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ペルソナ:週刊アカシックレコード021115
発行日時: 2002/11/15■政治家のペルソナ〜週刊アカシックレコード021115■
TV等での言動から察すると、評論家の田原総一朗氏は小誌の読者である(らしい)。が、「ペルソナ」を単なるタテマエと勘違いし、政治家が立場(ペルソナ)によって言動を変えることを「不誠実」と誤解している(テレビ朝日『サンデープロジェクト』2002年10月6日放送「石破新防衛庁長官に聞く」)。
彼のようなフリーの評論家や主婦など組織の一員でない者は「ペルソナ」が理解できず、政府・政党組織の一員である政治家の評価をあやまる。たとえば、ミサイル防衛(MD)の研究を推進する小泉内閣の一員としてのペルソナを無視してMDについて勝手な反対論を述べた、田中真紀子元外相への在任中の評価(人気)がその典型で、たとえMDについての彼女の考えが正しかったとしても、彼女の政治家としての欠格は明白だ(反対したければ辞表を出せ!)。
今週は、このことを御理解頂くために、『週刊東洋経済』2002年8月10-17日号の特集「改革者の光と影」に掲載された拙稿「大久保利通」を転載する。
【国家公安委員長経験者は逮捕されない】
2002年11月10日放送の『サンデープロジェクト』で、米国帰りの石原慎太郎都知事は「北朝鮮への人道援助のコメを転売して儲けていた自民党の大物政治家(匿名)」について小泉首相に注進したと告白。その「大物政治家」は常識的にはN元幹事長ですが、Nは国家公安委員長を経験し国家治安の最高機密に触れているので(かつて「皇民党ほめ殺し事件」の際、そのポストを経験した小沢一郎は無傷だったが、そのポストに就いていなかった金丸信は、副総理まで務めた大物にもかかわらず脱税で別件逮捕されて政治生命を絶たれた)北朝鮮コメ疑惑で追求されるのは、せいぜいM元首相かK元外相かN元郵政相でしょう。
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■大久保利通〜非情の仮面(ペルソナ)に殉じた男■
【小誌2002年11月1日号で懸念を表明していた「第2の人質会見」を『週刊金曜日』が行った件については < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/y2002/nk.html#10 > を参照。】
●冷酷非情な男●
明治維新の新国家建設の功労者、大久保利通は、江戸時代末期、支配階級であった武士階級の最下層、薩摩藩の下級武士として生まれた。世は激動期だったので、身分社会は弛緩しており、彼はそれに乗じて薩摩藩の事実上の最高権力者だった島津久光に取り入り、藩政を専断できるほどの地位に引き上げてもらって、新しい権力者となった。
ところが大久保は、高い地位と権力を得ると、新国家建設のためと称して武士階級を否定する大変革「廃藩置県」に乗り出した。島津家などの大名が支配する藩をなくし、東京の中央政府が支配する県に置き換えたのである。このため、彼を抜擢してやった「恩人」である久光は権力も地位も失い、大久保を恨んだが、大久保は恩人を没落から敢えて救おうとはしなかった。
大久保には西郷隆盛という同郷の盟友がいた。2人はともに同じ改革の道を志し、相前後してともに低い身分から高い身分へと昇り詰めていった。西郷はカリスマ性と高い識見を持ち、それは2人がめざす改革に抵抗する旧体制派(アンシャンレジーム)を打倒するうえでは必要不可欠なものだった。旧体制派を倒す倒幕戦争が「改革派」の勝利で終わったとき、西郷はだれもが認める改革闘争の最大の功労者となり、国家的英雄となっていた。
が、大久保はこの「盟友」を攻め滅ぼした。改革から取り残された人々が新体制への不満を抱いて西郷をリーダーと仰いで武装決起したとき、大久保は好機到来と見て自らの権力を駆使し、決起軍の数倍の大兵力を討伐軍として情け容赦なく投入し、決起軍を圧殺、殲滅した。そして西郷は自殺に追い込まれた。
当然のことながら、恩人を裏切り、盟友を殺した大久保のような「人柄の悪い」成り上がりの権力者は人気がない。むしろ、彼に殺された盟友、西郷隆盛のほうが死後も、もちろん生前も一般庶民のあいだでは人気者だ。
が、大久保のような人物でなければ大変革はできない。
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●旧体制内改革派の限界●
改革者、変革者と言われる人物は古今東西大勢いるが、初志貫徹できる人ばかりではなく、途中で変節する例も少なくない。
たとえば「ペレストロイカ」というソビエト連邦の大改革に乗り出したゴルバチョフ大統領は、改革の過程で言論の自由や民主化を進めたが、その結果ソビエト連邦そのものを否定する世論が大きくなるにおよんで変節する。
この世論は、連邦を構成する15の連邦共和国のうち、とくにリトアニア、ラトビアなどバルト3国で強く、放置すれば他の共和国にも波及して連邦の解体につながる恐れがあった。
ゴルバチョフは民主主義に理解のある変革者であったが、同時に「ソビエト連邦大統領」であり「立場上」連邦の政府機構に乗った形でしか仕事ができない。連邦の解体は彼の政治生命の終わりをも意味したから、彼は1991年1月、上記の2つの共和国に軍事介入して民主化運動を弾圧。ペレストロイカに逆行する挙に出た。
他方、連邦が動揺する中、連邦構成共和国の1つ(といっても、ソ連の人口、面積の大半を占める最大の共和国である)ロシア共和国で、民主的な選挙で国家元首に選ばれたエリツィンは(ソ連領アジア部分の人口急増で白人が少数派に転落するのを恐れて)連邦解体を求める世論に後押しされ、リトアニアらの民主的な「独立」要求を支持し、ロシアの独立をも主張した。
最終的にエリツィンが勝って、ソ連は解体され、ゴルバチョフは権力を失うが、2人の違いは立場(ペルソナ)の違いである。ゴルバチョフはソビエト連邦という旧体制内部の改革派であったために、旧体制自体の否定につながる根本的な「構造改革」はできなかったのだ。
ゴルバチョフによく似た例を日本史で探すと、徳川慶喜があげられよう。彼は水戸家の当主、つまり将軍家の外にいる一大名にすぎなかったときは、他の大名(野党)とともに徳川将軍家(与党)とその幕府(政権)を批判し、改革を訴えていた。が、やがて自身が徳川幕府の将軍になるにおよんで、「将軍」というその肩書き(ペルソナ)を見た改革派諸大名から攻撃の対象とされ、倒幕戦争を仕掛けられて敗れ、ゴルバチョフ同様、晩年は権力を失って過ごすこととなった。
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●旧体制「外」改革派ならではの冷酷さ●
彼らと比較すると、大久保は圧倒的に改革を推進しやすい立場にあった。彼は、徳川幕府の一員でなかっただけでなく、幕府を倒して新政府ができると、いちはやく自身の出身母体(薩摩藩)を抜け出して新政府の高官(大蔵卿、参議、内務卿)としての肩書き(ペルソナ)を得て、武士階級の一員であることとも訣別した。これで、300年続いた徳川支配体制はもちろん、700年続いた武家社会をも容易に否定できる立場に立った大久保は、なんの遠慮もなく、もはや時代遅れになった武家社会のシステムを解体し、新国家建設に邁進することとなる。
他方、彼の盟友の西郷は、倒幕戦争には抜群の才能を示したが、新国家を運営するビジョンも能力もなかったので、1873年10月以降は政府を離れて在野にいた。そして、晩年に政府の肩書きがなかったがゆえに、周囲の不平士族(新国家建設に伴って失業した元武士)から反政府運動のリーダーたることを期待された。
人は他人から社会的価値を認められて初めて人となる(その認められる形を「ペルソナ」という)。不平士族から「かつて貴方の指揮下で戦った倒幕戦争の功労者が新政府に裏切られて路頭に迷っているのを座視するのですか」と言われれば、彼らの元上官であり、当時「英雄」の肩書き(ペルソナ)のあった男はこれを無視できない。もしも当時西郷が新政府の肩書きを持っていたら、断ることもできただろうし、不平士族たちもそもそも西郷を担ごうとはしなかっただろうが、立場上、当時の西郷は非政府(反政府)の立場で行動せざるをえず、1877年、ついに決起「させられる」。
もちろん新政府高官となっていた大久保は、新国家建設、武士階級消滅につながる政策を実行するはずだと周囲から期待され、本人もずっとその期待に応えてきたので(薩摩出身だから同郷の者たちの反政府の動きにも甘いのだろうという疑惑を払拭するためにも)いまさら「叛乱軍側に盟友がいるから」などの理由で叛乱鎮圧に手抜きをする訳にはいかない。そんなことをすれば、それまでの自分の人生を全否定することになる。
だから、2人は戦った。
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●変革者のペルソナ●
拙著『龍の仮面(ペルソナ)』は、2008年の北京五輪直前、中国で共産党支配の行き詰まりを打破するために軍事クーデターで政権を握ったものの、中華人民共和国の体制と版図を維持する「体制内改革派」に留まったために苦悩する、人民解放軍の青年将校たちを描いた政治小説である。このタイトルは、設定された政治上の舞台で登場人物たちの行動をシミュレーションしてみると、個人的な信念や心情よりも、個々人が背負う役割(ペルソナ)によって、その行動が決まってしまう、ということから生まれた。
現実の世界でもこれは同じで、ゴルバチョフや慶喜は旧体制の肩書きを持っていたがゆえに真の変革者たりえず、エリツィンや大久保はそうでなかったがゆえに徹底した改革を行いえた。エリツィンにはゴルバチョフよりも(非民主的な)独裁者型の傾向があるとされ、慶喜も徳川幕府消滅後の新国家体制への優れたビジョンがあったともされるが、そんなことは重要ではない。政治は1人でできるものではなく、周囲の人々や一般庶民からの支持は不可欠で、人々は政治家各人の肩書き(ペルソナ)に基づいて支持、不支持を決めるのだから、結局ペルソナは人柄や本心に優先するのだ。
たとえば、2001年、自民党の小泉純一郎代議士は「自民党をぶっこわす覚悟で」構造改革(不良債権処理や無駄な特殊法人の廃止・民営化)をやると公約して自民党総裁選に勝利し、自民党政権の首相となった。が、いままで何十年も特殊法人による公共事業で「族議員」を利権で潤してきた「あの」自民党の総裁という肩書き(ペルソナ)である。当然、自民党の族議員たち(改革への「抵抗勢力」)は「頼めば『自民党のために』改革路線を骨抜きにしてくれるだろう」と信じて彼を説得しようするし、彼も自民党総裁である以上、国政選挙では彼らを手勢(党公認候補)として率いて戦うし、国会での法案審議では(野党ではなく)彼ら族議員の賛成票をもあてにして説得を試みる、という形になる(この「説得」のプロセスは当事者にとっては必要不可欠なのだろうが、国家、国民にとっては単なる時間の無駄である)。
つまり、小泉は本来、慶喜やゴルバチョフと同様に「旧体制内改革派」にすぎず、旧体制(自民党)を「ぶっこわす覚悟」はあっても「実際にぶっこわす」ことはできないのだ。「抵抗勢力」を与党内から一掃して自分の理想どおりに改革を進めることなど、元々できる立場ではない(だから、あまり期待しないほうがいい)。
いつの時代も改革を徹底的にやろうとすれば、時代遅れになった旧い体制(システム)を壊し、代わりに新しいものを作ることとなる。だから、改革を進めれば、旧体制で恩恵を受けていた人々が(一時的か長期的かはともかく)路頭に迷うのは当たり前だ。すべての人の生活を思いやるような「人柄のよい」人物には真の変革はできない(「構造改革」とは本来、族議員の存在価値を否定してその政治生命を断ち、彼らがもたらす公共事業予算で潤っていた企業を倒産させ、その社員や家族をいったん路頭に迷わせることのはずだ。それが「かわいそう」などと思う者は構造改革などと口にするな!)。元々どんな政権もすべての人の生活を「思いやる」ことはできない。たとえば、近現代ドイツ史上完全雇用を達成した政治指導者は1人しかない(その1人とは、侵略戦争と大軍拡でドイツ国内に好況をもたらしたヒトラーである)。
まともな政権のもとではどうせだれかが必ず路頭に迷うのだから、たとえ多数の旧体制の人々が路頭に迷おうと、国家さえ路頭に迷わせなければ、あとでなんとか彼らを救える可能性が残る。が、逆に目先の失業者に同情して根本的変革を先送りすれば、失業者を救うべき国家のほうが危くなる。
だから、変革期の国家を率いる指導者は、冷酷非情でいいのだ。
1877年2月、西郷をリーダーとする薩摩不平士族の叛乱軍1万3000(最終的にはのべ2万4000)が九州で決起すると、政府の大久保らは徴兵制度や警察制度に基づいて集められ、火器と軍艦で武装した何倍もの近代国民軍(5万4000)を投入した。
武士の主たる武器は刀や槍であり、その使い方の習熟には長い歳月を要する。武家社会とは難しい武器の使用技術に習熟した特権階級の独裁社会である。だから、戦国時代に火器(銃砲)をいったん知った武士たちは、江戸時代にはいると自分たちの身分とプライドを守るために、この「民百姓でも簡単に使える」兵器を身分社会を否定しかねないものとして恐れ、封印した。
が、18世紀後半に、火器で武装した西洋の「黒船」がアジアに出没してアジアを侵略し、日本をも脅かすにおよんで、大久保らは、もはや武士の世を終わらせないと国は守れないと悟って、倒幕戦争から明治維新、新政府樹立へと突き進んだのだ。
だから大久保は、西郷らの決起を知ると、政府軍の艦船で九州を海上封鎖して「兵糧攻め」にし、倒幕戦争の過程で薩摩軍に負けた恨みを持つ旧幕臣や旧会津藩士まで動員して彼らに火器を持たせて近代的軽装歩兵に仕立て、圧倒的な大兵力で叛乱軍を殲滅する策に出た。立場上彼には、近代国家の軍隊が武士の軍隊よりも強いことを天下に証明してみせる義務があり、たとえ盟友を殺すことになろうと、倒幕戦争に功績のあった武士たちの存在価値を否定することになろうと、そのような「抵抗勢力」に遠慮して敗北することは許されなかった。彼だけでなく、有能な政治家が彼の立場にあれば、だれでもそうしたはずだ。結局その年9月、西郷が死に、大久保が勝ち、新国家が勝ち、武家社会は完全に息の根を止められた。
翌1878年5月、大久保は東京・紀尾井町で出勤途中、乗っていた馬車を不平士族6人に囲まれ、暗殺される。その馬車の中で、大久保は亡き西郷の手紙を読んでいたという。大久保の心の中では、西郷は最後まで盟友だったのだ。
大久保と西郷が戦う羽目に陥ったのは、ペルソナの違いにすぎない。ペルソナは、個々人の信念や心情を飛び越えて、人の行動を規定する。大久保は心底非情な人間だったのではなく、ただ非情な変革者のペルソナを演じていただけだったのだ。
(一部敬称略)
【この原稿は2002年6月に依頼されて7月1日に書き上げて東洋経済新報社に渡したが、その後、小泉内閣への筆者の評価は、ほんの少しだが、変わった。それは、2002年9月に不良債権処理の責任者たる金融担当相に竹中平蔵・経済財政担当相を(兼務の形で)起用したことによる。
竹中には小泉と違って「自民党員のペルソナ」がない。さんざん銀行から献金されてきた自民党の族議員ども(柳沢伯夫・前金融担当相ら)はホンネでは、銀行の責任追及につながる不良債権処理は永遠に先延ばしすべきだと思っているが、竹中は彼らの意見を聞く立場にない。自民党員でも国会議員でもない竹中は、任命権者の小泉に対してしか責任を負わないのだ。
小泉が竹中に経済政策を「丸投げ」しているのは事実だが、不良債権処理に関してはそれでいいのではないか。問題は竹中の「金融担当相のペルソナ」にはなくて、不良債権処理と平行して(インフレ目標でも補正予算でもなんでもいいから)デフレ対策をちゃんとやるべきなのに、なかなかその意志を明確にしない小泉首相(および竹中・現経済財政担当相?)のペルソナにあるのだ。】
追伸1:
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