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0806ビジネス知識源:絹のハンカチの意識構造

発行日: 2001/8/5

※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。
<<あなたと、チームの、知識とスキルのブラッシュアップを>>

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2001年8月6日(Vol.62):経済・金融分野

<共同体組織の二重規範(2):絹のハンカチの意識構造>

ビジネス知識源:良質な経営・IT・ビジネス知識の提供を目標に
                          (読者数:12,993名)
  Systems Research Ltd. chief consultant吉田繁治
 著者へのひとことメール⇒  yoshida@cool-knowledge.com
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こんにちは、吉田繁治です。前回は、東大法学部キャリアの意識構
造。今日はマネーの本山:日銀官僚の意識構造です。

大蔵省キャリアの物理的な権力とはちがい、絹のハンカチ組みの
「金融権力」です。これを解くことは、秋からの金融と経済をめぐ
る議論の、最先端を示すことになります。
(桝添要一は、これを理解しているはずです)

本稿の理解で、秋から来年の、政治と経済の予測ができるでしょう。
根底を見ることです。冷たいお茶を飲み、カフェインをとって、
力をいれました。ワインやビールは、飲んではいません(笑)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<共同体組織の二重規範(2):絹のハンカチの意識構造>

【目次】
 1.制度化した学の、学説権力を使う日銀
 2.日本人の体制選択の、全体的まとめ
 3.特殊な金融構造の2つの結果と、敗戦処理
 4.日銀の思考方法と、当事者無責任を解く
 5.日銀審議委員の主張の分析
 6.日銀官僚の、密かな、越権の論理構造
 7.流動性の罠(わな)の論をわかりやすくすると

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.制度化した学の、学説権力を使う日銀

【経済行政の2本柱】
大蔵権力(税と予算分配、金融機関支配の3項目)の分析に、日銀
の金融権力(金利とマネー量の調節の2項目)の分析をくわえると、
経済の行政権力の2本柱をあつかったことになる。大蔵権力は、
選挙で選ばれた政治家がチェックし、方向を決めることができます。
行政をチェックする最終機構は、国会です。

【日銀の独立権】
5年が任期の日銀総裁(現在、速水優)は、改正日銀法(98年)
で、本人がやめると言わない限り、やめさせることはできない。
日銀の金融政策に対しては、日銀以外は、だれも関与できない。
(政府が、圧力をかけることはできます)

【焦点】
日銀権力はとらえにくい。金融調節は知られることが少ないので、
なじみのない話しになるおそれがあります。しかし、いま、日銀の
金融政策(金利とマネー量の調節)は、日本経済の焦点といっても
いい。金融調節の影響は、即日に、企業と生活におよぶのです。
できる限り、わかりやすくと配慮しますが・・・

【「制度化した学」をつかった権力】
日銀権力がとらえにくいのは、「制度化した学」をつかった権力だ
からです。制度化した学とは? いちばんわかりやすい例が、ノー
ベル賞です。

「学」の正当な評価は、だれもできない。そのため「学派=学説の
団体」がある。学派に「権威」をつけるの象徴がノーベル賞。ノー
ベル賞は、国際政治すら介入し、学会政治で選ばれている。受賞は
学派の「権威」であり、学説・学者・大学の序列になっている。制
度化、権威化した学とは、そんな意味です。

日銀は、その時々で、「自分たちの意図」にそうような学説をえら
び、それを根拠に、おカネの蛇口の開閉を行っていると判断します。
私の、状況証拠からの推測です。

【・・・いよいよ経済・金融の非常時に入った】
8月以降の金融政策は、スポットライトをあびます。平常時は、中
央銀行の通貨介入は重要性をもたない。この秋は日本をふくむ世界
が、経済と国際金融で「非常時」にはいる。

非常時は中央銀行のマネー政策が「どの方向をしめすか」が、企業
経営と、生活にそのままつながるのです。

本稿では、秋からの金融政策の先端(エッジ)を、一緒に考えます。
予備知識はいりません。論理的な思考力のみでOKです。

――――――――――――――――――――――――――――――
■2.日本人の体制選択の、全体的まとめ

今年から来年は、日本人は「体制」の選択をします。すごい時期で
す。封建の幕藩体制をこわし、立憲君主制を作った明治維新に似て
いる。今度は、「株主資本主義」への革命です。あれ、日本は資本
主義じゃなかったの? 

形式は資本主義です。
中味は、中央集権、国家主導のクローニー・キャピタリズムの成功
国でした。

▼体制の選択は4つ

日本は、4つの体制から選択を行います。(記号は可能性)

◎株主主導のアングロ・サクソン型資本主義(米国:官僚権力は弱
く、株主権力が強く、税は安い。注:英国は過去の福祉のため税が
高い)

○株主の権利を制限する社会民主主義の資本主義(大陸欧州:政府
事業が多く、官僚権力は強く、税は高い。隣接した共産主義への、
イデオロギー的対抗が、社会民主主義でした)

△中央集権と国家主導のクローニー・キャピタリズム(日本を含む
アジア型。官僚が、産業政策で資本分配に強くかかわり、高度成長
を目指す。税は高くも低くもなる。政治、官僚、民間が癒着する)

×旧ソ連の、計画経済(特権をもつ官僚の経済支配)

今、<クローニー・キャピタリズム>から、<アングロ・サクソン
型の株主主導の資本主義>に変わることを<構造改革>とよんでい
ます。(株主になることが、これからの成功の選択のひとつ)

【非常時の準備は早く】
体制を変えることを革命といいます。日本は革命をやることになる。
革命とは非常時です。旧勢力と新勢力の、血を血で洗う、つきつ
めた抗争までいかないとおさまらない。小泉内閣は、いま、革命の
ドアをノックした段階です。秋からドアが開き、利権抗争がはじま
る。

二転どころか、三転までが予想されます。うまく行かない可能性も
大きい。構造改革の方法、スケジュールが出るとはっきりしますが
改革抵抗勢力は、私の予想では国民の6割です。数年で雇用の2
0%、1000万人は、失業すれすれになる。

所得も物価も高い日本が、物価下落で、高い所得を続けることがで
きなってきているのです。ここが根底の本当の話しです。

▼構造改革とは

構造改革は、以下の2つに単純化できます。

【1.構造改革の2項目】
(1)官僚による資本の分配で大きくなった公的部門を小さくする
こと。これが、特殊法人の民営化です。

(2)民間企業では、債務超過の企業の含み損失を確定し、最終は
税で処理すること。これが、不良債権処理です。

【2.構造改革のプロセス】
(1)政府と民間の構造改革の実際は、(うまく行けば!)デフレ
経済のふかまりと、失業の増加になります。

(2)うまくいかなければ、国家信用が落ち、国民にアパシー(虚
無)の心理がつよまって、経済原理でのデフレ型恐慌の恐れがたか
まります。小泉内閣は、国民がキレル寸前で、かろうじて、期待を
つないだ。
ただし、いまはまだ、小泉内閣には、改革の執行組織がない。

※カルロス・ゴーンが日産の改革でつくった、精鋭の<CFT:ク
ロス・ファンクション・チーム(縦割り組織を横断する改革チーム
)>が必要です。改革の手法には、成功の定石がある。↓
http://www.cool-knowledge.com/0613nissan-Ghosn(1).html

▼日本の資金循環での特殊構造の改革

資金循環では、どこの国にもなかった、日本的な構造があります。

【3つの特殊な資金循環構造】
(1)国民の預金を、銀行と生命保険にあつめさせた。銀行と保険
を実質的に支配し、指導したのが大蔵省です。

(2)政府の銀行である郵貯が、全民間銀行の50%ものマネーを
あつめた。郵貯は、大蔵省理財局の資金運用部に預託され、官の裁
量での財政投融資を通じた分配になった。

(3)証券市場への個人参加は弱く、機関投資家と外人のマーケッ
トになった。(戦前は、証券市場は個人マーケットでした)

――――――――――――――――――――――――――――――
■3.特殊な金融構造の、2つの結果と、敗戦処理

3つの、金融の特殊構造の結果が、下の2つです。

【1.公的部門の返せない借金】
公的部門の借金が、合計でGDPの2倍、1080兆円になった。
多くが、利をうまない、Non Performing Loan(不稼動貸付け金)
で、将来の経済成長の、障害になった。

※処理方法は(1)増税、(2)インフレ、(3)国有資産の売却
の3つ、(4)及びこれら3つの政策の混合です。

【2.民間企業部門の不良債権】
一方では企業部門でも、住宅ローンも含め、銀行貸出しの20%(
111兆円)が、利払いもできず、回収困難な融資になった。

※処理方法は、たったひとつ、収益還元法での処分です。
収益還元価格=期待利益額÷(予想金利率+リスクプレミアム※)

※不良債権の処理では、リスクプレミアムが10%以上になります。
不動産の質が悪いと、リスクプレミアムは20%です。
期待利益額は、不動産では、レント(地代)といいます。

2001年8月初旬の現状は、政府部門(特殊法人・公益法人)も
民間部門(銀行・企業)も多額のローンの<未確定の損失>をか
かえながら、表面の平静をたもちつつ、内部は煮えています。

▼どれくらいの民間会社が、一次整理の対象になるか?

上場企業は、東証(1部・2部)が2055社、店頭が893社で
合計2948社で、これらが今の日本経済を代表する会社です。

資金市場はどんな会社に、不良債権問題があると考えているか?
話題の建設では115社が東証1部上場です。うち18社の株価が
100円を割っています(01.08.02)。資金市場は、上場の16%
の会社にたいして、信任をおかず、清算をせまっている。
(具体名は、新聞の株価のページをみれば、毎日わかります)

流通、金融、サービス、製造でも株価順位を、低いほうからソート
すれば、一目瞭然です。会社の評価の、動的な情報は、株価として
公開されている。その読みかたに、気がつかないひとが多いですが。

不良債権処理では、全業種平均で、

(1)上場企業のうち株価下位の約5%〜10%、社数では150
〜300社くらい、
(2)非上場企業では20%、約50万社くらいが、対象になるで
しょう。各業界で、5社に1社でしょうか。

▼不良債権処理は、どんな結果をもたらすか?

ちょうど、日経新聞(8月2日夕刊)のコラム、『十字路』に、<
公的資金投入に反対する>がありました。中前経済研究所の中前氏
の論は、不良債権処理を進めるイデオロギーの典型です。

(1)不良債権処理が改革に結びつくのは、借金過多の企業を消す
ことで、過剰な設備と、過剰雇用の削減がすすむからである。
(2)生きのこる企業にとって、不良債権の処理がすすめば、市場
シェアは拡大し、稼動率がたかまり、収益はよくなる。
(3)改革をおくれさせることになる公的資金の(銀行への)再投
入は反改革的である。(以上、中前忠)

10社のうち、不良債権処理で2社をつぶし、8社にすれば、残っ
た1社平均で25%の売上増が見込める。それで、残った会社の利
益が改善するという。
(実は、需要縮小の乗数効果があるのでそう単純でないのです。中
前氏の論は、経済における時間の概念がない)

▼以下の二つの問いに対して答えれば?

(1)この決定によって、10社のうち8社の競争力ある企業が残
る。あなたは、決断しますか?
    この問いに対しては、80%くらいの人がYesと答える。

(2)この決定によって、10社のうち、2社の財務弱体企業が潰
れる。あなたは、決断しますか?
    この問いに対しては、60%くらいの人がNoと答える。

【分岐点】
両方は同じ意味です。どちらで考えるかが、分岐点。
あなたの思考の傾向は、どちらでしょう?
これが、突き詰めた時の、不良債権処理への態度になる。
秋は、この二つの問いと態度について、急迫した論戦が始まる。
決定は、どこまでも延ばせる。しかし、金融マーケットは待たない。

私の態度はどちらか?熟慮し、答えれば、この二つの中間です。
理由は、構造改革のみに奔走し、金融政策を忘れると、

(1)相互関連のシステム(系)である経済は、マイナスの乗数効
果で需要が縮小し、予想以上に悪化してしまう。
(2)その時に、「必要以上の痛み」が、いい部分にまで波及する
からです。

【政策セットの一方がどんな狙いを持つのか?】
デフレ効果の構造改革の推進と、セットになるべきものが<日銀の
信用膨張政策>です。ところが、この絹のハンカチの機構は、金太
郎アメのメッセージしかださない。
なぜか?(後半部で分析します)

▼銀行と企業の不良債権処理を迫る、米国の態度は明確

米国の態度は、カリフォルニアの空のように明確です。株がさがり
不良債権処理で倒産がふえれば、安値で買ってもうける。だから
米国の圧力は、早期不良債権処理。これが国際資本戦略です。

【方法】
世界史上最低の名目金利の、日本の銀行から、円を借りる(円キャ
リー)。その円で日本の株、または会社を買う。

(1)社員を50%くらいへらし、(2)不要資産を売り、(3)
銀行ローンをカットを受け、リストラをすすめる。

簿価の10%で買って利益が出るようにして、高い価格で売りはら
う。

【認識】
日本人の現場技術の優秀さ、会社への忠実さを、身をもって知って
いるのは、95年までは貿易で負けた米国です。彼らは、日本の会
社は、トップマネジメントの技術がダメだと考えています。
マネジメント方法を変えれば、とてももうかると見ている。
(構造改革は、行政でも民間でも、上部構造からの改革です)

【機会】
米国投資家は、構造改革がすすみ(当然の結果として!!)短期的
な景気が悪くなる気配がみえると、下がる日本株の買いをやります。
これは、はっきりしている。日本企業のバーゲンセールです。

【登場】
要請されたからと・・・渋面を作って買うのがコツ。なぜなら金融
庁と銀行に恩を売り、借金をカットしてもらわないといけないから。
ぎりぎりの時点で、雇用確保の正義の味方で登場すれば、顧客に
対するブランドイメージも上がる。当然の、マーケット戦略ですね。

▼さて、焦点になる日銀(今回のテーマ)

ここで、1998年の日銀法改正で大蔵権力と双璧になった、絹ハ
ンカチのマネー権力機構、日銀がどう考えているか、分析します。

不思議なことに、金利以外の日銀の金融政策が、まもとな議論の対
象になったことはない。金融を論じるには、経済学の予備知識がい
ることもあって、新聞記者がついていけないことが理由でしょうか。

そんなに難しいことではないのですが・・・

理由は、8月から9月にかけて、構造改革、不良債権処理をめぐる
議論の中心に浮上するのが<マネーの量的緩和>だからです。

日銀権力を分析した『円の支配者』(リチャード・A・ヴェルナー)
が話題ですね。ヴェルナーの方法は、状況証拠を集め、推論する
方法です。ドイツ人らしく、執念の力作。

1月ほど前に買い、とても面白くて1日で読みました。
全ページ赤線かなぁ。これでは、マーカーの意味がない(笑)

だれも、ヴェルナーを議論に取りあげない。この国の経済学者は、
重要部分が堕落しています。ヴェルナーの提言は、はっきりしてい
ます。「日銀の横暴を許していいのか?」ということです。
本来は日銀は、この批判に対して、回答をすべきです。
でも、しないでしょう。あの集団にそんな気骨はない。

98年の、大蔵官僚スキャンダルの、どさくさのときの<日銀法改
正>で、日銀総裁は内閣からいったん任命されると、任期の5年間
は、誰もやめさせることはできないことになった。

日銀は、念願の「超」独立権を手にした。裁判官に似ている。
日本で、もっとも強力な独立行政権を保証された機関です。

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■4.日銀の思考方法と、当事者無責任に思われる部分を解く

8月3日のNHKに、速水優総裁が出ていました。TVでインタビ
ューを受けるのは、初めてだそうです。
日銀は法学部は少なく、経済学部が多い。本論は、経済学部出身官
僚が、どんな行政権力を使うかの論でもあります。

▼速水優総裁の発言は、「繰り返し」同じこと

速水総裁の発言は、以下の5項目の金太郎アメです。

(1)円のお札+日銀当座預金(ベースマネー)は、7.9%も増
やした。95年から00年までの年平均:以下同じ。
(2)銀行預金+CD(マネーサプライ)は、3.3%しか伸びな
かった。
(3)銀行の総貸出しは、毎年0.4%減った。
(4)GDPは1.3%伸びた。
(5)物価は0.1%ずつ下がった。

<日銀は、懸命にマネーを増やしたが、借り手がいない。これは日
本が構造改革を必要としていることを示す。だから、構造改革を先
にやるべきだ:速水総裁>

これが日銀の主張です。副総裁、政策委員、論文もふくめ同じです。
言論統制が取れた、金太郎アメの組織ですね。

【デタラメ】
借り手がいないというのは、デタラメ。今借り手だらけでしょう。
借り手は多いが、貸せないと、はっきり言わないところに問題があ
る。

マネーサプライの額は言うが、最も問題な、信用乗数の低下には
触れない。

日銀が把握している、貸せない理由を、事例として示せば、そこか
ら解決策が出てくる。事実分析にふたをしたまま、<借り手がいな
い>という嘘をいうのはなぜか?

日銀は唯一、通貨とマネーサプライ(銀行預金)の調節ができる独
立機構です。今、日銀信用を増やしても、経済に有効な効果がない
というのは本当か?とても、疑わしく思えるのです。

【結論】
結論から言えば、私はMITのポール・クルーグマンの主張に加担
し、<流動性の罠(わな)>におちいった日本経済で有効なマネー
政策は、インフレ・ターゲット論、及び通貨拡張政策と考えていま
す。

この<流動性の罠(Liquidity Trap)論>は、なかなか理解が難し
い。

しかし、早ければ今年冬ころ、遅くとも来年にインフレ・ターゲッ
ト(インフレ目標)政策に落ちつくことになると予測しているので
す。
流動性の罠(わな)論は、本論の後半部で、単純化して示します。

【日銀の有言不実行を、金融市場は見た】
日銀は、01年3月19日の株価下落の時期に、緊急経済対策の骨
としてインフレ・ターゲットを採用すると言明。このときは、驚愕
しました。あの日銀が、そんなはずはないだろう、と思ったのです。

案の定、そのあと、実際にはやってない。有言不実行です。日銀当
座勘定(ベースマネーの一部)を4兆円から、5兆円にしただけで
す。これを、お茶を濁すといいますね。

この実際のマネー政策をみて、一時上昇した株価は、下落している。

以下で述べることが8月以降の、日本経済運営の焦点です。つまり
最高度の議論です。といっても、内容は、たいしたことはない。
80%の人が理解できるはずです。どうか、ていねいにたどってく
ださい。

――――――――――――――――――――――――――――――
■5.日銀審議委員の主張の分析

日銀の主張を、くわしくみます。素材は、前日銀審議委員(=政策
委員)の篠塚英子氏の、今日、01年8月3日の『日銀、国民との
対話重視を』です。(日経新聞、経済教室に掲載)
日銀の論はどれを取り上げても同じですから、これで十分です。

日経経済教室に出る論文、ときに、面白い。でも、まぁ、普通は、
みんな読まないでしょう。私は職業の義務として、苦痛をこらえて
読みます。(笑)

【審議委員の権限】
篠塚氏のような日銀審議委員は、金融政策をきめる投票権をもちま
す。
財務省、経産省も審議委員をだしますが、参考意見が言えるにとど
まり、金融政策決定への投票権はない。

投票権をもつことは、コミットメントの責任があるということです。
決定権が投票権です。決定権は、決定の結果の責任を伴なうのが原
理。

【内閣は、通貨政策の外(そと)】
首相も財務省大臣も、日銀総裁と日銀審議会(政策委員会)の決定
には、口出しができない。つまり通貨政策の責任は、内閣にはない。
日銀にある。これが改正日銀法でした。

▼日銀のミッション

(1)物価の安定を図る通貨政策、
(2)金融システムの安定を図る通貨政策、
(3)景気対策や完全雇用には、責任を持たない。(篠塚)

ポイントは、景気や雇用は、日銀の責任管理ではないという点です。
米国FRB(米国中央銀行)は、完全雇用をミッションにしていま
す。日銀は、そのミッションをもたないということです。

ここは、変です。ペーパーマネーを発行する通貨当局が、景気対策
と無関係の金融政策をとることが、どういう根拠でゆるされるので
しょうか? 私の、経済動学と金融に対する理解の範囲を、超える。

【90年代の金融政策運営について】
<90年代の金融政策運営については、「日銀の通貨供給が不足し
ていたことが物価下落の主因」である」というマネタリスト的な批
判が、根強く見られる。しかしこうした主張は、十分に検証されて
いるわけではない:篠塚>(日銀の金太郎アメの論)

【問題】
ここが、日銀の立論の問題として、いつも私が見ているところです。
経済学は、自然科学とは違う。自然科学のような検証はできない。

経済では、同じ環境がなく、二度と同じことはおこらない。だから
経済学がのべるところは、ある特定の環境で成立した仮説です。
従って、経済政策は、有効なときと、そうでないときがある。

【職業的義務】
その有効な「とき」がいつかを見定めるのが、責任ある通貨当局の
実務的な、唯一のプロフェッションです。職業的な義務を放棄す
るのなら、いろいろな説があると、学会で議論していたらいいので
す。

こうした論における篠塚氏、日銀の態度は、論を封じるための論で
す。もともと、経済学は、自然科学的な検証ができないからです。

日銀当局は学者ではなく、マネーの臨床医です。臨床医は、個別の
ケースにあたって、医学の仮説と治療の経験を合わせ、個別的であ
る患者の病をなおすために、責任をもってつくすのがミッションで
す。

それ以外に、高い報酬をうけとる根拠はない。

患者の病状は、個別で特殊です。だから、厳密には臨床医学の説は
100%は、あてはまらない。根拠としては<過去の確率>があ
るだけです。100%は有効性が検証できないから治療はできない
では、臨床医は今日やめたほうがいい。一人の患者も治療できませ
ん。

私は、4月から3ヶ月、熟慮した末に、<流動性の罠>にはまった
日本経済では、インフレターゲットが痛みが少なく、有効と考えて
います。
(日銀に論争をいどむ必要があります。(笑))

日銀や篠塚氏のような態度を、制度化した学の、権力化といいます。
権力化があるから、篠塚氏の論(及び日銀の主張)は、短い論文で
も、以下に示す論理の破綻をおこすのです。

▼論理の破綻と当事者責任の回避

(1)銀行が資金を手元に確保しても、民間資金需要が低迷を続け
るなかでは、資金運用の機会がすくなく、再び国債に投資する以外
の運用をみつけにくい。

(2)国債に再投資しても、中長期(の金利)がすでにかなり低い
水準になっているため、十分な利ざやを得られるとはかぎらない。

(3)こうした文脈から得られる結論は、金融緩和政策の効果を高
めるために資金需要を喚起するには経済全体の改革が必要であり、
循環的な景気対策では先行きの計画が立て難いということである。
(以上の3項目は篠塚)

この(1)と(2)はその通り、実際におこっていることです。
これこそ、<流動性の罠>という、マネー循環の障害ですね。

問題は、<(3)こうした文脈から得られる結論は・・・経済全体
の改革が必要>の部分です。

私には、どこからどう考えても、金融調節の有効性がない(1)つ
まり流動性の罠に陥っているから、(2)経済構造改革が必要だと
いう、非論理的な、「結論先にありき」は導くことができない。

経済の構造改革を、日銀が推進するというミッション、その責任が
あるのなら、政策的に<構造改革が必要である>と言ってもいい。

ミッションがあれば責任をともなうからです。ところが、日銀のミ
ッションは、そこにはないと篠塚女史本人は、論文の冒頭でもいっ
ている。

「構造改革」が必要ないと言っているのではありません。構造改革
は必要です。しかしそれは、金融政策とセットにならないと、今の
日本では、デフレの深化(=血液の不足)、信用乗数の低下(=血
液循環速度と血圧の低下)を生んでデフレ型恐慌になると考えてい
るのです。

構造改革の手術は、血液の抜き取り(=政府予算縮小と不良債権処
理)をするから、輸血(=日銀信用の拡張:マネー膨張)が必要で
しょう。これを理解してください。マネーは経済の血液です。

――――――――――――――――――――――――――――――
■6.日銀官僚の、密かな、越権の論理構造

論理的に指摘すれば稚拙な、しかし、日銀の思考方法が現れるとこ
ろを、更に下でみます。

<このように、(金融調節手段を日銀が)大転換した背景には、
(1)日銀が物価下落の阻止に対して強い決意を示すこと、
(2)政府に(日銀が)構造改革の取り組みを断固促すという二つ
の誘因があったと思われる:篠塚>

ここの(1)は、いいでしょう。日銀の公式ミッションです。

【問題点】
問題は上の、(2)政府に(日銀が)構造改革の取り組みを<断固
促す>という部分です。
さらに、日銀論理の馬脚が現れたとも言える<思われる>というコ
トバです。

【なぜ、「思われる」か?】
日銀の審議委員にすら<政府に構造改革の取り組みを断固促す誘因
があったと「思われる」>としかいえない。

それなら、日銀内部で、誰が、いつ、どんな論理で、どんな内容の
経済構造改革が必要だときめたのでしょうか?
篠塚氏と、日銀に、知的誠実さがあれば、ここを示す義務がある。

【社会の原理】
審議委員は、金融政策決定の、絶対権をもっています。
権限は、責任をともないます。日銀が決められたことを実行する行
政官僚であって、国民にたいして政策の結果責任を取らないのなら
その人は、決定をしてはいけない。
決定は、決定の結果責任を取れる人のみが、できるのです。

篠塚氏の主張が正当になるには、日銀のミッションを、下のように
書き換えるべきですね。
(1)日銀は、金利とマネー量の調節を通じて、
(2)日銀起案の経済政策の実行をせまることができる。
こうなれば、日銀の主張は正当化されます。

当然、提案した経済政策で失政があれば、日銀は、起案と実行のス
タッフ責任をとわれる。それが、社会の、責任(コミットメント)
原理です。

【通貨の絶対権】
通貨当局が、<(日銀の金融政策は)政府に構造改革の取り組みを
断固促すという誘因があったと「思われる」>という当事者意識が
ない態度で、政策決定をせまっていいのか?

むかしもいまも、金融政策を決めたのは、総裁と審議委員(政策委
員)です。そこ以外には、誰にも決定権がない。
(過去のバブルも金融当局のマネー調節の失政でした)

【蛇足:犯罪的な、自分の堕落に気が付かない大阪支店長】
バブルの時期、日銀大阪支店長の講演があり、聞きました。

彼はこう言った。<副総裁(当時、三重野氏)と話していたら、米
国の要請で、これからどんどん金利を下げると言う。おい、家を買
っておいたほうがいいぞと彼から言われた。それでマンション
を買った。上がりましたね。それでだいぶ儲けたんです・・・> 
話しの洒脱さで人気のあった人です。

この講演をきいて、中央銀行の幹部が、インサイダー情報で住宅を
買ったら、米国では、経済犯で数年の懲役になると思った。

権力と情報の中枢にいることを幼児的に自慢する。だれも、<私的>
行動の、重大な犯罪を、指摘しない。国家主導のクローニー・キ
ャピタリズムの特徴です。話しをもどします。

【日銀が機関として考える構造改革の中味は?】
日本経済の構造改革が必要というなら、日銀は公式な見解として「
日銀版:経済構造改革のシナリオ」を示すのが義務です。

内容もシナリオも示さず、論理飛躍と権限の逸脱をふくんで、構造
改革が必要だというのは、通貨の中枢機関として、誠実ではない。

こうしたところが、まさにいま、我々の目のまえでおこっている金
融官僚の越権と、責任の回避の行為です。一見、フツーにみえると
ころが問題。絹のハンカチ組みの中枢意識の、意図せざる堕落です。

――――――――――――――――――――――――――――――
■7.流動性の罠(わな)の論を分かりやすくすると

ポール・クルーグマンの、「名目金利をマイナスにできないためにお
こる<流動性の罠(わな)>」を示します。
(流動性とはマネーと同じ意味です)

▼流動性(=マネー)の罠に陥った経済

(1)銀行の名目金利は、ゼロ以下にできない。預金金利をマイナ
スにすれば、預金者は銀行から預金をひきだし、たんす預金にする。

マネーサプライはへり、銀行システムと通貨システムは、預金封鎖
をしないかぎり、こわれる。従って、名目金利の最低は、〔0+α〕
%である。(日本の名目金利)

(2)金利が下限の経済で平均物価がさがると、資金の本当のコス
トである実質金利は、〔名目金利+物価下落率〕にあがったことに
なる。表面ではゼロでも、実質金利に、物価下落率が加わる。こう
して、高金利の、ハイコスト資金の経済になっている。これは、マ
ネーは引き締められたことを示す。(実質金利が高い日本)

(3)平均物価がさがる経済では、商品を買うことや投資を、先に
延ばせば、同じ1万円札(名目金額)で買えるものがふえ、得をす
る。物価が5%さがるとみるなら、来年は5%余分に買えることを予
想し、今の必需品以外の買い物は減らす。つまり消費が減る。(家
計)

企業は、投資をさきにのばす。あとで投資したほうが、土地・建物
・設備がさがって得だから。(企業)

(4)銀行も、融資するときの担保がさがると予想し、優良な企業
の融資でもしぶる。投資はへる。企業は、キャッシュフロー(利益
としての現金残余)の範囲での投資しかしなくなる。銀行は、企業
の融資をへらし、買うのは、国債になる。(銀行)

(5)こうして、投資も消費もへるから、その結果、個人の平均所
得も縮小し、さらに消費需要は減る。これがデフレスパイラル。

以上のような<流動性の罠>におちいった経済にくわえ、
(1)政府支出を減らし、デフレを加速させる小泉構造改革と、
(2)民間の不良債権処理を急げばどうなるか、説明しなくとも明
白でしょう。

デフレ型不況を、構造改革と不良債権処理によって、さらに深める
ことになる。つまり、今の日本での構造改革は、中央銀行の信用膨
張政策とセットでないと、悲惨な結果が生まれる。

流動性の罠から抜けだす方法は、「これ以上は平均物価も土地も下
がらないという<予想>を国民に与える目的で、中央銀行はインフ
レ目標を宣言し、マネー増発策を日銀が取る」ことである。

(注)ここで言うのは、<マクロ経済の物価水準>です。各企業が
合理化を図り価格を下げるのは、生産性の上昇で、経済発展の根
幹として絶対的に必要です。マクロ経済の物価水準と、価格戦略を
混同しないこと。(ここを誤解する人が多い)

平常時はインフレは悪。しかし、日本経済が陥った非常時である、
歴史上特殊な流動性の罠の唯一の治療法は、インフレ・ターゲット
である。

インフレ予想があれば、今使う1万円の方が、多くのものが買える
となる。合理的行動は早く買うことになって、需要増加がおこる。

以上が、クルーグマンの<流動性の罠↓>の要約です。
http://web.mit.edu/krugman/www/japtrap.html

【秋から】
インフレ・ターゲットでの日銀信用増加(マネー増発)をやらず、
構造改革のみをやれば、秋からのデフレ・スパイラルは確実です。
私の予想では、秋から冬の、経済政策の先端議論の焦点がここにな
る。

私には、金融官僚のねらいがわからない。インフレ・ターゲットを
だせば、円安(=ドル・ユーロ買い)と、国債価格の暴落(=名目
高金利)が生じるとみているのか?その可能性はたしかにある。

クルーグマンの立論の底には、日本は、将来人口の減少、労働力減
少の国になったという認識がある。人口減少、世代構造のテーマは
深く考察する必要があります。人口問題の考察が、いまの経済論
に、スッポリぬけているのです。

企業の投資、個人の住宅購入は、10年先を予想した経済行動です。
将来の経済の縮小を予想したとき、今日の投資も需要も減るので
す。

(第2部:完)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【気楽にアンケート】
(1)内容は、興味が持てるか持てないか?
(2)内容は、理解が進んだか?
(3)疑問点は?
(4)ご意見は?・・・等ご自由に、<ひとことメール>で

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(1)著者へのひとことメール
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※友人、知人、同僚、部下、上司、取引先への転送は自由です。
あなたと、会社の、知識とスキルのブラッシュアップを。
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