世界の名詩・日本の名詩に、そこから想い浮かんだ小さなお話などを添えてお届けしています。日曜の朝の楽しみにどうぞ。
- 最新号:2008-10-12
- 発行周期:毎週日曜日
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◆高尾だより第5号/ロングフェロー「夜」
発行日: 2008/6/8
おはようございます。
本日もお読みいただきまして、ありがとうございます。
きょうは、19世紀のアメリカで愛された詩人、ロングフェローの詩を
ご紹介いたします。どうぞくつろいでお楽しみください。
◆ 今 週 の 詩━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ヘンリー・ワーズワース・ロングフェロー 「夜」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
夜の闇と静寂の中に
景色はゆっくり沈みこみ 消えてゆく
それとともに 昼間の幻影が姿を消す
明かりに付きまとう 人間や物事という幽霊ども
群衆 喧騒 追求 逃走
無益な華麗さと見せびらかし
心を煽(あお)り立てる物 心を喰らう煩(わずら)い事
----すべて視界から消える
よりよき生活がはじまる
世界はもはや私たちを悩まさない
生活という鈍感で凡庸(ぼんよう)な書物から
その記録のすべてを私たちはぬぐい去る
時間と空間の中の小さな事々で
それは埋め尽くされていたのだ
ごらん! その下にひそむ理想がよみがえるのを
(訳/R.O.)
【原文】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Night
Into the darkness and the hush of night
Slowly the landscape sinks, and fades away,
And with it fade the phantoms of the day,
The ghosts of men and things, that haunt the light.
The crowd, the clamor, the pursuit, the flight,
The unprofitable splendor and display,
The agitations, and the cares that prey
Upon our hearts, all vanish out of sight.
The better life begins; the world no more
Molests us; all its records we erase
From the dull common-place book of our lives,
That like a palimpsest is written o'er
With trivial incidents of time and place,
And lo! the ideal, hidden beneath, revives.
(Public Domain/著作権消滅)
/詩 人 紹 介/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ヘンリー・ワーズワース・ロングフェロー
(Henry Wadsworth Longfellow, 1807.2.27--1882.3.24)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アメリカの詩人。メイン州ポートランドで生まれ育つ。幼い頃から読み書きに
すぐれ、14歳でボードン・カレッジに入学。卒業後、ヨーロッパ留学(1826--
29年)。帰国後、ボードンの教授となる。1831年に結婚するが、この最初の妻
(メアリー,当時22歳)を流産で失う。1836年、ハーバード大学の教授となり、
ケンブリッジへ移住。1843年、再婚。1854年、著述に専念するため、退職。
1861年、2番目の妻(ファニー,当時44歳)を不幸な事故で亡くす。1882年、
腹膜炎をわずらい、永眠。二人の妻が眠るケンブリッジのマウント・オーバー
ン墓地に葬られた。
存命中から賞賛され、最も愛された詩人の一人。
その詩は親しみやすく、平明で流麗、現代でも人気がある。
(参考:ウィキペディア)
☆ロングフェローの名言から
Love is sunshine, hate is shadow, life is checkered shade and sunshine.
愛は日の光、憎しみは影、人生は日陰と日向の格子(こうし)模様。
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(今週は、こんなお話が降ってまいりました。
ご高覧、ご笑読いただけましたら幸いです。)
夜の末っ子の話
夜の末っ子は目を覚ましました。きょうは、はじめて地球という星にひとり
で夜を届けにゆく日でした。彼は、夜の兄さんたちから、地球のうわさはよく
耳にしていました。
「青くて、とてもきれいな星だよ。でも夜を届けるのは骨が折れるんだ。前は
そんなことなかったんだが、ここ数千年、ことに、この数十年というもの、夜
をいやがる勢力がむやみに力をつけて、抵抗しているからね」
と、そんな話でしたから、夜の末っ子は、きょうは早めに出かけようと思い
ました。この末っ子は、兄たちから、ナイタンと呼ばれておりました。ですか
ら私たちも、その名で呼ぶことにいたしましょう。
さて、ナイタンは薄い半透明のマントを幾枚も身にまとうと、暗い空に飛び
立ちました。星明かりの中、薄い大きなマントは風にひるがえって淡い瑠璃
(るり)色にきらめいたり、青紫に透きとおって見えたりしました。
兄さんに教わったとおりの方角にしばらく飛んでゆくと、青く輝く大きな星
が見えてきました。
あれが地球だな。----ナイタンはそうひとりごちながら、その美しい姿に、
目を見張らずにはいられませんでした。こんなにきれいな星は、ほかに見たこ
とがありませんでした。
地球の空の中に入ってくると、ナイタンはまず、青い青い大海原の上に、マ
ントを一枚ひらりと放ちました。海はうなりながら夜を呑み込むと、ゆっくり
ゆっくり暮れてゆきました。
それからナイタンは、緑の山と森と湖の上に、マントをつぎつぎと落として
ゆきました。山と森と湖はしずかに夜を吸い込み、思い思いの色に染まりなが
ら、しっとりと暮れてゆきました。
砂漠の上にも、そそり立つ雪山にも、氷山の上にも、ナイタンは夜のマント
を放ちました。黄金(きん)色の砂漠や、純白の雪山や、青ざめた氷山に夜が
染(し)みとおってゆくさまは、なんともいえず美しいものでした。
これで地球のこちら半分のほとんどが、夜のマントに覆われ、夜の王国の中
にしずかに安らいでゆきました。ナイタンはそれを満足そうに、にっこりして
見届けると、人間の住むところへと向かいました。
山間(やまあい)の里や、小さな村々に青いマントを放ってゆくと、灯りが
ぽつぽつと点(とも)され、夜空をほんのり照らし出しました。ナイタンは、
その暖かそうな、やさしい景色にも見とれるのでした。
最後に彼は、大きな街の上にも、夜のマントを落としてゆきました。ところ
が、街はいつまでも明るく時間と空間の中に浮かんだまま、夜の中に沈んでゆ
こうとしませんでした。
ナイタンは、何が起こっているのかしらと思い、にぎやかな通りのほうに降
りてゆきました。
すると、明かりに付きまとう白っぽい幽霊たちが、たくさんの人間に取りつ
き、夜のことを忘れさせようと躍起(やっき)になっている様子が見えました。
きっとこの霊たちは時間の中でしか生きられない種族なので、人間が時間を
忘れる夜の闇と静寂を、何よりも恐れているのでしょう。
ナイタンはきらびやかな通りを離れ、郊外に向かって走ってゆく電車の中を
のぞきこみました。
すると、ほとんどの人がもうすっかり疲れた顔をしていましたが、それでも
まだ、明かりに白々(しらじら)とさらされ、それぞれに落ち着かない心を抱
えて、揺られているのが見えました。
大きなきれいな家の立ち並ぶところに飛んできたナイタンは、その中の一軒
を窓からのぞいてみました。昼間のように明るい部屋から、笑い声が聞こえて
きます。
けれどもよく見ると、そこには子どもが一人いるだけで、笑い声は、その子
がにこりともせずに見つめている大きな画面の中からしているのでした。
ナイタンは、そっと窓のそばから離れました。あの明かりを消してくれたら、
ぼくがマントをかけてやれるんだけどな…。そう思いながら、今度はもっと暗
い路地裏のアパートの一室をのぞきこみました。
暗い部屋のベッドの上で、だれかが何度も寝返りを打っていました。眠りた
いのに眠れずに苦しんでいる気配が、しんしんと部屋にたち込めていました。
じっさい、こんな夜が幾夜もつづいて、彼はもう疲れ切っていたのです。
ナイタンは、夜のマントをそっと男の上にかけてやると、窓を離れました。
街燈のそばで、いつまでも鳴きやめずにいたセミにも、落ち着きなく吠えてい
た犬の上にも、マントを小さくちぎってかけてやりました。
大きな街の中にも、夜を欲しがっている者がたくさんたくさんいることが、
ナイタンには分かってきました。でももう空に戻らなくてはいけない時刻です。
ナイタンは、残っていた青いマントを全部小さくちぎると、街の上から花び
らのように振り撒きました。そうして、夜の空の中に高く高く消えてゆきまし
た。……
あくる朝、男は目が覚めると、昨夜までの疲れや悩みが嘘のように消えて、
まるで生まれ変わったみたいに、爽やかな気分になっているのに気づきました。
カーテンを開けると、朝日がまぶしく差込み、男の心のすみずみまで照らし
ました。朝日がこんなに美しいことを、男はじつに長いこと忘れておりました。
その朝、そんなふうに感じたのは、彼ひとりだけではなかったのです。
(文/R.O.)
●編 集 後 記━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━○
関東地方も梅雨入り。それに合わせるかのように、野道や空き地の端などに、
青い露草(つゆくさ)が咲き出しました。
自然発生的に始まってしまった、つたない「お話」ですが、「長すぎる!」
とのお叱りを覚悟しつつ、しばらくつづけさせていただければと思っており
ます。笑ってお付き合いいただけましたら幸いです。
また、長くなるので、「言葉」のコーナーはお休みにいたしました。今後、
このコーナーは不定期掲載ということで、すみませんが、お許しいただきた
いと存じます。
なお、ようやくブログを開設し、バックナンバーなどをアップしました。
メルマガへのコメントなども、よろしければこちらへどうぞ。
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それでは、今週もよいことがたくさんありますように。
最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございました。
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◆高尾だより 〜 詩とスピリチュアリティ 第5号 2008年6月8日発行
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