犯行声明のジレンマ:週刊アカシックレコードmail版011025
発行日時: 2001/10/25■犯行声明のジレンマ:週刊アカシックレコードmail版011025■
ところでいま、世界中の「イスラム過激派でない」テロリストは何をしているのだろう。一部の「地域密着型」のテロ集団以外は、非常に活動しにくくなっているに相違ない。ここに究極のテロ対策のヒントが隠されている。
【アンダーカバー】2001年10月17日、米NBC放送で放映中の、司法機関と犯罪組織の戦いを描いたテレビドラマ『アンダーカバー』シリーズでは、テロを扱った脚本をラインアップからはずす「自粛」が決まったそうです。理由は、9月の米中枢同時テロの被害者の心情を考慮したとかしないとか。制作側は「テロや爆破アクション抜きでこの種のドラマを成立させるのは不可能に近い」と困惑しているとか……でも「アンダーカバー」がテロ集団に潜入して「中から操る」なんてドラマを放映したら、同時テロの真相にかかわらず、ブッシュ大統領のほうが困惑しますよ。(^^;) だって、米国民が「もしかしてアルカイダにCIAのアンダーカバーがいたりして…」と疑ったら、対テロ戦争への世論の支持がゆらぎかねませんからね(米テレビ界への「自粛圧力」の真の目的は、被害者への気遣いなどではなく「アンダーカバー」という概念の抹殺でしょう)。
■犯行声明のジレンマ〜シリーズ「米中枢同時テロで『損』をしたのは誰だ」■
●反北朝鮮政策をストップせよ!●
2002年Y月Z日、日本では反テロの世論が高まり、外務大臣、法務大臣、警察庁長官らが「テロ国家北朝鮮」とその傘下のテロ組織、カルト教団やその残党に厳しい態度で臨むことを表明し、日本人「拉致疑惑」への明確な回答と、よど号乗っ取り犯の身柄引き渡しがない限り、北朝鮮への援助は(人道援助も含めて)一切行わないと宣言。在日朝鮮人による(スイスの銀行を経由した)北朝鮮への送金も、国連の「テロ資金供与防止条約」等を援用して禁止し、日本国内の北朝鮮シンパへの破防法違反、脱税容疑による摘発も強化して「北朝鮮を日干しにし、手足をもいで孤立させる」策を推進した。
追い詰められた北朝鮮はこれらの政策の阻止を画策。某カルト教団残党の「テロリストX」を「再雇用」して上記VIPの殺害を命令。彼は上記3省庁のトップに炭そ菌を郵送し、役人たちを震え上がらせた…。
●犯行声明なきテロの時代●
当然、北朝鮮政府も「X」も犯行声明など出さない。これは80年代以降のテロの常識だ。
かつて、70年代まではテロリストたちは自ら名乗って、各国政府に対して特定の政策の遂行、中止や仲間の釈放、身代金の支払いなどの「戦果」を求めるのが常識だった。が、(日本を除く?)世界の主要国が結束して「テロリストと交渉しない」ことを原則に厳しく対処したため、世界中の「テロ業界」では「ハイジャックして人質を取って政府を脅してもムダ」というのが通り相場となり、80年代以後この種の「古典的な」テロは激減した。
替わって増えてきたのが、犯行声明なき「無言テロ」だった。これは、各国政府との交渉によって「戦果」を求めるのでなく、自分たちに不利益な政策を進める機関や個人を一方的に攻撃し殺傷して、交渉なしに力ずくでその政策を止めさせるという形で「戦果」を求めるものだ。自分たちの犯行に司法機関の捜査がおよんだ場合は、犯行声明を出さないどころか徹底的に関与の事実を否認して「横暴な某国政府の弾圧を受ける被害者」のフリをするのが常套手段である。
たとえば北朝鮮が、韓国大統領をねらった1983年の「ラングーン爆弾テロ(暗殺未遂)事件」、ソウル五輪の妨害をねらった女スパイ金賢妃の1987年「大韓航空機爆破事件」、またオウム真理教団が、自らへの警察の強制捜査を妨害する目的で起こした1995年の「地下鉄サリン事件」、同年、教団への宗教法人認可の取り消しに言及した当時の青島幸男・東京都知事の殺害をねらった「小包爆弾事件」は、いずれも犯行声明がなかった。が、事件当時の情勢から見て「誰が誰に何を求めて起こしたのか」は明白で、犯行声明など出さずともテロの実行犯や「雇い主」が期待する政治的効果はあると考えられていた。
だから「X」も3省庁に炭そ菌を送りつけたあと犯行声明は出さず、これで反北朝鮮政策に一定のブレーキがかかるだろうと期待した。
●テロ業界の「独禁法違反」●
ところが、日本政府はとんでもないことを言い出した。
「これはビンラーディン一派の仕業に違いない」
「外務省がねらわれたのは、日米反テロ協力の主管官庁だからだ」
「わが国は、2001年の小泉・ブッシュ会談の合意に基づき、テロに屈しない方針を貫く」
日本政界のなかにはイスラム過激派のさらなるテロを恐れて「中東和平問題ではアラブ寄りの姿勢を見せよう」などと言う「平和的な」政治家もいるにはいたが、ハト派からタカ派まで炭そ菌テロが北朝鮮の仕業と思った者が1人もいなかったので、結局政府の対北朝鮮政策はなんの見直しもされなかった。
おまけに数日後には、カタールの衛星放送「アルジャジーラ」を通じて、ウサマ・ビンラーディンが、例によってビデオで、米中枢同時テロに関して2001年10月8日に公開したのと同様の「不明確な犯行声明」を出した。
「パレスチナに安寧が訪れるまで、アメリカに安寧はない。アメリカと手を組む者にも安寧はない」
「見えない武器でアメリカとその仲間に恐怖を与えたイスラムの息子たちよ。神は汝らを祝福してくださる」
あのなー、おい! 勝手なこと言うなよ。やったのは、オレだっつーの。中東はいいから朝鮮政策を変えろよ……「X」は地団駄踏んで悔しがったが、無駄だった。この時期、世界中の政府もメディアも「すべてのテロの道はビンラーディンに通ず」と考え、少なくとも西側世界では「犯行声明のないテロはぜ〜んぶイスラム過激派」と疑う人が多数派だ。たとえビンラーディンの犯行声明ならぬ「便乗声明」がなかったとしても結果は同じだ。
80年代は世界のテロ業界は多極化し、無言テロの黄金時代を迎えていた。北朝鮮、イラン、イラク、リビア、シリア、スーダン、オウム、ヒズボラ、ハマス、PFLP、ペルーのツパクアマルと百花繚乱だった。北朝鮮も「業界」では一目置かれる存在で、北朝鮮の指導者も、犯行声明など出さずとも「オレの言いたいことはわかってるよな」とふんぞりかえっていられた。
ところが2001年9月11日のあまりに巨大な事件のせいで「業界」は一変した。ショックのあまり、シリア、リビアから北朝鮮、さらに元テロリストのアラファト(現パレスチナ自治政府議長、元ソ連スパイの手先PLOのリーダー)まで、米国に同情し、テロを非難すると言ってしまった。このため世界中のテロリストは、今後は犯行声明を出さない限りどんな戦果をあげても(少なくとも米国とその同盟国では)すべて「ビンラーディンがやった」と受け取られかねない、という奇妙な立場になった(北アイルランドの英国からの分離独立を唱えていたカソリック過激派IRAは、クリントン前米大統領の調停による和平調停後もなかなか武装解除に応じなかったが、2001年10月下旬、突如「もう武装解除を始めている」と発表した。やはり「イスラム過激派ブーム」の最中に「反ビンラーディン戦争」参加国の英国を相手にテロをやっても「効果は疑問」と悟ったのだろう)。
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●「米極右犯行説」のお笑いと実害●
世の中には虚心坦懐に事実を積み重ねて、物事の真相に迫ろうと考える本誌の読者の方々のような人がいる反面、最初から「反米」「反自衛隊」などとスタンスを決めて、物事を自分の「偏見」にあてはめようとする人もいる。
そういう「偏見主義」の典型の1つが、2001年10月に顕在化した米国炭そ菌ばらまき事件についての「極右犯行説」(日刊ゲンダイ2001年10月20日3面)だ。おそらく米国の政府や世論の大多数の見方は常にウソだと決め付けている記者が書いたのだろう。日米豪のマイナーな「識者」の意見をほじくり出し、米軍の反テロ戦争の向かう矛先は間違いだと言いたいようだ。が、この記事が論拠の1つにした日本の「評論家・古森義久」は、実は現役の産経新聞米国特派員で、学者も一目置く、有名な米中関係の専門家であるから「評論家」の肩書きも、そしておそらく古森のコメントも間違いで、この記事を書いた者が国際政治の素人なのは一目瞭然だ。
それに、仮に「極右の犯行」が事実だったとして、なぜ犯行声明を出さない奴らに「助け舟」を出す必要があるのだろう。極右の犯行が事実なら、全米がイスラム過激派の犯行を疑っている状態を放置しておけば、いずれ極右の奴らは、アホらしくなってテロをやめるか、我慢できなくなって「自慢げに」犯行声明を出してFBIの強制捜査を受けるか、の二者択一を迫られる。米国の民間人の心身を傷付けながら犯行声明を出さない卑劣な奴らに「花を持たせる」のが、報道機関の使命だろうか。
●便乗声明の効用●
上記のシナリオで示した「便乗声明」はこれまでのところ現実にビンラーディンや彼の組織アルカイダから出された可能性はない。が、これからはないとは言えない。というのは、ビンラーディンは常々「世界中のどこでも常に米国人を殺せ」と公言してきたから、その趣旨に従えば、実行犯が「自分と無関係な北朝鮮の手先」でもかまわないし、また国連等のテロ資金根絶政策で自身の軍資金も払底してきているので、自腹を切らずに他人がやってくれるなら、それに越したことはないからだ。
それに便乗声明を真に受けた西側政府がビンラーディンやその配下を逮捕してくれれば、法廷で声明を否定し、無罪を勝ち取り、西側の司法手続きの不当性を訴えることもできる。
●中小業者を整理し、過当競争を防止●
前回の記事
http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/dragon/scnd.html#05
で筆者は、テロ報道では「防ぎようがない」などと、某大手通信社の記者のように面白半分に読者の恐怖心を煽るべきでなく、可能な対策を模索すべきだと主張した。そして、反テロ戦争の合理的な着地点は、テロの完全な撲滅ではなく、テロ組織を弱体化したうえで温存し、その内部にアンダーカバーを潜入させて無害化することだと、述べた。
FBIやCIAの「泳がせ作戦」の成果なのか、単なる取締りの失敗なのかはともかく「無言テロはすべてビンラーディンの仕業」と思われかねない「テロ業界」の「一極集中傾向」はアンダーカバーを利用したテロ対策を推進するには、好都合だ。
米中枢同時テロ以降、ビンラーディンとイスラム過激派の存在があまり巨大な「業界最大手」になったため、北朝鮮や米極右などの「中小業者」は太刀打ちできなくなって来ている。これは、取り締まる側が、ビンラーディン一派の中にうまくアンダーカバーを送り込めれば、全世界の大半のテロリストを監視でき、場合によっては制御できることを意味する。
●米ソ冷戦時代の再現●
これは米ソ冷戦時代の世界秩序によく似ている。米ソは対立(を偽装?)しつつ世界を分割支配し、世界中のあらゆる地域紛争にスパイを送り込んで干渉し、米ソいずれにも支配されない「独立自尊」のゲリラやテロ集団が突発的に出てくることを防いでいた。お陰で、少なくとも西側自由世界では、大きな戦争・紛争は抑止されてきた。大きな争いが起きそうになったら、西側主要国はソ連と話を付けて「親分同士の手打ち式」をやり、ソ連に「子分」のテロ集団を「使い捨て」にしてもらえばよかった。
ブッシュ米共和党政権は、対テロ戦争は湾岸戦争のように短期間で終結することはなく、何年もの忍耐を要し、軍事、経済、司法等のあらゆる分野での総力戦になると言っている。これは、つまり、かつての米ソ冷戦のように、米国(とその同盟国)の反テロ陣営とイスラム過激派のテロ陣営とで世界を分割支配し、北朝鮮の手下や米国内極右のような「雑魚」を始末するということではないのか。
●毒を持って毒を制する●
生物化学兵器は、安いコストで小さな施設で造れるために(核兵器と違って)外部から偵察衛星等で査察することが非常に難しく、北朝鮮や米国内の極右のような貧乏集団でも持つことができ、その使用を防ぐのは困難と見られていた。
が、これは(衛星)査察が「技術的に」困難ということにすぎず、政治的心理的にその使用を防げないことを意味しない。「生物化学兵器を使ってもビンラデーィンの手柄にされるならアホらしい」からやめる、という方向に持っていく防ぎ方もあるのだ(但し「個人的に」政府要人を殺したい者がテロに見せかけて殺す「便乗殺人」は別だ)。
【これは、ミサイル防衛(MD)の実現性の議論にもあてはまる。米共和党政権が、無法国家の弾道ミサイル攻撃を防ぐ盾として開発を進めるMDについて「技術的に100%すべてのミサイルは防げない」と言い張る「識者」がいるが、彼らは軽率にもMDの持つ政治的・心理的効果を無視している。】
世界全体で約1名、時々ド派手なテロや闘争宣言をする「大物」をわざと生かしておき、中小テロ業者をその軍門に下らせ吸収させるか、「アホらしいからやめる」方向に導くことで、テロの「総量規制」が実現できれば、21世紀の人類は、少なくとも西側世界では冷戦時代同様、枕を高くして眠れるのではあるまいか。
すべての物事には対策があるのだ。(敬称略)
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