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本日発売:週刊アカシックレコード030807

発行日時: 2003/8/7

■中国vs.製薬企業〜週刊アカシックレコード030807■
03年2月、欧州の巨大製薬企業R社が、自社製の薬品が中国南部で流行中のインフルエンザ肺炎(のちに新型肺炎SARSと判明)に効く、と誤報を流し、広東省で薬価の暴騰を招き、住民をパニックに陥れていた。その5か月後、R社が元々エイズ治療薬として販売していた別の製品Vが、SARS治療にも使えることが判明した。但し、Vはエイズ治療薬としては値段が高すぎる、とブラジルなどの途上国から非難され、値引きを余儀なくされていた。

【本日発売】
筆者・佐々木敏の小説デビュー作『ゲノムの方舟』が、本日03年8月7日、文庫になって再登場します。例によって、紀伊國屋書店・新宿本店のベストセラーランキングをジャックする「桶狭間の奇襲戦」を行いますので、新宿周辺においでの方と、宅配便での購入を希望される方は、宜しく御協力下さいませ。尚、新宿本店においでになる方はあらかじめ

Tel: 03-3354-0131 

に『ゲノムの方舟・文庫版』の在庫の有無を御確認下さい(筆者は7日夜に行く予定です)。
「桶狭間」は → < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/genome/okehaz.html#mail >  
版元・価格は → < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/genome/cntnt.html#cover >

[文庫の表紙は単行本と違います。]
[単行本と区別するため『ゲノムの方舟・文庫版(上)(下)』とご注文下さい。]

【佐々木敏の小説『ラスコーリニコフの日』 本体 \1,800+α】
最新の表紙は → < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/raskol/cntnt.html#cover >
宅配ご注文は → < http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d01/sinjyuku.htm >
■中国vs.製薬企業〜シリーズ「SARSの方舟?・だれがSARSを作ったか」(2)■
【前回 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/genome/sars_r.html > より続く。「シリーズ・SARSの方舟」全体では8回目。】

03年7月15日、東京医科歯科大学と京都大学の研究グループは、欧州の某巨大製薬企業(R社とする)が、日本の大企業(J社とする)などと共同で開発したエイズ治療薬ネルフィナビル(商品名は別にあるが、Vとする)が、SARS(重症急性呼吸器症候群、新型肺炎)の治療に「すぐに」使える可能性があることを発見した。同日、R社は、SARS患者がSARSを発症する前の、潜伏期間中でも感染の有無を検査できる、画期的な検査キットを出荷すると発表。突如R社は、治療、検査の両面でSARS関連ビジネスのトップに立つ可能性を示した。
このシリーズでは、SARSウイルスがR社によって人工的に作られたかどうかを検証している。

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   http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/dragon/cntnt.html

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宅配(本体\2500+α)でご注文 → < http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d01/sinjyuku.htm >

●貧困国 vs. 製薬企業●
R社の商品V(ネルフィナビル)には「負」の歴史がある。貧しい発展途上国のエイズ患者や、彼らを支援するNGO(非政府組織)から、その売り方を非難されてきたのだ。

R社は、Vの開発には莫大な投資をしたのだから、Vの発売当初は当然、それが回収できるように「適正に」Vの価格を設定した。が、その価格は、エイズ患者の多い途上国(とくに、サハラ以南のブラックアフリカ諸国)にとっては、到底購入不可能なほど高かった(01年春までに、途上国向けの値下げが行われたが、それでも患者1人あたり年間3,087米ドル、約36万円)。

おもなエイズ治療薬(抗エイズ薬)としては、米メルク社のインディナビルとR社のVがあるが、それぞれの副作用の特徴から、途上国ではインディナビルへの需要をVのそれが大きく上回っており、V以外に選択肢のない国が多い(アフリカ日本協議会「AJF」ホームページ 02年7月「ダーバンからバルセロナへ 全てのHIV感染者への治療実現を」 < http://www.ajf.gr.jp/hiv_aids/appeal/fdtb-ja.html > )

にもかかわらず、R社の設定価格が高いため、多くの途上国のエイズ患者がVを入手できずに死んでいく、という現象……すなわち、R社の先端バイオ技術を「使わせない」ことによって人を殺す「消極的生物兵器戦争」(ネガティブ・ウォー、消極戦。これは筆者の造語なので、拙著『ゲノムの方舟・文庫版(上)』第一章の註を参照)が、深刻になっていた。

途上諸国とNGOはR社の「ネガティブ・ウォー」に怒り、アフリカほどではないがエイズ患者の多いブラジルでは、01年春、政府が、R社のネルフィナビル(V)に対する特許を無視して類似商品(コピー薬)を製造することを国内の製薬企業に認可すると宣言。これにあわてたR社は、途上国向けVの価格をブラジルに限って、1人あたり年間3,087米ドルから3割引きの2,101米ドル(約24万円)にすると発表し、さらに02年4月には、ブラジル以外の途上国(最貧国およびサハラ以南のブラックアフリカ諸国)向けのVの価格もほぼ同額まで下げた。

ブラジルは、最貧国でもサハラ以南でもないが、総人口1億7602万(エイズの生存患者数54万)の大きな国内市場と、コピー薬を製造できるだけの技術力を持っていたがゆえに、Vの大幅な値引きを勝ち取ることができた(AJF前掲記事)。

そして、R社(の株主たち)にはここで、投下した資本に見合わない「不当な」安値を強いられ、「逸失利益」が生じた。R社の経営者は当然、いつかこれを取り返さなくてはならない。

とくに、R社とともに00年5月の発足当初からエイズ治療薬への「アクセス促進イニシアティブ」(AAI)に参加してきた米ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社が別のエイズ治療薬に関して、サハラ以南の最貧国には割引価格を設定しているのに、中南米諸国に対しては「毅然として?」割引を拒否していることから(AJF前掲記事)投資家の目にはR社のブラジルへの態度は「弱腰」と映るだろう(もっともブリストル・マイヤーズ・スクイブ社はべつに「毅然としていた」訳ではなく、ただ、同社製品のコピー薬を造るのが、中南米諸国には技術的に難しかっただけかもしれないが)。

【AAIについては、日本製薬工業協会(JPMA)ホームページ02年7月4日「IFPMA(国際製薬団体連合会)、G8参加国政府首脳に対し発展途上国での医薬品アクセスに関する製薬産業の貢献をアピール」の添付資料 < http://www.jpma.or.jp/07press/pr/pr-26_3.html > を参照。】

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●中国 vs. 製薬企業●
エイズ患者は、ブラックアフリカ、中南米など黒人の多く住む地域に多い( < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/genome/sars_r.html#table > )

国   名 推定生存患者 /             推定総人口 【成人のエイズ感染率】
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ボツワナ   29万(99年) /      159万1232(02年7月) 【35.8 % (99年) 】
南アフリカ 520万(00年) /     4364万7658(02年7月) 【19.94% (00年) 】
ブラジル   54万(99年) /  1億7602万9560(02年7月) 【 0.57% (99年) 】
イ ン ド 370万(99年) / 10億4584万5226(02年7月) 【 0.7 % (99年) 】
中   国 125万(01年) / 12億8430万3705(02年7月) 【 0.2 %以下(00年)】
タ   イ  75.5万(99年) /     6235万4402(02年7月) 【 2.15% (99年) 】
米   国  85万(99年) /  2億8056万2489(02年7月) 【 0.61% (99年) 】
日   本   1万(99年) /  1億2697万4628(02年7月) 【 0.02% (99年) 】

(資料:米CIA「The World Factbook 2002」 < http://www.cia.gov/cia/publications/factbook/index.html > )

アジアは感染率では、ボツワナ、南アフリカなどブラックアフリカ諸国に遠くおよばないものの、総人口が大きいので、インド、中国などではエイズ患者の絶対数が多い。両国はコピー薬製造も得意としているので、ブラジルと同様の立場でコピー薬の製造を視野に入れている(日経新聞02年11月28日付朝刊「製薬特許権を緩和 WTO新制度案」)。

上の表の如く、エイズは、全アジア的、全世界的な病気であり、「その治療薬を安い価格で患者の手に」という国際世論は広範な裾野を持ち、途上国政府にも先進国のNGOにも支持されている。だから、いずれ中国も「ブラジル並み」に値引きされたV(ネルフィナビル)を手に入れるだろう………と楽観してはいけない。

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03年7月15日以降、V(ネルフィナビル)を取り巻く情勢はがらりと変わった。
いまやVは、ただのエイズ治療薬ではなく、SARS治療薬でもある。
しかも、SARS患者は、エイズ患者と違って、インドやアフリカやブラジルにはほとんどいない。SARSは、02-03年冬季の、最初の流行では、中国、香港、台湾、シンガポールの中華文化圏だけで世界の患者総数の9割を占めるという「人種特異性」のある病気だった。

このうち、香港、シンガポールの所得水準は旧宗主国・英国に勝るとも劣らず、台湾も同様に豊かな国だ。
また、中国も、ブラジルやボツワナのような「貧しくてかわいそうな国」とはだいぶ趣きが違う。

03年11月、中国は国産有人宇宙船を打ち上げ、米露に次ぐ史上3番目の有人宇宙飛行国となる予定だ。もちろん、宇宙開発技術はすべて軍事技術であり、米国が同盟国と、人工衛星や精密誘導技術を駆使して開発中のミサイル防衛(MD)構想に対抗するためのものだ。つまり、中国は軍拡を宇宙にまで広げ、その実力を誇示して米国と対決する姿勢を示し、米国をはじめ世界を威圧しようとしているのだ。

SARSの次の流行は、おそらく03-04年冬季、つまり03年11月以降だ。「順調に」行けば、世界は今年(03年)後半、中国の「宇宙軍拡」のニュースあと、中国でのSARSの再流行の報道を目にすることになる………その場合「かわいそうな中国」に同情する国際世論は、はたして起こるだろうか?

中国は日米など先進国から莫大な貿易黒字を稼ぎ、08年には北京五輪の開催も控えており、さらに(台湾を実効支配していないくせに)台湾住民が中国から独立する意志を明確に示したら武力で制圧する、として台湾海峡に弾道ミサイルを450基も並べて威圧している(産経新聞03年8月1日付朝刊7面)。どう見ても中国は、成人のエイズ感染率が4割近い、貧しい非核保有国ボツワナのような「かわいそうな国」ではない。

となると、中国がボツワナなどと「共闘」して、SARS治療薬としてのV(ネルフィナビル)の値引きを求める運動をする、という構図はとても成り立ちそうもない。おそらく世界のNGOも「宇宙軍拡」を進める中国には同情しないだろう。R社にしても、アフリカやブラジルの場合と違って、中国に関しては、製品価格を値引きすべき人道上の理由はない、と判断するだろう。高値を吹っかけて儲けるなら、国際世論対策上も、ボツワナより中国から儲けるべきなのは明らかだ。

まさに、製薬会社から見て、中国は、ネガティブ・ウォーの格好の標的だ。R社(の株主たち)は、アフリカ向け、ブラジル向けの値引きで生じた「逸失利益」を取り返すチャンスを、中国に見出すだろう。

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●中国の失敗●
ただ、そうは言っても、中国にはコピー薬の製造技術はある。中国は03年4月に完了した国際協力プロジェクト「ヒトゲノム解読計画」にも、米英日独仏とともに、分担率は最下位ながら参加しており(分担率は米59%、英31%、日6%、仏3%。残りは、独中はあわせて1%。フォーリン・プレスセンター ホームページ 03年4月24日 < http://www.fpcj.jp/j/fshiryou/jb/0321.html > )一定のバイオ技術は持っている。

たとえ国際世論の支持がなかろうと、中国はR社を「Vを安く売らないのなら、中国国内におけるR社の特許を無効にして、国内企業にVのコピー薬を造らせるぞ」と脅すことはできる。

ところが、03年2月以降、この「恫喝」は非常にやりにくくなった。それは、あの奇妙な事件のせいだ。
それについては、次回。

【次回は「中国のバイオ敗戦」の予定。キーワードは「ネガティブ・ウォー」(この言葉については拙著『ゲノムの方舟・文庫版』第一章の註を参照)。】
(敬称略)

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