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8月5日から罠:週刊アカシックレコード020723

発行日時: 2002/7/23

■8月5日から「罠」が始動〜週刊アカシックレコード020723■
2002年8月に稼働する「住基ネット」は技術上、制度上はさほど危険ではないが「政治上」の爆弾を抱えており、小泉内閣崩壊への、比較的短い導火線に火を着ける可能性がある。

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■8月5日から「罠」が始動〜住基ネットで政局が動く■
【大規模な「政局」の前兆が現れましたので、今週は急遽予定を変更し、先々週の「韓国特集」 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/y2002/plastb.html#02 > の関連記事は休みました。】

まもなく8月5日に「住基ネット」(住民基本台帳ネットワーク)が始動する。これは、住民基本台帳に記載されている全国民に11桁の番号を割り当てて管理するコンピュータネットワークである。毎日新聞 < http://www.mainichi.co.jp/news/kotoba/sa/20011128_01.html > など大手マスコミの説明は、ITと行政・政局の両方に通じた記者がいないせいか、欠陥だらけで問題の本質がほとんど見えないが、整理するとこうなる。

推進派は、政府(小泉内閣)と連立与党の大半で、彼らは、このネットについて

#1a 行政事務の効率化や(住民票が居住地以外でも取得できるなどの)サービスの向上につながる
#2a 住民票取得に必要な基本的な「4情報」(住所、氏名、生年月日、性別)しか載せない
#3a インターネットとは異なり、閉じた(クローズド)システムなので外部からの不正侵入の危険はない
#4a 内部の不正(公務員や管理請負業者の情報漏洩)は住民基本台帳法改正による厳罰(2年以下の懲役か100万円以下の罰金)で防げる

と主張する。
反対派は、すべての野党と、自民党の一部、それらを支持する文化人らで、彼らは

#1b 当面、住民票取得以外のメリットはなく、費用対効果の面で問題
#2b いずれ行政効率化のため「11桁の背番号」に納税・犯罪歴など他の情報も載せ、プライバシー侵害につながるのは必至
#3b クローズドでもファイアウォールの設定ミスなどで不正侵入は起きるし、各地方自治体のセキュリティ担当の人材確保もまだ不十分
#4b 官民いずれかの悪意で「#2b」の個人情報が漏洩しても、それを防ぐはずの個人情報保護法がいまだに成立していないなど、法整備が不十分

などと危険性を主張する。

●数年後には定着する「運命」●
結論を先に言うと「数年後には確実に住基ネットは稼動し、定着しているだろうし、大した問題も起きていないだろうが、但し、今後1〜2年間は大混乱が起きる」と筆者は予測する。これは、大手新聞の政治部長やパソコン誌の編集長など「片方の分野の素人」の意見とは違って、政局とITの両方に強い数少ないプロの言論人の意見なので、こころしてお聞き頂きたい。

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●反対派の不純な「呉越同舟」●
反対派の主力はいわゆる「国家権力」のやることになんでも反対する左翼勢力、共産党、社民党、民主党左派とそれらを支持する労働組合(とくに自治労と、それから分かれた自治労連)、小泉内閣の足を掬いたい民主党右派と自由党、それになぜか「自民党の一部とそれを支持する保守系文化人」(これがカギ)が加わっている。

このうち左翼の反対はくだらないもので、ほんとんど無視していい。彼らは住基ネットどころか、地方のIT革命、地方の行財政改革自体に反対なのだ。

●地方財政の大赤字●
現在(2002年度末推計)国の財政赤字(約528兆円)についてはマスコミでよく取り上げられるのでだれでも知っているだろうが、地方自治体の財政赤字(約195兆円)については、報道が少ないので国民の危機感も薄い(国と地方の単純合計には、重複があるので、それを除くと両者の合計は約693兆円で、日本のGDPの139.6%もある。民間の「リアルタイム財政赤字カウンター」 < http://www.kh-web.org/fin/ > や財務省の「国及び地方の長期債務残高」 < http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/siryou/sy1403h.pdf > を参照)。

この深刻な地方財政赤字の元凶は、地方自治体が3,229(市区町村)もあって、相対的に少ない人口に対して過剰な事務職員が行政サービスを提供する中小自治体が並存していることにある。これらの自治体は、人口が少ないから税収も少なく、国からの補助金(地方交付税交付金等)に依存してしばしば無責任な公共事業を行うが、それでいて人口数千人の村でも(人口100万人の都市と平等に)清掃局長や「住民票発行事務の責任者」は最低1人はいるので、甚だ事務効率が悪い。

そこで、とくに過疎地で市町村を合併させて、相対的に人口の大きな自治体を作ってその財政基盤と組織力を強化し、そこに中央官庁から行政権限を委譲して地方自治体に「自己責任」で地方政治を任せ「無責任な補助金行政」をやめさせようというのが、財界人らの提言で始まり現在総務省が推進している「市町村合併」である。

もちろん、これには合併によって余った公務員を退職させることで人件費を削減する「行政リストラ」の意図が含まれていることは言うまでもない。

●ブロードバンド時代の巨大市場●
そして、こうしたリストラは、コンピュータネットワークを駆使した行政、いわゆる「電子政府」「電子自治体」の実現でいっそう加速される。その実現への大きな一歩が住基ネットなのだ。

財界が想定する、地方自治体への大規模なネットワーク導入の行き着く先は、単なる「各自治体」での行政事務の効率化ではない。行政事務の外注(アウトソーシング)化と、それを請け負うネットビジネス市場の創設だ。

数年前の持ち株会社制度の法改正により、ソフトバンクグループは徹底した分社化を行い、1999年4月からソフトバンク本体は役員を除くと正社員が数名しかいない純粋な持ち株会社になった。つまり、ソフトバンク株式会社には総務部、人事部、経理部などの業務部門がなくなり、これらの部門は子会社として独立し「独立採算制」に移行したのだ。

経理部が「独立採算制」と言ってもピンと来ないかもしれないが、これは分社化した経理部(ソフトバンクアカウンティング)がソフトバンクグループ各社はもちろん、他社の経理業務をも外注で請け負う、という意味である。

ソフトバンクは新興企業の株式公開のための証券市場「ナスダックジャパン」を創設したが、そこで誕生したばかりのベンチャー企業は社員数が少なく財政基盤も弱く、大企業と平等に経理部(経理部長は会社の大小にかかわらず1名ずつ)を持つのは難しい。そこで、このようなベンチャー企業は経理部(長)を社内に置かず、伝票処理などの業務をソフトバンクアカウンティングのような専業企業に外注したほうが得になる。

もちろん、業態の違う多数の企業の多数の伝票を一手に処理するのは、扱う情報量が膨大で大仕事だ。が、それらの伝票がすべて電子化されていて、ブロードバンドを通って超高速で(ソフトバンクアカウンティングの)経理の「プロ」の手元に届くとすればどうだろう。中小企業の経理の素人の手元で紙の伝票が処理を待っていて、しばしば忘れられて支払いが滞るといった事態が起きるより、はるかに低コストで高効率の事務処理が実現することは間違いない。

そして財界は、このような高速ネット外注サービスの顧客として、中小企業だけではなく、地方自治体を想定しているのだ。たとえばセコムなどのネット運用に強い民間企業が、人件費の安い沖縄県で「運転免許証書き替え専門のオペレーター」を大量に育てて外注センターを作り、そこにブロードバンドネットを通じて北海道の過疎地の自治体から免許書き替え申請書類を電子化して送れば、過疎地の自治体の書き替え担当者はほとんど要らなくなる。地方公務員の人員削減どころか、部門によっては「人員ゼロ」も可能なのだ。

新聞が外務省など中央官庁の不正を暴くことにばかり熱心なので、大多数の国民はまだ気付いていないが、実は、地方公務員には相当に有害無益な「無駄飯食らい」が少なくなく、かつ一般的に(労働組合が強いので)国家公務員より給与が高く、そのうえ過疎地の自治体では採用試験が国家公務員試験ほど難しくないので平均値で見ると中央の官僚より専門知識で劣り、政策立案能力も乏しい。もしも行財政改革が国民的合意なら、この連中を真っ先にクビにしなければならないはずだ。

●ブロードバンド時代自体に反対する勢力●
となると、地方公務員の労働組合、自治労や自治労連は当然、ブロードバンド時代の波が自分たちの職場におよぶのを防ぐため、その一里塚である住基ネットの導入には反対するはずだ。もちろん、その理由は「国民のプライバシーを守る」などという高尚なものではなく、自分たちの(無意味な)仕事の温存でしかない。

事実彼らのホームページでは「(地方)自治体の市場化(外注化)、自治体リストラ(余剰人員の削減)、地方交付税削減」に反対だ、と税金の無駄遣いを奨励する見解を述べている(「自治労連第23回定期大会」三宅一光・副中央執行委員長の総括答弁大要 < http://www.jichiroren.or.jp/taikai/soukatu-touben.html > )

●原発反対ヒステリーに似た人災強調の「針小棒大」●
もちろん、住基ネット自体の危険はある。ネオテニー社長の伊藤譲一は、住基ネットをインターネットなど他の「侵入されやすいネットから」クローズドに(閉鎖)するファイアウォール(「防火壁」のようなソフトウェア)にも設定ミスが起きうることや、住基ネットから取られた個人情報が廃棄されたパソコンの中に残存していて、のちに廃棄物置き場からパソコンごと拾われて悪用される可能性(IT業界の「スパイ合戦」では現実にある)を指摘している(フジテレビ『報道2001』2002年7月21日放送分、朝日新聞社『AERA』2002年7月15日号)。

が、「なんの意味もない伝票処理をさも意味ありげに時間をかけて行う」だけの無能な地方公務員に原始的な紙の書類決済をさせて税金を浪費し、日本の財政・経済を破綻させることの危険だって、それ以上にある。伊藤とともにテレビ(前掲『報道2001』)に出演した保守系ジャーナリストの櫻井よしこは、住基ネット導入に反対する理由として「地方自治体では個人情報管理のセキュリティ対策要員の確保がまだ十分でないから反対だ」と言うが、伊藤や櫻井のような「人災」ばかり強調する論理で行くと、効率的な「ネット社会」や「電子政府」は永遠に実現しないことになる。

なぜなら、自治労や自治労連はそもそもネット化、電子化自体に反対なので、彼らは職場である各地の自治体で、情報セキュリティの管理能力を身につけることを故意にサボったり、妨害したりすると考えられるからだ。

つまり、いまセキュリティ対策が不十分だから、と住基ネットの稼働を凍結してしまうと「凍結ができたのなら、次は廃止だ」と、彼らはますますセキュリティ対策をさぼるようになるので、結局「行政のネット化」は半永久的に実現できず、地方財政は際限なく悪化し続けることになる。

一部の財界人(セコムの飯田亮・現取締役最高顧問ら)は1990年代初頭から、行政のネット化による外注サービスを巨大市場と位置付け、民間参入を検討していた。が、90年代半ばまでは、自治労を有力支持基盤とする社民党(旧社会党)が与党であったため、ネット化は遅々として進まず、その間日本経済は、新たな成長市場を見出せないまま、不動産バブルの崩壊に端を発する大不況に苦しむこととなった。

98年6月1日社民党が橋本内閣への閣外協力を解消するまで( < http://www5.sdp.or.jp/central/activity/toutaikai980824.html > )社民党は政府・与党に影響力を保持し続けた。その後、社民党の影響をまったく受けない小渕内閣のもとで「やっと」1999年に住民基本台帳法が改正されて住基ネット導入の準備が始まり、2000年に次の森内閣のもとで「IT基本法」が制定され、それに基づいてブロードバンド通信回線が大規模に普及し、こんにちに至ったのである。

IT社会の到来による日本経済の回復を阻んできた最大の抵抗勢力は、実は社民党(と自治労などの地方公務員労組)であり、やつらに好き放題やらせていたら、この先日本がどこまで衰退するかと想像すると、ぞっとするほどだ。社民党が与党であった間、政府は景気回復の手段を事実上、大して役にも立たない旧来型の「土建」公共事業に限定され、IT産業の奨励は禁止されていた。自社連立政権とは実は、自民党の建設族議員と地方公務員労組を基盤とする社民党政治家の「談合政権」だったのだ。

櫻井や伊藤の言う住基ネットの「人災」の危険は、実は石油会社の手先が市民運動を装って石油の値段を吊り上げるために原発の危険性を言い立てる「原発反対ヒステリー」(環境運動でなく利権運動)の論理と変わらない(櫻井はいつから「原発反対屋」になったのだ?)。「100%安全なシステムはない」「悪意などによる重大な人災の可能性は否定できない」などと言い出したら、住基ネットどころか原発も飛行機も、タクシーも利用できないではないか。

あらゆるシステムは常にトラブルを起こす危険を抱えているのだから、慎重に運用しながらトラブルが大惨事に至らない方策を絶えず考え続ける以外に道はなく、「100%安全になるまで導入しない」のなら、われわれが現在享受している技術文明はすべて否定されねばならない。

野党やマスコミの大反対の末に紆余曲折を経て導入され、結局定着したものに大型間接税(中曽根内閣の売上税が挫折し、竹下内閣の消費税で定着)があるが、現在これに疑念や危険を感じている国民がほとんどいないことを思えば、住基ネットが今後どのような道を辿るかは容易に想像が付く。

幕末、薩摩や長州などの西南雄藩は、幕府(大老井伊直弼)が勅許を得ずに開国したことを「国是(鎖国)に違反した」と責め、倒幕の口実にした。が、幕府を倒して成立した彼らの新政府は、べつに国是の回復はせず、幕府が「勝手に」始めた開国政策をそのまま継承した。

このように「反対のための反対」「政局のための反対」は歴史上よく用いられるものだ。

●「政治的原因」で大混乱●
住基ネットの、来たる2002年8月5日の稼働には、反対派が言うほどの制度上、技術上の問題はないだろうし、推進している政府・与党の側にも(いささか能天気な面はあるが)それほどの悪意はないだろう。

が、実は「政治上」の欠陥がある。
小泉内閣を潰したいと思っている、さる「大きな勢力」にとって、この住基ネットの稼働は、左翼を砕氷船( < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/shteig.html > )に利用して政局を転換できる格好のチャンスだ(自治労や自治労連の幹部はあとで「使い捨て」にされるとも知らずに、小泉内閣打倒に奮闘している哀れな存在である)。

小泉内閣がこの「大きな勢力」の望む重要な政策をほとんど実現していない以上、しかもその「大きな勢力」が自らほとんど手を汚さずに内閣の交替を実現できる機会がある以上、住基ネットが「政治的に」利用されるのは避けがたい。

住基ネットの最大の欠陥は、政府がそれに気付かずに実施を決めてしまったことだ。つまり、8月5日以降、住基ネットが引き起こす技術上のトラブル自体は問題ではないが、それを針小棒大に報じるマスコミと、それを国会で取り上げる政治家、とくに(野党ではなく)自民党の国会議員22名の「反対派」が問題なのだ。

おそらくこの「22名」、亀井静香、中川昭一、塩崎恭久らは(7月19日には、このうち小林興起らが中心になって住基ネットの凍結を求める法案提出をめざす「住基ネットを考える議員連盟」を結成したが)住基ネットが本質的には安全なことは知っている。彼らが反対するのは、これを「政局」にしたほうが彼らにとってトクだからであって、べつに自治労に同情しているからではない。

たとえば、もし国会開会中に住基ネットに起因する小さなトラブルが起き、それをマスコミが大きく報道すれば、野党は間違いなくそれを理由に衆議院に内閣不信任案を出す。さすれば、上記の22名の自民党議員(のうちの衆議院議員)はこれに賛成するだけでなく、さらに他の与党議員に賛同を呼びかけることもできる(筆者は、保守党の小池百合子は彼らに合流すると予測する)。

通常、与党議員が野党の出した不信任案に同調することは政党政治の原則からいって、よほどの事情がない限りありえない。が、22名もの与党議員があらかじめ懸念を表明していた混乱が予測(予定?)どおりに起きたとなると、それは「よほどの事態」なので、堂々と政党政治の原則を無視できる。

ちなみにここ10年でそういう事態が起きたのは2回、2000年のいわゆる「加藤政局」と、1993年の宮沢内閣不信任案の可決である。とくに93年のときは、小沢一郎をはじめ自民党の大物代議士数十名が不信任案に賛成し、彼らはそのまま脱党して新生党を結党して直後の衆議院選挙で躍進して自民党を追い詰め、ついに非自民連立政権を作るところまで行ったのである。
【では、その「大きな勢力」とは何なのか、どんな「手口」で大混乱を起こすのか、については次回。】
(敬称略)

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  • 小説家。00年『ゲノムの方舟』(徳間書店)でデビューし朝日新聞など17紙誌が絶賛。ほかに産経抄が紹介した『龍の仮面』、NHK-BS『週刊ブックレビュー』で笑賛された『中途採用捜査官@ネット上の密室』など。

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