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消滅してもかまわない:週刊アカシックレコードmail版011122

発行日時: 2001/11/22

■南アジア新秩序:週刊アカシックレコードmail版011122■
まるでラマダン(イスラムの聖なる断食月)の開始に合わせたかのように、急にアフガン各地から撤退を始めたタリバンの姿は、彼らの反米闘争が「八百長」であったのではないかとも疑わせるが、大量の武器を放棄して逃げているので、いちおう(2001年11月の現時点では)「真剣勝負」だったと言っていいだろう。
今後各国の政治的(表面的)な関心はタリバン後のアフガン情勢に移るが、軍事的な関心は、実はもうインドなどほかの国に移り始めている。

【ミサイル防衛の実現性】
先週と今週、2回にわたって、米国の推進するミサイル防衛(MD)の実現の「容易性」を証明する記事を、「中台関係」をもとに書く予定でした。が、アフガン情勢の急変と田中真紀子外相更迭論の急浮上により、これらの問題を取り上げるよう、読者の皆様から多数のご要望を頂きましたので変更させて頂きました。このためMD論議の「前提」である中国情勢についての記事と、それを受けての「容易性」の記事の間が空いてしまいましたが、どうかご了承下さいませ。
【ラマダン日記】
11月16日から、イスラム諸国は一斉にラマダンにはいりました。イスラム教徒は、ラマダン中は日の出後、日没前は一切の飲食を断つのでいらいらするのではないか、とか、イスラム教徒同士の連帯感が高まるのではないか、との指摘があり、だから米英軍はアフガン攻撃をやめるべき、という意見もあります。
ラマダン中のイスラム教徒の心境を知るにはイスラム国に行って取材する……のもけっこうですが、自分で断食をやってみたらどうでしょう……実は私は現在、東方イスラム教徒の生活習慣を手本にしてラマダン実践中です。
■南アジア新秩序〜アフガン・パキスタン消滅シナリオ■

●「不測の事態」は意外に少ない●
アフガニスタンを実効支配して「いた」タリバン政権と、同政権がかくまうテロ組織アルカイダを倒すため、米国が反テロ軍事制裁に踏み切ると発表した2001年9月、「何が起こるかわからない」だの「だれも予測できない」などと夜郎自大な記事を書いて不安を煽ったジャーナリストが少なくなかった(本誌記事「●許せぬマスコミの扇情報道●」
http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/dragon/scnd.html#05
http://www.yorozubp.com/0109/010917.htm 
を参照)。また、米軍がパキスタンの協力を得て具体的な軍事行動を本格化させた時点でも「パキスタン国内のイスラム教徒(ほぼ全国民)の反米感情が強まって、パキスタンが混乱に陥ったら大変だ」と指摘した学者もいた。

が、これらの危惧はすべて、アフガンやパキスタンの混乱が米国にとって「不測の事態」であることを前提にしている。また、アフガニスタンが「中央アジアとインド洋、東アジアと中東を結ぶ、地政学上の要衝」であることも、混乱が長引いた場合の懸念要因として(あまり軍事的知識のない)識者からよく指摘される。
が、ほんとうにそうだろうか。

●地政学上の「社交辞令」●
正直に言えば、地政学上「どうでもいい国」は存在する。まさにアフガニスタンがそうだ。
だからこそ、1980年代にソ連が撤退したあと、世界も米国もアフガンを「ほったらかし」にし、タリバンのごとき野蛮な集団が同国を乗っ取るのを許したのだ。日本やトルコの例を見れば明らかなように、地政学上真に重要な国なら、米国は常に外交上重視し、米軍の大部隊を駐留させておくはずだ。

●予測済みの事態〜南アジア新秩序●
本誌ですでに紹介した1999年に書かれた米国防総省の内部報告書『アジア2025』
http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/dragon/md.html
は「すべての可能性を網羅的に検討したわけでも、米国政府がこうなることを願っているわけでも、必ずそうなると予測しているわけでもない」と断ったうえではあるが、2025年頃のアジアの姿について5つの想定シナリオを例示してシミュレーションを試みている。そのうちの1つ「南アジア新秩序」では、アフガンの分割、パキスタンの消滅が想定されており、少なくとも米国防総省が、このような事態への「心の準備」をしていたこと、なんらかの対策を研究したであろうことは間違いない。だから、たとえ2001年の反テロ戦争の煽りでパキスタンが混乱しても、米軍幹部はさほど狼狽することはあるまい。

シナリオ「南アジア新秩序」では、元々経済力が乏しいうえに、1998年(5月)の核実験実施で世界各国から経済制裁を受けたために苦境に陥っていたパキスタンが破綻し、カシミール地方の領有権をめぐって対立関係にあった隣国インドによって吸収される事態を想定している。同時にアフガンについても、タリバン、北部同盟などの割拠した一種の破綻状態が続き、タリバンを支えていたパキスタンの消滅により、タリバン政権も崩壊。もはや国家の体をなさず、分裂した「かけら」をインド、イラン、タジキスタンなどの周辺国が拾い、アフガニスタンも地図上から消える、としている。

この結果、中東のペルシャ湾からインド洋を経てマラッカ海峡を抜けて西太平洋を北上して中国、日本に達する重要なシーレーン(オイルロード)の西半分にインドが絶大な影響力を持つに至り、中東原油に依存する日中韓など東アジア諸国がその生命線を押さえられる事態になる。地政学上、半島国であるインドは内陸国である中国からの攻撃に対して宿命的に劣勢であり、中国が、インドへの「通り道」であるチベットを支配し続ける限り常に、中国の「南侵」の脅威にさらされているので、インドは中国を脅すためにイランと協力して「オイルロード」の西半分を完全に支配しようとする。

しかし、これはまた中印間の紛争の原因になりかねず、世界の石油相場を「インド・イラン枢軸」が動かすという、米国にとっていまだ経験したことのない事態にもなるほか、インド洋上の英領の小島ディエゴガルシアにある米軍基地が、孤立して使用できなくなる恐れも出るなど、米国から見て世界情勢全体が著しく不安定で予測困難なものとなることを意味する。

こうした事態を防ぐには、米国はそもそもインドがパキスタンに侵攻するのを防がなければならない。が、この付近には日本や韓国にあるような大規模な米軍基地はなく、小さなディエゴガルシア基地しかない。もちろん、印パ関係が緊張したらただちに日本の基地から空母やイージス艦を派遣することは可能だが、到着までにほぼ2週間かかる。一方、国境を接する印パの戦争は、双方が(核)弾道ミサイルを投入するので、最短数時間(長くても数日間)で大勢が決する(いきなりパキスタン全土がインドに呑み込まれるわけではないが、決定的で不可逆的な軍事情勢の変化はすぐに来る)。従って、日韓の基地の米軍は使えない。同様に、トルコの基地も遠いので、使いにくい。

米軍はサウジ、クウェートなどのアラブ諸国にも基地を持つが、これらも「数時間」で印パ戦争の「現場」に駆けつけられるほど近くないうえ、これらの諸国は、日韓やトルコと違って「わが国の基地はイスラム教国への攻撃には使わせない」などと注文を付けるので、米国は自由に使えない(使用許可を求めて交渉しているうちに「数時間」は経ってしまう)。

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●米軍の中央アジア進出の必然性●
となると、米国にとって「制御不能」な、世界の不安定要因「インド・イラン枢軸」の出現を防ぐには、米国は印パ戦争の現場に近い、ディエゴガルシア以外のどこか、たとえば中央アジア(アフガン周辺)か、印パの国内に基地を持つほかない(インド国内に米軍が基地を持つことは「米印同盟ができる」ということになる)。

これを当然のことと見る意見がある。
アフガニスタンに侵攻したソ連軍と戦った主要組織の1つであるイスラム党のグルブディン・ヘクマティアル党首(イラン亡命中だが2001年現在もアフガン国内で一定の影響力を持つとされる)は、米国がタリバン攻撃の理由とする、米中枢同時テロの首謀者ウサマ・ビンラーディンの捕捉は、実は二義的なもので、ほんとうの目的は中央アジアに進出することだと述べている(産経新聞2001年10月6日付朝刊)。

●インド独走への抑止効果●
筆者はべつに、米中枢同時テロを「米国が中央アジア進出の口実を得るための自作自演」とは断定しない。
が、そうであるか否かにかかわらず、軍事専門家ならだれでも、2001年11月現在アフガンとその周辺に派遣されている米軍が、万が一将来印パ紛争が起きた場合には、印パへの牽制にも使えることにはすぐに気付く。

アフガン戦争を機に米軍に基地を提供することになったタジキスタンやウズベキスタンなど中央アジア諸国に米軍が本格的に駐留するようになれば、それは「恒久的に」印パ紛争の抑止力となりうる。

●終着点●
もはや問題の焦点はアフガンにはない。
分割されようが、どうしようが、米国の長期的国益にはあまり関係ない。
はっきりしていることは、米国はひとたび中央アジアに進出したら、当分退かない、ということだ。

アフガンが分割されようが、パキスタンが消滅しようが、米国政府は本音では、なんらオロオロする理由はないのである。
(敬称略)

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  • 小説家。00年『ゲノムの方舟』(徳間書店)でデビューし朝日新聞など17紙誌が絶賛。ほかに産経抄が紹介した『龍の仮面』、NHK-BS『週刊ブックレビュー』で笑賛された『中途採用捜査官@ネット上の密室』など。

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