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[chronique:00424] 巨大な過ち(ケネディ・インタビュー)

発行日: 2004/1/7

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       哲学クロニクル 第420号
           (2004年1月7日)
       巨大な過ち(ケネディ・インタビュー)
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今回は『大国の興亡』や『21世紀の難問に備えて』などの多数の邦訳書のある
有名なイギリスの歴史家のポール・ケネディのインタビューをご紹介します。

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巨大な過ち
(ポール・ケネディ、シュピーゲル、2004年第2号)

【問】ケネディさん、今年はアメリカの大統領選挙の年です。選挙ではイラク問
題が焦点になりますが、イラクで起きているのは、戦争でしょうか、戦争と平和
の中間の事態でしょうか、それともゲリラ戦でしょうか。
【答】非対称戦争の長いフェーズと思われます。しかし敵の数は多く、バース党
の党員たち、サダム忠誠隊、国際的なムジャヒディン、宗教的な狂信者など、ア
メリカ軍がイラクに駐留することを許しがたく感じている人々は多いのです。ア
メリカ政府はイラクで巨大な過ちを犯しました。大統領の補佐官たちは政治的に
も軍事的にも過ちを犯し、そのために今、高い代価を払わされているのです。


【問】テロとの戦いは、テロリストの数を増やしたのでしょうか。
【答】疑いの余地もありません。とくに若い世代のテロリストが増えました。わ
たしがイラクからの映像でもっともショックをうけたのは、80人から90人の若者
たちが、墜落したヘリコプターの回りで喜び、跳ね回っている映像でした。民主
主義と寛容のプロジェクトにおいて、わたしたちは一世代を失ったのです。

【問】しかしブッシュ大統領が戦争を始めたのも、そのためだったはずですが。
【答】わたしたちはイラクに、西洋風の民主主義を押しつけてはならないのです。
多くの側面でブッシュ政権は、もっともイデオロギー的な政権です。イデオロギー
の匂いの強かったレーガン大統領でも、はるかに実際的でした。ブッシュ大統領
は、自分の聞きたいことにしか耳を貸さない大統領で、国家統治の点では最大の
罪を犯しているのです。

【問】そして見たいものしか見ませんね。大量破壊兵器はいまだ発見されていま
せんし。
【答】アメリカ政府は、諜報機関の欠陥などで言い逃れすることはできません。
入手できるすべての事実はブッシュ大統領と側近の前に示されていたのです。た
だそれを認めようとしなかっただけです。

【問】アメリカに批判的な人々が言うように、ネオコンのイデオロギーがこの政
権を「誘拐」したのでしょうか。
【答】歴史家のベルクハーンが1914年以前のドイツの精神状態を、自分を距離を
置いて外側から眺められない状態だと指摘したことがあります。今のアメリカも
同じ状態ですね。
 わたしはイラク戦争が行われたのは、石油のためでも、内政的な動機のためで
もなく、こうして精神状態のためではないかと恐れています。この政権は、アメ
リカが世界である種の使命をはたす必要があると考えているのではないでしょう
か。言っていることは、みんな本気なのですよ。

【問】その使命というのは、アメリカの覇権を確保し、帝国にすることです。い
まの世界情勢で、帝国とはどのようなものでしょうか。
【答】伝統的な定義では、イギリス帝国は、インドのボンベイを占領し、統治す
る総督を任命し、植民地の軍隊と現地の協力者を利用して、外交を管理しました。
しかし複雑な状況を考えるには、この帝国の概念は狭すぎます。アメリカが圧倒
的な影響力を交渉しているフィリピン、韓国、アフガニスタンなどをみても、イ
ギリス帝国とは違う意味で、帝国が成立していると言わざるをえません。

【問】でも、アメリカが帝国として行動できるのかどうか疑問があります。アメ
リカ国民は、帝国としての代価を払う用意がないからです。
【答】アメリカ国民は、その価値があれば、代価を払うことができるし、その用
意はあると思います。アメリカ国民がその用意がないのは、代価を払うことに関
してではありません。イラクに最近も43,000名の兵士が送られていますし。

【問】その用意がないというのは、アメリカの軍隊が主として、下層の人々で構
成されていることに関係があるのでしょうか。
【答】兵士になるのは、もはやエリートではありません。息子を兵役につかせて
いる上院議員はただ一人です。第二次世界大戦ではチャーチルも息子をバルカン
半島で兵役につくのを防げませんでした。ルーズベルト大統領も息子を兵役につ
かせないように努力したのですが、無駄でした。息子は戦争で戦うことを義務だ
と感じていたからです。しかしいま、政権を構成する人々のうちで、前線に子供
たちを送っている人がいるでしょうか。

【問】ところでいまのイラクで重要なのは、ゲリラとの軍事的な対決でしょうか。
それとも戦争を正統化できないことにあるのでしょうか。
【答】わたしが今イラクについてとても不安に感じているのは、赤十字、国連、
世界銀行がイラクから撤退していることです。ブッシュ政権は、怪物のフセイン
を追い払えば、あとは国連やユニセフに任せればいいと考えていました。ところ
が事態は反対になっています。フセインは捕らえられましたが、軍は残り、民間
の援助団体は、リスクが大きすぎるので、撤退しているのです。

【問】イラクの将来については、悲観的なお考えのようですが。
【答】わたしはイラクで起きていることが、この地域全体に広がると、悲観的に
感じています。アラブ世界と西洋のあいだには、重要で長期的な問題があります。
パレスチナとイスラエルの対立も政治的に解決できる方法がみつかりません。シ
ャロンは強硬な姿勢で事態をますます悪化させています。怒りと不満が強まるば
かりなのです。
 アルジェリアからインドネシアにいたるまで、イスラーム世界の全体に、不穏
と怒りが高まっています。そしてアメリカはこれをさらに深刻なものとしている
のです。中東については、わたしはまったく希望をもてないのです。
==========================


ところで読者の方から、フセインの映像について、ご意見をいただきました。ど
うもありがとうございました。

=====
本日読ませていただいた「フセインの顔」について、つい昨日、友人の音楽家と交わ
した会話で心に掛かった部分に触れるところがあり、知識も言葉も拙い者ですが、思
い切って感想文を書いてみることにしました。

それは、ソンタグの書物のタイトルに簡潔に表現されている「他者の苦痛へのまなざ
し」ということです。私は画家という自分の性分から、人の「まなざし」、その由来
や性格や未来を、無視できないでいます。たとえば、なぜ、私達は他者の苦痛を見た
がるのでしょう。

いみじくも中山様は、死刑を執行された死体を見たがるプラトンの言葉を引用されて
いました。私は即座に、バタイユの『内的体験』でスズメバチのように美しかったと
告白され、『エロスの涙』で公開されている中国の酷刑を撮影した写真を思い出しま
した。またフーコーの『監獄の誕生史』冒頭で引用されていた王暗殺未遂犯ダミ
アンの処刑の様子。かつてそれらの酷刑は都市の広場で公然となされていました。
王の法と都市の秩序を回復する儀式として。しかし、疑いもなく「熊いじめ」のような見せ物
として、古代の密議とそう遠くない距離で。

また、(ヨーロッパの)美術館や教会の所蔵作品に多く見られる、画家が繰り返し描
いてきた聖者の殉教。炙られ、切り裂かれ、吊るされる苦悶の身体。それほどの苦痛
に耐えて信仰を守り通した強さを讃えるものとして。それらは、文字に疎い人々をキ
リスト教徒として教育するためのツールでもあったのでしょうが、意地の悪い見方を
すれば、そこには見たいものを覗き見させる、巧妙な誘惑の仕掛けが透けて見えます。

フセインの顔が放映されたとき、アンリ・レヴィのように「共犯者」にされてしまっ
た居心地の悪さを感じることが出来た人は、やはりそこから考えなくてはいけないで
しょう。そして歓喜するイラク人記者の映像に導かれ、一瞬でも「ざまあみろ」とか
「これで一段落」と思ってしまった人々は、信じられないほど多いかも知れず、本当
に気をつけなければいけないでしょう。

儀式の中に、絵画の中に、写真の中に、映画の中に、隠蔽され生き延びてきた「呪わ
れた目」が、日常的に見開かれ私達はどんどん鈍くなっていくようです。

ポール・ヴィリリオが『戦争と映画』で、戦争博物館の構造について述べるところで
引用しているバルベイ・ドールヴィィの言葉、「地獄のありさまというのは両目でい
ちどきに見てしまうより地下の小窓から覗き見た方がつかみやすい・・」。今、この
地下の小窓は、映画館や計算された施設に足を運ばなくても、手元で容易に開くこと
が出来ます。

そして、映画によって視覚や速度感覚を無意識のうちに教育された人々が、2度の大
戦の即戦力になったのだとしたら、私達が今手にしているまなざしの喜びは、本当に、
無意識のうちに利用されているのかも知れません。

親切に人々に与えられるイメージは、途轍もない衝撃を与えるものほど、柔らかいクッ
ションが与えられています。それはとても恐ろしく、こうなった今、イメージとの接
し方について、思想や芸術が何を言うべきなのか、為すべきなのか。「呪われた目」
をもう一度屋外に引きずり出したとしても、人々はクッションのあるリビングで楽し
むことの方を選ぶでしょう。画面にイメージを紡ぎながら、どう考えるべきなのかを
思い悩みます。
=========

ほんとうにイメージの力は強烈であるとともに、ぼくたちを無意識的に支配して
しまうところがありますね。画家として絵を描くことをお仕事にしておられるそ
うですが、悩みもまた強いだろうと拝察します。またお便りいただけるとうれし
いです。

ではでは

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chronicle@nakayama.org
 (c)中山 元
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