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世界文学リミックス by 池澤夏樹
池澤夏樹が夕刊フジにて毎週連載している「世界文学リミックス」の再録。池澤夏樹個人編集による「世界文学全集」(河出書房新社刊)がより楽しめる、作品にまつわるエピソードや裏話などを綴ったショート・エッセイ。
[WLRemix08] 女の魅力が軍艦を奪う 『バウンティー号の反乱』
発行日: 2008/08/12**********************************************************************************
World Literature Remix by Natsuki IKEZAWA 12/08/2008
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□ 池澤夏樹=個人編集『世界文学全集』
河出書房新社刊
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第9回配本『アブサロム、アブサロム!』
ウィリアム・フォークナー 翻訳:篠田一士
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第10回配本『暗夜/戦争の悲しみ』
残雪、バオ・ニン 翻訳:近藤直子、井川一久
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□ 『星に降る雪/修道院』池澤夏樹著
角川書店刊
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□ 『光の指で触れよ』池澤夏樹著
中央公論新社刊
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世界文学リミックス 08
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女の魅力が軍艦を奪う
『バウンティー号の反乱』
この前、画家のゴーギャンの話で、タヒチ島に行った彼が現地の若い女
性と一緒に暮らしていたと書いたね。
あの島ではそういうことは珍しくなかったらしい。
つまり、島を訪れたヨーロッパ人の男性はすぐに島の女性を恋人にする
ことができた。「南海の楽園」は嘘じゃなかったんだ。
タヒチ人は人柄が気さくで、外国人を歓待したし、セックスの倫理がヨ
ーロッパのようにきつくない。
教会で結婚しなければ一緒に寝てはいけない、とは誰も言わなかった。
だから外国船が港に入ると女たちが集まった。
船員は船から何かプレゼントを持って上陸し、短期の恋人を見つけた。
プレゼントは釘、なんてこともあった。鉄の釘はまだ珍しかったからね。
18世紀の末にバウンティー号という名のイギリス海軍の軍艦がこの島
を訪れた。
目的はブレッドフルートという木の苗を集めて西インド諸島に運ぶこと。
ブレッドフルートは「パンの実」とも呼ばれる。
大きな実が成って、実際にはその味はパンよりも薄い味のサツマイモみ
たいだけど、おいしいし栄養がある。放っておけばどんどん実る。
西インド諸島にはイギリスの植民地があってアフリカ系の奴隷がたくさ
んいた。
その人々の食料としてブレッドフルートを使おうというのがイギリスの
戦略だった。
艦長のブライという男は優秀な船乗りだったが、その一方とても厳格で、
部下たちの恨みを買う傾向があった。
船はタヒチに数か月いて、ブレッドフルートの苗を1015本集め、西
インド諸島へ向けて出航した。
その3週間後に艦の乗組員が反乱を起こした。
指揮したのは航海長フレッチャー・クリスチャン。
理由はいろいろ論じられているけれど、その第一はタヒチの女たちの魅
力だったと伝えられる。
つまり、みんな島に帰って女たちと一緒に暮らしたかった。
海軍なんかもううんざりだった。
だけど軍隊では反乱というのは究極の犯罪だ。捕まれば絞首刑。
艦の帆桁から吊される。
反乱者は艦長ブライと彼に忠実な部下たちを救命ボートに乗せて海に追
放し、タヒチに帰った。
だけどブライはすごい男だ。
彼は、19名の男を詰め込んだ長さ7メートルのボートで、47日間、
7000キロ近い航海をして、ほぼ全員を無事に生還させた。
彼の報告を受けてイギリスからは反乱者たちを捕らえるためにパンドラ
号という艦が差し向けられた。
その噂を聞いて反乱者の一部はもっと東の誰も知らない島(ピトケアン
島という)に行って隠れ住んだ。
彼らの生き残りが見つかったのは19年後だった。
バウンティー号の反乱は有名な話で、マーロン・ブランド主演の「戦艦
バウンティー」とか、何度も映画になっている。
原作の翻訳は新潮文庫にあったけれど、今は古本で探すのもむずかしい
だろう。
南海の女の魅力には大英帝国の海軍も負けたというところがおもしろい
よね。
池澤夏樹
初出:2008年1月10日夕刊フジ
世界文学全集第2回配本『楽園への道』
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【池澤夏樹の最近の著書】
□ コラム集『叡智の断片』集英社刊
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□『やがてヒトに与えられた時が満ちて・・・・・・』角川文庫
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□『虹の彼方にー池澤夏樹の同時代コラム』講談社刊
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□ 短編集『きみのためのバラ』新潮社刊
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□『憲法なんて知らないよ』集英社文庫
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詳しくは、ポレポレタイムス社 TEL:03-3227-1870
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