たんぽぽ隊通信 |
この記事の発行者<<前の記事
|
次の記事>>
|
最新の記事
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■たんぽぽ隊通信■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■No. 90■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
メビウスの輪
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■たんぽぽ隊ままりん■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
今週のお買い物:
「コージーコーナーのチョコレートデコレーションケーキ 」 980円
もう20年あまり昔のことになるが、その頃私は大学に通うために上京し、
都心の銀行に勤める姉とのふたり暮らしを始めていた。
姉の銀行では、取引先の職域販売だったのか何だか定かではないが
とにかく福利厚生の一環として、各行員とも毎年誕生月になると
赤坂TOPSのチョコレートケーキがもらえることになっていた。
初めのころは「さっすが○銀!」などと大喜びして
姉の誕生日が来ると、ありがたくいただいたチョコケーキ。
しかし3個めあたりから、だんだんとその味は落ちていった。
年に一度というのは、食品の消耗頻度としては決して高くない。
たとえばあなたがウナギ好きなのに、何かの事情で1年ぐらい
食べていなかったとする。それをご馳走すると言われれば
「まあまあずいぶん久しぶり」とかなんとか、とにかく
ウナギの味は二割増しぐらいにおいしくなるはずである。
しかし、その時「だったら誕生日は毎年ウナギでお祝いね」と
相手に言われたら、心の底から嬉しく感じられるだろうか。
おせち料理だってそうだ。お正月にしか登場しないのに
「ああまたか」と元旦の朝から飽きているのはなぜなのか。
問題は食べる頻度ではない。特定のイベントの定番となったとき
その料理はパターン化された小道具のひとつに過ぎなくなる。
毎年同じものが突き出される食卓はマンネリズムの象徴であり、
ひいては背後にあるイベント本来の価値までをも下げてしまうのだ。
姉の銀行業務は忙しかった。窓口は午後三時に閉まっても残業に追われ、
週末や月末はさらに忙しく、年末も大晦日の夜遅くまで働かされた。
アパートと銀行を行き来するだけの日々の積み重ねの中で、
9月になるとTOPSのチョコレートケーキはやってきた。
独身者だろうが家族持ちだろうが等しく公平な角型のチョコケーキ。
年じゅうテーブル代わりに使っているこたつの上に、その日置かれる
TOPSの手提げ袋は、着実に姉の時が刻まれていることの証である。
「いつまでこれを食べ続けるのかなあ」
累計3個めのケーキを一口食べた姉からは、若さを摩耗し続ける焦燥感が
深いため息とともにはき出されるようになった。
私たち姉妹はTOPSのチョコケーキの味に飽き、その量をもてあまし、
切り口から見える卵色のスポンジは日増しにひからびていった。
結局姉は5つめのケーキを食べ終えると結婚を決め、のちに退職した。
私もその年大学を卒業し、姉妹ふたりの生活は発展的に解消された。
やがて私が結婚したのは、不二家のいちごショートがケーキの最高峰だ
という固い信念を子どもの頃から持っている相手だった。
(不二家でなければコージーコーナーが代替として認められていた。)
もちろん普段から夫が食べるケーキはいちごショート、誕生日には
いちごと生クリームの丸型デコレーションケーキである。
夫ばかりではない、私の誕生日も息子の誕生日もクリスマスも
その他すべてお祝いごとは、いつも同じデコレーションケーキだ。
ほんとうは自分の誕生日くらい、小さくていいからもっとおしゃれな
違う店の大人のケーキが食べたいと私はずうっと思い続けてきた。
しかしそれは許されない。なんせ「最高峰」にケチをつけるとなれば
相手の価値観を根底から覆すことになるからである。
ところがこの前、9回目の誕生日を迎えたムスコがついに反旗を翻した。
ムスコは夫とともに出かけたコージーコーナーのガラスケースの前で
チョコレートケーキを指差して「こっちがいい」と言ったらしい。
夫は不本意そうに「いちごより安いのに」とブツブツ言っていたが
ローソクをたてたチョコケーキは新鮮で、私はとても嬉しくなった。
ああ長年のマンネリをこうしてついに脱却する日が来たのだ。
丸いケーキを切り分けてみると、クリームの中はココアスポンジではなく
卵色のスポンジが重なっていた。
スポンジにサンドされたチョコクリームの中にコリコリとナッツの
歯ごたえが感じられる。うんなんだか懐かしい味だ。とても懐かしい。
そうなのだ、咀嚼するたびになぜか懐かしさがこみ上げてくる。
突然、私はフォークを運ぶ手を止めた。
タマゴ色スポンジにチョコクリームにナッツ。そう、形こそ違うものの
この味はあのTOPSのチョコレートケーキにかぎりなく近いのである。
私はそっと隣のムスコを盗み見た。
「やっぱりチョコレートケーキは最高だねえ」とか言いながら
クリームだらけの茶色い顔に幸福そうな笑みを浮かべている。
我が家では今後毎年これを食べ続けることになるのだろうか。
私はふと、逆らいがたい運命に行く手を阻まれる思いがし、
ひそかにくらくらと目眩がしたのである。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行責任者:たんぽぽ企画
投稿・連絡先:たんぽぽ(tanpopo@pr.email.ne.jp)
このメルマガの登録・解除は
http://www.asahi-net.or.jp/~ii3t-nsjm/marketing2
たんぽぽ隊員紹介はこちら
http://www.asahi-net.or.jp/~ii3t-nsjm/marke-tanp2.html
─────────────────────────────────────
(C) tanpopokikaku 2001, All rights reserved.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
この記事の発行者<<前の記事
|
次の記事>>
|
最新の記事
