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030819ビジネス知識源:技術屋の精神と方法(1)

発行日: 2003/8/20

※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。
<<あなたと、チームの、知識とスキルのブラッシュアップを>>

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          ビジネス知識源
      2003年8月19日号:Vol 162

     <Vol.162  技術屋の精神と方法(1)> 
            
 【良質な経営・IT・ビジネス・経済知識の提供を目標に】
                            (読者数: 31,207名)
著者:Systems Research Ltd. chief  consultant 吉田繁治
著者へのひとことメール⇒   yoshida@cool-knowledge.com
登録・解除・バックナンバー⇒ http://www.cool-knowledge.com
    ※120編余の無料版バックナンバーを掲載しています。

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こんにちは、吉田繁治です。お盆休みも終わり、多くの人が仕事に復
帰でしょうか。冷夏は、関東の電力供給問題を助けたようですね。

NYの大停電は、米国の電力設備投資のきっかけになります。こうし
たことも含め、資源産業というオールドエコノミーに重点があるのが
ブッシュ政権です。

【古い記憶 1】
小学校の確か5年生のころ、国語の授業で詩を読みながら、女性教師
が、「この人は、肉体労働をしているようですね。仕事には、肉体労
働と精神労働があります」と言ったことを記憶しています。

教師は「どちらの仕事をしたいと思いますか?」と生徒に質問しまし
た。私は、精神労働のほうに手を挙げた。多くの人がそうだった。妙
に記憶に残っています。

もちろん、仕事をこのように単純に分けることはできない。しかし、
モノ直接の加工や運搬に携わる現場労働と、オフィスを主とし、シン
ボルを操作するワークが分かれていることは認めてもいいでしょう。

数字や文字のシンボルを操作するデスクワークと、現場でモノを加工
し、運び、販売する現場ワークがあります。

精神労働が生む価値とは何か、情報作業や知識作業とは何か? 
このことがずっと念頭にあります。知識の経済的価値は何か?

【古い記憶 2】
ずっと以前に、新日鐵八幡の工場を訪ねたことがあります。中は真っ
暗でした。一瞬、なぜか?と考えたのですが、機械が動くのに照明は
いらないと思いついた。

真っ赤に焼けた鉄のインゴット(四角いカタマリ)が、薄い鉄板に自
動圧延される工場でした。赤い塊が巨大ローラーで、次第に薄く延ば
され、それとともにコンベアの上を流れる速度が急激に増して、最後
は薄板になる。全長500メートルはある圧延ラインでした。

ローラーに自動圧延され、暗闇を高速で走る赤い鉄板を見るのは、鮮
烈です。

「なぜ、新日鐵は世界1の品質と生産性になることができたのですか
?」 見学のあと、夕食を採りながら、コンピュータの研究会で知己
を得ていたシステム部長に訊ねた。

「国内の競争が激しかった。目標は国内競争に勝つことだった。国内
で勝ったら、いつの間にか世界1になっていた。」 約20年前のこ
とです。

普通は不都合なものとして否定する競争を、肯定的に見る。

すごいと思った。日本企業の強さだと思った。
今、競争が激しいなら、本物が現れるはずです。

バブルで楽だったな金儲けを再度と思うから、挫折ではないか。

「鉄には男のロマンがあるでしょう?」と訊ねると、「この仕事が好
きな連中が集まっています。」という答えでした。

モノを作る現場を見ると、感動します。「これこそが仕事だ!」とい
う感じがするからでしょうか。デスクワークは、達成感が薄い。

原稿を書いた後は、喜びですが・・・
メ切りくらい苦しいものはない。
約束手形を落とす感じですね。

今回のテーマは、<技術屋の精神と方法>です。
技術開発とは何か? 何をバネに、どこから生まれるか。
それに迫ることを、目標にします。

日本経済衰退が言われますが机上論です。
技術開発のタネは、いたるところにある。
衰退したとすれば衰退を言う人の精神でしょう。

日本人の才は、職人根性にあると思っています。

職人根性が発揮されるのはモノ作りだけではない。
今回の事例は、物流です。参考資料として、『卸売り業のパーフェク
ト物流』(麻田孝治著:産業大学出版部)を使っています。

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      <Vol.162  技術屋の精神と方法(1)>

【目次】

 1.卸は無用と言われて
 2.手押し台車による、スキャン・ピッキング方式
 3.空想から始まった
 4.「信頼」という経済財
 5.台車の手作り開発から
                    (続く)
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■1.卸は無用と言われて

▼数ヶ月前

数ヶ月前、大阪を本社とする卸売り業の物流センターを訪ねました。

コンビエンス・ストア、ホームセンター、ドラッグストア等、いろん
な商店に、H&M(ヘルス・アンド・ビューティケア)の用品や、日
雑品と言われる単価の低い小型家庭用品を卸しています。

単価が低いものほど、物流センターではシビアな生産性が求められま
す。この物流センターについて、書こうかと思っていました。

しかし、(i)物流センターは多くの人になじみがないこと、(ii)一般に
は知られていない技術用語が多いこと、(iii)地味な産業であり、多く
の読者の興味を惹くかどうかと思い、どうしようかと考えていたので
す。

今回、若干うるさく思えるくらい(注)をつけながら、書きます。物
流センターの基本の仕組や用語も知ることができるはずです。図形や
写真を使わず、文字だけでうまく表現することには、難しいところが
ありますが、挑戦します。

図より文字のほうが、論理的に理解ができます。文字で浮かんだ映像
が、次の工夫を生むことができるアイデアの元になるような気がして
います。

伺い知れないように思える物流センターの中で、どんな仕事が行われ
ているか、それも分かります。

電話や通信では、電気信号を目的地に届けるための、自動交換機があ
ります。インターネットも同様です。電気信号は質量もなく電話線を
流れますが、形と重さがあるモノの流通には、人の作業が伴います。

日本の総物流コストは、倉庫や作業コスト含んで、50兆円(GDP
500兆円の10%)と集計されています。6500万人の総労働者
のうち10人に1名、650万人が広義の物流業務に携わっています。

GDPには、物流の必要がない形のないサービスや商品が50%は含
まれています。形のある商品を50%の250兆円とすれば、商品の
1000円の価格のうち、20%の200円が物流コストです。巨大
です。

遠隔のグローバル生産になって、商品流通の交換機能として、ますま
す重要になるのが、物流センターです。ロジスティクス産業は、すぐ
れて21世紀の産業でしょう。そうした視点を持って欲しいのです。

ロジスティクス産業は、生産と消費を結びます。中国で生産しても、
大消費地である西欧、米国、日本の、それぞれの国内産業になります。
その点で、消費地に存在すべき小売業と同じです。

ますます進行する生産の遠隔化は、ロジスティクス産業の重要性を高
めます。21世紀の、長期的な就職人気産業にもなるでしょう。

▼驚きと疑問

【一般のコンベア方式】

訪問して、まず驚いたのは、「集品ライン」に物流センターで普通見
かける「ローラー・コンベア」がなかったことです。うどんを延ばす
棒のような鉄のローラーの上を、ごろごろと箱やモノが流れるあれで
す。

ローラーコンベアの脇に人が立つ。その上を流れるオリコン(店舗に
向け出荷する箱)に、受注商品を棚から取り(集品し)、流れ作業で
次々に入れていくのが、多くの大規模物流センターです。

(注)集品:小売店から受注した商品を、棚から取出し(ピッキング
し)、ビールケース状の組立型の箱(オリコンと言います)に入れる
作業を行います。このオリコンが店舗に届けられます。卸売業の基幹
作業は、こうした、受注、集品、店舗配送です。

80年代までの俗流チェーンストア論では、上流の卸やメーカーは、
悪者でした。国民生活の側に立たず、資本の論理で、売価を含め、供
給側の都合を店舗や顧客に押しつけるとされていました。

「問屋無用論」も言われた。小売がチェーを作れば、問屋や卸は要ら
なくなるとされた。事実、80年代から90年代に多くの問屋がつぶ
れるか統合されます。米国の70年代から80年代に似ていた。

大手量販のバイヤーに「問屋無用論」が蔓延(まんえん)していた。
卸売業のY副社長は、そうした逆流をバネにします。

発明者は、想像力で逆境を自ら作ります。
人がまだ安心している危機の先駆けに、反応します。

危機は、起こった時は遅い。
危機が起こる前に、リスク認識から、想像力の中で危機を生きる。
このままでは、いずれつぶれるという意識がそれです。

発明を含む対策は、そこから生まれます。

惰性やルーティーンとして仕事をしている人が多い。
だからこそ、危機意識をいち早く持つ人に機会がある。

■2.手押し台車による、スキャン・ピッキング方式

見学した物流センターでは、女性の係員が無線LANのパソコン端末
が載った台車を押し、一個一個、所定の商品が置かれた棚から受注商
品をピッキング(集品)をしていた。

側を通ると、皆さんが挨拶をしてくれます。休憩中の人が集まってい
るところを通ったときは、挨拶を返すのが大変なくらいでした。士気
の高い職場だと思った。ウォルマートにも似たようなところがありま
す。

顧客である小売店の幹部やトップが訪ねてきたとき、こうしたことを
見れば感じるところがあるでしょう。このセンターの係員には、顧客
が誰か、見えていると思えたのです。

物流センターも物流という商品を販売しています。第一段階の顧客は
店舗ですが、最終顧客は、消費者です。物流センターが、販売してい
る商品は何か? こうしたことを思います。

しかし、集品ラインでコンベアを使わないのは「なぜ?」と思ったの
です。

▼生産性比較

コンベア方式に比べ、ピッキング(集品)の生産性が劣るように思え
ます。生産性は、1人1時間(人時)あたりのピッキングの個数(pi
ece:ピース)で計ります。

説明を聞けば、「このほうが生産性が高い」と言う。パートの女性が
カート(台車)を押し、ピッキング(受注商品の集品)をする方式を、
「スキャン・ピッキング」と名付けていました。

スキャンとは、商品をピッキングするたびに、商品についたJANコ
ード(13桁の標準バーコード)を赤外線スキャナーで読み取り、受
注データと照合することです。照合ができると「ピー」というOKサ
インが出る。

台車を押す係員は、台車の画面に表示された商品を次々にピッキング
し、照合して指定値札を貼り、店舗へ向けて出荷するオリコンに入れ
る。

以下の比較表で、生産性は、時間あたりの集品個数が多いほうが高く
なります。

        値札付け      1人1時間あたり  出庫
        比率   品目数    集品個数    検品
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コンベア方式  60%  1万5千   510個  後で必要
スキャン・
ピッキング方式 95%    4千   650個  必要なし
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

95%もの商品に店舗が指定した値札をつける作業を行いながら、1
人1時間あたりの生産性は、650個÷510個=127%と、3割
近くも高くなっています。

(注)「値札付け」は、出荷する商品に、発注する店舗が指定する異
なった値札をつける作業です。
(注)「出庫検品」は、オリコン(店舗に向け出荷する箱)に入れた
商品が、受注したものと違いがないか、トラックに積み込む前に確認
する作業です。

▼疑って確かる

人がカート(台車)を押し、個品を集品する「スキャンピッキング方
式」を開発したY副社長が、見学の帰りの車の中で言った。

「卸売業はチェーンストアからも、無用だと言われ続けてきました。
つぶれないためにはどうするか、そればかりを考えて来ました。」

Y副社長は、その以前にコンベア型の大型物流センターも名古屋に作
っています。ピッキング(集品作業)の生産性とミスのない品質を、
更に上げるにはどうすべきか、ここを集中して考え続けた。

1988年に開発した、コンベア型の物流センター(名古屋)は、第
一回流通システム大賞を受賞しています。コンベア型としても、当時、
我が国では最も優れたものだった。

それに改善を加え続けながら、「もっといい方法はないか」と考え、
行き着いたのが、古くさく見える、人が台車を押す「スキャン・ピッ
キング方式」です。

業界常識は、疑わなければならない。皆が最新式と言う方法は、求め
るソリューションや「解」ではないことも多い。

疑うことができるのはなぜか?
よりよい方法は、必ずあると考えるからです。
先が見えているのではない。
むしろ妄信に近い信念です。

そして、調査、分析する。
徹底が新しい方法を生む。

コンベア方式での作業をビデオに撮り、すり切れるくらい何回も見る。
作業を構成する個々の動作の時間を、ストップウォッチで計る。

秒単位で動作分析をする。作業の手順を組み変える。またビデオで撮
って作業分析する。これを何度も繰り返す。

コンベア方式では、人的生産性と発生するピッキングのミス率に限界
があることが分かった。

更に時間あたり生産性をあげ、集品のミス率を無視できるまで減らす
には、どうすべきか?

■3.空想から始まった

▼卸の小分け機能

日本の商品流通の特徴は、西欧、米国と比較した時の、小売業の零細
さです。生産は、量産方式で大規模に行われます。

しかし、小売業からのメーカーや卸への発注は、主流が「バラ発注」
と言われる、タンピン発注です。

バラ発注とは、商品単価が100円を割るようなものでも、店舗は一
個一個、バラバラに発注することを言います。タンピン発注、タンピ
ン出荷と言っても同じことです。

メーカーと卸の間の取引は、段ボール箱のケース単位です。卸売業物
流センターでは、この段ボールを開け、一個一個の商品を所定の棚に
保管しておきます。つまり、商品毎に、受注を予測した数量の見込み
在庫を棚に置いておきます。

店舗からのバラ発注を受け、指定された商品を、一個ずつオリコンに
入れて、指定された納品日と時間(Time Window)に、店舗へ届けます。

以上が、卸の物流での基幹業務です。まとめれば個店からのバラ発注
に対応した、在庫と納品です。

[量産]→[ケース単位物流]→[在庫→販社や卸の物流センターで
のバラ受注]→[個店単位の集品と箱詰め]→[個店配送]

我が国の小売業の特徴は零細性であると言いましたが、実は、量販の
大手小売業でも、多くが、コンビニ風のバラ発注、問屋納品の仕組で
動いています。日本式流通の特性です。

POSデータを集計して送るEDI(Electronic Data Exchange)を
使い、こうした個店のバラ発注をまとめて自動化し、集中処理する仕
組が、米国では1985年頃から普及したクロス・ドック・センター
です。

ウォルマートは74カ所のクロス・ドック・センターを持ち、一カ所
平均で、邦貨で700億円(売価)の物流の変換処理をしています。

1995年以降、日本の大手小売業も、こうしたクロス・ドック・セ
ンター方式を真似て、個店流通を行おうとしています。単純に見れば、
これは、日本型卸の機能の代替、またはカットに見えます。

しかし、クロス・ドック・センターは、バラ集品された個店向けの段
ボールを自動ソーティング(仕分け)し、配送車に積み込む処理だけ
を行う機能です

小売が作るクロス・ドック・センターの前段階では、個店単位の段ボ
ール箱に、バラで受注商品を入れて出荷する物流センターの処理が必
要になります。

▼完全への空想

根本的な対策は何か? 

(1)バラ受注・バラ出荷での求め得る最高の生産性、
(2)ミスがない集品による、店舗納品の完全性、
(2)納期の短さで、大手小売がQR(クイック・レスポンス)とし
て企図(きと)している、クロス・ドック・センターを上回ることで
す。

【完全を目指す】

Y副社長は、生き残るには「完全物流」の仕組を作る以外に方法はな
いと考えます。完全という目標で目指したのは、出荷ミスを10万分
の1以下のオーダーにまで下げることです。

コンベア方式の集品では、改善を加えても、受注に対する出荷ミスが
1万分の2だったと言います。1万個の店舗向け出荷に、2個のミス
が含まれていた。これでも、超優秀です。

しかし、「これから目指すのは完全」と決める。
完全であっても、コストアップは許されない。
生産性を上げて、ローコストにし、コストダウンする。
真のコストダウンとは、品質を高め、コストを下げることです。
コストダウンと品質を高めることは両立します。

▼QCの基本思想の否定

ここが、米国風のQC(クオリティ・コントロール)と思想的な根本
が異なる点です。米国風QCはトレード・オフ、つまりは、あちらを
立てればこちらが立たずということに、妥協する方法です。

完全な品質を目指せばコストが上がる。ミスや不良品は、一定確率で
出るほうがコストが安くなる。そのために、不良品率を一定率とする。
これが、QC思想でした。

組み立て工場があるとします。1万個のうち2個の部品に不良品があ
るのをQC基準とすれば、1000個の部品を使う製品では、10個
の完成品について、平均2個も不良部品を含む製品が作られることに
なります。

1万個の部品を使う組み立てでは、全製品に確率的には2個の不良部
品が含まれ、全製品が、完全ではなくなります。

ここが、製品の複雑化とともに、西欧と米国の多くの製造業が弱体化
したことの原因です。そこで、西欧はユーローによるブロック経済を
考え、通貨統一圏を作り、米国は知識産業、そして収奪の金融テクノ
ロジーに走った。いずれも、最初は日本対策だったのです。

90年代の日本は、軍事費負担はGDPの1%だったのですが、官の
経済(国民負担率)を、赤字国債を含めればGDPの47%にまで肥
大させ、弱体化します。

部品の不完全さは、部品製造だけの「部分のコスト最適」をみれば、
1万個に2個くらいは許容されるように思えます。

ところが製品製造までの「全体最適」をみれば、部分で合理的である
ことが、全体では高コストになる不良製品を大量に生みます。

10万分の1の不良品にまで突き詰めれば、1万個の部品を使う製品
を作っても、製品の不良品の確率は10台に1台です。

(注)今はゼロシグマ、つまり、100万分の1以下の不良品を目指
すことを目標にしている日本工場もあります。

原理的に言えることは、
(1)上流作業を完全にすることによって、下流のコストは下がる。
(2)QC風統計による部分のコスト最適は、全体のコスト最適をも
   たらさない。

例えば車のように、モジュール化して数千、細かく分ければ数万の部
品を使うような複雑系の製品では、QCを超えるゼロシグマが必須条
件になる。

トヨタが、世界のどこのメーカーより故障の少ない車を作って、ブラ
ンド価値という「信頼の経済性」を獲得している理由がここです。
多くの部品を組み合わせた製品では、中国の低コストだけでは及ばな
いのです。

トヨタは車を売りますが、本当に売っている差異の商品は、「信頼性」
でしょう。リセールの中古価格も高い。

Y副社長が、会社の生き残りのために売ろうとした商品は、「納品の
究極的な信頼性」だったのです。これが物流センターの本当の商品だ
ったと言えます。

他社との差異化で、何を売るのか、ここが価値戦略です。

更に、原理的なことを拡大すれば、以下のことが言えます。

(1)部品生産と組み立てが遠隔化するグローバルネットワークの時
代には、上流の部品ほど、不良品率100万分の1以下などに極小化
することが必要になる。

(2)日本の、不良品ゼロを目指す部品や組み立て工業は、それを更
に突き詰めれば、世界に冠たるものであり続ける。品質信頼を売るこ
とができる。これが差異化です。

今、パソコンを含む多くの家電やIT製品が、世界生産で以前より「
壊れやすくなっている」ことに気がつきませんか? これは問題です。
そして、日本の工業にとってのチャンスです。

低価格であることは、決して、生活にとってローコストではない。
2年でダメに製品を10年で5回も買い換えるより、10年以上もつ
製品を使うほうがローコストです。

中国製が2年の耐久性なら、日本製は10年の耐久性、ここでしょう。
工業の高度化とは、耐久性と機能の信頼性でしょう? いつの間に
かこうした根本を忘れ、左右にぶれていたのが90年代です。

【重要】
本当の商品と何か? 顧客が、商品選択の最終段階で、その決める要
素になることでしょう。これが本当の商品です。本当の商品は、具体
物ではなく、例えば品質への信頼とかブランド価値とか言われるもの
ですね。

【蛇足】
2台使っているソニーのビデオが、両方とも壊れそうになっています。
1台はテープを頻繁に巻き込みます。駆動系がおかしくなっていま
す。その前のビデオも、同じ原因で、ビデオカセットが出てこなくな
り、2年で壊れました。買い換えても、同じでした。

もう1台はテレビデオですが、約6ヶ月前から時々、音が聞こえなく
なる。スピーカーのそばを叩くと、聞こえるようになる。原始的にバ
ンバン叩くんです。両方とも、買って約2年。(笑)

同じ経験を持っている人は、読者の方にも多いはずです。

こうした製品を今後も作り続ければ、さすがのソニーも終わりですね。
技術者は、何が原因か、分かっているはずです。

民生品も米軍に納める、軍需規格の品質にまで、ワンランク上げる。
これが方法です。米国にはじめて進出したときの、ブランド名がない
ときの顧客への完全納品の精神、これを思い出すことです。

■4.「信頼」という経済財

Y副社長が目指した、納品ミスを極小化した「完全物流」は、店舗で
はどんな経済効果を生むか?

小売業の多くは、店舗のバックヤードや倉庫での荷受けに当たって、
発注した商品と違いがないかという、入荷検品(検質、検品、検数)
を行っています。

Y副社長の会社から卸される商品が、店舗の発注と10万分の1以下
の納品ミスしかないとすれば、小売側は、入荷検品の作業をカットす
ることができます。

ここから生まれるのが「信頼という財」の経済効果です。入荷検品の
カットは、小売業に、作業カットという利益を与えます。

サプライチェーンの生産性上昇は、上流の受注処理と出荷処理が100
%信頼できるから、今まで行ってきた下流の検品作業が必要なくな
るということのような、各工程の作業の完全化の重なりによって果た
されます。

完全な作業をすること、精度が完全な部品や製品を作ること、ここが
日本経済の再興に必要なことでしょう。手抜きした安い商品は、結局
は高い。作業の完全化が、コストダウンです。

ブランドとは、期待した品質が守られることです。ここが経済価値に
なる。相対品質ではなく、ロレックスのような絶対品質を目指すこと
です。

▼真の商品とは何か? 顧客は何を買うのか?

【重要】
ロレックスで人が買うのも、時計ではなく、職人魂と品質への信頼で
す。これが真の商品です。同じ機能の正確に時を計る機械なら、
1000円で手に入るでしょう? ここに、差異化の価値はない。

商品作りには、真の商品(差異化ができるもの)が何か、この想像力
が必要です。時を計る機能では、今、時計は、価値を差異化できない。
だから、ロレックスは職人魂を真の商品として売ることに決めてい
ます。

大手家電メーカーの元社長と話していると、「結局、日本企業は、90
年代は、多くが方向を定めることができず、右往左往していた。MBA
的な、デスクワークのリーダーに問題があった。」ということを
聞きました。まさに、そう思います。

方法は、現場の職人根性からの再生です。

幸い、今は世界で、日本製品の品質は高いとの評価があります。どこ
で作ったか分からない900円のおもちゃのようなラジオにソニーブ
ランドを冠して発売するのは自殺行為です。ボーズのような、高い音
質のラジオを作らなければならない。

今多くのメーカーの軸足が定まっていないように思えるのです。
価値の差異化を図る真の商品が何か、見極めていないからです。

■5.台車の手作り開発から

Y副社長は、以下の方法を空想します。番号は手順です。

▼空想したスキャン・ピッキング方式

(1)台車に搭載したパソコン画面に、集品する商品のロケーショ
   ン(棚番)と数量を表示する。
(2)係員が、指定されたロケーションから商品を取り出し、その
   商品のJANコードをスキャンする。合致すれば、ピーとい
   うOK音を出す。

(3)同時に、店舗別の専用値札シールを、その商品を受注した枚 
 
   数だけ高速プリントする。
(4)この値札シールを、商品に一個ずつ貼れば、受注数量との照
   合が完了する。

(5)値札シールが必要ない店舗のときは、数量を入力する。受注
   数と合致すれば、OKのピー音を出す。
(6)台車に載ってるオリコンに、数量確認済みの商品を入れる。

以上のような一連の集品プロセスを、多人数のコンベアでやるよりも、
高い生産性で行う仕組を作る。以上がY副社長の夢想でした。

90年代に、我が国の工場で、ベルトコンベアの生産方式に代わって
きた多能工の「セル生産」方式に似ていますね。

▼大型センターを作って試したコンベア方式

コンベア方式では、1人の係員の集品作業は「部分」になります。
これがテイラーイズムでした。作業は細かく分け、単純化すればする
ほど生産性が上がり、コストが下がるとした。人間の作業は、細かい
「部分」になってきたのです。

オリコンがコンベアを流れる間に、多くの人の手を経て、受注商品が
ピッキングされます。そうすると、出荷前の最終工程で、間違いなく
集品したことを確認する検品という二重作業が必要になる。

コンベアでは、誰かの作業が遅ければ、ライン全体が影響を受けます。

制約理論(TOC)のゴールド・ラットが言うムカデ競争ですね。ム
カデ競争では、最も遅い人の能率に、全体の能率が下がってしまいま
す。
http://www.cool-knowledge.com/0613nissan-Ghosn(1).html
http://www.cool-knowledge.com/0623nissan-Ghosn(3).html

▼スキャン・ピッキング方式

スキャン・ピッキング方式では、台車を押す1人の係員が、個店向け
の出荷オリコンへの集品を完成させます。集品に必要なすべての作業
を、一人で行う。名付ければ「セル集品方式」でしょうか。

人間は、最終顧客とのつながりが見えない部分作業をやると、あまり
いい仕事はしない。ルールと規則で縛ることが、必要になります。こ
こが、人間を機械のように扱うテイラーイズムの欠陥です。

米国風の部分ワーカーと、日本の現場作業者は、違う。
全体効率を考え、最終顧客のことを考え、改善を行う。

(注)米国風の成果主義賃金もここを考慮しないと、日本の企業文化
ではうまく機能しません。今、いろんな会社で、成果主義が問題を起
こしています。日本の会社は個人能率では動いていない。

スキャン・ピッキング方式では、係員は、顧客である店舗の陳列棚を
思い浮かべながら作業を行うことになります。ここが、人の働きに、
目的を与え、いい効果を及ぼすのです。

労働の士気こそが、あらゆる仕事の根元でしょう。中国の工場では、
今、豊かさに向かい目が輝いた人を多数見かけます。こうした士気を
日本人が取り戻すことができるかどうか。方向を与えることです。

空想から、開発が始まる。
あらゆる開発のプロセスは、障害の克服が必要な難行です。

台車の設計も専門企業に依頼はしなかった。Y副社長の空想を、社員
が図面にし、のこぎりで木を切って、釘をうち、試作を繰り返す。

現場を知る人が設計するのが、最良の設計です。

当時は、石川、福井、富山の3県を主商圏とする地方卸でした。恋
(こ)われた合併で、今は、業界の大手卸の副社長になっているYさん
は、当時、その中小卸の社長でした。

▼試作の木製台車

台車に搭載する高速プリンタ、台車のパソコンを安定して駆動させる
電源、いずれも、容易には見つからない。次々にテストをする。加え
て、当時は無線LANの使用に、周波数と距離の規制があった。

日本の行政は、とても熱心に、水も漏らさないような規制をしますね。
今はさすがに緩和され、家庭でも無線LANが使えます。

中学校の工作の時間に作った木工品のような試作台車第1号の写真を
眺めると、心が震えます。決して美的に見えない、ゴッホの跳ね橋の
絵のように思えます。

農家の荷車のような無骨なデザインの木製台車に、Yさんとチームの
夢と情熱の原型が見えます。

こうした夢のかたちは、なによりも美しい。

次稿に続きます。
see you next week!!

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【ビジネス知識源 読者アンケート 】

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アンケートです。いただく感想は、とても参考になります。

1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。

コピーしてメールにはりつけ、記入の上、以下に送信してください。
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     <108号:戦略的思考方法の展開(5)>

【目次】

 1.シグナリング効果
 2.シグナリングにはコストをかけるべきである
 3.シグナリングの形態
 4.無条件返品ではないケース
 5.価格競争が価格維持になる戦略
 6.囚人のディレンマ(窮地・板挟み)からわかること
 7.戦略関係での愛:お互いが相手の利益を思えばどうなるか?

【要約】
戦略的に狙いをもって、相手にシグナルを送ることで、狙いとする効
果を上げることができる。

シグナリングにはコスト(=経済的な犠牲)がかかる。シグナリング
のコストを、売り手が負担しているということは、売り手が商品の品
質にコミットしていることと見なされる。このコミットが、顧客に対
し、信頼という財を作る。

有名ブランド製品の、多額の費用をかけて繰り替えされる広告の、経
済効果の原理は、ここから来ます。

品質保証のシグナルを効果的に示すために、ウォルマートは、店舗で
どんなことをしているか? あなたの会社では、どうしますか?

競争相手が行っていないからこそ、効果がある。
戦略思考は、価値の差異化を図る思考です。
他がやれば、自社もやろうと言う考えを棄てることです。

A社とB社が出している「返品はできるが、そのときは、製品の不具
合を顧客が証明しなければならない」というシグナリングは、どうい
う差異化の効果があるかどうか? あるとすればなぜか? ないとす
ればなぜか?

90年代後期の米国で普及したのが、「他店価格より高いことがわか
れば、その差額をリファンド(返金)します」という、自店価格への
コミットメントです。

これはどんな戦略的意味をもっているか?
一見ではリスクを増やすように思えます。

人は自分の利己性を深く認識するからこそ、他利に至り、お互いが利
を得ることができます。一見では、自己利益を図るだけに見える戦略
理論は、こうした深みをもつのです。サプライチェーンの原理でもあ
ります。

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雑誌『販売革新』で、従来のチェーンストア論を発展させる<新・リ
テイルマネジメント>を連載しています。デジタルプロセス時代の、
新しい小売業経営を考察するシリーズです。

『商業界』には<サム・ウォルトンが残した経営の普遍原則>を連載
しています。

▼WEBで、他の考察を体系的に
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送ったマガジンを含め、後日、修正と付加等を加え掲載

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