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「亡命もみ消し」の誘惑:週刊アカシックレコード020523

発行日時: 2002/5/23

■やらせ亡命事件の検証(2)〜週刊アカシックレコード020523■
亡命に関する法制度の不備のために、日本の在外公館は日常的に「なかったことにする」処理を行っている。それを知っている中国警備当局は「なかったことにしてもらえる」と踏んで、亡命者奪回のために瀋陽の日本総領事館に踏み込んだと推察される。

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■やらせ亡命事件を検証する(2)〜女子供を見捨てた男2人■
【前回の記事 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/y2002/asylum.html > から続く。】

●過去の「亡命もみ消し」事例●
1996年5月、日本在住経験のある北朝鮮の科学者が北京の日本大使館を訪れ、日本への亡命希望を表明した。が、日本大使館は「日本は(在外公館での亡命申請に対する入管法の規定がないため)亡命を受け入れない。韓国大使館に行った方がいい」と説得し、本人の同意を得たうえで韓国大使館に引き渡した。当時の大使館幹部は、科学者引き渡しにかかわった館員を集めて「日本大使館には来なかったことにする。韓国側も了承した」と言明した(産経新聞2002年5月11日付朝刊3面「亡命者連行事件 過去のケース」)。このあと、この科学者は中韓両国政府の直接交渉の末約3週間後に韓国に亡命している(中国の諜報機関は外国公館の電話等を常に盗聴しているので、韓国と交渉していた3週間は、中国側が真相を確認するのに要した期間と見てよい。詳論後出)。

この事例を踏まえれば(欧米諸国の公館はともかく)日本の公館に不審者(亡命希望の脱出者)が駆け込んだ場合、人民武装警察が追いかけて公館内に踏み込んでも「こっちははいらなかったことにするから、そっちも見なかったことにしてくれ」と頼めば日本側は黙認するだろう、と期待しても不自然ではない。

日本政府は、日本の在外公館に亡命者が駆け込んだケースをすべて情報公開しているわけではなく、件数は不明だが、どうも、上記のような「なかったことにする」処理は日常的に行われていたのではないか、と思われる。とくに瀋陽の場合、日本総領事館の隣に米国総領事館があるが、隣だけになんらかの理由で「米国総領事館に駆け込むつもりだったのに日本総領事館に来た」事例は多々あっただろうが、亡命希望者が上記の科学者のような(日本に知人のいる)大物(?)でなければ、日中双方が阿吽の呼吸で口裏を合わせて「なかったことにする」処理が行われていたのではないか。だからこそ、「亡命したければ米国公館へ、自殺したければ日本公館へ」という合い言葉が、中国潜伏中の亡命希望者の間では囁かれているのではないか(李英和・関西大学助教授)。

つまり、今回のような、人民武装警察の「日本の」公館敷地内踏み込み事件は……「見かけ上」は外国公館への不可侵を定めたウィーン条約に違反することではあるが……とくに珍しいことではなかったのではあるまいか。

では、何が問題だったか。それは、現場にテレビカメラがあったことだ……というより、今回の1件の「黒幕」は、ウィーン条約違反と、それを「なかったことにする」日中の阿吽の呼吸を熟知していたがゆえに、駆け込みの瞬間を撮影させるべく、テレビカメラを待機させたうえで脱出者5名をカメラに写るように駆け込ませたに相違ない。

亡命すなわち中国にとっての違法な駆け込み計画を事前に知りながらそれを警備当局に通報せず、こっそり「亡命の瞬間」を撮影することは、報道の自由のない中国では到底許されないし、また中国は人権も司法制度もいい加減な国なので、撮影した某カメラマン(の映像を配信した共同通信社)は逃走幇助の(刑事)責任を問われる恐れすらある(産経新聞2002年5月17日付朝刊2面「亡命事件 韓国の支援団体メンバー証言 3日前、日本公館に変更」)。

それだけの危険を冒して撮影するからには、ありきたりの映像(たとえば一家5人の亡命が総領事館の外で阻止されるケースも、阻止されずに中にはいるケースも、当たり前すぎてニュースバリューがない)ではなく、極めて商品価値の高いスクープ映像、すなわち「ウィーン条約違反の瞬間」をかなり高い確率で撮影できるという確証があって初めて某カメラマンは現場付近に張り込もうと決断できる。

確証もなしに、罪に問われる危険も顧みずに「価値のない映像」を撮るために張り込むのは、日本の大手マスコミでは愚の骨頂だ。重大な「制裁」を中国当局から被る恐れがあるからだ。国際ジャーナリストの歳川隆雄は、夕刊フジ2002年5月18日付(17日発売)13面「歳川隆雄の徹底追及」で、筆者と違う観点からではあるが、共同通信社の今回の「スクープ」は状況によっては「北京支局閉鎖」などの制裁を招きかねない危険な取材活動であったと指摘している。
欧米諸国のメディアと違って、産経新聞を除く日本のメディアは「北京に特派員を常駐させてもらう代わりに中国についての否定的な報道は控える」という紳士協定「日中記者交換協定」(中嶋嶺雄・元東京外語大学学長)を結んでおり、この協定に参加せずに、かつて「文化大革命」の真実を報道し続けた産経新聞は制裁を受け、20世紀末までの約30年間、北京支局(現中国総局)を閉鎖されていた。

つまり、今回の1件の本質は「亡命事件」というより、共同通信社系某カメラマンの「スクープ事件」であり、89年6月の「天安門虐殺」と同様に「そこにテレビカメラがなければ」どうということのない、毎度おなじみの事件だったのだ(亡命を支援した団体のメンバーは産経新聞の上記のインタビュー記事では共同通信社と韓国の聯合通信のカメラマンを呼んだと明言している)。

単なる「おなじみの事件」を、だれが、なんの目的でこれほどの大事件に仕立て上げたのか……こちらを考えることのほうが、亡命事件への日中両国の対応の是非を考えるより、はるかに重要だろう。

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●なぜ日本領事館か?●
産経のインタビューに答えた支援団体のメンバーによると、亡命した北朝鮮住民一家5名は、当初北京の米国大使館をめざしたが警備が厳しかったので瀋陽の米国総領事館に変更した。が、「米国総領事館は壁が高く女性や子供が入るのは無理」と判断し、決行の3日前に隣の日本総領事館に再変更したという(産経新聞2002年5月17日付 前掲記事)。

そのメンバーは「『3日前から』紙に現場周辺の見取り図を書いて、計画は5人に十分説明した」とも述べているが、一方で「日本には別の支援組織の友人がいる。日本にはいいイメージがあった」とも答え、日本公館を選ぶ「必然性」があったことをもうかがわせる(産経新聞2002年5月17日付 前掲記事)。この亡命事件は(少なくとも3日以上前から)「日本」総領事館に照準を合わせ、日韓のマスコミを巻き込み、周到に計画されていたと見て間違いない。

●なぜ、女子供が乱暴されたかの?●
さて、5月8日午後、5人は日本総領事館前を通り過ぎる振りをしてから敷地内に駆け込み、すぐに3人の人民武装警察の隊員に追いかけられた。5人のうち男2人は館内奥のビザ申請所に駆け込み、入り口付近には女子供3人が残され、彼女らは武装警察に捕まったが、女性たちは門にしがみついて抵抗し、結局武装警察隊員に門から引きはがされ、敷地内に「踏み込んだ」隊員に押し戻されて館外に出され、身柄を拘束された。

のちに、ビザ申請所まで逃げ込んだ男2人も拉致連行されるが、この場面の映像はなぜか公表されていない(国際ジャーナリストの歳川隆雄は、日中いずれかにとって決定的に不利な場面が写っていたので「支局閉鎖」などの最悪の事態を恐れる共同通信社が隠したと読んでいる。夕刊フジ前掲記事)。

「命乞い」をする女子供が武装警察に乱暴に拉致される映像が世界に配信され、繰り返し放送されたため、世界の世論は中国の国際法違反を非難するトーンに染まった(2002年5月12日付米ワシントンポスト紙社説ほか)。彼女らが必死で抵抗した理由は、北朝鮮が想像を絶する下劣な国、つまり「飢餓地獄」で、北朝鮮と「引き渡し協定」を結んでいる中国当局(の魔の手)によって北朝鮮に戻されれば死刑になる恐れがあるからだ。この映像により、北朝鮮の残酷さと、それに「加担」する人権後進国・中国の野蛮さが印象付けられた。

ところで、なぜ「一家5人」のうち男2人は、いちはやく館内奥に駆け込み、入り口付近に女子供を置き去りにしたのだろう? 日本総領事館関係者に人民武装警察の主権侵害を通報して助けを求めるため、とも取れるが、それでも2人とも現場を「逃げ出す」必要はなかったはずだ。

あの一家は「家族」ではないのか? 家族なら、自分の家族の女性と子供を「地獄の魔の手」にゆだねて置き去りにできるだろうか?
この男たちの「冷酷非情な」逃走により、入り口付近には、女子供のみが残され、その結果「女子供 対 武装警察」の残虐シーンが撮影されることとなった。家族のうち男が1人でも入り口付近に残っていれば「男対男」の戦いも行われる。男2人は肘打ちなどの「暴力」に訴えて武装警察を振り切って奥に走っているから、もしそういう場面を含む映像がテレビに流れれば、中国政府は「5人の不審者のなかには暴力的な者(テロリスト)もおり、総領事館の安全確保のためにやむをえず敷地内に踏み込んだ」と言い訳することもできた。が、とにかく映像に、逃げた2人の男がほとんど写っていないために「中国の乱暴な違法行為」が全世界に印象付けられることになった……これは世論操作のための、打ち合わせ済みの「演出」ではないのか。

もし「一家5人」がほんとうの家族なら、男2人は自分の家族の女子供を地獄の魔手から救いたいという、にんげんとしての本能的な感情に打ち勝つために、入念な精神的準備(スパイとして、感情をコントロールする訓練?)をしていたことになる(「不仲の家族だった」という解釈もできなくはないが、それなら「女性や子供が塀や門を乗り越えやすいように」米国総領事館なく日本総領事館を選んだという説明はウソになる。いざというとき置き去りにしたくなるような家族のために「亡命したければ米国…自殺したければ日本公館へ」と言われる中で米国総領事館を諦めて日本総領事館を選ぶことはありえないからだ)。逆に、もし家族でないのに家族の振りをしているのだとすれば、それこそほんとうに(CIAの)スパイだということになる。

●追い詰められた親中国・北朝鮮派●
いずれにせよ、女子供が乱暴される「残虐ビデオ」の配信により、日本、韓国の国内で日頃、中国や北朝鮮に好意的な発言をしているマスメディアや政治家……たとえば「日中記者交換協定」に参加している日本のマスコミ各社、とくに共同通信やTBSの中枢部、自民党のハト派(橋本派)や、韓国で対北朝鮮宥和を求める「太陽政策」を支持する金大中政権の与党勢力らが、普段と違って中国や北朝鮮を非難せざるをえない立場に追い込まれた。

こうした映像さえなければ、事件直前に阿南惟茂・駐中国大使が北京の日本大使館での会議で「(不審者が公館内に)はいろうとしたら追い返せ」と述べたことも、ごく常識的な発言ということで済まされたはずだ。が、映像により、日本中(世界中)が中国の残虐行為に怒っている状況では、常識的な発言でも日頃の「チャイナスクール」(中国語研修を受けた「親中国派」外務官僚の派閥)の対中国弱腰外交と結び付けられて非難の対象になる。

時あたかも、日韓共催のワールドカップ(W杯)開催直前である。今回の亡命未遂事件の結果、西側諸国でなく中国当局に身柄を保護された北朝鮮脱出者が(テレビカメラと世界の世論を後ろ盾にして)出国、亡命するという「新たな道」が開かれると、より大規模な亡命目的の駆け込みが中国各地で続発する恐れがある。

現に、W杯期間中の「友好ムード」を利用して、W杯期間中に中国に潜伏中の北朝鮮脱出者1000人を船で韓国に移送する計画がある(「首謀者」は『北朝鮮を知りすぎた医者』の著者でもある亡命支援団体幹部のドイツ人医師、ノルベルト・フォラツェン。産経新聞2002年5月16日付朝刊6面「W杯中 中国の北朝鮮住民1000人 韓国移送」)。
もちろん、中国と北朝鮮にとっては、89年の「東ドイツ崩壊前夜」を思わせるとんでもない計画で、武力を用いてでも阻止したいところだ。が、今回の「残虐ビデオ」の印象が世界中にあり、しかも日韓で楽しく豊かで平和的な国際スポーツイベントを開催している最中に、中国が「またしても残虐に」暴力によって「かわいそうな難民」の亡命を阻止する行動に出れば、全世界の厳しい非難が中国に集まってしまう。「残虐な中国・北朝鮮vs.平和な日本・韓国」という構図が出来上がり、日韓政界の親中国・北朝鮮派(自民党の橋本派、社民党、韓国の金大中政権)がますます窮地に追い込まれる。

かといって武力で阻止しなければ、この計画は成功し、そのニュースがさらなる北朝鮮からの脱出者を増やし、北朝鮮の国家崩壊(と中国の国境防衛の崩壊)を早めることになる。そのうえ、亡命に成功した1000人が、のちに北朝鮮の「地獄ぶり」をマスコミで証言すれば、在日朝鮮人の北朝鮮離れは決定的となり、彼らはこぞって日本に帰化して在日朝鮮人社会は消滅し、彼らの北朝鮮への送金に依存していた北朝鮮の財政は破綻する(本誌記事「まもなく消滅、在日朝鮮人社会」 < http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/dragon/kyogen.html > を参照)。これもまた、北朝鮮と中国が恐れる「国家崩壊」につながる。

つまり、中国は完全なジレンマに陥ったのだ。

●中国、「外圧」に屈す●
5月20日、米議会上院に、この一家5人の即時釈放を求める決議が提案された。すると、その直後(21日)中国側は日本側に一家5人を第三国に出国させる旨を伝える(22日の衆議院予算委員会の政府答弁)。

22日、5人は中国を出国し、フィリピン経由で翌23日に韓国に到着……これで「(外国公館でなく)中国当局による身柄保護ののち第三国出国」という新しい脱出ルートが「開通」した。

かくして、W杯サッカーで世界中の関心が極東に集まる中で、北朝鮮脱出者を中国から出国させれば「万一中国警備当局につかまっても、結局出国できるだろう」という見通しを、潜伏中の亡命希望者や支援団体が持つであろうことは想像に難くない。

すべては、映像の力である。天安門事件のときと同様「テレビカメラさえなければ」中国(と北朝鮮)はこれほどの窮地には追い込まれずに済んだはずだ。

では、中国を追い込んだのは、つまりトクをしたのは、だれだ? (敬称略)

【次回は、そのキーパーソンを推理する「『国家消滅』担当補佐官」の予定です。】

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