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「海を渡った自衛官─異文化との出会い─」

発行日: 2008/6/4

 先日まで、私の住んでいる横浜で「アフリカ開発会議」が開かれていました。街の中には、見慣れない国旗を付けた外交官ナンバーの車がよく走っていました。
 5月27日にはルワンダのカガメ大統領と福田首相が会談をされたと聞いています。ところが、その席上で、大統領は過去の自衛隊による難民支援のことには一言もふれず、首相もまた、口にされなかったそうです。

 今、自衛隊のスーダン派遣の声が上がっています。国益にどうつながるのか、どう感謝され、どういう意味があるのかの説明も詳しく聞かされていません。まさか、サミット開催国のメンツのためなどではないと思いますが。
 政治の命ずるまま、どこへでも任務を果たしに行くのは、「軍隊」の当然、とるべき道でありましょう。それが文民統制であり、民主主義国家の「軍隊」の役割です。
 でも、軍隊としての扱いを国内では得られない自衛隊、軍人としての名誉や礼遇を与えられない自衛官……。
 このメルマガで、その不当性を訴えたいと思っています。(荒木肇)


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◆「海を渡った自衛官─異文化との出会い─」vol.05
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「彼らはずっとここにいる−ドイツ人の教え」                荒木肇
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■ルワンダ難民救援国際平和協力業務の概要

 アフリカの中央部、ザイール(現コンゴ民主共和国)とウガンダ、ブルンジにはさまれてルワンダはある。面積は四国のおよそ1.4倍。人口は約800万人だが、もともとは少数派のツチ族(全人口の数%にしかすぎない)が多数派のフツ族を従えて、17世紀に建てた王国だった。

 19世紀末にはドイツの保護領となり、第1次大戦後はベルギーの委任統治領になった。
 のちに国際連合による信託統治となったが、1962年には反乱が起きた。フツ族(国民の85%を占めた)が王政を倒し、共和制になった。しかし、ツチ族による抵抗が続き、内戦状態が長く続いた。

 94年4月には大規模な内戦が始まり、大量のフツ族難民が生まれた。
難民たちは安全を求めて、タンザニア、ザイール(現コンゴ)、ウガンダそしてブルンジ共和国に流れこんだ。7月19日には新政権が樹立したが、この時点でザイール共和国東部にある人口50万人のゴマ市の周辺だけで140万人もの難民が集まっていた。

 難民キャンプでは、コレラや赤痢が蔓延し、毎日2000人が亡くなっているという状況だった。これをうけて国際連合は、難民高等弁務官事務所(UNHCR)をおき、世界の各国へ救援の協力を要請した。新政権樹立後、わずか1週間のことだった。

 わが国の対応は素早かった。支援ミッションが8月2日には現地に派遣された。22日には外務省、総理府、防衛庁の職員が実務調査団として出発。9月13日には、与党調査団の現地調査の結果を受けて、派遣に関する政令が閣議決定する。16日に「ルワンダ難民救援国際平和協力隊」が設置され、翌日には空輸派遣隊が出国。21日には先遣隊がケニアのナイロビに飛んだ。

 本隊は人員260名で隊本部、管理隊、治療隊、給水隊、それに警備隊という編成である。
 医療活動は陸・海・空の医官がゴマ病院を拠点に外来診療、市内の衛生試験場で検査、現地スタッフの技術指導にあたった。また、防疫・給水活動は難民キャンプで行なわれた。給水活動は1日平均1200トン、合計約7万トンにのぼった。

 航空自衛隊の空輸派遣隊はC-130輸送機を3機、隊員118名をケニアのナイロビに派遣。約3カ月、劣悪な空港整備、さまざまな悪条件のもと、ゴマまでの約1000キロをほぼ毎日、合計98便を運行した。輸送人員、のべ3400名、貨物510トンにおよんだ。

 忘れてはならないことは、この派遣にあたって、部隊の自衛用の機関銃携行について論争が起こったことだ。ある勢力は、平和活動なのだから、いっさい非武装で行けと言った。装甲車タイプの指揮通信車は相手を威圧するから、民間仕様のトラックを出せと主張した。なかには、制服や戦闘服を着ていくなという人までいた。
 国会では与野党論争の最後に、携行する機関銃は1挺とするといった決着がついた。



「彼らはずっとここにいる−ドイツ人の教え」
                ルワンダ難民救援隊給水隊 K3尉


▼1カ月もすると、銃声が気にならなくなった

 「シュン、シュン、ブウーンという音が、すぐ頭の上で聞こえました。あ、近くで銃撃戦が始まったな。こわかったですよ。この写真を見て下さい」

 写真の中にはげっそりやつれているK3尉がいた。テントの中で、組み立て式のベッドに座っている。そのかたわらには、銀色の長方形の形をしたジュラルミン製の箱がある。ちょうど長さは身長の半分くらいで、高さは30センチくらいもあるだろうか。危ないなと感じたときは、その各種資材を入れる容器を身体の両側にならべて、二つのすき間に横になったという。

 小銃弾や機関銃弾があたれば、あっさり貫通されるようなしろものである。それでも、何もないよりはマシですから……と現在のK3佐は笑う。この状況は、鉄の貨物コンテナが来てから解決した。大きなコンテナを周囲に並べて弾よけにしたのだ。
 でも、トイレだけはどうにもならなかった。テントから離れていて、行く途中には、弾丸の走る音や、光も見えた。その往復や、用を足している最中にだけは、弾丸にあたりたくないと切実に思ったという。

 「ところが、1カ月もすると、銃声が気にならなくなるのです。慣れは怖いというか」

 部隊はゴマ空港のすぐ横にある平地に展開するよう指示された。テントを張り、周囲には蛇腹の二段鉄条網を引いた。すると、そのすぐ目の前を旅客機がオーバーランしたり、原住民が興味本位で取り囲んだり、とにかく異様な雰囲気だった。

 そして、空港は敵対する二つの勢力の間にあった。派遣隊員たちの頭越しに銃弾が飛び交うのも不思議ではない。近くでは、NGOの宿舎をねらった夜盗の発砲や、酔っぱらって銃を乱射する者もいて、治安の悪さを肌で感じた。

 当時は、何かが起こっても、その対処の仕方への国内の目も厳しかった。たとえ撃たれても、被害が出ない限り何もするな、武器すら見せつけるなとくどいくらい言われてきた。
 隊員たちは不安な夜を過ごした。到着2日目の夜だった。


▼雄大なる大自然と消防ポンプ

 目の前に広がるキブ湖のながめは雄大だった。まるで海のようだ。潮の満ち干、いや、海ではないから「しお」はおかしいかな……とひとりでに笑いもこみあげてきた。
 それでも湖岸の水位の差は、数メートルにもなった。「やっぱり、まるで海でしたよ」とK3佐はいう。予想もしなかったことも起きた。揚水用のホースが、満ち干のおかげですり切れてしまったのだ。
 それにしても、大自然の回復力というのはすごいものだと感心もした。

 キブ湖には周辺の河川がすべて流れこんでいる。激しい雨が毎日降った。およそ2時間は続く。その量たるや、はんぱなものではなかった。道路はまるで急流のようになり、あたりは泥まみれになる。
 荒れ果てたゴマの街の中も、10万人をこえる難民キャンプの貧しいテントの間も、すべてを洗い流して水は流れていった。
 「キブ湖の青い水も、あっという間に茶色になりました。まるで泥の海でした。その中に点々とゴミや、なんだか分からない物まで浮いています」
 それが数時間後には、また、美しい水面をとりもどし、何事もなかったように見えるのだ。この大自然の力は、わが国のそれとは規模も大きく違っていた。

 わが国から持ちこんだ機・器材にも問題があった。故障すると、直すには大変な手間と時間がかかった。落雷が直撃したり、その衝撃があったりすると電気系統が壊れてしまう。
 どこが問題なのか調べようにも、電力がないと検索システムが動かない。その上、トリセツは電話帳なみの厚さだった。衛星電話は通じたが、日本のメーカーの担当者との連絡も難しかった。故障したり、壊れたりした部品は高級すぎて、現地では手に入らず、日本から送ってもらうしかない。現地の緊迫した状況下、時間的ロスはすべて問題だった。

 「キブ湖の水は淡水ですが、海水並みの硬度がありました。浄水セットのフィルターはすぐにつまってしまうのです。仕方なく、スウェーデン・チームの残していった消防ポンプを揚水に使いました。原始的な器材でしたが、これが重宝しました」

 運も良かった。現地の人と調整すると、高級な機材で浄化されすぎた水より、この消防ポンプで吸い上げて、塩素消毒だけしたような水の方が評判が良かったことだ。


▼私たちの常識は、世界の中では一つの「見解」にしかすぎない

 宗教の前では、フツ族もツチ族も、白人も黒人もなかった。強烈な宗教の力、これは想像を超えていた。宗教上の戒律を妨害する者は、たとえNGOでも排除するということがあった。

 すべてが混沌としていた。難民キャンプでは家事をするのは子どもで、大人たちはすることもなく、ただ、歩き回っているだけだった。
 国連からの支援を受けられない貧しいザイールの原住民のすぐ隣には、帰国すれば豊かな生活が送れる金持ちのルワンダ難民。
 原住民はひどく貧しく、芋や木の根などを食べていた。難民たちは衣食住はもとより、医療支援も受けられた。ザイール軍の兵士の中には、この矛盾に耐えられずに、難民を自分の国から追い出そうと嫌がらせをしたり、発砲したりする者もいたという。

 K3尉は給水現場の最前線の指揮官の一人だった。難民、原住民、各国のNGOの人々、誰とでも接する機会が多かった。
 NGOなどを含めて、外国人と調整したり、交渉したりするときには、強くこちらの意志をアピールしなくてはならなかった。そうしないと、勝手に相手に都合良く受け取られてしまうという危険性を痛感したという。
 現地では、賄賂も横行していて、担当者の機嫌次第で結果も決まるということが多く、毅然とした態度も必要だった。

 そんな中で、K3尉は、日本人らしい誠心誠意努力する姿を見せることが大切だと思った。難民や現地スタッフの時間の観念はいい加減で、約束は守らない。明日の約束をしても、それはあてにならない。今日は今日、明日は明日だという人たち。
 その人たちが変わっていってくれたという。任務が終了し、別れのときに、現地スタッフの一人が、ひらがなで書いた手紙と美しい絵のプレゼントをくれた。誠意に勝る戦略無しという実感を大いに味わった。

 「組織全体もですが、個人の能力向上の必要性も感じました。語学力、行動力、国際感覚などです。ふだんでは、常識のある人がわが国では大切にされますが、しょせんはわが国での常識にしかすぎません。海外では基本的に役に立たないのです」

 語学は当然として、各国の歴史、文化、宗教についての素養が必要だ。また、海外派遣要員はとにかく明るい性格であることが必須だとK3佐は語る。現地の人や、NGOの主張の板挟みになることもある。彼らの勝手な要求にふり回されることも多かった。身体も健康であることは当然、心も健康でなくてはならないと。


▼彼らはいつまでもここにいるのだ

 人種差別というものも目の当たりに見た。長い間、差別されてきた現地人たちは、なかなかこちらを信じようとはしなかった。ささいな行き違いで、「差別を受けた」、「やっぱり敵だ」と思いこんでしまう。

 自衛隊の仕事は、続いて派遣されてきたドイツ軍がひきついだ。
 K3尉には納得がいかないことがあった。アメリカやイギリスの軍人やNGOの態度についてだ。やはり、米英の白人兵にはアフリカ人への偏見があるように見えた。
 ドイツ軍にはそういうところがなかったように感じた。そのことをパーティーの席で、ドイツ・チームの一人に言ってみた。すると、彼はほほえみながらこう語った。

 「貴官たち日本の自衛官は短い期間ですぐに帰るではないか。我々だって2年くらいはいるだろうが、アメリカやイギリスはNGOも含め、5年から10年という単位でこうした仕事に立ち向かうのだ。彼らは一番大変な時期に真っ先にやってきて、ずっとその活動を続けている。すべてを綿密にやっていたら長期間は続かない。だから、安易に、彼らを非難できるものではないと。私は、そうか、そうだったなと深く感じ入りました」

 英米をはじめとして、ヨーロッパの白人国家とアフリカの人たちの間には、長い歴史がある。宗教の違いや、過去のいきさつも含めて、私たち東洋の果ての国の人間にとって理解しがたい溝があって当たり前なのだ。昨日、今日、アフリカへ来て、多少の苦労をしたからといって、簡単に判断をすることは出来ないとK3尉は学んだ。

 
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