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初心者たちの反対論:週刊アカシックレコードmail 版 011213
発行日時: 2001/12/13■初心者たちのミサイル防衛(MD)反対論〜週刊アカシックレコードmail版011213■
自分が初歩的な知識すら持たない分野への論評は、プロの物書きなら遠慮するはずだ。が、軍事問題は例外で、軍事音痴の素人がMD反対論を唱えることが、日本のマスコミでは許されている。
【ラマダン日記】
なんと、ラマダンを破ってしまいました! ラマダン(日の出後、日没前の飲食禁止)3週間目にはいっていた私は、先週6日、本誌先週号を配信予約した直後(平日の昼間は会社員なので)重要なお取引先に伺って応接室でコーヒーを出されました。相手は超大型外資系IT企業で立場上こちらが劣勢だったので、コーヒーに手を着けないわけにいきませんでした…さて、私はどうすればいいのでしょう?
イスラムの教えには、こういう「有事」に備えた規定があり「慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において」私のラマダンは1日延長されます。イスラム諸国の要人はラマダン中に異教徒とワーキングランチする場合などはこの方法で切り抜けるようです。
これは、イスラムがけっして排他的な宗教ではなく、異教徒との協調を求めている証しです。
■初心者たちのMD反対論〜シリーズ「米中枢同時テロで『損』をしたのは誰だ」(6)・MD編■
前回の記事「続・中国がMDに賛成する日〜中国の立場で考えよ」
http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/dragon/super.html#05
から続く。
●古い軍事常識の敗北●
2001年12月7日、アフガニスタンを実効支配してきたイスラム原理主義過激派タリバンは本拠地カンダハルから撤収し、米英の対テロ軍事制裁に事実上完敗した。これはタリバンの敗北であると同時に、現代の軍事常識を持たない(自称)平和主義者たちの「反戦世論」の敗北でもあった。いったい彼らは開戦前なんと言っていたか。
「第二のベトナムになる」
「アメリカは泥沼の戦争に巻き込まれる」
「報復は報復を呼ぶだけ」
「ラマダン中の攻撃はイスラム諸国の反発を招く」
「攻撃からは何も生まれない」
どれか1つでも当たったか?
攻撃からは自由が生まれた。アフガンでは女性はブルカを脱ぐ自由、男性は髭を剃る自由を得、音楽も映画も戻ってきた。タリバンが決めたくだらない「校則」のようなルールがなくなったのだ。これは米軍の空爆の成果であり、平和運動の成果ではない。
アメリカ独立戦争からアメリカが生まれ、太平洋戦争から(筆者でなく)「平和主義者」の方々が大好きな日本の平和憲法と戦後民主主義が生まれたのではなかったか。「攻撃からは何も生まれない」ことはないと知っているくせに、なぜこんなすぐバレるウソをつくんだ?…「まず反米」と決めてから理屈付けをするからこんな滑稽なことになるのだ。こんな「単細胞」では、米国の陰謀を見抜くこと(真の反米)もできまい。
ラマダン中はイスラム教徒の団結が強まるから、空爆すれば米国への反発が高まる「はず」だという予測も大はずれだった。はずれた連中のほとんどは、中東諸国に「行ったことのある」(うわべの取材しかしない)記者たちだ。彼らのなかに1人でもラマダンを「実践」した者はいるのか。旅行者や傍観者や「芸能レポーター」のような立場ではなく、イスラム教徒自身の立場でラマダンを考えた者はいるのか。
経験したことのない記者の方々に「経験者」からお教えしよう。ラマダンの最中、日没が来ると何を感じるか…解放感だ。単なる食欲ではなく、あらゆる楽しみ、喜びへの解放感だ。
この11月16日からラマダンを始めてみて、最初は筆者も日没時にはただの食欲しか感じなかった。ところが、何日か続けると、ラマダン中の食事時間のサイクルにある程度からだが慣れてくるので、なんでもいいから食べたい、という感覚に加えて、なるべくおいしく、楽しく食べたい、という欲求が沸いてくる。
実際に、東アジアなどタリバンのいない国にいるイスラム教徒は昼間「自由に」夕食のメニューを考えながら買い物をし、ご馳走を作って日没を待つので、日没は「楽しい時間」なのだ。ただ空腹を満たすだけの時間ではない。
が、タリバン支配下のアフガンには解放感も「楽しい時間」もなかった。礼拝は本来自主的に、それぞれの都合のいい場所で行うものなのに、タリバンは礼拝の時刻と場所(モスク)を指定し、人々を暴力で脅してモスクに押し込んだ。当然、抑圧する者とされる者の間には連帯感はないのだから、誤爆による民間人への犠牲がない場合は、タリバンへの攻撃は歓迎されるはずだ。ラマダン中に高まるのは善良なイスラム教徒同士の連帯感であり、タリバンとの連帯感ではない(米軍のタリバン攻撃に対して反米デモの起きなかったイスラム国はトルコ、モロッコなどいくらでもあった)。
また、アフガン国民のなかには、音楽をこよなく愛するトルコ系民族がいるが、音楽を奪われた彼らが日没と同時に感じるのは、空腹感と食欲だけで、真の解放感などあるはずがない。
「第二のベトナムになる」というのもお笑いぐさだ。軍事音痴の「平和主義者」に御心配頂かなくとも、その怖さをいちばんよく知っているのは米軍だ。だからこそ、米軍と軍需産業は、従来型の「消耗すればするほど儲かる」重厚長大兵器の戦略を修正し、精密誘導兵器を開発し、無人兵器と緊急展開・特殊部隊とMDを重視した「ニュー米軍」路線への転換に踏み出したのだ。
対アフガン軍事制裁(報復ではない)はこの転換期に起きたのだから、当然、米軍も軍需産業もベトナム戦争と同じ戦い方、同じ金儲けの仕方をするはずはない。
ベトナム戦争までの米国の産軍複合体や産業界全体が邪悪だったのは間違いない。当時、産業界は兵士、兵器、資源が消耗すればするほど儲かる仕組みの中にいた。が、これは工業社会、つまり産業別就労人口のなかで第二次産業(製造業)人口がいちばん多かった時代の話だ。いまの米国(と先進諸国)では第三次産業(サービス業)人口が7割前後を占めており、消耗戦では儲からない。
加えて、民主主義国家である米国では兵力の消耗、つまり米兵の死は、ベトナム以降、世論が厳しく非難するようになったため、米軍は世論対策上も兵力の消耗を抑える策を追求し、無人兵器やMDを必要とするようになっていた。こうした方針転換は米国防総省の報告書など各種資料に出ており、それを知っていれば「第二のベトナム」「泥沼」といった憶測は出ないはずだ。
日本のジャーナリストには初歩的な軍事常識もない者が多いため、悪意はなくとも結果的に世論をミスリードした例が少なくない。
●深刻な「初歩的な軍事常識の欠如」●
このことを端的に示す事例は、17万の読者を抱えるメルマガの「帝王」田中宇のtanakanews.comである。彼には軍事的知識はほとんどない。
たとえば、2001年7月23日の記事
http://tanakanews.com/b0723israel.htm
では、彼は「予備役」と言うべきところをなぜか(『広辞苑』にない言葉を使って)「予備兵」と言っている。
また、同年8月7日の記事
http://tanakanews.com/b0807USJP.htm
には「自衛隊を正規軍に近づける」という奇妙な表現がある。たとえば中国人民解放軍は元々ゲリラ戦(非正規戦)用の軍隊で、階級制度すらない、典型的な非正規軍だったが、80年代から?小平の軍事改革で正規軍化がはかられ、組織制度や装備の近代化をめざした(が、いまだに非正規軍時代の過剰人員を抱えており、正規軍化は完成していない)。他方、自衛隊は発足当時から階級制度も近代的装備も持つ正規軍だから「正規軍に近づける」という表現は意味をなさない。
極めつけは、同年10月3日の記事
http://tanakanews.com/b1003pakistan.htm
の中の「もともと中国とインドはアジアの大国どうしでライバル関係にあった(から軍事的に対立している)」という下りである。この記述だと、中国とインドの国境紛争は単なる「意地の張り合い」であって、やらなくてもいいことを面白半分でやっているという意味になる。これは当事者(インド軍)に対して失礼だが、その原因は田中の地政学に対する無知にある。
地政学の重要な経験則のなかに「半島国は内陸国に対して劣勢である」という法則がある。古くは、欧州「内陸」部からのゲルマン民族大移動によってイタリア「半島」の古代ローマ帝国が滅びた例、満州を支配した元(蒙古)が朝鮮半島を属国にした例、近くは1950年に米軍撤退後の韓国に北朝鮮が南下して釜山の海辺まで侵略した例、さらに1975年に米軍撤退後の南ベトナムを北ベトナムが制圧した例……これらに見るごとく、半島国(韓国)は海洋国(日米)の支援を受けるか、決定的な兵器(核兵器など)を持たない限り、必ず内陸国(北朝鮮)に負ける(1970年代後半に、米カーター政権が在韓米軍の撤退をほのめかしたとき、当時の全斗煥・韓国大統領が独自核開発をたくらんだのはこの理由による)。この「法則」には数千年間ほとんど例外がない。
東西冷戦時代、ヨーロッパ「半島」のフランスが核兵器を持ったのは、「内陸国」ソ連・東欧の陸軍力に対抗するためであって、ソ連の核兵器に対抗するためではない(「半島国」「内陸国」の定義は難しいが「海岸線の長いほうが半島国」と思えばまず間違いない。北朝鮮は韓国に対しては内陸国だが、満州に対しては半島国である)。
したがってチベットを支配してインドと国境を接する「内陸国」中国が(たとえ核兵器を持っていなくとも)チベットに大陸軍と弾道ミサイルを配備するなら、「インド半島」を領土とするインドは、核兵器(かMD)を持たない限り、かつて中国の属国にされた朝鮮と同様の屈従を強いられる恐れがある。インド軍が核やミサイルを開発するのは、中国軍がチベットへの侵略と弾道ミサイル配備を続けるために国防上仕方なくやっていることで、「ライバル関係」などというくだらない理由のためではない。大勢の人命と国家の存亡がかかった問題なのだ。
田中は、同年3月12日の記事
http://tanakanews.com/b0312Japan-US.htm
などでMDを否定(軽蔑)している。が、田中(に限らず日本のMD反対派の記者の大半)は、軍事的教養や地政学の「すそ野」は持たないので、MDを政治・軍事戦略全体の中に位置付けて論ずることは当然できない。結局のところ、MDの技術的側面(クリントン前米大統領の妨害工作による開発実験の遅れ)などを「つまみ食い」して論ずるほかあるまい(まるで怠惰な生徒が試験の直前に「一夜漬け」をするのと同じように)。
筆者はべつに、田中に「筆を折れ」と言っているのではない。彼には当然言論の自由があるのでそれは尊重したいし、軍事以外の問題ではいくらでもユニークな記事を書けるのだから、それで頑張ってもらいたいとは思う。
が、不思議なのだ。よく考えてほしい。サッカーのルールを知らない記者が「中田英寿は不調だから試合に出るな」と書くだろうか。化学式を読めない記者が「野依教授のノーベル化学賞は時期早尚だ」と言うだろうか。不思議なことに日本のマスコミでは、軍事問題に関してだけは、ほかの分野では絶対に許されない傲岸不遜な記事が許され、素人がMDの是非などを論じてもいいことになっている……だれか理由を教えてほしい。
もしかすると、田中らは自分が「何がわかっていないか、がわかっていない」のではないだろうか。だとすると、事態は深刻だ。田中は元新聞(共同通信)記者だそうだが、日本の新聞界で言われる「取材では裏付けを取るのが基本」というルールは、軍事問題では意味をなさないことになる。「何がわかっていないか、がわかっていない者」が「念のために裏付けを取ろう」と思うはずはないので、単なる思い込みで無茶苦茶な記事が量産されるだろう、ということは容易に想像が付く。
●朝日新聞の「破れ傘」効用論●
意外に聞こえるかもしれないが、筆者も当初はMDに懐疑的だった。それが変わったのは(これまた意外だろうが、産経新聞ではなく)朝日新聞の記事だった。朝日は社としてはMDに否定的なのだが、ある日次のような秀逸な記事を掲載した。
「日米が共同研究する戦域ミサイル防衛(TMD)は効果が限定的な『破れ傘』であっても、防衛の選択肢を増やすことにはなる」(朝日新聞2000年9月1日付東京朝刊4面)
MDは目的でなく手段の1つにすぎない。目的は戦争を防ぎ人の命を守ることだ。目的と手段の全体を無視して技術上の揚げ足取りをすることに、どれほどの意味があるのだろう。1つの手段(MD)に欠点があるのなら、ほかの手段(外交など)で補えばいいだけだ。筆者は朝日のこの記事で目が醒めた。そして、朝日と反対の意見を持つことの多い(MD推進派の)産経新聞なども参照して、多面的、総合的にMDと中国の関係に迫ろうと考えた。
●「ありきたりでない」のが本誌の特徴●
筆者は、小説『龍の仮面(ペルソナ)』執筆のため、小説の主人公の1人である中国軍人の立場を理解しようと、この1年間努力してきた。毎日『人民日報Web版』の見出しを眺め、中国で使われているカレンダーを見、中国に批判的な記事や書籍(中嶋嶺雄元東外大学長や産経新聞)のみならず、中国の体制派の「御用学者」の文章も読み、中国軍人が愛読する雑誌に目を通し、中国軍人が主人公の中国の大河ドラマ全36回分をビデオで見て、中国軍の組織構造や軍人の立ち居振舞い、言葉遣いを頭に叩き込んだ。
こうして筆者は、台湾問題もMDも(日本の立場ではなく)中国の立場、それも中国軍人の本音で考えるようになった結果「実は中国軍人は、台湾が独立宣言をするなら、その前に台湾にはMDを配備しておいてほしい、と本音では願っているのではないか」という世界中のだれも言わない異色の結論
http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/dragon/super.html#05
に到達したのである。先週12月6日の配信記事で、筆者はこのユニークなMD肯定論についての反論を募集した。
ところが、届いた「反論」はみな、筆者への反論ではなく、筆者と関係ない「ありきたりなMD推進論」への反対論ばかりだった。これらは筆者ではなく、中谷防衛庁長官に送るべきものだ。
そうした投稿を本誌で紹介することはもちろん可能だが、読者の皆様はそれを御覧になれば「この投稿者は、佐々木の論点に正面から挑むことをせず『逃げた』」という印象を持たれるだろう。それでは、本誌の大切なお客様が(投稿者名を伏せるにせよ)「不名誉」を受ける形になってしまうので、商業道徳上、紹介は致しかねる。
考えてみると筆者は、軍事的知識の蓄積は前作『ゲノムの方舟』のときにすでにかなりやっているし、さらにさかのぼって学生時代から地政学などは独学してきた。筆者が10年以上かけて形成してきた軍事的知識のすそ野とユニークなMD推進論に、田中宇のような日本人記者の記事だけを読んで「一夜漬け」で反論することなど事実上不可能であって、筆者の反論募集は、結果的にはかなり意地悪だったのではないか、と思われる。
が、それでも「われこそは」と思われる方、とくに田中には、ぜひ反論を試みて頂きたい。(敬称略)
【田中宇氏によるこの記事への反論を期待される方は
mailto:sakai@tanakanews.com
宛に、礼儀正しく「嘆願メール」をお出し下さい。】
追伸1:
本誌へのご意見、投書は、投稿者氏名等の個人情報を伏せたうえで、本誌上で紹介させて
頂くことがございます。あらかじめご了承下さいませ。
本メールマガジンは筆者(佐々木敏)のサポートスタッフにより運営されており、本号は創刊第28号です。
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