訪朝は米国の罠?:週刊アカシックレコード020924
発行日時: 2002/9/24■訪朝は米国の罠か〜週刊アカシックレコード020925■
「米国は近く北朝鮮との関係改善に乗り出すから日本も乗り遅れないようにしたほうがいい。但し北朝鮮には『通常兵力削減』を要求してくれ」
2002年9月12日の日米首脳会談で、ブッシュ米大統領が小泉首相をこのように「だました」と考えると、9月17日の日朝首脳会談の結果がうまく説明できる。だまされた小泉は対朝交渉をまとめようと焦って弱腰になり、北朝鮮の金正日総書記も「通常兵力削減」(事実上の退陣要求)から逃れるために焦って「日本人拉致」の事実を認めて謝罪した。
が、小泉も金正日も日本国民の怒りを買ったので、国交も援助も何も得られず、結局2人とも「敗北」するだろう。
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■小泉訪朝は米国の罠か〜日朝首脳会談の「アリ地獄」■
【今回は2002年9月3日の「トップ下」コラム 「こいずみホイホイ」 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/y2002/nk.html#01 > の関連記事です。】
●小泉と金正日、共倒れ●
2002年9月17日の日朝首脳会談で、北朝鮮の金正日総書記が日本人拉致を認めたのに、小泉首相が国交交渉の開始に合意したため、日本国民の怒りは沸騰し、日朝国交正常化はできず、北朝鮮はカネ(日本からの「過去の植民地支配の賠償」に替わる経済協力)はもらえまい。それでも北朝鮮は今後暫く(米国のイラク攻撃が終わるまで?)「もらえるかもしれない」と信じて対日、対米関係では「自制」せざるをえないから、結局、米国は(日本からのカネも含めて)北朝鮮に何も与えずに譲歩だけを引き出すことができる。
北朝鮮は現在経済が破綻し食糧不足がひどく、飢餓で何百万もの国民が餓死しており、そのため国外に脱出する経済難民「脱北者」があとを絶たない。彼らの多くは中国などを経て韓国(や日米)などをめざす。2002年5月の、中国東北部・瀋陽の日本総領事館への脱北者一家5人の駆け込み事件も、こうした巨大な社会現象の一環だ。
北朝鮮政府は、国民を餓えさせる一方で、国内総生産GDPの半分を軍の予算に注ぎ込み、この軍の支持で、独裁者金正日は現体制を維持している。が、中国などに10万もの脱北者が潜伏している現状は、1989年のベルリンの壁崩壊直前の東ドイツ(「脱東者」が何万人もハンガリーなどに逃げ込んでいた)と酷似しており、国家としての崩壊は時間の問題と思われる。
こうした経済難からの国家崩壊を防ぐため、2002年7月に北朝鮮政府は社会主義経済のタテマエとして維持してきた食糧などの配給制度を廃止し、ヤミの市場経済を公認し、給料も物価も急騰させるインフレ政策を取ったが、直後に早くも一部で給料の遅配が起き、「もはやなすすべがない」。
そこで、日本と国交を回復し、日本から「賠償」(経済協力)を得て経済を立て直したい、と北朝鮮政府は考えた。
中国は(日本より貧しい国ながら)脱北者の流入を抑えるためすでに毎年できる限りの援助を北朝鮮にしているし、韓国も金大中大統領の「抱擁政策」でめいっぱい北朝鮮を援助しているが、それでも北朝鮮の経済は救えない。これは経済大国日本から北朝鮮への(在日朝鮮人からの)「はした金」(北朝鮮や中国、韓国にとっては大金)の送金が、在日朝鮮人の金融機関「朝銀」の破綻や狂牛病騒ぎによる朝鮮人焼肉業者の収入減などで、細っていることによる。だから、北朝鮮は日本に頭を下げてでも(中国や韓国とは1桁も2桁も違う)巨額のカネを得る必要があった。
それで、9月17日の日朝首脳会談で、北朝鮮側はあっさり拉致事件の非を認めたのだろう……と日本国民の大半は思っている。
が、「何かほかにあるのではないか」(元駐韓米国大使ジェームズ・リリー)という意見もある(産経新聞2002年9月20日付朝刊7面。但しそれが何なのかはこの記事では語られていない)。
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●カギは「通常兵力削減」●
2002年9月12日、訪米中の小泉首相はブッシュ米大統領と会談したが、この席で「来たる17日の日朝首脳会談では北朝鮮に、日本人拉致や核・ミサイルなどの大量破壊兵器(WMD)開発の問題の解決だけでなく、(南北の軍事境界線をはさんで韓国と対峙している、戦車や歩兵などの)通常兵力の削減も求めてほしい」と釘を刺された。
小泉もこれに応えて、17日の日朝首脳会談で言及した(2002年9月22日放送のフジテレビ『報道2001』で小泉本人が明言)。
が、日朝首脳会談後に採択された共同宣言文書(平壌宣言)には「通常兵力削減」の文言はなく「北東アジア地域の平和と安定云々」とぼかされている。なぜか?
理由は明白だ。金正日の権力基盤は軍であり、通常兵力削減とは「支持基盤の喪失」だからだ。もし、共同宣言に「通常兵力削減」などと盛り込んでしまったら、軍が金正日に怒り「いつクーデターが起きてもおかしくない」(産経新聞2002年9月18日付朝刊2面「金総書記 米政権にらみ『決断』」)。
金正日政権は、朝銀からの不正融資や覚醒剤密売などの犯罪で得たカネを軍に優先的に配分し「国民を餓えさせても軍は餓えさせない」方法で権力を維持してきた(から、毎年数十万人もの一般国民が餓死し、地方では街中に死体がころがっているのも珍しくない)。このため、軍人たちは故郷で家族の餓死に直面し、金正日への怒りを募らせているが、逆らって軍から追放されると自分自身もカネや食糧を絶たれて餓死する恐れがあるので我慢している。
こんな状況で金正日が通常兵力削減、つまり「軍人たちを大勢解雇し、食糧のない故郷に追放して餓死させること」を決めたら、当然叛乱が起きる。つまり(小泉は気付かずに言っただろうが)ブッシュが求めた「通常兵力削減」とは「金正日退陣」と同義であり、金正日が絶対に呑めない条件なのだ。
おそらく17日の会談で金正日は、通常兵力問題への深入りを避けるため、あらゆる努力をしただろう。もっとも効果的な方法は日本側の最大関心事である拉致問題に日本側の神経を集中させ、そちらで大幅に譲歩することで、通常兵力問題への追求をかわすことだ。
拉致問題での譲歩とは何か……それは、北朝鮮が拉致の事実と責任を認めて謝罪し、拉致被害者のうち生存者を帰国させる(死者の場合は帰国させない)ことだ。
●罠に落ちた北朝鮮●
しかし、あたりまえの話だが、自分の国を国家機関(軍の特殊部隊)が拉致(要するに「誘拐」)をするような野蛮国と認めてしまったら、被害者の国(日本)の国民が、その国と「国交を結んで仲良くしよう」「喜んで自分たちの血税で援助しよう」などと思うはずはない。たしかに小泉と金正日は17日に平壌で共同宣言文書に署名したが、べつに国交を結んだわけではなく「国交正常化交渉を開始する」ことと「国交正常化後に経済協力をする」ことを決めただけだ。
日本のような議会制民主主義国家では、政府が決めた外交的な約束事、たとえば条約の締結などには国会の批准が要るし、まして国民の税金を外国に払う場合には国会で予算案が可決・成立する必要があるから「首相の一存」では何も決まらない。北朝鮮が拉致(誘拐)と拉致被害者の死(誘拐殺人)を認めた瞬間から、日本国民の北朝鮮への世論はかつてなく硬化しており、親北朝鮮派(自民党・橋本派の野中広務元幹事長ら)の発言力も低下したから、北朝鮮が目論見どおり日本からカネを受け取ることは相当に困難になった。
北朝鮮にとっていちばんいいのは、拉致を認めず「行方不明者」の調査の結果(警察庁が北朝鮮に拉致されたと断定する11人のうち)「何人かの生存が確認された」と日本側に告げ、その生存者を「人質」にして「無事に返してほしかったら、国交正常化交渉に応じなさい」と言わんばかりに日本を揺さぶることだった。
が、それをやると、日本側は(拉致問題の解決に米国の支持を得るためにも)「たとえ拉致問題は脇へ置くとしても、わが国は同盟国アメリカから、貴国の通常兵力の削減を求められているので、それにも応じてもらわないと、日本国首相は『手ぶら』で帰国することになるではないか」と押してくるはずだ。金正日は、それだけはどうしても避けたいので、拉致問題での譲歩は致し方ないと考えたに相違ない。
●小泉をだましたブッシュの「狡猾」●
9月18日、共同宣言文書に「拉致」の文言がないことを記者団に聞かれた小泉は「それが不満だと言って席を蹴って出たら、どういう結果になったか考えてほしい」と述べた。この「どういう結果」とは「(17日に)生存が確認された4人の命があぶなくなる」ということだ、説明されている(産経新聞2002年9月20日付朝刊3面。首相自身の言葉とされる)。
が、奇妙な論理だ。国際外交、それも首脳会談ほどの舞台で、いったん生存を認めた「人質」(拉致被害者)を、あとになって(「あれは間違いで、やっぱり死んでました」などと言い訳して)殺すことなどできるだろうか。そんなことをすれば、北朝鮮は日本からカネをもらえないだけでなく、米国やEUからも政治経済面で制裁を受け、ますます困窮するはずだ。「生存者が(11人中)4人しかいない」とわかった時点で、宣言文書に署名せずに帰国しようと首相に提案した安倍晋三官房副長官と高野紀元外務審議官の判断こそ「常識的」だ。日本側には失うものは何もなく、ただ北朝鮮が困るだけなのだから。
実は「日本側には失うものがある」と小泉と、外務省の田中均・アジア大洋州局長(親中国・北朝鮮派の「チャイナスクール」)は思っていたのではないか。上記の如く、北朝鮮に援助すべき関係国のうち中国、韓国は貧しく、もはや新たな経済援助は無理で、ロシアも同様だ。とすると、北朝鮮を大規模に経済支援できる国は、日本を除くと米国だけだ。その米国が先に北朝鮮と関係改善をして経済援助まで与えたりしたら、援助をエサに拉致問題の解決をめざす小泉と外務省の方針は完全に行き詰まる。
8月30日深夜(31日未明)放送のテレビ朝日『朝まで生テレビ』の中で「日本の頭越しに米朝が国交正常化してしまったら、日本だけ取り残されて恥をかく」という意見が出た。それを裏書きするように、8月30日の「小泉訪朝」発表の直前には、アーミテージ米国務副長官が来日し、秘密裏(日本側が会ったと認めていないという意味)に小泉に会っている。
ブッシュ米共和党政権は北朝鮮をイラク、イランとともに「悪の枢軸」と呼んで敵視し、「イラク攻撃が済んだら次は北朝鮮」と言わんばかりの強硬姿勢を、政権発足以来とってきた。が、ここに来てケリー国務次官補の訪朝を検討するなど(朝日新聞Web版2002年8月31日 < http://www.asahi.com/national/abductees/K2002083100252.html > )関係修復の「兆しの兆し」のようなものは見せていた。
とはいえ、米国のホンネは「イラクと北朝鮮の『2正面作戦』は避けたいのでイラク攻撃が終わるまで、北朝鮮には(崩壊寸前だからといって自暴自棄に韓国を攻撃しないよう)しばらく大人しくしていてほしい」というところにある。ライス大統領補佐官はじめブッシュ政権のスタッフの多くは(クリントン前民主党政権とは正反対で)北朝鮮など潰れてもいい、という考えの持ち主が多く、関係改善をする場合でも(クリントン政権のように「互いに譲歩」ではなく)北朝鮮が一方的に譲歩すればいいい、と思っている。だから、北朝鮮には核・ミサイル開発の停止や通常兵力の削減を厳しく要求しているのだ。
イラクと北朝鮮は、国際機関による(核)査察を拒否してWMDの開発を続け、また自国民を大勢死なせている、互いによく似た独裁国家だ。その一方のイラクには、米国が「2002年9月になって国連の査察を受け入れると言い出しても、どうせ時間稼ぎにすぎないだろうから、あくまで軍事制裁を行う」と厳しい態度で臨み、もう一方には、米国の同盟国の日本が「おカネをあげるから国際社会の一員として普通の国になって下さい」と頭を下げる……こんなことを米国が許すはずがない。ブッシュが小泉訪朝を支持すると言ったのは単なる外交辞令だ。
まさに「金正日のような悪質な人物にも日本が関与する(国際社会に取り込むべく協力する)価値があるという意向を見せれば、フセインに対しても同様にすべきということになる(ので、好ましくない)……(米国が)死活的に重要な時期に戦争を始めるその理由を(日本は)足元から切り崩すべきでない」(米Far Eastern Economic Review誌Web版2002年9月19日 社説)のだ。
にもかかわらず、小泉が「決裂した場合のこと」を心配したのはなぜか?……それは12日の日米首脳会談で、ブッシュが小泉訪朝を支持し(米朝もいずれ関係改善に向かうというウソを言っ)たからにほかなるまい。
つまり、米国は「米朝接近」という「ニセの外圧」で小泉を追い詰め、北朝鮮には(小泉の口から米国の意志である通常兵力削減=金正日体制崩壊の脅しを言わせて)重荷を負わせ「首脳は握手しても日本国民は猛反発するパターン」にもって行ったのだ。
●ブッシュをだました小泉の「無反省」●
それにしても、ブッシュはなぜ小泉をだましたのだろう。小泉が外交音痴でライス補佐官らのホンネに無知だったので「からかってみた」のだろうか?……それは、小泉がかつてブッシュをだましたからだ。
実は、小泉は二度、ブッシュを裏切っている。
1つは、政権発足直後の首脳会談で公約した「日本の不良債権処理」をいまだに終えていないことである。ブッシュ政権は(前政権と違って)中国の危険な「不安定性」を見抜き、日本を中国の脅威に備えるための重要な同盟国と位置付け、そのためには日本が経済大国として再生される必要があると考えている。
そのためには、日本が不良債権処理を終えて不況を脱する必要があるので、わざわざ2001年春からブッシュは日本に、早く不良債権を処理せよという「ありがたい外圧」をかけてくれていた。小泉もそれに応えて、ブッシュに会う度に「不良債権処理を加速する」と何度も公言した。だから、当然ブッシュは「不良債権処理をやる気のない」柳沢伯夫 ・金融担当大臣などはクビにして、やる気のある者に替えるだろうと思っていたはずだ。ところが小泉は柳沢に「処理を加速せよ」と指示し「お願い」するだけで「クビを切るぞ」と脅したことはない(これは、小泉のなさけない特徴で、日本国首相として強大な権力を持ちながら、北朝鮮にも橋本派にも野中にも柳沢にも)「指示またはお願い」以外のことをせず、一度も「恫喝」したことがない)。
もう1つは、小泉内閣が、2001年秋の米中枢同時テロを受けた対米協力策としてテロ特措法は成立させたものの、同時に一度は公言したインド洋の米艦隊を助ける海上自衛隊補給部隊の護衛(索敵・情報収集)にイージス艦を派遣するのを、結局やめてしまったことだ。
イージス艦は米国製の高性能駆逐艦だが、米国は米国以外では唯一日本にだけその保有を許しており、それは「日本を同盟国として信頼している証し」だ。加えて、これは米国が推進するミサイル防衛(MD)構想の中心的な構成要素となり、台湾海峡危機(中国の台湾侵略)の際には、日本のイージス艦の迎撃ミサイルで、中国の弾道ミサイルを撃ち落とし、台湾住民への虐殺を防ぐことも想定されている。イージス艦は日米同盟の象徴であり、両国が「けっして中国の横暴を許さない」ことの決意表明でもある。
ところが、このイージス艦派遣が、野中広務(橋本派=親中国・北朝鮮派の代表格)らの反対に遭うと、小泉はあっさり撤回してしまう。このため現在インド洋で活動中の海上自衛隊艦隊は「イージス艦のいない海上自衛隊は、古田のいないヤクルト」と言われるような、情報収集の困難な状態に置かれ(「船による自爆テロ」を探知するレーダーが、他の護衛艦はイージス艦のより貧弱なので)不安と緊張を強いられている(NHK『クローズアップ現代』2002年4月4日放送「自衛隊・緊迫の対テロ支援」)。
小泉は「イージス艦派遣に努力したが有力者に反対されたので『仕方がなかった』」と思っているだろうが、米国側には「軍事音痴の小泉はイージス艦の意味をわかっていない」と映る。これは同盟国への「裏切り」であり、小泉政権のもとでは日米同盟の強化は不可能と判断せざるをえない。
以上2つの裏切りで煮え湯を飲まされたブッシュは、小泉を日本国民世論の猛反発を受ける立場に追い込んで失脚させるため、また北朝鮮には「日本からカネがもらえるかもしれない」と信じて当分の間(米国のイラク攻撃終了まで)自制せざるをえない状況に追い込むため、「米朝関係改善」というウソを直接小泉の耳に入れたのではないか。
いやしくも合衆国大統領が直接、日本国首相にそう言えば、首相は客観情勢がどうであろうと、耳で聞いた言葉のほうを信じざるをえない。小泉に外交センスがあれば「罠かもしれない」と疑っただろうが、逆に、それほどのセンスがあれば、小泉はイージス艦派遣も柳沢大臣更迭もとっくにやっているはずで、そういう「レベルの高い政治家」と米国に思われていれば、そもそもブッシュもだまそうとはしないはずだ。
小誌2002年9月3日配信号の「こいずみホイホイ」で予言したとおり、17日の日朝首脳会談の結果、今後の国交交渉の「へたくそさ加減」では小泉失脚の可能性が出てきたし、米共和党の「天敵」である日本の外務省の、田中均らの「チャイナスクール」(橋本派とともにMD構想の「抵抗勢力」)も罠にかかって国民の猛反発を浴びる事態になった。すべては12日に、ブッシュが日朝首脳会談直前の土壇場になって刺した「釘」(通常兵力削減)が功を奏した結果である。
つまり、勝つのはブッシュ、負けるのは小泉、金正日、田中均だ。
(敬称略)
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