哲学と思想にかかわるさまざまな話題を取り上げます。エッセー、書評、お知らせ、新刊情報などを、ほぼ毎日お届けします。
- 最新号:2004-12-10
- 発行周期:ほぼ毎日
- 読んでる人:3621人
- 創刊日:2000-12-11
- Score!:-点
- コメント数 : 0
- メルマガID:26258
- バックナンバー:全て公開
- 発行者サイト:あり
- >> 月間ランキング
[chronique:00239] けものと主権
発行日: 2001/12/25┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏
哲学クロニクル 第239号
(2001年12月25日)
けものと主権−−ナンシーとデリダ
┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏
今回は、フランクフルトで主権をテーマに講演したジャン=リュック・ナンシー
と、「けもの主権」というセミナーを開講したデリダの噂をご紹介します。ナン
シーの講演については、フランクフルター・ルントシャオの12月21日号のマルティ
ン・ハルトマンの文章をかりているところがあります。
あと、最後に新設のメーリングリスト『ハビトゥスの考古学』のご案内をのせて
いるので、ごらんいただければと思います。
==================
けものと主権−−ナンシーとデリダ
グローバリゼーションの進む世界で、国民国家の問題を考えると、最近では逆説
的な事態に直面する。国家と大陸を通じて資金が流動し、だれもこれを支配して
いないようにみえるし、世界の政治的な対立のために、一つの国家の政治にでき
ることは著しく限られているといわざるをえない。
一方では国家の主権が、国民にとっては最初に依拠できる審級であるのもたしか
なようだからだ。長年国籍のない状態だったアレントは、人権というものは、国
家の保証なしにはゼロに等しいと、実感をもって語っていたことを思い出す。
しかしこの一見すると対立するようにみえる状況も、同じ事態の二つの貌なのか
もしれない。国家の主権が影響を失うほど、その象徴的な重要性はたかまるので
はないか。そして国内の問題に対処できるのはまだ、制限されているとはいえ、
国家しかないのだ。
シュトラスブールで教えている哲学者のジャン=リュック・ナンシーはこのほど、
フランクフルトのゲーテ・インスティトゥートで講演を行い、まだ国家の主権と
いう概念が大きな魅力をそなえていることを指摘した。「主権の断片」というタ
イトルで行われたこの講演で、ナンシーはまず近代の国民国家の主権の歴史を素
描し、いまや主権は資本のために退位しようとしていると語っている。しかしナ
ンシーは同時に、わたしたちが主権とか主権者という言葉に、いつも新しい概念
や隠喩を与え続けてきたことも指摘する。
たとえばフランスでは、主権souverainという言葉には至高という意味があり、
単なる政治的な主権ではない意味をながいこと保ってきた。バタイユが愛好した
概念として有名になったが、至高者souverainとは高さの極みであり、重力のく
びきを逃れて、別の秩序に属することである。しかしこの至高性には「地面」が
なく、いわば脚がない。ギリシアやローマの至高者は、それ自体では正統性をも
たず、神的なものや宿命のようなものの力で、みずからの正統性を確立しようと
する。これに対して近代の国家の主権は、超越的なものに正統性を求めず、みず
から法律を定め、それによってみずからの正統性を確立しようとする。
ナンシーはカール・シュミットとは違って、近代の国家の主権を世俗化された神
とはみなさない。この主権者は、あらかじめ神的な理性を与えられているのでは
ない。いわば国家のうちから、固有の理性を解放するのであり、神からではなく、
自己から、そして自己だけから正統性を確立しなければならない。この意味では
近代の国家は「自律」しており、他の審級からではなく、みずから自身で、みず
からの正統性を示すことを求められる。
ところが現代では、国家の主権の地位を資本が占めてしまっている。するとどう
なるか。国家はみずからの正統性を示す根拠を失い、外部の影響に左右されるよ
うになる。ナンシーはこの歴史的な省察で講演をやめてしまったので、それがど
ういう意味をもつのかは、はっきりしないままだ。
アガンベンであれば、国家は国民の安全を守るという単一の課題だけを正統性の
根拠とするようになっているというだろう。そしてセキュリティの確保という国
家の役割を国民に強調するためには、安全性が損なわれる可能性があることを国
民につねに教えて異なければならなくなる。国家はテロとこっそりと手を結びか
ねないのである。外部からの危険がなければ、危険があるというみかけを作り出
す必要があるからだ。しかしナンシーはそこまで踏み込まない。
ナンシーの講演は聞いた者には、はぐらかされたような物足りなさを感じさせた
らしい。しかし講演がめざすところはかなりはっきりとしているといえるだろう。
ここからでてくるのは、アメリカの独立革命の時点で、アメリカという国家の正
統性のなさを指摘したデリダの理論だからだ。国家は成立の時点ではつねにこう
した闇の部分を抱えているともいえるのだろう。そして国家の性格のかなりの部
分は、この闇のうちでの成立の事情を刻印されているに違いない。
ところで本日の朝日新聞では、デリダがテロと戦争をテーマにしたゼミナーを開
講したことを報じている。「けものと主権」というテーマだそうだ。ナンシーの
テーマとぴったりではある(笑)。社会科学高等研究院で12月の第2週に始まっ
たこのセミナーには200もの人々がつめかけ、通路まで埋まったという。
初日の講義では「オオカミ(戦争や恐怖の象徴)は足音もなくちかづいてくる。
このオオカミはテロリストのようにも権力者のようにもみえる」と問題を提供し
た。「世界の申告な現実を前に、深く考えることがますます困難になっている」
というデリダの指摘には同感だが、「動物と人間を区別するものは何か。人間の
恐怖とは何かなど、根源にさかのぼって考えなければならない問題は多い。作業
は急がねばらない」というところには少し疑問を感じた。動物と人間の違いとい
うのは、少しデリダらしくない物言いではないか。
それにしてもデリダはアメリカに一月滞在したが、「パリでは言える話も、自由
に口に出来なかった」と、アメリカの今の異様な雰囲気を証言している。デリダ
さえものを言えない雰囲気とは、思いやられる。
=====================
メーリングリスト『ハビトゥスの考古学』のご案内
ぼくはいま『ハビトゥスの考古学』という本を書くことを計画していますが、こ
の本では日本や外国で身体化されたハビトゥスとなっているさまざまな風習や事
物の起源を考察しながら、そこから思想的な問題をとりだしたいと考えています。
その準備をかねて、MLを立ち上げました。
このMLではたとえば次のようなテーマで、西洋と日本の両方にまたがるかたぢ
で、具体的に考察を進めたいと思います。
○手話はどのように制度化されたのか
○哺乳便が必要になったのはいつ、どのような状況のもとか。それを可能にした
ものはなにか
○書籍としての本はどのようにして生まれ、人々の思考と生活にどう影響したか
○ランプや街路の照明が登場したことで、人々の生活はどう変わったか
その他にも道路について、都市について、入れ墨について、体操についてなど、
ありとあらゆるテーマが考えられると思います。こうしたさまざまなテーマにつ
いて、情報交換をしながら、思考を広げていきたいと思います。
参加を希望される方は、
habitus-request@ml-c5.infoseek.co.jp
に、一行目に次のコマンドを記載して、送信してください。
join <ここには参加するアドレスを記入>
参加を希望されるアドレスを<>で囲むのをお忘れずに。
なおうまく入会できない場合には、事務局あてでメールをいただければ、こちら
で手続きいたします。
いろいろな問題についてがやがやと議論していければと思います
よろしくお願いします。
┏┏┏┏┏┏┏┏┏
ポリロゴス事務局
chronicle@nakayama.org
(c)中山 元
┏┏┏┏┏┏┏┏┏
哲学クロニクル
http://nakayama.org/polylogos/chronique/
では、ご意見やご感想をお待ちしています。
事務局まで、お気軽にメールをお送りください。
★12月20日刊行!――全国主要書店にて好評発売中
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
新 し い 戦 争 ?――9.11テロ事件と思想
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
★中山 元 著 46判並製/128頁/ISBN4-925220-05-5/本体1000円
──────────────────────────────────
★案内ページ(書影や目次などの情報):
http://thought.ne.jp/html/adv/nww/index.html
★関連サイト「9.11テロ事件特集――哲学クロニクル・スペシャル(中山元)」
http://nakayama.org/polylogos/chronique/911index.html
──────────────────────────────────
このメルマガを読んでいる人はこんなメルマガも読んでいます
- 萬晩報-お江戸のデスク日記
- 戦前に日本最大の発行部数を誇った黒岩涙香 の「萬朝報」にあやかり命名、経済を中心に 分野を超えたコラムを発信します。主筆を中 心に内外に65人...
- 週刊アカシックレコード
- 02年W杯サッカー韓国戦の「誤審」を世界で唯一「前日」に誌上予測し、誤審報道を「常識化」した推理作家(金正日の「遺書」で始まる「中朝戦争」後の北朝鮮...
- 宮崎正弘の国際ニュース・早読み
- 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析
- 星川 淳@屋久島発 インナーネットソース
- 自然界と人間界の波打ち際を歩き続けてきた作家・翻訳家が配信するフィールドメモ。「インナーネット」は自然界と人間界を横断する情報網、「ソース」は“元...
- 宣戦布告「NET」で発信石原慎太郎
- 石原慎太郎が産経新聞に月に一度連載しているエッセイ『日本よ』を翌日に転載して発行。他にもサイトの更新情報を随時発行。
![メルマガスタンド[メルマ!]](/img/common/backnumber_article/melma_logo.gif)


