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帰国者の亡命:週刊アカシックレコード021011

発行日時: 2002/10/11

■帰国者の亡命〜週刊アカシックレコード021011■
2002年10月9日、北朝鮮政府は自ら(の諜報機関)が拉致した日本人5人を、10月15日から2週間一時帰国させる、と発表し、日本側もこれに同意した。
が、もし帰ってきた5人のうち1人でも「このまま日本に残りたい」と言い出したら、どうなるか?……北朝鮮から見れば「亡命」にあたるこの事態への対応策は、日朝両国政府とも、いまからシミュレーションして準備しておくべきだが、北朝鮮側はそこまで計算せず、場当たり的に事を進めているようだ。

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■帰国者の亡命〜日朝とも拉致問題の「不測の事態」に備えよ■
【前回の「石原訪米の謎」 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/y2002/isihar.html#04 > の関連記事です。】

2002年10月9日、北朝鮮政府は自ら(の諜報部門の特殊機関)が拉致し(かつ、殺さなかっ)た日本人被害者のうち「生存者」とした5人を、10月15日から2週間一時帰国させる、と発表し、日本側もこれに同意した。

北朝鮮側は02年9月17日の日朝首脳会談で拉致を認めたにもかかわらず、拉致被害者の生死の状況についての詳しい情報もなかなか出さず(9月28日に訪朝して10月1日に帰国した日本政府の調査団に、ウソだらけの情報や「証拠物件」を提供)、また原状回復、つまり拉致被害者を日本に帰国させて「拉致前の状態(原状)に戻すこと」にも難色を示し、むしろ被害者家族を訪朝させて「幕引き」にしようとしていた。

これに対して、日本にいる拉致被害者家族の会(家族会)と、日本政府内の「対北朝鮮強硬派」である安倍晋三・官房副長官は「北朝鮮国内では『拉致生存者』は家族(配偶者や子供)を人質に取られて北朝鮮政府から脅迫されている恐れがあるので『本人の意志を問わず』彼ら全員をその家族とともに無期限で日本に帰国させよ」との要求をまとめ、これに応じなければ国交正常化交渉を進めないと主張して、国民世論(のなかの左翼を除く、おもに保守良識派)の幅広い支持を得た。

こうした日本の世論を見て、一刻も早く国交を回復して、その暁に得られるはずの何兆円もの「経済協力」をほしい北朝鮮政府は、家族(人質)は同行させず期限も2週間に限るという「条件付き一時帰国」を提案してきた。

この提案に対して「北朝鮮は、日本への譲歩を『小出し』にして、ごまかしで日本から国交回復とカネを引き出そうとしている」と警戒する声も、日本国内にないわけではない。

とくに、拉致被害者家族を「生存者5人」の家族(蓮池さんら)と、それ以外の「死亡者」(死亡の根拠はなし)の家族(横田さんら)に分断して、その発言力を弱めようという作戦である可能性もなくはない。

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●場当たり的犯行●
が、いまの北朝鮮は恐るるに足らん。
この「小出し」の分断工作が当初から計画されたものでないのは明らかだ。なぜなら、10月1日に日本の調査団が持ち帰った、生存者5名のビデオレターでは(内容は被害者家族のみに公開され、一般には非公開だったが)生存者5人は「日本に帰りたい」とは言えず、日本にいる家族に、北朝鮮に会いに来てほしい、と「言わされていた」。これは、北朝鮮当局が5人に施した洗脳や脅迫が万全ではなく「日本に帰ると、北朝鮮当局に都合の悪い事実をしゃべる恐れがある」と懸念していた(か、または、ひどい洗脳の事実を日本側に非難される恐れがある)からにほかなるまい。

が、だからといって、かたくなに5人を「帰さない」と言い続ければ、日本国民の北朝鮮への世論はどんどん硬化し、カネ(経済協力)は永遠にもらえそうもなく、それでは北朝鮮は国家として破綻してしまう(社会主義独裁体制による北朝鮮経済の崩壊と、それに伴う飢餓は相当に深刻で、もはや北朝鮮は「せっぱ詰まっている」ようだ)。

そこで、北朝鮮当局は9日になって「場当たり的に」、つい10日ほど前まで認めないことにしていた「生存者」の帰国を認めると言い出したのだ。

【この直前、米政府特使のケリー国務次官補が訪朝したが、ただ米国の要求を一方的(高圧的)に述べただけで「本誌既報のとおり」( < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/y2002/nk.html#04 > )米ブッシュ政権には元々米朝関係改善の意志がなかったことが明らかになった。もはや「経済的恩恵につながりそうな国」は日本しかない、という情勢になったので、北朝鮮当局は焦って場当たり的な譲歩に出たのではないか。】

●当事者能力●
かつて「親北朝鮮的な」主張を展開していた、進歩的文化人や某紙や某通信社の(元)記者のなかには、拉致被害者の心情ばかり重視して日朝国交正常化に反対するのは「感情論」であり、安全保障等の日本の国益のためにも(将来の拉致問題の解決のためにも)北朝鮮を孤立させず国際社会に迎え入れるべきで、そのために(拉致問題が解決せずとも)北朝鮮との国交交渉(と経済協力の提供)を急ぐべきだという「理性的な意見」を唱える者が多い。

筆者は、拉致問題こそ、北朝鮮が「国際社会に迎え入れるに足る国であるかどうかを試す試金石」と考えているので、このような「進歩的な」意見には同意しない。

それに、百歩譲ってその種の意見が正しいとしても、別の問題もあるのだ。
北朝鮮が日本人拉致を認めた9月17日以降、日本国内では、北朝鮮を邪悪、下劣な国とみなす「道徳的な」見方が支配的になったが、「善か悪か」という道徳的な見方とは別に「りこうかバカか」という、かなり重要な別の尺度もあることを、日本のマスコミは忘れてはいないだろうか。

つまり、たとえ北朝鮮が拉致問題を反省して善良な国になろうとしているとしても、政権のトップ(金正日)やその側近が、国際常識もわきまえない「バカぞろい」だったら、日本と国交を結んで日本からカネ(経済協力)をもらってもその使い方がわからず、結局事態はまったく改善されない、という恐れもあるのだ。

●中国の警告●
北朝鮮はこの02年9月下旬に、中朝国境の街、新義州特別行政区に「北朝鮮版香港」のような経済特区を設けて資本主義市場経済を実施し、日本など西側諸国からの資金を入れて経済的繁栄をはかる計画を発表した。

ただ、北朝鮮政府は、資本主義経済運営の実務がわかる者が1人もいない、という「超無能集団」なので、中国国内で幅広く事業を展開するオランダ国籍の華僑ヤン・ビン(楊斌)を、新義州特区の長官に雇い入れることにした。

ところが、北朝鮮政府の計画発表から2週間も経たない10月4日、中国政府は楊斌を脱税などの不正行為の容疑で身柄拘束して自宅軟禁にし、事実上、特区長官への就任を不可能にしてしまった。

これで、中国政府は「あんなロクでなしを長官にするとは…人を見る目が無い」とコケにし、北朝鮮政府に世界で恥をかかせたことになるし、(意図したかどうかはともかく、結果的には)日本などの第三国に向かって「北朝鮮のバカどもにカネ(経済協力)をやるのはカネをどぶに捨てるようなもの」と言ったことになる。

●北朝鮮側から見ても「賢くない」やり方●
「北朝鮮の外交手腕は(日本のそれより、はるかに)したたかだ」という評価は日本では、永年にわたり左右両派にあった。理由は、冷戦時代、国境を接する中国とソ連という2つの社会主義国家に対して「等距離外交」をとり、どちらの軍隊の国内への駐留も許さず、どちらの属国にもならずに独立自尊の社会主義路線を維持したからだ。

【ひるがえって、日本は国内に米軍の駐留を許し「米帝国主義」の属国になっているからダメだ、と日本の左翼は言ってきた……そのとおり、確かに属国だ。が、「属国日本」の国民は、日本国内で左翼が対米非難をできるほどの言論の自由と、世界第2位のGDPによる豊かさを享受している。他方、独立自尊で日本より「ごりっぱ」なはずの北朝鮮の国民は、言論の自由も豊かさも食糧もなく、どう見ても日本より不幸な状況にある。属国であるかどうかより、国民が幸せかどうかのほうが重要なはずで、国民の幸せを置き去りにして「独立自尊」を唱えること(攘夷)を、日本の左翼は「過剰なナショナリズム」と呼んでいたはずだ。】

しかし、楊斌の特区長官任命のお粗末や、拉致生存者の帰国をめぐる迷走ぶりを見ていると、「したたか」が聞いて呆れる。
日本の外務省の「ていたらく」もほめられたものではないが、北朝鮮政府もそれといい勝負ではないか。
これだと、たとえ日本の親北朝鮮派の左翼(たとえば社民党)などの勢力が健在で、北朝鮮(の金正日独裁体制)を助けるために行動できたとしても、結局助けようがないのではないか。

北朝鮮側から見て、9月17日の「平壌宣言」に(日本でなく)米国の強い要望である通常兵力削減を盛り込まなかったのは、正解だ(盛り込めば、軍を「リストラ」で追放されて飢え死にさせられると怯える何万人もの兵士が、叛乱を起こしかねない)。

また、拉致問題を自らの国家機関(の一部)の犯罪と認めながらも「宣言」に拉致という文言を入れず、なんら物証を伴わない安否情報で小泉首相をだまし(一時的にせよ)日本の首相と国民に「死者8人」と思い込ませたことも、外交的勝利だ。

が、そのあとの対応はいったいなんなのだ。
9月28日から訪朝した日本の調査団に対して、有本恵子さんの生年月日を間違えた死亡確認書を提出したり、松木薫さんの遺骨(と称するもの)をご丁寧に「二度焼き」してDNA鑑定が不可能になるようにミエミエの「証拠隠滅」をしたうえで渡したり(産経新聞02年10月6日付朝刊3面)……まったく、北朝鮮の外交官たちはまじめにやる気があるのか、と疑いたくなる「惨状」だ。

こんなことなら、拉致問題は、拉致の事実を認めるだけにして、以後は「ただいま調査中」でシラを切り通して時間を稼ぎ、あとは某紙や某通信社や、左翼政党や自民党の野中広務・元幹事長らの「親北朝鮮派」が日本の世論をだましてくれる……失礼、「理性的になるように」説得してくれるのを待つほうがよかったのではないか。

たとえ成功率が100%でなくとも、これに賭ける以外に策はなく、これでだめなら「あきらめる」べきではないか。ズルズルと日本側に「無計画に」譲歩を繰り返せば、日本側の要求はどんどんエスカレートする。拉致被害者のリストも「ボーダーライン」にあった疑わしい被害者(失踪者)も加わってどんどん増えるだろうし、下手をすれば、拉致、不審船(工作船)に続いて、90年代に起きた「あの」凶悪事件の背後関係まで認める羽目に陥らないとも限らない。

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●原因は無理な「かばい立て」●
それもこれも、独裁者・金正日をかばい立てしようとする「無理」に原因がある。
日本では戦国時代に「城主が切腹して城を明け渡せば、兵の命は助ける」という和睦交渉がよく行われた。
拉致事件の解決で、日本側に押し切られて場当たり的に譲歩するいまのやり方では、北朝鮮の対日外交交渉は確実に失敗する。
それなら「金正日は全責任を負って権力の座を降り、拉致の全真相を明かすから国交を結んでカネをくれ」というほうが賢明ではないか。金正日は、父金日成の死後数年は、国家最高指導者を意味するポスト(現在は国防委員長)には就いていなかったが、権力は保持していたのだから。共産主義独特の「ナントカ幹部会委員長」のようなポストを作って実権を握ったままそこへ退く(国防委員長と労働党総書記のポストを捨てる)とか、影武者を「自殺」させて世界の目を欺いて、ひそかにどこかへ亡命するとか……何か打つ手はあるはずだ。

このままでは王将を守るために、飛車も角も失い、にっちもさっちも行かなくなってから、結局将棋で負ける(政権を降りる)という「北朝鮮側から見て」最悪の事態になるのではないか。

日本としても「ソフトランディング」のために、北朝鮮の政府高官を外交機密費で買収して寝返らせるなどの交渉をするほうが、「どうやって、金正日政権(を存続させて、それ)と国交を結ぶか」と思い悩むよりはるかにラクではないか。

●「公的資金」注入の条件●
国交正常化が実現した場合、日本から北朝鮮に渡されることになっているカネ(経済協力)の財源は日本国民の税金、つまり公的資金である。

他方、日本の経済政策に関しては、不良債権処理を進めるために銀行に公的資金を注入する場合には、銀行の経営者たちは経営責任をとって退陣し、新しい有能な経営陣に交替すべきだ(経営責任の追及なくして公的資金の注入なし)という世論が、マスコミでは支配的になっている。

それならば「経済協力」という名の公的資金を北朝鮮に注入するにあたっては、その「経営責任」を明らかにし、現経営陣(金正日)に退陣を促すのは当然ではないか。

「銀行に厳しく北朝鮮に甘い」ということでは、日本の納税者は納得しないのではないか。

●帰国者の亡命●
さて、上記のごとく「したたかでない」北朝鮮当局には、最悪の事態をシミュレーションして現実的に対応することは、もはや不可能になっていることだろう。

9月末には帰国させないはずであった(つまり、洗脳や脅迫などの、北朝鮮に不利な言動を防ぐ「安全装置」が十分でない)「生存者5人」を急遽帰国させるにあたって、北朝鮮当局は、彼らの家族を北朝鮮国内で人質に取っているので、まさか5人のなかに「そのまま日本に亡命」する者はいない、と思っている……いや、どうか亡命しないでくれ、と祈っていることだろう。

が、よく考えてみよう。
帰国した生存者の1人または複数が、日本政府に「完全帰国」(亡命)を申し出て、日本政府がたとえばロシア大使館などの中立な場所で北朝鮮外交官立ち会いのもとで、生存者本人の「亡命」の意志と「北朝鮮に残されている家族(子供)を日本に呼びたい」旨を表明させ、それをロシア外交官が確認したら、どうなるか。

北朝鮮当局は一時帰国を認めると決めた時点では「いざとなったら人質(子供)を殺せばいい」と思っていたかもしれないが、北朝鮮の友好国の外交官の前で「子供を返せ」と言われたら、もう殺せまい。

まさか9月末の時点で生きていた子供たちが、10月になって急に有本恵子さんのように「ガス中毒で死んだ」とか「あわてて埋葬したら洪水が来て遺骨が流れた」とでも言うのだろうか……そんなことは、できないはずだ。

となると、北朝鮮当局は「子供たちは親と違って拉致されたわけではなく、ずっと北朝鮮にいたいと言っている」と言い訳するしかないが、「それなら子供たち本人に会わせろ」と、帰国した「亡命者」が、日本の国会議員らとともに「訪朝」したいとの希望を言い出した場合、北朝鮮はどうするのか? 子供たちの意志が本物であるかどうか(つまり、脅迫されているかどうか)は彼らの声を録音して声紋分析することでかなりわかるし、その場で録画したビデオ映像から表情を分析することも洗脳の度合いを見るのに役に立つ。

こうした面会や録音、録画を求められれば、北朝鮮は断りきれない事態になろう。

したがって、北朝鮮側は「5人帰したら、その家族まで帰す羽目に陥る」ことへの覚悟が必要だし、逆に日本側は、そういう願ってもないチャンスが来ることを想定して、声紋や精神分析などの警察の科学捜査の専門家を待機させて「最善の事態」に備えるべきだ。

間違っても帰国者に記者会見の席で「あなたは洗脳されましたか」とバカな記者が質問して時間を浪費するのを許してはならない(どっちにしろ「はい」と答えるはずはないのだから)。

すくなくとも、日本の警察当局は帰国者の声や表情をすみやかに分析し、洗脳、脅迫の可能性について発表し、その可能性が高いとなれば、それについて今後の日朝交渉で「善処」を求めなければなるまい。

そして「善処」、つまり洗脳、脅迫という「第二の犯罪」への謝罪と、生存者の「完全帰国」が実現しなければ、日本の国民世論は、ただちに国交交渉の打ち切りを求めよう。

それがこわくて、北朝鮮は将来、相当にぶざまな譲歩をするだろうが……それなら、いま金正日を排除して世界への悪事の全責任を彼になすりつけ「ポスト金正日政権」を正義の味方として世界にデビューさせたほうが簡単だ、と北朝鮮の支配階級の一部は気付きはじめているに相違ない。

ナチス・ドイツの末期には、叛乱将校たちの「ヒトラー暗殺計画」があったことを想起されたい。
(一部敬称略)

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  • 小説家。00年『ゲノムの方舟』(徳間書店)でデビューし朝日新聞など17紙誌が絶賛。ほかに産経抄が紹介した『龍の仮面』、NHK-BS『週刊ブックレビュー』で笑賛された『中途採用捜査官@ネット上の密室』など。

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