「超自然現象」や疑似科学を調べる
この世の中には、「超自然現象(超能力)」などと呼ばれるものがあります。でも、それらはきちんと説明のつくことばかり。合理的精神に基づいてそれらを解明しながら、オカルトの社会的な影響にも言及します。
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創刊日: 2001-04-08■□━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「超自然現象」や疑似科学を調べる 第43号
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■ドクター新谷に公開質問状
28日、日本酪農乳業協会(牛乳乳製品健康科学会議)が、『病気にならない生
き方』(サンマーク出版)の著者である新谷弘実医師に対して、公開質問状を提
出しました。
同書は「牛乳は腸相を悪くする」「牛乳を飲み過ぎると骨粗鬆症になる」など、
乳製品を否定していました。その「科学的根拠に大きな疑問を持っている」同会
議が8項目にわたり反論。4月末までに、新谷さんに主張の科学的根拠を示すよう
求めています。
前々号でも触れましたが、もともと新谷さんが「腸相に悪いもの」としていた
のは、乳製品の他には肉と緑茶などです。それらは過去の「健康本」にも書かれ
ていた手垢にまみれた説ですが、根拠が曖昧であったり、まだ科学的に結論が出
ていなかったりするものです。同書に書かれていることも「30万人の腸相を見た」
新谷さん自らの臨床「経験から導き出した」だけのことで、議論に値する客観的
な根拠を示しているわけではありません。
牛乳を分解するラクターゼが日本人は年齢と共に減少する、という理由から新
谷説に賛成する意見もありますが、多くの医学・保健学の専門家は批判的です。
たとえば、老年学者の柴田博さんは、戦後、肉や牛乳を適度に摂取してきた食生
活こそが、日本を世界一の長寿国にしたという立場から発言を行い、新谷さんと
は真っ向から対立しています。
「人類の平均寿命は二十世紀に入って急速に延びました。これは栄養が良くなっ
たためにほかなりません」
「昭和四〇年頃から、米の摂取量が減り、牛乳・乳製品とともに食肉が増えだす
と、それと軌を一にして、日本の国民病といわれた脳卒中による死亡率が減り始
めます。昭和五六年には、脳卒中は昭和二六年以来続いていた死亡率第一位の座
をガンに明け渡しますが、ちょうどこの頃、日本は世界一の平均寿命を樹立しま
した」
「脳卒中は、栄養状態が少し良くなり、それでもまだ十分でない中進国に多い病
気です。欧米諸国では、栄養の近代化が進みすぎ、脳卒中の減少に反比例して心
臓病が増加し、平均寿命の延びが頭打ちになりました。ところが、脳卒中が減っ
て栄養学的にも先進国の仲間入りを果たした日本では、心臓病が増えませんでし
た。だからこそ、欧米諸国を抜いて世界一の平均寿命になったのです」
(「富士通飛翔 No.57」02〜07ページ「正しい健康観をもち頭と身体を活発に動
かす英知を身につける事こそ豊かな生き方」)
つまり、ドクター新谷の言うことを額面通り受け止め、「オール・オア・ナッ
シング」症候群になりやすい国民が、「(野菜)ばっかり食べ」「(肉と乳製品
は)絶対食べない」生活を続けていたら、脳卒中による死亡率が再び増えるかも
しれない、ということでしょうか。これは大変です。
いちいち名前を挙げませんが、この「健康ブーム」の中で、肉や乳製品を悪役
扱いしてきたのはドクター新谷だけではありません。その人達には、この件につ
いてきちんと決着をつける責任があります。
■納豆だけ検証して済むことなのか
22日には、「発掘!あるある大事典II」で、過去の放送のうち捏造やデータ改
ざん、「極めて不適切な表現」のものなど計16件あると社外調査委員会で報告さ
れました。
この問題は、もともと「納豆でダイエット」というガセ情報が発端でした。で
すから、納豆で本当にダイエットできるのかの検証は必要でしょう。
しかし、その「ヤラセ」や「疑似科学」ぶりをいくら批判しても、それは
「『納豆には』ダイエット効果がなかった」というだけのことで、「ダイエット
したい」と強く願望する人がいる限り、もとい、ダイエットが社会的なニーズで
ある限り、また今後も新たなガセネタのダイエット情報がくり返し同じようなト
ラブルを起こすだけで、「ダイエットと疑似科学問題」の根本的な解決に即効す
るとはいえません。
ダイエットは本当に必要なのか、そして、なぜこれほどダイエットの情報が我
が国では流布されるのか、といった視点から社会動向と結んだ考察を行うことこ
そが、スケプティクスとしての真骨頂ではないかと筆者は考えます。
ダイエットと医学・保健学の関係では、前出の老年学者・柴田博さんが栄養と
健康の問題から次のように述べています。
「昔から言われている『粗食長寿説』もそのひとつ。質素な食事で一生懸命に働
けば長生きする、と。貝原益軒の『養生訓』に代表されるような思想で、今なお
こうした考え方は幅を利かせています。
結論から先に言ってしまうと、これは何の根拠もないでたらめです。あえて根
拠らしきものを邪推するなら、美味しいものを食べて庶民に贅沢されては困る、
かつての為政者によるマインドコントロールの残淳、いうなれば一種の『愚民思
想』のなれの果てではないでしょうか」
(前掲「正しい健康観をもち頭と身体を活発に動かす英知を身につける事こそ豊
かな生き方」)
柴田さんは、コレステロールと死亡率の統計なども発表。「『痩せているほど
長生きする』ことを裏付けるデータはない」「メタボリックシンドロームの基準
値は疑わしい」といった主張も行っています。
柴田説に異論のある方もいるかもしれません。が、少なくともいえることは、
柴田さんは、「前向き調査」も含む統計を根拠に批判や自説の主張を行っていま
す。また、俗説・ガセ科学の類が国策とつながっていることも示唆し、アメリカ
直輸入の保健思想をありがたがる属国根性も厳しく批判しています
(『中高年健康常識を疑う』講談社)
疑似科学を社会動向と結ぶ考え方について、筆者は柴田さんにスケプティクス
のセンスを感じます。
「なぜこれほどダイエットの情報が我が国では流布されるのか」という点では、
ダイエット情報とマスコミの報道についても見ておくことが必要です。筆者は以
前、メディア論の服部孝章さんにこの話題を伺ったとき、次のような指摘で理解
を助けていただきました。
「おびただしい記事の量ですが、その多くは『広告がらみ』で構成されているこ
とが多く、事実や現象を報じる『情報』というよりも、商業的な狙いが込められ
ているようです。また『女性は痩せてきれいでなくてはいけない』という、女性
蔑視の考え方を押しつけ、それによって半ば脅迫じみた『痩身のすすめ』を連呼
しているように見えます」
ライターや編集者ならご存じと思いますが、ペイドパブと呼ばれる記事の体裁
をとった広告ページだけでなく、純粋な記事の枠についても広告の出稿者に配慮
します。テレビでもスポンサーへの配慮は当然あるでしょう。
女性雑誌の研究者である井上輝子さんは、メディアが求める「痩せてきれい」
な女性像は欧米型をモデルとしており、もともと食生活も体型も違う日本人的な
美を求めたものではないと筆者に教えてくれたことがあります。
このへんは、柴田さんの指摘する「属国的保健思想」がファッションや美の価
値観にも見られるということでしょうか。
いずれにしても、疑似科学の問題は科学知識を身につければ解決、というもの
ではないことがわかります。
■年齢差や性差などを考えろ
もちろん、痩せることが絶対に悪いということではありません。コレステロー
ルが高過ぎることはよくないし、BMIに気を配ることも必要です。ただし、自分
の年齢(基礎代謝)や運動量も考えず、やみくもに「ダイエットがいい」「ベル
トの穴をひとつ縮めれば寿命が延びる」などと根拠もなく盲信することが問題な
のです。
医師の大櫛陽一さんは、性差と年齢差を無視して一律の基準による診断を行っ
てきた我が国の医療を批判しています(『間違いだらけの診断基準』太田出版)。
同書ではメタボリックシンドロームの考え方自体は否定していませんが、実は我
が国にその科学的な基準がないことも暴露しています(79ページ)。
そういえば、“怪しい健康情報”に共通していえることは、性差や年齢差、体
格差、さらには人種や民族、職業による生活リズムの違いなどを全く考慮も検証
もせず、一律に「○○はいい(悪い)」と断じていることです。
論理もなにもないワン・フレーズの総理大臣が、我が国では5年間ずっと高支
持率でした。大衆は単純なものがわかりやすくお好みということか。そこでメディ
アや知識人は、健康情報もワン・フレーズ済むのなら「わかりやすい」と考える
のでしょうが、そんなに単純なものなら苦労はありません。
「肉は悪い」「乳製品はダメだ」「粗食がいい」などと一律に断じる「わかりや
すい」ものに対しては、注意が必要ということでしょう。
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科学と社会の事件簿(2007年3月) 本文中敬称略
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●HOH、刑事の名誉棄損容疑は不起訴
東京地検は22日までに、自己啓発セミナー主催会社「ホームオブハート」
(HOH)のサイトなどで、「古い価値観の人類」などと書かれ名誉を傷つけられ
たとして、紀藤正樹弁護士らが名誉棄損容疑で告訴した事件で、同社の倉渕透
(実質的主宰者)とToshiを不起訴処分にした。
紀藤側は「HPで『古い価値観の人類』と記載したのは自分たちのことで、名
誉棄損に当たる」として告訴していた。不起訴処分については「彼らの違法性
を認定した2月の民事訴訟の判決を踏まえた再捜査もせず、納得できない。検
察審査会に申し立てる」とコメントした。一方、HOH側は「告訴人による誹謗中
傷が事実無根とあらためて強調したい」と談話を発表。Toshiも公式サイトで
「刑事告訴、刑事告発も含めてすべて虚偽であったことが証明された」と報告
している。
HOHに限らず統一協会などの伝道方法を司法的に問うてきた紀藤としてはこれ
も戦略の一つだろうが、いかなる意図であっても「古い価値観の人類」で名誉
毀損の刑事告訴をするのは、法律にシロウトの筆者ごときからするといささか
怖い。これでもし起訴されていたら、今後、ジャーナリストの政治家や企業人批
判にも適用されるのではないか、その地ならしとして今回の告訴が利用されたら
どうなっていたか、などと懸念するからだ。これは考えすぎだろうか。
7年前、女優・千堂あきほのかつての所属事務所社長が、千堂の恋人について
虚偽の事実を記したビラを撒いて刑事の名誉毀損で逮捕されたことがある(懲
役1年6ヵ月・執行猶予4年、東京地裁)。そのように事実関係が問われるものな
らわかるのだが、表現が問題であるのなら表現の自由との衝突が問われる。
筆者は原則として、そのケースは言論で争うことが望ましいと考える。誰が相
手だろうが、言論にかんする争いはもっと慎重であるべき。刑事告訴ならなおさ
らだ。「噂の真相」編集長の有罪判決や、鹿砦社社長の逮捕・半年勾留といった
事件を軽く見てはならない。
Toshiによれば、逆に紀藤らを名誉毀損、営業妨害で提訴しているという。た
たかいはまだまだ続く。
●違法健康食品業者の罪
東京地裁(柴田誠裁判官)は12日、アガリクスなど健康食品のタイアップ書籍
(いわゆるバイブル本)出版で薬事法違反の罪に問われた史輝出版社長・瀬川博
美被告に対し、懲役2年6ヵ月、罰金200万円、執行猶予5年(求刑懲役2年6ヵ月、
罰金200万円)を言い渡した。
健康食品の宣伝について、薬事法違反の取り締まりを強化するきっかけを作っ
たのが同社のバイブル本だ。「ガンに効く」と書いたらどうなるのか、判決が注
目されたが執行猶予がついた。
前号でも書いたが、がん患者やその家族は、元気で頑張っているがん患者の情
報を求めている。がん患者のブログで、更新がないと自分のことのように心配し、
こんな毎日を過ごしているという更新があるとホッとする。こうすると体調がい
い、という体験談が書かれれば、それを話題にして喜ぶ。体験談にエビデンスが
あるかどうかは専門家が調べればいいことで、とにかく「今日を元気でいる」報
告自体を彼らは励みにしている。それに対して、「疑似科学批判」の旗を振りか
ざしてそれをとやかくいうことに筆者は賛成しない。「科学」と「価値」は区別
し両立するものである。
いずれにしても、健康食品の「薬事法違反」にかんする判決は、体験談を含め
た日々の暮らしを発表する患者の「表現の自由」に負の影響を与える。違法業者
はその意味で二重に罪深い。
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