トップ > アート&カルチャー > 哲学・心理学 > 哲学クロニクル

哲学と思想にかかわるさまざまな話題を取り上げます。エッセー、書評、お知らせ、新刊情報などを、ほぼ毎日お届けします。




[chronique:00231] 軍国化が進むアメリカ

発行日: 2001/11/16

┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏
       哲学クロニクル 第231号
           (2001年11月16日)
        軍国化が進むアメリカ
┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏

今回は、早い時点で現在の状況を洞察していた哲学者のローティの文章をご紹介
する。悪い予言はあたるものだ……。


軍国化が進むアメリカ
(リチャード・ローティ、ツァイト誌66号、2001年9月)

アメリカ合衆国は戦争状態にある−−それがどんな戦争なのかは明らかではない
としても。アメリカがこうむったような打撃を受けて、贖ないを求める措置をと
らずにいることはできる国はない−−それがどのような措置であるかは明らかで
はないとしても。

ブッシュ大統領が宣戦布告によってタリバンを脅して、オサマ・ビンラティンの
引き渡しを求めるのではないかという意見もある。あるいはサダム・フセインの
イラクに対して行ったような攻撃か繰り返されるという意見もある。確実なのは、
アメリカはすでに軍事国家であるが、この文章を書いている間にも、さらに軍国
化が進むだろうということだ。アイゼンハワー大統領がかつて「軍産複合体」
と呼んだものが、さらに権力を強めるに違いない。

わたしたちに望むことができるのは、アメリカが採用これから採用しようとする
次のステップについて、議会が審議するチャンスを捉えるられことだけだ。そし
ていわゆるトンキン湾決議のように、大統領の決定にまかせた一般的な了解や白
紙委任状のような説明に、議会が満足してしまわないことだ。

こうした白紙委任状は、ジョンソン大統領や後継のニクンン大統領がベトナムで
とった行動を正統化する役割を果たしたのだった。アメリカの憲法では、議会に
宣戦布告をする権利をみとめているのだが、冷戦とは宣戦布告されない戦争のこ
とだった。ニカラグアでのコントラ支援から、パナマ侵入、そしてベトナム戦争
と朝鮮戦争にいたるまで、戦線布告なしで戦争が遂行されてきたのである。いず
れの場合にも大統領は、国民の意見を問うことなく、独断で開戦を決定してきた
のだった。

ブッシュ大統領が今回は、なにかを実行する前に、これからどうしようと考えて
いるかくらいは、議会と国民に説明することを期待したい。わたしたちはベトナ
ムでの戦争には勝てないことはるか以前から知っていたのに、ワシントンの政治
を支配していたジョン・ウェインばりのマッチョな考え方のために、ベトナムで
多数の人々が殺戮されたのである。「確固とした決意」とか言いながら。

過去数か月にブッシュ政権は異例なほどの傲慢さを示してきた。国民に政治的な
決定の妥当性を説明するための真面目な努力をすることなく、広範な政治的な決
定を下したあとで、国民に知らせるだけなのである。たとえば愚かしいロケット
防衛計画がその一例だし、さまざまな協定な国際条約を一方的に破棄したのもそ
の例だ。わたしたちアメリカ国民は、実際に実行された後で、初めて政府から決
定についての説明を受けるようになってないるのである。しかしこれは民主主義
的なプロセスが機能するやりかたではない。冷戦時代からというもの、アメリカ
の民主主義は大きな打撃を受けてきたのである。

ロッテルダム、コベントリー、ドレスデン、広島のような巨大な破壊をもたらな
い限り、バクダッドやカブールを破壊しても、アメリカ国民は許容するだろう。
わたしたちが受けた襲撃に対する妥当な回答として、国威の闡明と決意を示す必
要性のもとで、こうした破壊も許容されることだろう。しかし爆撃が開始されて
からの数か月の間に、政府は長期的な政治的な決定を下すに違いない。その決定
の目的は、新たな攻撃を阻止することにあるだろう(生物兵器を使った攻撃は、
さらに大きな破壊をもたらす可能性がある)。

こうした広範な政治的な決定は、行政府だけが下すべきものではない。まず議会
にかけて審議して、国民の間で詳細に検討すべきものだ。それでないとアメリカ
の民主主義はさらに深刻な打撃をうけるだろう。そして安全保障を追求する国の
権力がさらに強化されるだろう。

ブッシュ政権には、尊敬すべき立派な理性的な人々が参加している。政府の中に
は、隠れファシストなどはいないのである。それでも共和党の政府は、民主党の
政府よりも、エドガー・フーバー、オリバー・ノース、ジョセフ・マッカーシー
などの暗い人物の影の影響をうけやすいのである。マッチョな考え方は、共和党
の専門なのだ。共和党は恥知らずにも、兵器フェティシストに阿り、死刑支持者
に阿り、投獄される黒人男性の比率が増えるのが、健全な内政の兆候だと考える
人々に阿ろうとする。

だからわたしのような民主党左派が、九月一一日の攻撃のニュースを聞いて、
「おい、市民の権利はこれでどうなるんだい」と考えたとしても、決してパラノ
イア的な反応ではない。そしてラムスフェルド国防長官が記者会見で、信頼でき
る情報を伝達しようとしなかったことを知ると、この懸念はさらに強まるのであ
る。ニューヨーク・タイムズが、ペンタゴン文書を公開したことで明らかになっ
たのは、こうした政府発表情報を通じて、政府は国民を恥知らずにも欺き続けた
きたこと、そしてそのことを反省してもいないということである。この数か月に、
こうした欺瞞はさらに多くなるだろう。そしてこうした欺瞞が隠そうとするさら
に深刻が事態が発生するだろう。

アメリカ合衆国が戦争を遂行するたびに、個々の市民が国にたいしてもつ市民権
が打撃をうけてきた。第一次大戦の際には、ユージーン・デブズのように、兵役
を否定した社会主義者の労働組合の指導者は投獄された。第二次大戦の際には、
日本からの移民が収容施設に監禁された(最高裁の汚点である)。

一九一三年にはアメリカ自由人権協会(ALCU)が、個人の権利を保護するた
めに、民間組織として誕生した。そしてとくに戦時中に個人の権利を守るために
法廷闘争を展開して、この協会は高い評価を受けたのだった。運がよければ、今
回の戦争遂行の際には、ACLUは警戒を強めなくてもすむかもしれない。しか
し政権についている側にとっては、「国の安全保障」というのはとても強力な武
器になるものだ。国民の意見も、個人の権利も踏みにじることのできる切り札な
のだ。わたしたち民主党左派は、ACLUに対する財政的な援助を強化すべだろ
う。

アメリカ合衆国は現在は、共和国というよりも帝国に似ている。しかしアメリカ
政府があからさまに示している傲慢さにもかかわらず、わが国は外国にも多数の
友人たちがいる。これまでアメリカには、憲法にふさわしい民主主義の手本があ
ったことに感謝している友人たちが。こうした友人たちが、近い時期にアメリカ
政府が下す決定に失望しないことを望みたい。報復に関する政府の決定は、アメ
リカの民主主義の将来を左右するのである。


┏┏┏┏┏┏┏┏┏
  ポリロゴス事務局
chronicle@nakayama.org
     (c)中山 元
┏┏┏┏┏┏┏┏┏

哲学クロニクル
http://nakayama.org/polylogos/chronique/
では、ご意見やご感想をお待ちしています。
事務局まで、お気軽にメールをお送りください。

 
このメルマガの読者になる
規約 
>> メルマ!の会報誌もお届けします

ブックマーク: はてなブックマークに追加del.icio.usに追加Buzzurlにブックマークニフティクリップに追加ライブドアクリップに追加Yahoo!ブックマークに登録My Yahoo!に追加Add to GoogleRSS

このメルマガを読んでいる人はこんなメルマガも読んでいます

萬晩報-お江戸のデスク日記
戦前に日本最大の発行部数を誇った黒岩涙香 の「萬朝報」にあやかり命名、経済を中心に 分野を超えたコラムを発信します。主筆を中 心に内外に65人...
週刊アカシックレコード
02年W杯サッカー韓国戦の「誤審」を世界で唯一「前日」に誌上予測し、誤審報道を「常識化」した推理作家(金正日の「遺書」で始まる「中朝戦争」後の北朝鮮...
宮崎正弘の国際ニュース・早読み
 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析
星川 淳@屋久島発 インナーネットソース
 自然界と人間界の波打ち際を歩き続けてきた作家・翻訳家が配信するフィールドメモ。「インナーネット」は自然界と人間界を横断する情報網、「ソース」は“元...
宣戦布告「NET」で発信石原慎太郎
石原慎太郎が産経新聞に月に一度連載しているエッセイ『日本よ』を翌日に転載して発行。他にもサイトの更新情報を随時発行。


この記事へのコメント


コメントを書く
コメントはありません。

おすすめキャンペーン

■三菱東京UFJ銀行系 モビット■
【1】ネットで自動審査・来店不要!
【2】限度額300万円
【3】年利9.8%-18.0%(実質年率)

急な出費にモビット!

発行者プロフィール

ペンネーム :


このメルマガの読者になる

規約に同意する



このメルマガの最近の記事


このメルマガの最近のコメント

最新のコメントはありません。

注目情報


新着記事トピックス