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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

発行日: 2006/9/26


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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成18年(2006年)9月27日(水曜日)
通巻第1567号  (9月26日発行)   
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 陳良宇・上海市書記が失脚。胡錦濤、ついに「江沢民残党」を一斉追放へ
    政治局員の失脚は11年ぶり、政治激変の兆候か
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 絶大な権勢をほこる中国共産党・上海のトップがひっくり返ったのである。
 筆者が兼ねてから予想してきたとは言え、ピッチが早い。これで前国家主席の江沢民「院政」時代は完全な終わりを迎えた。

 直前の八月まで、胡は江沢民を二階へあげて、褒めそやしている内に梯子をはずした。
 すなわち『江沢民選集』を出版させて、各行政単位の末端にまで強制的に買わせたから、その印税だけで4億元とも言われる。
江沢民は有頂天だった。
 狙いは江沢民を油断させ、不断からゆるい上海派の団結力をそぐことに置かれていた。

 陳書記失脚で、いまのところ報道されているのは上海市の社会保険基金をめぐっての汚職事件だが、この背後には常に共産党同市トップの陳良宇・党委書記(党政治局員)の陰がちらついていた。
 この一味が横領したカネは40億元とも言われている。

もとより上海不動産のバブル化の黒幕も陳書記だが、胡錦濤は、念入りの捜査を重ねさせて、ようやく党は陳書記を抜き打ち的に解任したのだ。
捜査したのは上海の検察でも公安でも警察でもない。中央直属の「党中央規律委員会」。

「つまり陳良宇一派の存在が胡の政策遂行に障害となると判断したからであり、それ以外に現職の政治局員の失脚はありえない」(NYタイムズ、9月25日付け)。

しかも次のターゲットは黄菊(前上海市長、江沢民の番頭、現在政治局序列六位)であり、黄夫人はすでに拘束されている。

陳良宇書記も黄菊も江沢民・前国家主席に連なる「上海閥」の最有力メンバーだ。
現職政治局員の解任は江沢民の最大の政敵だった大物、陳希同・元北京市党委書記が汚職事件に関与したなどとされて解任以来、11年ぶりの「大事件」だ。陳希同は内蒙古の刑務所に送られ、まだ収監されたまま。

日本のマスコミは「胡指導部の発足以降、汚職事件に絡む最も高い地位の幹部の処分で、腐敗問題に厳しく臨む胡政権の姿勢を打ち出した」などと言っているが、これは本質ではない。


▼権力の内部争いが、ドラマの本質である

陳良宇は書記に就任する前は「上海市長」だった。
この市長時代に不動産バブルの影で業者の周正毅と組んで大儲け、一連の上海派のスキャンダルの元締めと言われた。
 民間で官と癒着し不動産投機で巨額の汚職をおこなった主犯は民間デベロッパーの周正毅だが、この周が拘束、逮捕、起訴と進むにしたがって陳市長の弟(陳良軍)と市長夫人の関与が取りざたされ、失脚は時間の問題と言われていた。このとき市長は韓正に変わったが、陳良宇は失脚どころか「大出世」を遂げて上海市書記になったのである。

 つまり上海でトップの位置についたのだから、背後で院政を敷いていた江沢民の保護がなければ、あり得ないことだろう。

 香港の雑誌『開放』(8月号)によれば陳良宇書記には最近、「美人女子学生が愛人」と噂された。ところが陳書記の事実上の愛人は上海大学保衛第一派出所所長で尤麗分という中年の女性らしい。

 同じく江沢民の子分、黄菊(政治局員、序列6位)は末期癌で中央政界から退場するのは時間の問題といわれる。
醜聞の元凶は夫人の余慧文だ。
余は上海の不動産富豪の張栄坤(中国富豪ランク46位)と手を組んでのスキャンダルが絶えず、中央規律委員会が隔離審議にはいった。
 とくに張栄坤は不動産、家具製造のほか高速道路企業を経営、これは上海と杭州を結ぶドル箱路線。その買収の過程で賄賂など巨悪の証拠があるとする官製情報が盛んに流れている。

 このようなトップの志気の緩みは軍の腐敗を生む。
最近も海軍ナンバー2だった王守業の失脚が伝わり、ついでオリンピックを控える首都で北京市副市長の劉志華が失脚した。
 背後にある胡のキャンペーンは「反腐敗」が看板、実態は守旧派の排除なのである。

 ついで胡錦濤は天津市のトップ(共産党委員会書記)の張立昌(政治局員)をコーナーへ追い込んだ。これも検察を越えて、いきなり党直属の中央規律検査委員会が捜査に乗りだした。

 上海派排除のために「暴動を政治利用」しているのも胡錦濤である。
 イアン・ブレマー(リスク管理専門家)は「ヘラルド・トリビューン」(7月15日付け)への寄稿で、「胡錦濤が暴動の統計をいきなり公開した大きな理由は上海派の残党狩りである。前任者江沢民時代にこういう社会不安をあらわす数字の公表はなかったから」。

 守旧派となった上海派の巻き返しは一時凄まじいものがあった。
胡の右腕、温家宝一家の財務スキャンダルが西側マスコミに漏れるのは、復讐劇の一環だ。
温首相の長男、温雲松の株投機、張培莉夫人と大手保険「平安保険」との異常な関係など嘗ての李鵬首相夫人のインサイダー取引黒幕説を彷彿とさせる。
 ともかく、こうした政争に身の安全をはかって急速に胡に近づいたのは、嘗ての江沢民の右腕・曾慶紅(序列五位、国家副主席)だ。 


 ▼これだから面白い中国の奥の院の政争

 本質に横たわるのは「三国志演義」的な血みどろの権力闘争である。
  中国の奥の院で展開される熾烈な権力闘争は常態であり、決して止むことはない。

 近年の特色は、単に軍権を誰がおさえるか、という基本動向をウォッチするだけでは実態は判らない。改革開放以来、多彩な枝が増えて、誰が率いる、どの派閥が、最大の財力を扶植できるかという視点が中国政治を解析する際に重要なのだ。

 中国の派閥は従来的には親族および同郷のコネクション重視だった。
共産主義と言っても人間集団であり、伝統的体質をすぐに脱皮できる筈はない。地方軍閥の群雄割拠という特質は三国志以来、不変の原則だ。

 中国共産党のトップ・胡錦濤は安徽省出身だが、学閥は清華大学で人脈は共産主義青年団(これを「青紅幇」という)。
 ちなみに温家宝首相は天津出身。前主席の江沢民は上海、トウ小平は四川省、毛沢東は湖南省出身。朱容基前首相も台湾野党指導者の宋楚諭も湖南人だ。
 ところが従来の地域閥の空間を越えて胡錦濤は「青紅幇」を中軸に活かし、「上海派」の排除を陰湿に展開してきた(この場合の「上海派」とはビジネス利権に繋がる江沢民前主席の利権集団を意味する)。

 胡錦濤は人事権を巧妙に行使し、守旧派分断を図った。
 最初は香港の行政長官更迭だった。
 富が集中する香港を動かしてきたのは旧イギリス利権と結んだ広東閥と寧波人脈が主流だった。
董建華前行政長官は包玉剛らの海運人脈からでた江沢民派だった。江沢民が引退した途端、董は寧派人脈=上海閥をきらう胡錦濤によって行政長官の椅子から引きずり下ろされた。

97年の香港返還から九年間、香港の自治は窒息寸前。中国の影響力がつよまり、ビジネス界でも民主化グループは雲散霧消、マスメディアも殆どが北京寄りにスタンスを変えた。民主化の象徴として高い人気を誇るアンソン・チャン女史は次期香港行政長官には立候補しない、と表明した。

 「いまの選挙のルールは、はるかに民主化のプロセスから離れており、民主化を願う人々を失望させるだけのゲームの決まりを作ったようなもの」とアンソン女史は不出馬理由を述べた。(NYタイムズ、9月25日付け)。

アンソン・チャンは中国返還記念日(7月1日)の民主化デモに参加した。陳方安生女史は北京に対して物怖じせず、率直な発言をすることでも有名で、昨年12月の民主化デモにも参加し、普通選挙の全面導入を訴えた。
 その彼女が香港の未来に暗いヴィジョンしか抱けないほどに香港の経済も政治も希望を失ったわけだ。

香港特別行政区政府は、中国の覚えめでたき曽蔭権(ドナルド・ツァン)が行政長官を2005年6月以来務めている。かれは錦濤派と見られている。

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(休刊予告)小誌は取材旅行のため9月29日から10月2日まで休刊です。
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 ▼人民解放軍の軍権掌握は?

広東人は上海人が大嫌い。
だから広東人が主体の香港のレストランでは、上海人と同席したがらない。これは蒋介石に守られた折江財閥が、共産党を嫌って香港へ逃げ込んだあたりから香港地元の広東人と食事、文化、作法などで様々な軋轢を生んできた背景にもよる(詳細は拙著『出身地でわかる中国人』(PHP新書を参照)。
そうした広東人の心理を絶妙に突いて、胡錦濤が搦め手で仕掛けたのだった。

 さらに過去二年間、胡錦濤は人民解放軍幹部の人事調整を矢継ぎ早に行ったが、その特色は江沢民時代の”反日派”を引退へ追い込んだことだ。
 「軍事外交の顔」といわれ、反日の急先鋒だった熊光楷副総参謀長(大将)を事実上の引退に追いこみ、後任に章沁生少将を抜擢した。ついでに核兵器先制使用発言の朱成虎中将(朱徳の息子)も更迭。

 海軍ナンバー2だった王守業の逮捕は、胡が軍の綱紀粛正を厳密に実行に移したことを示している。
 これまでの共産党のなかで、軍の犯罪に手をつける指導者はいなかった。
むしろ前任の江沢民は軍のおおっぴらな副業に目を瞑り、いや、そうした軍の人脈と妥協を重ね、大将の辞令を62人も濫発して、江派を軍の内部に扶植した。

 いまも人民解放軍にすくう反胡錦濤派は根強く、かれらを追っ払う手段として胡は「反腐敗キャンペーン」と「任務の遂行」(職務怠慢を罰する)を掲げ、実際に軍幹部を逮捕することを躊躇せず、さらに職務怠慢の幹部にも厳罰で臨んだ。

 軍の機密を米国と台湾に売る売国的軍人の輩出で、これもモラルが弛緩した結果、一層の軍規の引き締めにも臨む。

安徽省で数ヶ月前に起きた軍用機の墜落事故は、寒気団のなかを長時間飛行を命じたのが原因だった。
胡錦濤は七月に南京軍管区空軍司令員を更迭、また江蘇省での台風被害出動で兵士50人を監督不手際で死亡させてしまった責任を問うて隊長を更迭させた。


 ▼軍の腐敗摘発も、胡の軍権掌握のプロセス

 解放軍成立以来、「陸軍偏重」型だった人事も大幅に改善され、空、海軍の幹部が大量に抜擢された。
総政治部主任補佐の劉振起中将は副主任に昇格、後任には童世和・海軍政治部主任(中将)。空軍副司令官を務めてきた李買富中将は総後勤部副部長となった。

 江沢民は軍歴がなかったため将軍ポストを六十二名も乱発し、辞令交付を江沢民立ち会いのもとで行い、軍の最高幹部につぎつぎと恩義を売って軍権を表面的に掌握した。
 代償として軍のタカ派の暴走を黙認することになった。その結果が台湾への強硬姿勢と反日暴動となったのだ。

 軍幹部に残存する強硬派の代表格は李先念元国家主席の女婿、劉亜州だ。
その劉亜州が中心となって昨年秋、胡錦濤への質問状をつきつけた。事前に「太子党」を巧妙に根回した劉亜州は反胡錦濤派の頭目とされた。
 胡執行部はこの劉亜州グループの排除になかなか踏み切れなかった。
 胡は周辺を徐々に、やがて大胆に青紅幇で固めだした。胡の右腕、李克強(遼寧省書記)が次期総書記の最右翼とされるほか各行政単位の副省長、副市長クラスに大量の胡人脈を抜擢し、守旧派の外堀を埋めた。

 しかし頭でっかち共産主義青年団の実力だけでは限界があり、「老人キラー」と言われる胡錦濤は、党の長老たちを活用する。この作戦の切り札が太子党メンバーだ。
 しかし「太子党に近づいたと見せかけながら新しく十二人の大将を任命したが、そのなかでたった一人しか太子党は含まれていなかった」(ロイター、7月31日)。
  つぎに胡が使った手口は「反腐敗キャンペーン」の演出により、政敵をあぶり出し、とどのつまりは上海派の排除である。


 ▼次の狙いは江沢民の右腕、賈慶林(序列四位)

 八年前、「アモイ密輸」という事件があった。
福建省党幹部、軍、警察、税関を巻き込んでの一大密輸スキャンダルで福建省書記だった賈慶林とその妻・林幼芳(当時、福建省外国貿易局党書記)が黒幕と言われた。
 
党、軍、地元業者がグルとなって大がかりな密輸を黙認し(一説に軍艦が密輸船を擁護した)、その中心にいた頼昌星の企業「遠華集団」が大儲け。
だが「黒幕」といわれた賈慶林は爾後も大出世を遂げて胡錦濤政権のナンバー4(政治局常務委員序列四位。政治協商会議主席)である。

 当時の軍の実力者は劉華清と遅浩田である。
この最高軍幹部も遠華事件との関連がさかんに言われた。そこで当時、軍権を掌握できていなかった江沢民が巧妙に政治利用。二人を引退に追い込んだ。また李鵬派の羅幹(現在政治局員、序列九位)を通じて盛んに暴露を奨励した。
というのも李鵬派がライバルの賈慶林(江沢民の家来)の追い落としを画策していたからで、この第三派閥活用によるバランス維持といった、錯綜するパターンを胡錦濤は適用させている。このあたりのノウハウは自民党総裁選挙の派閥の動きを連想すればわかりやすいだろう。
 
 こうした環境のなか、胡錦濤は中断してきた北戴河会議を今年から再開し、来年の十七回党大会への布石を打ち始めたのだ。

 一方でアモイ事件の主犯・頼昌星をカナダから強制送還させ、裁判で旧江沢民派の密輸との関連を暴くとしており、江沢民派残党狩りが意外に迅速に進んでいることを伺わせる。
 賈慶林失脚は時間の問題と言われている。

 来年秋に予定される第十七回党大会を前に「65歳定年を厳格化して、江沢民にいまだに忠誠を誓う軍幹部を一斉に退任に追い込み、第四世代から新たに28人を選んで中将に任命する段取り」(ジェイムズタウン財団「チャイナブリーフ」、9月21日付け)とする予測が急速にひろがっている。

 李克強、王兆国らに注目があつまっている。
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