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田口ランディのコラムマガジン

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[ 田口ランディ:ありのままの世界]

発行日: 2000/11/24

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★★田口ランディのコラムマガジン★★2000.11.24
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「ありのままの世界」
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 熱海に住んでいる作家の布施英人さんからご招待を受けた。布施さん
のお宅にも私の娘と同じ年のお子さんがいらっしゃるとのこと。それな
ら、子供たちを遊ばせがてらおしゃべりしましょう、ということにあい
なった。

 私の住んでいる湯河原は真鶴と熱海の中間にある。私の家は海側で真
鶴寄りだ。布施さんのお宅は熱海側で山の中腹になる。距離はあるけれ
ど生活圏は同じ湯河原だ。地元に新しいお友達ができるのは嬉しくて、
わくわくしながら出かけて行った。

 子供たちは出会ったとたん遊び始める。子供って凄いな。大人のほう
はそうはいかない。初対面の挨拶などしながら、なんだか照れ臭い。こ
の日はやはり湯河原在住の巻上公一さんご夫妻もいらっしゃっていて、
態度はデカいが気が小さい私はけっこう緊張していた。

 私の顔を見るなり、布施さんが「実は今日は藤原さんも、撮影の帰り
に寄られるそうですよ」とおっしゃる。ふうん、カメラマンのお友達が
いらっしゃるのね、と私は「そうですか〜、お会いするの楽しみです」
と適当な返事をした。

 その藤原さんが、藤原新也さんであることを知るのは、話もかなり弾
んでからのことだった。

 ところで、布施英人さんは養老猛先生のお弟子さんだったそうで、当
然のことながら解剖が得意らしく、解剖した状態で標本にした鼠とか、
庭に埋めて骨状態にした犬の頭蓋骨とか見せてくださった。

 私はこういう「内臓」とか「骨」とかがとても好きなので、なんだか
興奮してしまった。今でも庭にはイノシシが埋まっているという。布施
さんは最近、イノシシ猟の猟師さんに弟子入りしているそうで、当然と
いえばそうなのだがイノシシの解体はお手のモノだそうである。

 巻上さんは、ロシア先住民に伝わる「ホーメイ」と呼ばれる歌唱方を
披露して下さった。モンゴルのホーミイのように、咽を使った倍音によ
り何通りのも声を出す不思議な歌唱方法だ。それがまた素晴らしいのな
んの、もう涙が出るほど感動してその場で弟子入りを申し出てしまった。

 みなさん、特技があっていいなあ、と思う。こういう場に来ると自分
はなんて平凡なつまんない女なんだろうとさみしくなる。

 そして、遅れてやって来たのが藤原新也さんだった。正直に言うけれ
ども、私にとって藤原新也さんは、若き日のカリスマである。『印度放
浪』『東京漂流』を読んで、どれほど痺れたことか。まだケツの青いショ
ンベン臭い小娘だった私に、藤原さんの写真も文章もあまりにもカッコ
よすぎて、本当に雲の上のお方だった。

 その藤原さんが「やあやあ」と部屋に入って来て、私の隣に座ってい
るのである。いったいこれはどうしたことか。あまりの非日常に、私の
頭は混乱するのである。な、な、なにをしゃべればいいんだ、アタシ。
コラ、我が娘、藤原さんの前でオッシッコなどと叫ぶでない!

■世界の見方を変えた3冊

 20代の前半に私がどえらく影響を受けた本が三冊ある。『気流の鳴る
音』(真木悠介)『引き裂かれた自己』(レイン)、そして藤原新也さ
んの『印度放浪』である。

 当時は自分がなぜこれらの本に、熱に浮かされたように埋没してしま
うのか見当もつかなかった。自分が感じたことを言語化する能力がなかっ
たからかもしれない。自分というものがまだ生成途中で、熱くてぐにょ
ぐにょしていて、自分で自分のことがさっぱりわからなかった。

 その頃、私は井の頭線沿いの家賃2万の安アパートに住んで、まった
くお先真っ暗のプー太郎生活をしていた。毎日毎日、酒ばかり飲んで、
男漁りばかりしていたような気がする。パンツの見えそうなスカートを
履いて、昼過ぎまで寝ていて、夜は水商売のバイトに行って、朝まで飲
んで帰って来るような、そういう生活だった。

 あれほど自堕落な生活を送りながら、なぜ「読書」という習慣だけを
捨てなかったのか自分でも不思議である。私は本だけは手放さなかった。
本を読むことを止めようとはしなかった。テレビもなく電話もなく金も
ない生活だったけど、なけなしのバイト料から本だけはよく買っていた。

 読書は、思春期に自分の身体に刻みつけてしまった習慣であり、そし
て、その習慣が私を今まで導いてきたとも言えるかもしれない。私は新
聞もとっていなかった。でも本屋に行くことは好きだった。そして本屋
の棚からのみ世界を見ていた。

 だから、岸田秀も浅田彰も中沢新一もカプラーもケストラーもラジネ
ーシもワトソンも知っていた。当時、なんとなく本屋に並んでいた顔触
れなら多少なりとも読み噛っている。結局、その後、私がまっとうに就
職するために役に立ったのは、学歴でもコネでもなく、ただ、本だった。

 その中でも、特に影響を受けたのが、上記の三冊である。今なら、な
ぜこの三冊に私がイカれていたのかはっきりわかる。この三冊は「世界
の見方」を変えてくれる本だったからだ。

 暗黙のうちに「世界ってこんな仕組み」と非言語的に感じていたこと
を、ちゃぶ台をひっくり返すみたいに見事に変えてくれたのが、この三
冊だったのだと思う。だからこそ、読んだ時の衝撃を今だに鮮烈に覚え
ているのだ。

 特に『印度放浪』は、当時に私には「最先端のカッコ良さ」に写った。
ようするに私はミーハーなのである。「このようなものの見方こそカッ
コイイ」と思い込んだのだ。そして、自分もそうありたいと素直に願っ
た。『印度放浪』ってタイトルも「藤原新也」って名前も、写真も、文
章も、全部ひっくるめてカッコイイと思った。ま、意識の点ではビジュ
アル系バンドの追っかけと大差ない。

 渋いのに情熱的、ダークなのに鮮烈なその写真の色彩イメージは、あ
る思念となって私の脳の転写された。言葉ではうまく表現できない。「あ
る世界観」としか表現しようのない何かである。

■あるがままの世界とは

 そして、その藤原新也さんが隣に座っているわけだから、私のビビリ
ようは押して知るべし……である。

 とはいえ、私ももう年をとって落ち着いてきてるので、あからさまに
「ファンなんです」とは言わない。そんなことを言い出したら座が白け
てしまう。ここは、平静を装って場を盛り上げなければ……と思い、サ
ルに金玉を見せられた話などしてしまう。アホである。でも、藤原さん
は笑っている、ああ、良かったよ〜。

「藤原さんは、最近はどこか旅行に行かれるご予定とかあるのですか?」
と質問すると、藤原さんは「ないですね〜」とおっしゃる。なんでも、
最近は「富士山」や「花」を好んで撮影しているのだとのこと。

「富士山」「花」それって、すでに花鳥風月の世界に入ったってことだ
ろうか? またしても渋い、渋すぎる。

「ある時期から、意味から逃れたくなったんですよ」「意味からですか?」
「目で見たそのままの世界を写してみたくなったんです」

 眩暈がした。実は、全く荒唐無稽な話なのだけれど、今年、私はある
お方から「神様からの伝言」というのを伝えられた。私ですら信じてい
ないのだから、読者の方に信じろとは絶対に言わない。でも伝言をもらっ
たことは事実である。それが本当に神さまからかどうかは私の知るとこ
ろではない。

 その伝言は、住吉大社の神様からだと言うことであった。ここの神様
は和歌の神様だそうである。ちなみに私は住吉大社には縁もゆかりもな
い。伝言の内容はこんなことであった。

「あんたの文章には足りないものがある。それは自然を描写する力だ。
神さまの言葉を伝えたければ意味を問わず、ありのままを描きんしゃい」

 なんじゃそれ。どういうこと?だいたい、言葉というものがすでに意
味性を帯びているのだ。だから意味を問わずありのままを言葉で描写す
るなんて、不可能とちゃうの?と私は内心反論した。でも、奇しくも藤
原さんまで同じようなことをおっしゃるのである。

「見た目そのままの世界って、どういうことでしょうか?」「ただ、そ
こにあるものを見て、美しいと思えた瞬間に自分の脳に転写するような
ことですよ」

 ただそこにあるものを見て、美しいと思えた瞬間を撮る。
 
 それはもしかしたら、地球を一瞬に灰にする光であるかもしれない。
何千の人が死んだ戦場の夕日であるかもしれない。死に逝く母親の顔で
あるかもしれない。汚染された森かもしれない。奇形の生物かもしれな
い。血で輝く海かもしれない。それでも、そこに意味を問わないという
行為が可能だろうか。そして可能だとしたら、そこに意味を問わないと
き、あらゆる枠組みからはずれた高次の「世界そのもの」が立ち現れる
のかもしれない。

 しかし、しかし、そのような「世界の美しさ」と対峙できるものだろ
うか……。そのようなアナーキーな行為が私にできるものだろうか。

 うーーむ。十数年の時を経て、私は再び、藤原さんに、宿題をもらっ
てしまった。

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 私的田口ランディ通信 →→→ メール読者のみなさまへ
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■また、旅に出ます!
11月29日から再び広島に行きます。広島を経て、岩国でお話をして、それから宮島
へ。その後、北海道を経由して、青森県の弘前に渡ります。弘前では「ガイア・シン
フォニー2」に登場された佐藤初音さんの「森のイスキア」に伺うことになっていま
す。ちょっと長い旅行になるので、もしかしたら来週、再来週と二週連続でお休みに
なるかもしれません。いろんな土地で、いろんな方と会うので、帰って来たらまた面
白いメールが書けると思います。

■12月1日に山口県で講演会を行います。講演なんてガラじゃないんで恥ずかしいの
だけど。
 タイトル「世界が漏れてくる」
  http://www.f2.dion.ne.jp/~wakibun/
 <<山口県 和木町総合コミュニティセンター.url>> 

■Ama Voice それは、人と天空の融合
 ヴォイスヒーリングの第一人者、渡辺満喜子さんのコンサートが開催されます。
  http://village.infoweb.ne.jp/~fwnn4775/amavoice.html
 2000年12月3日(日)PM1:00開演
 会場:お茶の水スクエアヴォーリズホール

■昨年10月「東海村臨界事故」の際に私の質問に往復書簡でお答え下さった元JCO
社員の菅井弘さんが「原子力エネルギーの情報の共有化」を目指したサイトを立ち
上げました。試運転公開中です。これからの原子力政策を考えていく上で重要なサ
イトになっていくでしょう。すでにたくさんの方がご意見をお寄せ下さったそうで
す。ありがとう。
 http://www.3r-net.com/

■オンラインブックサービス「bk1」において単行本『ぐるぐる日記』(筑摩書房)
『からだのひみつ』(メディア・ファクトリー)の予約販売が始まりました。『か
らだのひみつ』は目次だけ見るとすげえエッチだ。
(田口ランディの「救われる読書」のコーナーに案内が出ています)
  http://www.bk1.co.jp/

■webマガジン幻冬舎に短編を連載しています。
 今週は「彼女の背中」
  http://webmagazine.gentosha.co.jp/

■「ほぼ日刊イトイ新聞」の「担当編集者は知っている」のコーナーに『できれば
ムカつかずに生きたい』を取上げていただきました。
 http://www.1101.com/home.html

■実は、怖れ多くも藤原新也さんと対談させていただきました。来月号の月刊PLA
YBOYに掲載される予定です。もう、思いきりあがってしまったよお。

■オンラインブックサービス「bk1」およびクロネコブックサービスにおいて恋愛
短編集『ミッドナイト・コール』の予約販売中です。表紙の色校を見ました。携帯
電話の写真をあしらっためっちゃかっこいい表紙でした。なんだか自分の本とは思
えない。
  http://www.bk1.co.jp/
  http://www.bookservice.co.jp/

■日本一の書評サイト「レビュー・ジャパン」に『アンテナ』の書評が出ています。
 http://www.review-japan.com/

■「isize book」にも書評が出ています。このサイトを訪ねたら連載エッセイもぜ
ひ読んでみてください。呉智英さん、永江朗さん、藤本由香利さんが書いてます。
藤本さんの「愛情図書館」には『コンセント』と『アンテナ』の話がいっぱい出てくる。
 http://www.isize.com/book/

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