| >> 記事トピックス一覧 |
1008ビジネス知識源:イスラム原理主義の世界観をめぐって
発行日: 2001/10/8
※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。
<<あなたと、チームの、知識とスキルのブラッシュアップを>>
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
2001年10月8日(Vol.74):社会思想分野
<Vol.74 イスラムと原理主義の世界観をめぐって>
ビジネス知識源:良質な経営・IT・ビジネス知識の提供を目標に
(読者数:14,802名)
Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治
著者へのひとことメール⇒ yoshida@cool-knowledge.com
申込・解除・バックナンバー http://www.cool-knowledge.com
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ビジネス知識源プレミアム(有料版サンプルと購読申し込み)
⇒ http://premium.mag2.com/j/011/0001.htm
10月は、サプライチェーン・マネジメント(SCM)を
基調テーマにしています。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
こんにちは、吉田繁治です。9月11日以降、ABC・CNNを含
めたTVニュースを見る時間が増え、つい何時間も食い込みます。
読者の方も、ここ4週はほぼ同じでしょう。
昨日は数キロ離れた小さな本屋に出かけ、定期購読以外の雑誌をま
とめて購入。住まいの周辺は丘陵地で坂が多く、自転車で出かける
と汗ばんでいい運動になります。本屋の隣にはコーヒーショップが
あります。自家製ケーキ、厳選したコーヒー豆、コーヒーメーカー、
茶器もある。5名くらいのアルバイトの写真とメッセージを掲げ、テ
ラスもあってコミュニティの雰囲気がある。ケーキを買って帰る女
性が多い。
今、シアトル生まれのカフェ・ラテが人気のスターバックスが大量
出店していますが、個人経営で工夫をし、本道の経営をしていると
ころもある。喫茶に限らず個人経営のモデルになるような、店舗で
す。
普通の2倍くらいの容量のグラスで出てくるアイス・カフェオレを
頼み、買った雑誌をめくる。人気があって、席はいっぱいです。
別の20坪くらいの書店から、10種くらいの雑誌を配達してもら
っています。先週は出ていた**の今週号は売り切れたんですか」
と、配達に来る主人に問うと、「今週は、取次ぎが送ってこなかっ
たんです」とのこと。毎週、取次ぎが送る雑誌は変わるようです。
店舗は、発注していない。この書店も、いつまであるでしょうか。
日本時間で、10月7日早朝、米英軍がアフガンの空爆を開始しま
した。パキスタンでは、抗議の反米デモが各地で起こった。アフガ
ンのタリバンは、米国への抗戦を、イスラム世界に呼びかけた。イ
ラクのフセインは米国は国際法違反であると言った。リビアのカダ
フィは、原理主義を非難した。
今週は、<イスラムの世界観をめぐって>です。
われわれは、西側世界の価値観で、イスラムを見る側にいる。
イスラムの側からは、西側がどう見ているか。ここです。
われわれの多くにとって、イスラムと原理主義は、謎です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<Vol.74 イスラムと原理主義の世界観をめぐって>
【目次】
1.惨殺されたクラスメート
2.コーランの世界
3.タリバンの世界
4.考察の手がかり
5.唯一神アラーと、キリスト教の神
6.タリバンの戦士と宗教的寛容
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■1.惨殺されたクラスメート
▼悪魔の詩
インド系英国人作家のサルマン・ラシュディが書いた『悪魔の詩』
という小説があります。イスラム教の預言者マホメットの、12人
の妻の名前を模した12人の売春婦が登場する。
▼ホメイニ師
1989年、ソ連が10年間のアフガン戦争に敗れ、撤収した年に、
イラン最高指導者アヤトラ・ホメイニ師は、『悪魔の詩』はマホ
メットとイスラム教を中傷し冒涜するものだとして、英国に住む著
者のサルマン・ラシュディに<宗教裁判>で死刑を宣告した。
イランの貧民救済を目的にするホルダホ財団は、イスラム教を冒涜
したラシュディを、外国人が処刑した時は$100万、イラン人が
実行した時は2億リアル(当時3億6000万円)の懸賞金をかけ、
世界に処刑を呼びかけた。
英国警察は、英国人である、インド生まれのラシュディを、保護し
た。
▼ビンラディン
アフガン戦争では、米国同時多発テロの首謀者とされるビンラディ
ンは、ソ連の侵略を阻止しようとしていた米国CIAから、武器と
資金の援助を受け、当時は内通していた。その後、ビンラディンは
91年の湾岸戦争後の、米軍のサウジ駐留を非難し、反米に転じた。
▼惨殺
1991年3月7日、五十嵐一筑波大学助教授は、大学構内のエレ
ベーターの前で、刃物で首を落とされた。彼は、アラブへ留学しイ
スラムを研究して『悪魔の詩』を邦訳していた。犯人は不明です。
事件の直後に友人から電話があって「おい、知ってるか、五十嵐が
殺されたぞ」と。私はのんびりと「ニュースは、五十嵐と同じ人物
か」と答え、「なに言ってんだよ、そうだよ」となじられた。
東大の教養学部で同じクラスでした。学生の頃の、穏やかだった五
十嵐の顔と血糊の海に転がった首の映像が、結びつかなかった。友
人は「あいつ、最近、派手なこと、やってたからな・・・狙われた
んだろう」と言った。私は学生のころの五十嵐しか知らない。
五十嵐は、田園双葉高校出身のベレー帽をかぶってとてもゆっくり
話し、大きな目をしたエキセントリックなところのある、これもま
た同じクラスの女性と結婚していた。夫の死後、彼女は、ある大学
の学長選出のスキャンダルで、週刊誌に登場した。
形容は「学長選挙の裏で、権力をほしいままにする魔的女帝」だっ
た。これもクラスでの私の印象とは、結びつかなかった。
▼イランの宗教裁判と、西側の市民法
イランのホメイニ師が死刑宣告した根拠には、ボンベイ生まれの作
家が「イスラムを棄教」し、イスラム教世界を冒涜した宗教上の罪
があるとされた。西側世界は、「表現の自由の侵害」であるとした
が、論理はすれ違っている。
近代国家は、国家単位で法を持つ。宗教は、国家や法を超越する。
他国の法に外国が干渉することができないように、ある宗教の主張
するところを、他の宗教で裁くことはできない。
▼イスラム原理主義
イスラム世界では、7世紀のマホメットの世界が連続している。ビ
ンラディンや、アフガンのタリバン(神学生の意味)が含まれるイ
スラム原理主義は、7世紀のマホメットの世界に戻ることを理想と
している。コーランの厳格な適用を説く。
12億人のイスラム教でも、マホメットの時代への復古を理想とす
る運動をしている人は、少数です。しかしながらイスラムの民衆に
は、西側資本主義の悪の壊滅を目指す原理主義への支持者が多い。
パキスタンでも、英雄ビンラディンが写ったカレンダーを掲げてい
る家が多い。ビンラディンは西側十字軍への戦いを呼びかけた。
▼ブッシュ大統領と小泉首相
ブッシュは、イスラム全体と敵対するのではないことを示すため、
米国のモスクを訪れた。モスクは仏教やキリスト教のように、祭壇
に仏や神を祀る寺院ではない。信者の集会所、礼拝所です。イスラ
ム教では、偶像崇拝を禁じている。神の偶像はない。
小泉首相は、物マネか、計算か、米英軍の空爆開始後のテレビで、
ブッシュに倣い、「正義の戦いである」と言った。これは「テロ組
織の壊滅」と表現すべきだった。正義は冠するべきではないと思う。
正義を冠すれば、宗教戦争になる。
テロの規模は大きくとも、これを戦争とは定義すべきではない。戦
争は、紛争を有利に解決するために、国家対国家で行う殺戮です。
テロ組織の壊滅、テロを支援する政権と団体の転覆と定義すべきで
す。戦争と定義すれば、国家対国家、国民対国民の戦闘にまで拡大
する。こうしたときこそ、定義は重要です。定義が派遣される軍の
使命を決め、ミサイルを向ける対象を決める。
小泉首相は、国際的な犯罪集団のテロ組織を壊滅させるための戦い
を、後方支援すると規定すべきでしょう。
イスラム原理主義の過激テロ集団を、12億人のイスラム教世界で
遮断し孤立させることが、西側の戦いの方法であり、ゴールなけれ
ばならない。そこしか最終的な解決はない。
▼宗教
人を死に赴かせることもある宗教とは、一体なにか?
特に世界で12億人が強く信仰するイスラム教とはなにか。
マレーシアのジャングルなかの工場に行ったとき、管理していた中
国系の副社長は、工場に勤務する多くのイスラム教徒は、1日5回、
勤務中に礼拝をしますと言っていた。
▼コーラン
エジプトも含め、アラブ、アジアのイスラムの世界では、朝も昼も
夜も『コーラン』を読む。宗教をあらわすreligionには「繰り返し
読む」という原義がある。繰り返し読むものが、聖典。
アラブで、今日も、多くの人々がコーランを携行し、読み、コーラ
ンの解釈で世界を判断し行動する。
▼信仰と科学
宗教は「神の言葉である経典の字義を信じる」世界です。
われわれが信奉する実証的な科学とは、次元が違う。
実証とは、同じ条件下で繰り返し起こることの、実験を通じた証明
です。科学は、一度きりのことには口をつぐむ。
人類が科学(Science)を手にするには、中世の宗教的世界との殺戮
を含む深刻な戦いを経ている。「科学」の背後には、「真理と法」
を独占的に規定してきた宗教との間に、流された大量の血がある。
アフガンやパキスタンの映像は、服装、食事も含め、生活、行動様
式は「中世」です。中世が現代に現前する。使う兵器は現代です。
------------------------------------------------------------
■2.コーランの世界
【一部を覗くと】
私には、クラスメートの五十嵐がもっていたようなイスラム世界へ
の、浩瀚な知識がない。高校生のころに、コーランの字面をぼんや
り眺めた記憶だけです。大学のアラビア語の授業は、数回出て、や
めた。
イスラム教のすべてを含むといってもよい1冊のコーランは、記述
が具体的で、翻訳でも、読むと面白いのです。
部分的になりますが、抜粋します。
▼多妻制
<もしおまえたちが孤児を公平に扱いかねることを心配するなら、
気に入った女を二人なり三人なり、あるいは四人なり娶(めと)れ
。もし妻を公平に扱いかねることを心配するなら、一人だけを、あ
るいは自分の右手が所有するもの(女奴隷の意味)を娶っておけ。
いずれにも偏しないためには、これがもっともふさわしい。(メデ
ィナ啓示『コーラン』藤本勝次編集:世界の名著P114。以下<
>内の引用は同書)>
イスラム教では一夫多妻制を勧め、富者は貧者や孤児を養う義務が
あるとされる。マホメットも12人の妻を養っていた。条件は、皆
を義務として「公平に扱う」こと。アラビアンナイトに描かれるよ
うな、酒池肉林の、猟色の世界とは違う。
▼喜捨
貧者に施す喜捨は、富者の義務とすべき善行とされる。施しを受け
た人は礼(「礼」は東洋的です)を言わない。コーランの論理では、
善行を積めば、むしろ本人が救われる。喜捨は、本人の善行。
▼男と女
<男は女より優位にある。というのは神がおたがいのあいだに優劣
をつけたもうたからであり、また男が金を出すからである。それゆ
え善良な女は従順であり、神が守りたもうたものを留守中も守るも
のだ。逆らう心配のある女たちにはよく説諭し、寝床に放置し、ま
た打ってもよい。(同書)P118>
西側世界の人たちは、ここをどう読むでしょう。コーランは、唯一
絶対神のアラーの言葉です。解釈は許されるが、否定すれば異教徒
です。それでは、アラーを信じず、神に反抗すると、どうなるか。
▼懲罰
<神とその使徒に戦いを挑み、地上に害悪をまき散らそうと努める
者どもの報いは、殺されるか、十字架につけられるか、手足を交
互に切断されるか、さもなければ国外に追放されることにほからな
い。これは現世における彼らの屈辱であり、来世でも彼らに大きな
懲罰がある(同書)P139>
ここで言う善行とは、コーランに記された<法>を忠実に守ること
です。害悪とは、イスラムに対立する宗教が定めることです。
▼他の宗派
<信じる人々よ、ユダヤ教やキリスト教徒を友としてはならない。
彼らはお互い同士が友である。お前たちのなかで、彼らを友とする
者がいれば、その者は彼らの同類である。神が無法の民を導きたも
うことはない(同書)P141>
かくして、イスラム教は、ユダヤ教とキリスト教との妥協、宗教的
寛容を拒みます。では、私のように、信仰なき者はどうなるか。
▼信仰なき者ども
<信仰なき者どもは、(死後の)復活の日の懲罰を贖(あがな)う
ために、たとえ地上にあるいっさいのもの、加うるにそれに等しい
ものを手に入れたとしても、(神に)とうてい受けとってはもらえ
まい。彼らには痛烈な懲罰がある。彼らは業火からのがれでようと
しても出ることはできない。彼らには、どこまでも続く懲罰がある。
盗人は男でも女でも、稼いだ報いとして両手を切断せよ。これこ
そ神の懲罰。悪いことをした後で悔い改め行いを改めるものは、神、
これをゆるしたもう。神は寛容にして慈悲深いお方(同書)P
139>
こうした言葉をどう受け取るか?12億人のイスラム教徒の人々は、
疑念をさしはさめば懲罰がある神の言葉として受け取り、信じる。
▼復讐
復讐法と言われる、有名な目には目をの節。
<われらはあの中(律法)で、「命には命、目には目、鼻には鼻、
耳には耳、歯には歯、受けた傷は同じ仕返しを」と規定しておいた
。しかし、これをみずから棄権する者にはそれは贖罪(しょくざい
)となる。神が下したもうものによって裁かない者どもこそ不義の
徒である(同書)P140>
江戸時代の仇討ちと似ていますが、神が復讐を命じる点が違う。
▼ラマダーン
ラマダーン(イスラム暦9月)の断食(断食でも夜には食事ができ
る)について。
<人々のための明らかなみしるしとして、かつまたフルカーンとし
てコーランが下されたのは、ラマダーンの月である。この月に在宅
する者は、断食しなければならない。病気のものまたは旅行中の者
は別の数日間におこなうべきである。・・・断食の夜に妻と交わる
こと許されている。彼女たちはお前たちの着物、お前たちは彼女た
ちの着物である。(同書)P78>
▼敵
コーランが定めるのは、アラーの神を信仰しない者に対する戦闘で
す。
<神の道のために、おまえたちに敵する者と戦え。しかし、度を越
して挑んではならない。神は度を越す者を愛したまわない。お前た
ちの出会ったところで彼らを殺せ。おまえたちが追放されたところ
から、彼らを追放せよ。迫害は追放より悪い。・・・もし彼らが戦
いをしかけるならば彼らを殺せ。不信者への報いはこうなるのだ(
同書)P79>
コーランの厳格な実行を求める原理主義を奉じるタリバン、ビンラ
ディンが発する<米国に降った神の懲罰>という言葉には、こうし
た信仰がある。
タリバンとビンラディンは、戦いは12億人のイスラムと、10億
人の西側資本主義との間のものであるとイスラム圏を誘っている。
一方で、米国は、敵はイスラムではなく、テロ組織だという。
------------------------------------------------------------
■3.タリバンの世界
タリバンについてのほぼ唯一の書である『タリバン』を書いた在パ
キスタンのジャーナリスト、アラメド・ラシッドは、以下のように
言う。(『現代』(01.11月号)
イスラムの神学生を意味するタリバンは、大部分がソ連との10年
戦争(79〜89年)で、父母を殺された難民の孤児である。
難民孤児は、数百のマサドラ(神学校)で、マホメットが作ったイ
スラム理想社会のことだけを教えられている。
彼らの中から選別され、戦士に養成された若者がタリバンである。
タリバンが首都カブール(人口120万人)を占拠して、最初に行
ったのはナジブラ大統領の処刑。男性器を切り取り、ロープで縛っ
た体をジープで引きずって、官邸を周回。2倍くらいに膨張した遺
体が、吊るされて見世物にされた。
その後タリバンは、アフガン国民に以下の布告を出した。
(1)男性は、6週間以内に顎鬚をたくわえる。
(2)女性は就学と、家庭内以外での労働を禁止する。
外出するときは、頭からつま先まで、全身をベールで覆う。
(3)盗人は手足切断の刑、姦淫は投石処刑、飲酒は鞭打ち刑に処
す。
(4)スポーツ、娯楽、音楽は禁止し、テレビは破壊する。
『タリバン』の著者のアラメッド・ラシッドは、首都カブールで公
開処刑を見た。サッカー場で、1万人を超える男性と少年が見守る
中、殺人犯は、被害者の家族から6発の銃弾を打ち込まれた。
まさに、マホメットの7世紀、古代世界です。
歴史的遺産、バーミヤンの石仏を破壊したのもタリバンです。
コーランは、偶像支配を禁じる。
タリバンが国家公務員に与えるのは食糧、衣服、銃だけで、給料は
ない。平均寿命は46歳、3人に1人の乳児が、死ぬ。
2000万人の人口で、年間国家予算が、わずか$10万(115
0万円) 首都カブールの市民の平均給与は、月$1〜3。
稼動している民間工場は、義足、松葉杖、車椅子などを作るところ
だけ、芥子の栽培と売買、輸入ビジネスでタリバンは軍事費を得る
といわれます。
------------------------------------------------------------
■4.考察の手がかり
コーランの世界そのものが現前するイスラム世界を、どう理解すべ
きか?
▼手がかり
手元に、小室直樹という奇矯なところのある、しかし、希代の学者
が書いた『日本人のための宗教原論』(徳間書店:00年6月)が
あります。仏教、キリスト教、イスラム教の原理を説くものです。
この記述を手がかりに、考えてみましょう。日本では、学校でも家
庭でも宗教教育を行わない。われわれは、実際は無神論ではない。
単に、宗教的な概念を、無知なだけです。オーム真理教のようなカ
ルトに対しても、どう考えるべきか、戸惑っている。
イスラム世界、そして実は資本主義も、根底の部分から考えるには、
宗教への洞察が必要です。
▼宗教とはなにか
【倫理、価値、行動】
宗教とは何を規定するものか?
倫理、価値、行動を規定する。
倫理観は、なにが正義と善で、なにが悪、罪であるかを決める。
価値観は、なにを優先して大切にし、守るべきかを決める。
行動綱領は、実際に判断、行動する時の基準、ルールを決める。
【日本教の発見】
日本人は成文的な倫理規定、価値規定、行動綱領は持たないが、世
界の人々とは違う、独自の倫理観、価値観、行動スタイルを持って
いると発見したのが、今は亡き山本七平です。
彼は<日本教>と名づけた。日本人が書いたものを軽く見る、堕落
した日本人学者からは無視されましたが、彼の著作は名著です。古
典と言ってもいい。
【かすかな触れ合い】
講演の前に福岡のホテルで、フランス料理を一人で食べている山本
七平を見かけた。和食や中華と違い、フランスの料理のコースは、
一人で食べても違和感がないと思った。ある会で、私が総合司会を
したときのメイン・スピーカーが、山本七平だった。二人だけにな
った控え室で、出番を待つ間に宗教の話をした記憶があります。
私は、多分あがっていた。
【コーランの意味】
イスラム教で、倫理観と価値観、行動綱領、そして法までを規定す
るのは、コーランです。コーランは、12億人の生活のすみずみに
まで浸透している。イスラム世界にとって、タリバンやビンラディ
ンは、彼らをテロリストと見るわれわれとは、おそらく違って見え
ている。
【世界で増加するイスラム教徒】
イスラム教徒は、今、米国はもちろんロシアを含む世界で、増えて
いる。
仏教は理解がとても難しい。庶民を寄せ付けない社会的エリートの
秘儀的な宗教だったことから、この難しさは来ている。
コーランは、<抜粋>に挙げたように、誰でも、意味の理解はでき
る。隔絶した激しさがあるように見えるが、この点は、他の宗教と
も変わるものではない。他の宗教が、世俗や経済と妥協してきたな
かで、イスラム教は、唯一の経典をコーランとし、ブレがなかった。
▼イスラム教の最大の特徴
小室直樹は言う。
<イスラム教では、「宗教の戒律」、「社会の規範」、「国家の法
律」
が(すべてコーランの規定で)全く一致している(『日本人のため
の宗教言論』P281)>
なるほど、そうなら、コーランを読むとイスラム世界が理解できる。
イスラム理解の手がかりは、ある。一度はお読みになることをおす
すめします。12億人の世界観がわかる。とても、平易な内容です。
【近代国家は】
宗教の戒律が、宗教ごとに違うのは理解できる。しかし、近代国家
では、異なる宗教の同居を許すため、国家の法では、<市民>とい
う概念を作って、宗教での区分、差別を排除した。
キリスト教を信じなければ米国民ではない、仏教でなければ日本国
民ではないということはない。米国では、共和政体(君主制ではな
い民主政体)に忠実であるということが、市民の条件になる。
言論と信教の自由は、赦(ゆる)す。
イスラム教、キリスト教、仏教、ヒンズー教、及び無神論の市民に、
内面での信教の自由を許し、外面では市民として共通の法(市民
法)に従うことを条件とし、近代国家が成立している。
▼自然法(Common Law)と市民法(Civil Law)の概念
法は、コスモポリタン的な共通倫理のルソーの自然法と、国家単位
での市民法から構成されている。
キリスト教、仏教、ヒンズー教では、実定法たる市民法と宗教的戒
律は別次元にある。宗教は、他人が立ち入れない信念の内面である
。
法は外面であると、二元論で規定する。
近代社会では<法>が倫理、規範、罰則とを規定し、<宗教的戒律>
で人が裁かれることはない。
▼ところがイスラム教では
ところが、イスラムでは「宗教の戒律」、「社会の規範」、「国家
の法律」が(すべてコーランの規定で)一致している。完全化され
た宗教と言えます。
コーランは、唯一神アラーの人間界に向かっての言葉を、使徒マホ
メットが預言者(神のことばを預かった者)として、書き記したも
のです。イスラム教では、世界も人間も、神によって創造されたも
のだから、その言葉を解釈はできるが、コーランを書き換えること
は赦(ゆる)されない。
解釈は、幅を持ちます。解釈のブレで宗派が生まれる。タリバンや
ビンラディンの原理主義は、コーランの最も忠実な解釈を行って、
そのままを世界観、価値観、法とするものです。
西側世界にとっては、絶対に許容できないテロだった。しかし、イ
スラム原理主義の世界では、罪人たる異教徒を、唯一神アラーの命
に従って抹殺したと解釈されている。
<神の道のために、おまえたちに敵する者と戦え。しかし、度を越
して挑んではならない。神は度を越す者を愛したまわない。お前た
ちの出会ったところで彼らを殺せ。『コーラン』>
コーランが説くように、イスラム教徒にとってもイスラムの敵であ
る異教徒を、大量に殺すことは、度を越すことではないのか?
■5.唯一神アラーと、キリスト教の神
<アラーは、絶対で天地を創造した。人間に生を与えた。人間を死
なせた。アラーは存在する。アラーは存在して唯一であって永久で
あって全能であって計算高い・・・。ある人が数えたところアラー
には99の特性が記されており、ともかくそれらすべてのことを信
じなければアラーを信じたことにならない。『日本人のための宗教
原論』P286>
イスラム教には信徒が必ず行わなければならない5つの勤行がある
という。(以下、『日本人のための宗教原論』の要約)
▼信者の義務
(1)信仰告白(シャハダ)
<アラーのほかに神はいない、マホメットはその使徒>と絶えず口
に出して唱える。
(2)礼拝(サラート)
1日5回、決まった時間にメッカに向かって礼拝。
(3)断食(サウム)
ラマダーンに、日の出から日没まで断食する。夜は食べてもよい。
(4)喜捨(ザカート)
貧者に恵む喜捨は、義務とする。法的な義務と考えればいい。
例えば、税を払っても国や県は感謝状をくれない。国民の義務だか
らです。イスラムの喜捨は神に対する義務です。所得の40分の1
と決まっているという。
(5)巡礼(ハッジ)
イスラム暦12月に行う聖地メッカへの巡礼。ハッジの道中は、イ
スラム教徒なら敵も味方も、人種の違いも、社会的身分、階級もな
く、平等で「同胞」になるという。ここに、イスラム教徒の自己実
現の連帯がある。
イスラム教徒にとって、巡礼は特別の意味を持つ。巡礼は、国家の
枠を超えた理想的連帯を生み、イスラム教徒を惹きつける自己実現
の場になる。
聖地メッカの国、サウジアラビアに異教徒の米軍が駐留することは、
理由はなんであれ、イスラム教徒の米国への憎しみを生んでいる。
イスラム世界では、西欧的民主主義の概念はない。コーランの解釈
を正しく行う学者が、独裁を行うことが政治の理想になる。<師>
という概念。
(注)7世紀に書かれたコーランで、現代社会のすべての法を規定
できないので、コーランを第1法源として、第10法源まである。
複雑な事態は、第一法源の規定から、第2、第3・・・と参照する。
▼イスラム教の宗教的寛容
宗教的寛容とは、他の宗教の信者の存在を認めるということです。
近代国家では、宗教的寛容がある。法律用語では信教の自由です。
イスラム教には、この宗教的寛容がないのかというとそうではない。
<イスラム教を最高とした上で、人々は自分の信じるものに従って
他の宗教への信仰も認めている(同書)P307>
条件は、イスラム教を最高と認めた上での、寛容です。
ここに救いがありますね。
しかし、イスラム教が、絶対に認めないのは、キリストや、ユダヤ
教のヤハウェを神とすることです。神はアラーのみで、キリストも
マホメットと同じような神の言葉を預かった預言者であり、伝道者
で、神ではないとする。ここに、アラーの妥協はない。
▼死後の天国と地獄
宗教が宗教たるゆえんは、人間にとって怖い死(また経験すること
ができない死)と死後の世界を、どう定義するか、です。
<最後の審判(死)に関する考え方は、キリスト教と全く同じであ
る。最後の審判に至り、そのとき再び肉体が与えられる、そして、
その個人の行状が(神は全部を知っているから)細大もらさず、審
理される。裁判の折にはマホメットが弁護人になって力になってく
れるが、あくまで生前の行状が問われるので、救われるも救われな
いも要は自分次第である。(同書)P317>
<その先がキリスト教と少し違っていて、イスラム教では、もはや
死ぬことがなくなる。キリスト教では審判にかなった人は永遠の生
命、適わなかった人には永遠の死が待っている。ところがイスラム
教では、(死によって)完全な肉体を持った人はもはや死ぬことは
ないのだから、そのまま地獄へ行ったら目も当てられない。朝から
晩まで業火に苛まれ、大変な苦痛が待っていて、いっそ死んだほう
がましだと泣きついても、もはや死ぬことは許されない(同書)P
317>
善行が認められ、天国へ行ったらどうなるのか?
<最高の日々が待っている・・・いくら飲んで、食べてももいい・
・・(他の)「神の国」と違うところは・・・とびきりの絶世の美
女がいて、絹の着物を着て、黄金の腕輪をし・・・何回交わっても
処女のままという清浄無垢さ・・・>
イスラムの天国は、なんとも、男性優位の欲望を満足させる天国で
す。
イスラム教の世界観の概要が見えてきたところで、今まさに自爆テ
ロで問題の<聖戦(ジハード)>です。
------------------------------------------------------------
■5.唯一神アラーと、キリスト教の神
(十字軍時代の)キリスト教は、異教徒や現地の野蛮人を人間とし
て認めず、殺した。西欧世界の歴史は、侵略の歴史であり、先住民
の略奪、殺人の歴史でもある。人間として認めないという言葉ほど
怖いものはない。米国は、人間を家畜と同列に見る奴隷の歴史も持
っている。
イスラム教ではどうか。
<アラーの路に斃(たお)れた人々(異教徒との戦いにおいて戦死
した人々)のことを、死人と言ってはならない。否、彼らは生きて
いる。だた、汝らにはそれがわからないだけのこと。(同書)P3
19>
聖戦で倒れた者は、生きて、そのまま素晴らしい天国に行く。
しかしコーランが説くところは聖戦もやりすぎてはいけない。
<神の道のために、おまえたちに敵する者と戦え。しかし、度を越
して挑んではならない。神は度を越す者を愛したまわない>
<騒擾がすっかりなくなるまで戦い抜け、しかし向こうが止めたな
ら汝らも害意を捨てなければならぬ>
ここは、「新しい戦争」で忘れてはいけないところです。
▼近代社会
キリスト教は、殺戮と血で血を洗う宗教改革を経て、勤労と蓄積を
行う資本主義を肯定するプロテタント(カルヴァン)を生み、自然
法と博愛・人権・民主主義、科学を生んで近代社会を作った。われ
われにとっては、ある程度は、なじみの世界です。
イスラム世界は、第一法源たるコーランに頼った。マホメットは最
後の預言者であり、改訂は不可能だった。後世は、コーランの解釈
しかできなかった。
こうして、イスラムに古代・中世的な、伝統社会が残った。
<すべてはアラーの思し召し>の世界観では、個人として個人との
契約を行うことに、神の意思に反する部分が出てくる。企業の自由
契約の活動は、阻害される。
------------------------------------------------------------
■6.タリバンの戦士と宗教的寛容
タリバンの戦士は、多くが父母を殺された難民の孤児を、最高指導
者ムラー・モハメド・オマルが、純粋教育した若者です。彼らの多
くに、おそらく、われわれが持つ死の概念がない。
【タリバン】
<タリバンは、女性は男性のアラーの神への奉仕から引き離す不浄
なものと教えられて育った。そのため彼らは母親や姉妹から遠ざけ
られ、女友達も持ったことがない。過去の思い出も将来の希望もな
い彼らにとっては、自分が役に立てる現在の戦争がすべてである(『
ビンラディンとタリバンの終わりなき戦い』アラメド・ラシッド)>
タリバンに希望がないと断じるのは、原理主義のコーランを信じな
いラシッドであり、われわれです。タリバンにも、ビンラディンの
アルカイダにも、コーランが説く不死と、悦楽の天国という希望が
ある。多くが、そうした彼岸を見ている。
【解決】
西側世界は、原理主義を抹殺するのではなく、コーランも説く寛容
である<神の道のために、おまえたちに敵する者と戦え。しかし、
度を越して挑んではならない。神は度を越す者を愛したまわない>
の記述に訴え、イスラムの指導者と妥協を図るのが、冷静なリアル
・ポリティクスの解決方法です。
戦闘の時間が長ければ長いほど犠牲者は増える。このままでは、多
くの人の生活を奪うことになる恐慌も、80%の確率だと見ます。
殺戮は、殺戮を生む。21世紀の世界にテロを内在させるか、宗教
的寛容んび通じる妥協を図るか、62億人がまさに今、選択肢の岐
路にいるように思えます。ブッシュは、世界の運命を握っている。
【お互いが正義を冠してはならない】
核を持つパキスタンでは、タリバン、ビンラディンに共感を持つ民
衆が多い。現パキスタン政権が、米国への反発で転覆したらどうな
るか?米国の世論が、本土襲撃を受けた屈辱と悲劇から、妥協でき
ないとすれば、テロとの終わりなき戦いをしなければならない。
神と信仰のために、死をかける人がいる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【ビジネス知識源 読者アンケート】
1.テーマと内容は興味が持てるか?
2.理解は進んだか?
3.疑問点や質問点は?
4.その他、感想等
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。
コピーして、メールに貼りつけ、記入の上送信してください。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
▼著者へのひとことメール
yoshida@cool-knowledge.com
※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。
あなたと、会社の、知識とスキルのブラッシュアップを。
▼<ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊分を超える
情報価値をe-Mailで>のサンプル閲覧と申し込み
http://premium.mag2.com/j/011/0001.htm
▼クールナレッジ掲示板(BBS)で投稿
http://cgi.members.interq.or.jp/venus/yoshida/BBS/light.cgi
▼WEBで、他の考察を体系的に
http://www.cool-knowledge.com
送ったマガジンを含め、後日、修正と付加等を加え掲載
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
このメルマガを読んでいる人はこんなメルマガも読んでいます
- 経営戦略考
- 第一線のコンサルタントが毎日、日経新聞の記事を題材として経営戦略の原理原則を解説します。経営者はもちろん、キャリアアップを狙うサラリーマン、OLの方...
- がんばれ社長!今日のポイント
- 孤軍奮闘する企業経営者に毎日声援と刺激をお届けします。経営専用マガジンとして多くの読者に支持されています。
- 週刊アカシックレコード
- 02年W杯サッカー韓国戦の「誤審」を世界で唯一「前日」に誌上予測し、誤審報道を「常識化」した推理作家(金正日の「遺書」で始まる「中朝戦争」後の北朝鮮...
- 宮崎正弘の国際ニュース・早読み
- 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析
- 社長、「小さい会社」のままじゃダメなんです!
- シリーズ第3弾「世の中は自分のためにお金を出して実験してくれている・編」がスタート! 実は、“見方”がわかれば、世の中は“ヒント”だらけなのです。こ...
![メルマガスタンド[メルマ!]](/img/common/melma_logo.gif)









