参拝か選挙か(2):週刊アカシックレコードmail版010730
発行日時: 2001/7/30■参拝か選挙か(2):週刊アカシックレコードmail版010730■
日本の国益という観点では、靖国とMDは別個の問題で、両者にそろって反対する必然性は何もない。たとえば「靖国反対でMD賛成」でもいいはずだ。が、現実にはそういう意見は皆無で、あたかも中国の立場に立ったかのごとく、両者ともに反対と主張する者が多い。小泉の参拝強行は「親中国派」政治家の「あぶり出し」につながるであろう。
【お知らせ】(^o^)/ 映画ファンの皆様、8月下旬以降には『チャーリーズ・エンジェル』や常盤貴子、『パトリオット』を政治学的に考察した「美人大国(日本)と巨大市場(中国)」等を予定しておりますので、しばらくお待ち下さいませ。
■参拝か選挙か(2)■
(前回の記事
http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/yasukn.html#scheme
から続く)
●天皇の公式参拝はOK?
実は、筆者は、この「首相の靖国神社参拝」に100%賛成ではない。理由は(中国、韓国の批判するA級戦犯合祀問題ではなく)憲法の政教分離原則との関係である。
(これについては、長くなるので
http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/yasukn.html#emperor
を参照されたい)
●選挙より有効な「踏み絵」
が、それでも筆者は、首相は靖国神社に参拝すべきである、と思っている。それは、この参拝が「純粋な気持ちで…」と繰り返す小泉首相の言葉とは裏腹に、たぶんに「不純な」「政治的な」効果を持っているからだ。その効果とは、大規模かつ決定的な「政界再編」への長い導火線への点火である。
1993年の自民党分裂(新生党誕生)と細川(非自民)連立内閣の発足以来、日本では数え切れないほどの、政党や派閥の離合集散が繰り返され、小幅な小手先の政界再編が続いた。自民、非自民、改革派、自称改革派、リベラル、平和主義、自称環境保護派(原発反対=石油賛成)、同じく自称環境保護派(原発賛成=石油反対)などが乱立し、裏切り、寝返り、何度選挙をやってもほとんど何も変わらない状況が続いた。
景気対策、財政再建、行政改革、不良債権処理、環境保護はすべて望ましいものであるため、政界再編の基軸、起爆剤にはなりえなかった。そんな「けっこうな」政策を掲げるだけでは、いっこうに抜本的な政界再編は起きず、英米にあるような、常時政権交代可能な安定した複数政党制は実現されない。政治家、とくに衆議院の小選挙区で選出された代議士たちは、選挙区内の相対過半数を取らなければ当選できないので、ただ単に「当選したい」「勝ち馬に乗りたい」という気持ちだけで、いとも簡単に信義、信念を捨て、ころころと所属政党や連立政権の組み合わせを変えてしまう。ほんとうは小泉首相の郵政民営化などの構造改革に大反対の族議員候補が「小泉支持」を掲げてぬけぬぬけと自民党から参院選に立候補していることなど、まさにその典型であろう。
この結果、あらゆる問題に賛成の議員と反対の議員をそれぞれ多数抱え込んだ大政党(現在の自民党、民主党)が出現し、選挙の意味が小さくなり、政権交代の可能性がほとんどなくなり、すべての政策が中途半端に陥ってしまっている。小泉首相が首相就任後、それまで強く主張していた諸改革の具体策をなかなか出さないのは、参院選で「自民党総裁」として勝つには族議員であれなんであれ自民党候補者にある程度勝たせる必要があったからにほかなるまい(族議員候補の当選まで含めて小泉の参院選での勝敗を論ずるのは、いささか不純だが、どんな理由であれ小泉が自民党の議席を「減らした」となると、小泉は自民党総裁として責任を問われ、政権を追われ、いかなる改革もできなくなってしまうのだから、ある程度やむをえまい)。
とりわけ、問題をややこしくしたのは、かつての革新左翼(社会党)らの主張(安保反対、自衛隊違憲、反米)をいつのまにか「水割り」にして(「慎重論」「親中国」という奇妙な形にして)引き継いだ保守勢力(自民党)内のハト派、あるいはリベラルと呼ばれる連中である。彼らは経済から外交、防衛、教科書検定、拉致疑惑解明までの諸問題をいちいち、中国共産党から北朝鮮の金正日、ウォール街の御意向までそんたくして「完全無欠の八方美人」を決め込み、なんでも「足して二で割る」式の中途半端な策で糊塗しようとする。このため、一見一生懸命やっているように見えて、実は何もやっていない(なんの効果もない)という事態を引き起こした。彼らの最大勢力である、小渕派、橋本派(平成研究会、旧経世会)はここ数年自民党の中枢に居座ったが「あぶはち取らず」な政策を繰り返し、財政再建、不良債権処理、景気対策のすべてに失敗したことは、いまや日本中知らぬ者がいないほどだ。
これでは、不良債権処理が進まず、景気が回復しないのも当然である。が、この失敗の張本人たちは、自身の正体を隠すのが忍者のようにうまい。だから「構造改革にほんとうに賛成なのか」といくら「踏み絵」を迫っても容易は本音を吐かない。
ところが、実に不思議なことに「首相が靖国神社に参拝するのに賛成か反対か」と問うと、いとも簡単に本音を吐き、そしていわゆるハト派(族議員、公共事業重視派)の大半は「反対」と言うのである。これは実に不思議な現象で、なぜそうなるのか筆者にはよくわからないが、とにかく現実にそうなのである。
●なぜか「戦勝複式」
しかも、さらに面白いことに、この「靖国反対派」は、憲法9条の改正や集団自衛権の容認(憲法解釈の変更)、有事立法制定に「慎重」であり、中国が反対するアメリカのミサイル防衛(MD)構想の推進に否定的であり、中国海軍艦船が日本近海の排他的経済水域で違法な調査測量活動を行う(将来、中国が潜水艦発射弾道ミサイルSLBMを沖縄や小笠原の近海域に配備するのに役立つ。同海域の原潜から撃った場合のみ中国の核弾頭はワシントンに届く)ことに甘く、北朝鮮工作員による日本人拉致疑惑の解明に不熱心でかつ北朝鮮への人道食糧援助に熱心であり、対中国、対韓国とのいわゆる歴史教科書問題では「近隣諸国への配慮」を優先するという傾向が強く、台湾の李登輝前相当の訪日ビザ発給には消極的だった。つまり、まとめると
靖国神社参拝: ×
ミサイル防衛(MD): ×
集団自衛権: ×
中国船違法調査: ○
拉致疑惑解明: ×
対北朝鮮援助: ○
教科書問題で対中(韓)配慮: ○
台湾前総統来日: ×
となる。具体的にこれに該当する政治家、政党は
自民党橋本派:野中広務、橋本龍太郎
自民党旧宏池会:加藤紘一
自民党河野グループ:河野洋平
自民党無派閥:田中真紀子
公明党全体
保守党(ただし、小池百合子を除く)
民主党労組系議員
社民党全体
などである。
逆に、靖国賛成派は、なぜか有事法制やMDの研究に積極的で、中国、北朝鮮、韓国に対してあまり迎合しない傾向が強い。すなわち
靖国神社参拝: ○
ミサイル防衛(MD): ○
集団自衛権: ○
中国船違法調査: ×
拉致疑惑解明: ○
対北朝鮮援助: ×
教科書問題で対中(韓)配慮: ×
台湾前総統来日: ○
となる。具体的にこれに該当するのは
自民党無派閥:小泉純一郎、平沢勝栄
自民党森派:森喜朗、福田康夫、塩川正十郎
自民党旧中曽根派(現江藤・亀井派?):中曽根康弘
民主党の一部
自由党全体
といった顔ぶれである。
もちろん、小泉の構造改革に賛成ながら、対中国で弱腰(靖国参拝反対)という政治家も少しはいる。たとえば、加藤紘一・元自民党幹事長がそうである。
が、加藤(をはじめとする)「参拝反対派」は、元来靖国問題となんの関係もない集団自衛権の問題など、軍事面での「改革」には消極姿勢が目立つ。たとえば、加藤はかつて総裁選に出馬した際「(沖縄の米軍基地が北朝鮮に攻撃されても)わが国の個別自衛権で対応できるので、憲法や憲法解釈を変えて集団自衛権の行使を容認する必要はない」と言い切っている。
●靖国とMD
とくに筆者が注目するのは米共和党ブッシュ政権が推進するミサイル防衛(MD)への態度である。元来、靖国神社を憲法や平和の観点から考察することと、MDの妥当性を軍事技術的観点から考察することはまったく別のことである。首相の靖国参拝に反対しながらMDに賛成しても、あるいはその逆でも、とくに矛盾は起きないはずである。そもそもMDは純粋な防衛兵器で、いわゆる「ハト派平和主義者」が泣いて喜ぶはずの「専守防衛」に役立つ兵器であり、また既存の空母、戦闘機、戦車などの大型兵器を代替する機能を持つから軍縮につながり、旧来型の軍需産業の利益にはつながらない(むしろミサイルの探知、誘導技術の開発を通じてIT産業の振興に役立つ)性質がある(米議会民主党などでMDに反対しているのは、実は昔ながらの兵器を愛する軍需産業や一部の退役軍人であり、べつに平和主義者が反対しているのではない)。
が、首相の靖国参拝に反対する勢力の集会などに行って参加者や主催者に聞いてみるがいい。彼らはほとんど例外なく「靖国に反対なら、集団自衛権もMDも反対でしょう」と「抱き合わせ」で押し売りして来るのだ。
しかも、その「MD反対論」なるものがまた奇妙である。MDは「鉄砲の弾を鉄砲で迎え撃つ」ようなものだから技術的にほとんど実現不可能なうえ、中国、ロシア、欧州などが「新たな軍拡競争を招く」として反対しているから宜しくない、のだそうだ……。
バカも休み休み言え。キッシンジャー元米国務長官がいみじくも言っているように「技術的に実現不可能」なものが「軍拡競争を招く」はずがないではないか。(^o^)/
たとえば、近年核戦力を増強させてアメリカに対抗しようとしている中国にしてみれば、もしMDが「技術的に不可能」で、アメリカ政府が不可能なものの開発に国力を浪費し、かつ空母や戦闘機を削減(軍縮)してくれるなら大助かりなわけだから「賛成」するはずである。中国がMDに反対なのは、要するに軍事専門家の目で見てMDが明らかに実現可能であり、それが中国の核戦力を無力化してしまうからにほかなるまい(「鉄砲の弾を鉄砲で迎え撃つ」というのは軍事的どしろうとだますための比喩であり、IT革命を成功させたアメリカの技術力、とくに衛星探査やリモートセンシング、精密誘導の技術力を過小評価した、無意味なたとえ話である)。
というわけで筆者は「靖国:△、MD:○」なのだが、たいていの靖国反対派は、あくまで両者を「連勝複式」でリンクさせることを求め、「一点買い」を許さない。この理由はなんだろうか?
●親中国派「あぶり出し」効果
結局のところ「中国の都合」しかない。
日本と違って中国には「恨み骨髄」の考え方があり、敵は未来永劫、死後も敵であるから、戦(いくさ)で倒した敵の骨や肉を食べたり、その墓をあばいて遺骨や遺体を辱めたりするのは永く「伝統」として営まれてきたという。そういう中国の価値観に立つなら、日本の首相が、かつて中国の仇敵だったA級戦犯の合祀されている靖国神社に参拝するのは「未来永劫」許さない、ということになろう(が、日本には死者の罪を問う考え方はないし、A級戦犯を決定した「東京裁判」の合法性に疑義を唱える世論も一部にはある。おまけにA級戦犯のなかには戦後政界復帰して閣僚になった者も複数いるが、彼らについて中国も他のいかなる国もなんの批判もしなかった、という既成事実まである)
となると、「靖国:×」とセットで「MD:×」と主張するのは「日本の」世論ではなく「中国政府の意向」ということになる。ここでやっと、両者が「連勝複式」になる理由が判明する。そして、この2つ「靖国:×」「MD:×」が「中国船違法活動:○」「李登輝訪日:×」など広範な(日本の国益の観点から見れば互いに無関係な)問題とリンクする理由も、明白になってくる。これら無関係な問題の根底にあるのは「中国の国益」以外に考えられないではないか。
中国政府は、中国研究を専門にしている学者(一部の政治家、ジャーナリスト)らの入国を許諾する際、「反中国的な言論をしない」「親中国的な言論をする」ことを交換条件として要求し、拒まれると入国を認めないケースが多い(岡崎久彦著『アジアにも半世紀の平和を』、PHP研究所2001年2月刊)。いわゆる中国研究者、とくに政治学者(元米国務長官のキッシンジャー博士)や政治記者(「日中記者交換協定」を受け入れた某大手新聞)は中国政府高官に会見できなくなると「中国通」としての立場が維持できなくなるので、会見したい一心から中国政府の要求に屈しやすい(岡崎前掲書ほか)。
これは、本誌が以前取り上げた、ハリウッドのディズニー・グループと中国政府の「米中映画摩擦」の解消過程(キッシンジャーが仲介)にも露骨に表われている傾向で、中国が言論の自由のない独裁国家で、自国はもちろん他国の言論まで支配したがることがよくわかるであろう(詳しくは
http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/dragon/pearlh.html#disneyland
を参照されたい)。
●中国への「過剰忠誠」
が、キッシンジャーは親中国派の中国通なのにMD賛成である。これは何を意味するか…………これは、アメリカの親中国派に比べて日本の親中国派が「なさけない」ことを意味する。中国政府は外国の学者や記者に入国を許す際、いちおう「靖国もMDも李登輝訪日も反対し、違法調査は容認し、映画界や言論界が『親中(反日)』になるように説得してほしい」などといろいろ注文は出す。が、そのすべてが実現するとは中国政府とて思っていない。キッシンジャーのように、ディズニーを説得して中国のイメージアップに貢献してくれるなら、MDや日米の防衛協力問題で少々中国に不利な言論を展開しても容認してしまうのだ。
となると、日本の親中国派は相当に「なさけない」部類に属すると言わなければならない。中国に脅かされると「なんでも言うことを聞かないと嫌われる」と思い込むらしい。だから「連勝複式」の範囲が、一見無関係なことにまで際限なく広がっていくのだ。
(敬称略)
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