましたが…
   …。
   しかし何故かその結果は報告されませんでした。

綾:報告されずに結果が不明,ってとこに既にどんな結果になったか読め
  ちゃうわね。どうせ,この研究データは上の「有意差なし」のデータ
  でしょうし。

卓:言うなっ……とはいえ確かに結果は「有意差なし」なんだけどね。
  今回は何故「有意さなし」という結論に至るのか,を見ていきます。
  篠,上の研究案「新しい教育法の効果を調べる」を統計的研究法で調
  べるにはどうすればいいかな?

篠:統計的研究法とは「データを分析して,ある事柄とある事柄とに相関
  関係・因果関係が認められるかを調べる方法」と定義されます。

卓:よく覚えてるね。それは確か002号での定義だ。

篠:覚えていません。ノートを見直しただけです。
  とするならば,まずは「データを収集」しないことには調べることは
  できません。そしてデータは上に掲載されているものですから既に収
  集し終わっていますので……

卓:ストップ! 残念だけどそう簡単にはいかない。このデータを収集す
  る作業は難しく色々な問題点を含んでいるんだ。
  「表003」を見てほしいけど「データ」というのは「本当に調べたい
  データ(母集団)」と「実際に調べたデータ(標本)」の二種類がある。
  そして上に載せているデータは「実際に調べたデータ(標本)」であっ
  て「本当に調べたいデータ(母集団)」ではないのだ!

篠:えっと,そのデータの区別もよく分かりませんが,その区別は重要な
  んですか?

綾:重要どころの騒ぎじゃないわ。この区別が統計学を大きく発展させた
  んだから。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▽データ収集の困難△

卓:話を進める前に,この研究では相関関係・因果関係のどちらを調べる
  のか,そしてどの統計法を使うのかを教えてほしい。

篠:はい。教育法が効果があるかは,新しい教育法を受けた生徒が何かの
  テストで成績がよいかどうかで調べられます。とすると

  ・「新教育法の受講(原因)」 ⇒ 「テスト得点(結果)」

  という因果関係の図式が成立します。すると因果関係を調べる統計法
  としては「t 検定」を使うのではないでしょうか?

綾:良いわね。じゃあ具体的に「t検定」をどう使うの? 「t検定」は結
  局「二変数の間に『有意な』差があるか」を調べる統計法なの。じゃ
  あどの変数とどの変数との間に有意さがあればいいのかしら?

篠:……教育法を受講する前と後とで差があるのを調べるのはどうでしょ
  うか? 「受講前」と「受講後」で同一のテストを受けさせて,その
  得点が上昇しているかを調べればよいと思います。

綾:うーん。確かにその方法で調べられそうに思えるわ。でも問題がある
  の。その「受講前後のt 検定」で有意に受講後が高いとしても一概に
  「その原因が教育法の受講によるもの」とは結論できないの。
  理由その一は,受講前後で同じテストを受けさせたんでしょ? だっ
  たらテスト問題が分かっているから得点は高くなるのは当たり前なん
  じゃない?

篠:あっ!

卓:理由その二。この研究で調べたいのは「伝統的教育法<新教育法」な
  んだよね。問題なのはどちらも「教育」をしている点で共通している
  こと。教育ということは多分どちらも「説明」をしていると思うけど
  どんな説明であっても「説明(教育)をしてくれるだけで分かる(気に
  なる)」ということがあるだろう?
  とすると,特別「新しい」教育法じゃなくても単に「説明(教育)」を
  してくれたから得点が上がったのかもしれない。

  こう考えると「受講前後のt 検定」には問題がある。

篠:…………ならば「伝統的教育法の受講生」と「新教育法の受講生」の
  テスト得点を比較するという方法はどうでしょうか?
  この比較ならばそれぞれの生徒は一回しかテストをしないので問題の
  効果は抑えられます。さらにどちらも教育を受けていて,異なるのは
  教育法の種類だけなので「新教育法」の効果を調べられます。

卓:正解。

綾:おめでとう。篠が今したように研究を行う場合には「調べたい条件だ
  けを変化させて,他の変数はなるべくコントロールする」という【変
  数の統制】が重要になるの。
  でもこの【変数の統制】方法だけでも一冊の本が書けちゃうぐらいな
  かなか難しいものなのよ。

篠:頭を使いました。確かにデータ収集は難しいんですね。

卓:……悪いけど,篠,残念ながらこれで終わりじゃない。
  今の話には「母集団」「標本」という文字が一つも入ってなかっただ
  ろう。

篠:…………
  
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▽母集団と標本△

綾:あらら。篠,お疲れみたいね。
  それじゃ暫くは私と卓で話を進めるから休みながら聞いていなさい。

卓:綾姉さんか……

綾:何よ。私じゃ不満なの? 私のどこがいけないの? こんなに貴方に
  尽くしているのに!

卓:えーと今回の芸風は何? よくわかんないや。(ふう)

綾:あっ。何なの,その溜息は。

卓:はいはい。そろそろ話を進めるよ。

  ┏━━━━━━━━━━━━┓  篠にも言ったけど「母集団:本当に 
  ┃     母集団    ┃  調べたいデータ」と「標本:実際に
  ┃ 本当に調べたいデータ ┃  調べたデータ」とを区別しなければ
  ┗━━━━━━━━━━━━┛  ならない。
   ∨∨∨     ∧∧∧
  ┏━━━┓   ┏━━━┓  今回の研究で本当に調べたいデータ
  ┃無作為┃   ┃統計的┃  である母集団とは「日本中,いや可
  ┃抽 出┃   ┃推 論┃  能ならば世界中の,全ての時間に渡
  ┗━━━┛   ┗━━━┛  る,全ての生徒に対して,半分には 
   ∨∨∨     ∧∧∧   伝統的教育法,もう半分には新しい
  ┏━━━━━━━━━━━┓  教育法を実施した後のテスト得点」
  ┃    標 本    ┃  ということになります。
  ┃ 実際に調べたデータ ┃  これは教育家が世界普遍の教育法を
  ┗━━━━━━━━━━━┛  目指しているならばですが。

綾:無理! はっきり言って無理ね。
  仮に日本だけに限定したとしても日本中の全時間,全生徒を調べるわ
  けにはいかないわ。

卓:とまあ実際は「母集団:本当に調べたいデータ」というのは「(し)た
  い」とあるようにあくまでも願望でしかない,実際には【調べること
  ができないデータ★】を意味します。          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
綾:仕方ないから日本中(世界中)の全時間・全場所の中からほんのごく少
  数の一部の人数を「標本」として選び出してデータを集めるしかない
  の。
  ……今回のデータは「伝統的教育法受講7人」と「新教育法受講7人」
  の計14人よね。多分母集団は億単位の人数になるけど,それをたった
  の14人で代表させちゃうわけ?

卓:はっきり言って無謀ですね。
  とはいえ,確かに14人はあまりにも少数過ぎる例ですが,少数の標本
  データからその背後にある,本来調べられない母集団データを推測す
  ることができる。これが統計的推論です。これが統計的研究法です。

綾:では篠や皆さんの疑問「何故単純な平均値の比較ではいけないか?」
  に答えましょう。

  答)標本レベルで比較したいのではなく,その背後の母集団レベル
    での比較を推測したいから。(標本レベルで比較をするだけな
    らば統計法による推測は行わない)

  便利ねー。標本と母集団という用語を使えばこんなに簡単に答えられ
  るわ。

卓:あと無作為抽出というのがありますが。これは【変数の統制】方法に
  深く関わってくる問題なのでここでは敢えて触れません。簡単に言え
  ば「母集団の性質を反映する標本を抽出するためにはランダムな抽出
  である無作為抽出法を使うのがよい」となります。

綾:分かりません!

卓:嘘だっ! 綾姉さんならちゃんと知っているはずだ!

綾:そんなっ! 私が知っていることと言えばこの程度にすぎないわ。

  【無作為抽出】
   調査対象の標本を,一定の定められた確率で選出する方法で,「確
   率抽出」ともいう。表面上故意を排除したような選択では,人間が
   操作する限りは無作為性が保証されないので,「乱数表」その他の
   機械などを利用して抽出する必要がある。……(以下略)……

      (鈴木義一郎『現代統計学小事典』講談社ブルーバックス)

卓:無茶苦茶詳しいやん!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▽怪しい卓と綾姫の話△

卓:……なんか疲れた……
  ともかく,以上のことに留意して標本データを収集します。

  全部で14人の人を集めてきて,半分7人を「新教育法(A)群」,残り半
  分7人を「伝統的教育法(B)群」としてそれぞれ教育を行い,その後に
  テストを受けさせその得点(100点満点)を記録しました。

  ===========================
   A  80 45 76 73 81 71 68  平均値:70.57
   B  78 72 82 67 44 52 60  平均値:65.00
  ───────────────────────────
   t 検定:t 値=0.80/自由度=12/確率=43.96%
  ===========================

綾:テストが2001年11月11日に施行されたことにするわね。ここで単純に
  平均値の比較をしてしまうと,単に「2001年11月11日のある14人では
  新教育法の方が伝統的教育法に比べてテストが5.57点ほど良かった」
  と言えるだけ。もっと一般的に「いつでもどこでも誰にでも」当ては
  まる,より法則性の高い結論を下すためには「t 検定」の結果を参考
  にしなきゃいけないわ。

卓:では「t検定」を参考にすると「確率<5%=有意な」の【簡略確率
  RULE】により「有意さなし」と判断されます。……一体どういうこと
  なんでしょうか?

綾:……

卓:姉さん?

綾:……それはある日の都での話です。

卓:?

綾:一人の男が顔を真っ赤にしながら道路の真ん中を転がっていました。
  そこに近づくのは麗しき乙女,綾。

卓:うわっ!

綾:「もうしもうし,卓さんや。一体何をしてらっしゃるの?」

卓:しかも風変わりな男って,俺か!?

綾:「綾殿。我が秘伝の儀式にてこの地に居着く悪霊を追い払っていると
   ころで御座る。」

  「まあ。でもこの辺りでは悪霊の噂など全く聞きませんけれど」

  「……それこそ我が神通力の証で御座る!」

  ……おしまい。

  どう? この話で変なところが分かった?

卓:色んな意味で突っ込みどころ満載だろ……
  でもまあ,何故唐突にそんな例え話をしたかは察してあげよう。

  今の話で言いたかったのは「ない」を直接証明することは不可能であ
  る,こと。上の話を聞いて「元々いなかっただけかもしれないじゃな
  いか!」と思った皆さん,あなたは正解です。このように「ない」を
  証明するのは難しいというより無理です。ゆえに統計的研究法,に限
  らないと思うけど,は「ある」を証明することで研究を進めていま
  す。

綾:そうね。「t 検定」は「差が『ある』」,「相関分析」は「類似性が
  『ある』」を証明しようとする統計法。決して『ではない』を証明す
  ることはできないの。

篠:相変わらず二人だけで進めると妙な流れになってしまいますね。

卓:篠,待ってた! 本当に待ってた!

篠:話を続けて下さい。

卓:…………はい。
  篠が幽霊信奉者だと仮定する。すると幽霊反対者の科学者は霊などま
  やかしだ,と批判する。でも篠は「霊は存在する」と証明するのは簡
  単なんだ。たった一例でもいいから幽霊を発見すれば,「幽霊が『あ
  る』」ことを証明すればいい。すると科学者の「霊は存在しない」と
  いう仮説を崩すことができる。

  対して篠が幽霊反対者だとするとどうかな? 篠は「霊などいない」
  と仮説を持っているけど,相手を納得させるためには相手の「霊はい
  る」を科学的に否定しなければいけない。

綾:でも篠がある場所で「幽霊が確かにいない」と証明できたとしても,
  相手は「たまたま見つからなかっただけだ。他の場所にはいる」と反
  論するわね,きっと。そして他の場所でも「ない」を証明しても同じ
  ことを言うでしょう。

篠:結局「霊はいない」,つまりは「ない」を証明することは不可能とい
  うわけですか。だから研究では「ある」を証明しようとするわけです
  ね。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▽有意水準△

綾:そろそろまとめましょうね。
  上の例え話で重要なのは「『ある』を証明するためには『ない』を否
  定する」ということね。上の話からちゃんと納得してね。

卓:ゆえに統計的研究を行う場合にも同様に,『有意差あり』仮説を証明
  するために『有意差なし』仮説を立ててすぐに否定する作業を行う。
  後者の否定・帰無を目的とする仮説を『帰無仮説』,それと対立する
  本当は証明したい前者の仮説を『対立仮説』と呼びます。

== 「t 検定」「相関分析」における仮説 ========================
                 t 検定   相関分析 
 ・対立仮説
   =『有意差あり』仮説   X ̄1≠X ̄2   r≠0

 ・帰無仮説
   =『有意差なし』仮説   X ̄1=X ̄2   r=0

  ※「X ̄1」=変数1の平均値 「X ̄2」=変数2の平均値
   「r」=変数1と変数2の相関係数
=============================================================

  対立仮説と帰無仮説でそれぞれ具体的にどのような仮説を立てるかを
  示したのが上の表。「t 検定」であれ「相関分析」であれ「=」を否
  定・帰無する形になっていることに注意せよ。

綾:いい? ここからが重要よ。
  今「帰無仮説」を採用しているのね。
  もう一度だけデータを載せるわよ。

  ===========================
   A  80 45 76 73 81 71 68  平均値:70.57
   B  78 72 82 67 44 52 60  平均値:65.00
  ───────────────────────────
   t 検定:t 値=0.80/自由度=12/確率=43.96%
  ===========================

  帰無仮説,すなわち本当は「A=B」であるという仮定に今立っている
  の。にもかかわらず「A−B=5.57」すなわち「A≠B」という結果に
  なってしまったわ。

  これはおかしいわ。でも母集団から標本を抽出するときに上手くいか
  なかったのかもしれない,本当は母集団レベルでは「A=B」だけど,
  何かの偶然で,標本レベルで「A≠B」になってしまったのかもしれな
  い。こうやって一旦は一生懸命「A=B」の立場を守ろうとするの。

  この矛盾に決着をつけるために『「A=B」の条件下で「A≠B」という
  現象が何%で発生するか』の確率を計算します。

  この確率が予め研究者が設定しておいた「有意水準という確率」以下
  であれば有意と判断する……

  やっぱり付いてこれなかったわね。

篠:話が突然加速しました。もうすこし具体的に説明してくれませんか?

卓:それじゃあ超能力者の例で説明しよう。
  ある人が自分は超能力者,物を自在に動かすことができる念動力者だ
  と主張しました。それを証明するためにサイコロを研究者が望む数を
  連続して出してみせると豪語しました。

  サイコロは「1〜6」の数を持つからある数字が出る確率はいかさまを
  使わない限りランダムなので1/6=16.67%になります。
  さて研究者は「1」と言いました。超能力者は「1」を出しました。こ
  のとき「超能力を使わない限り狙った数字を出す確率は16.67%」と
  確率が計算できます。でも「16.67%」じゃあ偶然の可能性もあるで
  しょう。次に研究者は「6」を求めそして「6」が出ました。このとき
  の確率はどうでしょうか? 「超能力を使わない限り狙った数字を2
  回連続して出す確率は1/6×1/6=2.78%」です。これならどうでしょ
  うか? 人によっては偶然ではありえないと考える確率かもしれませ
  ん。しかし疑い深い研究者は続けて数字を指定し,そして超能力者は
  その数字を出し続けました。結局「超能力を使わない限り狙った数字
  を連続5回出す確率は0.00013%」となりました。

  この確率は「99.99(≒100−0.00013)%は偶然では発生しえない」と
  いうことを意味します。

  さて篠はこの確率からすればこの人についてどう判断するかな?

篠:いかさまである可能性が完全にないならば……偶然で起きる可能性が
  99.99%であるならば最初の仮説「超能力を使わない」が否定される
  でしょう。すなわちこの人は超能力者である,と言えます。

綾:この超能力者の例のように「帰無仮説の条件下で偶然発生する可能
  性」の確率を求めるの。それが『「A=B」の条件下で「A≠B」という
  現象が何%で発生するか』の意味ね。
  そしてその確率が何%以下であれば「偶然」という考え,すなわち
  「帰無仮説」を否定することにするのね。

卓:一般的には「5%」というのが普及した基準となっています。この基
  準は有意水準といいます。

篠:今回の「t 検定」では「確率=43.96%」となっています。これは
  帰無仮説「『A=B』の条件下で『A≠B』となる確率が43.96%→偶然
  でも43.96%の確率で発生しうる現象なので決して珍しくはない」と
  なり「確率>有意水準」で《有意差なし》と結論を下します。

  そうすると統計法はその現象が珍しいかどうかで判断するわけです
  ね。

綾:そうね。その意味では「t 検定」「相関分析」を始めとする統計法で
  算出される「確率」とは「有意差が偶然起きる可能性」を示している
  といえると思うわ。

卓:このように統計的研究では仮説を立て検証・検定を行うという作業が
  中心的となります。この作業を「統計的仮説検定」といい,下の図に
  その過程をまとめました。

=============================================================
□■統計的仮説検定の手順概略■□

(1)採用したい対立仮説,及びそれと対立する帰無仮説を立てる。
(2)有意水準(α)を設定する。通常は「α=0.05(5%)」を設定。
(3)帰無仮説に基づく現象の確率を計算する。
(4)算出された確率と有意水準を比較する。
  ・確率<有意水準 ⇒ 《有意差あり》
  ・確率>有意水準 ⇒ 《有意差なし》
=============================================================

  今回は内容的に随分長い物となってしまいました。
  専門用語としては「母集団」「標本」「帰無仮説」「対立仮説」「有
  意水準」を中心に扱いましたので,復習をする場合にはこれらの用語
  を思い浮かべて下さい。

篠:でも今回はたくさんの事柄を扱いすぎた気がします。これではすぐに
  忘れてしまいそうです。

綾:篠と同じような感想をもったあ・な・た。慣れてくると今回扱った内
  容は徐々に忘れていきます。原理的な事柄を扱っていて,では実際の
  場面でここまで意識しているかというと,必ずしもそうじゃない人も
  それなりにいるわね,残念ながら。

  今回の話を初学者レベルに極限まで要約してしまうと

  ・母集団を推測するときには統計法を使う
  ・「確率」は偶然に起きる確率なのであまりにも珍しければ偶然と
   考えない

  多分このぐらいまで絞れちゃうんじゃないかしら?

卓:いやいくら何でもそこまではならないだろう。流石にそこまで絞られ
  てしまうと一生懸命説明した僕としては虚しいし。
  でも最低限が綾姉さんの挙げたポイントであるのは確かです。
  「統計法にまだ全然慣れていない」という人は今回はさらっと読み飛
  ばして,ある程度慣れたらもう一度戻って下さい。

綾:それじゃあ今回はそろそろお終いかな。
  皆さんお疲れさまでした。
  感想・意見・要望などのメールやBBSへの書込を卓が結構欲しがって
  いたのでよかったらお願い。

卓:それでは次号でまた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▽次回予定△

 そろそろ「t 検定」の種類について説明しようと思います。

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