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「海を渡った自衛官─異文化との出会い─」vol.4

発行日: 2008/5/28

■第4次東ティモール派遣施設群の概要

 第4次派遣施設群は、2003年10月から翌年6月まで、8カ月間にわたってUNMISET(国連東ティモール支援団)の指揮下で活動した部隊である。人員405名、それまでの平和協力業務では最大の規模だった。
 群本部と本部管理中隊は首都ディリにあり、2個中隊はそれぞれディリとマリアナに中隊ごとに分かれて各種支援を行なった。
 群の主力となったのは西部方面隊(九州各県・沖縄県を担任する)の隊員である。
 海外派遣任務には五個方面隊が順番にあたることになっている。前回の3次隊は、伊丹に司令部を置く中部方面隊(中国・四国・近畿・東海を担任する)だったので、福岡県小郡の第5施設団(工兵旅団)隷下の各部隊では隊員の選出が行なわれた。
 2004年5月には国連の活動も縮小されたので、6月に部隊は撤収・帰国した。


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「流した汗はすべてがティモールの宝だ」 第4次東ティモール派遣施設群 T2尉
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▼中隊歌を聴きながら

 夕方のひととき、テントの外からは隊員たちの歌が聞こえてきた。中隊全員の愛唱歌だった。「1中隊の任務」という。1日の汗と泥にまみれた課業が終わり、隊員たちが声を合わせて歌っている。

 九州男児が一つになって
 若い力で頑張って行くぞ
 流れる汗も 輝く笑顔も
 どれもがティモールのためになる
 でも誰より 誰よりも知っている
 汗にまみれて 泥にまみれて
 何度も見上げていた この空を
 いつの日か この国を離れていくその日まで
 大切な道を きっと作り上げるのさ
 それが1中隊の任務

 中隊長のK1尉が提案した。みんなの歌を作ろう、メロディーはなじみのあるものがいい。人気バンドの歌の調べを、無断で悪いけど借用したらどうだと。
 1番の作詞は沖縄出身のO2曹がこころよく引き受けた。T2尉は2番の歌詞に「この8カ月 流した汗は すべてがティモールの宝だと」という言葉を入れた。
 T2尉は、聞きながら思った。この8カ月の間にやってきたこと、このことは防衛大学校への進学を許してくれた両親への恩返しの一部になっただろうかな……と。

 やってきたことは、主にMSR(主要幹線道路)の維持と補修だった。路肩の補修もした。要するに大規模な道路工事だった。
 壊れた橋があれば直し、傷んでいれば補強した。東ティモールは無政府状態になったために、あらゆるインフラ(社会資本)は荒れ果てていた。

 もう一つの重要な仕事があった。国連の機関が造った各種の施設の前には武装勢力の攻撃にそなえた設備がある。防護壁、ワイヤ、コンクリートブロックなどの障害物を取り除いた。1トンもあるような砂嚢、砂がぎっしりとつまった大きな袋もあった。それらを、どかしたり、捨てたりできるのは施設科(工兵)部隊だけだったのだ。


▼世の中に貢献でき、人のためになる仕事だから

 自衛隊のことなど何も知らなかった。実家の近所には、陸上自衛隊幹部候補生学校があり、第4特科連隊も駐屯していた。草刈りや駆け足ばかりしている自衛官を見て育った。

 高校生の頃には、国立大学医学部に進んで、医師になって世の中に貢献したいと思っていた。しかし、とても合格できる成績ではなかった。ついでに防大の推薦入試も力試しに受けてみようとして、とても受からないと担任から言われて驚いた。
 あんなことばかりしている自衛隊に入ることが、そんなに難しかったのかと初めて思い知った。
 両親は優しかった。決して豊かとはいえない暮らしだったのに浪人を許してくれた。

 1年後、防大の1次試験も合格し、センター試験の出来もまずまずだった。2次試験の面接では、自衛隊幹部の面接官に、自分は医学部志望であること、国立大の医学部に合格したらそちらに行く決意が固いことを明言した。
 ところが、医学部受験に失敗、防大からは意外なことに合格通知が来た。

 「家を出て、福岡の予備校の寮で1年間くらしました。ほんとうに寝食を忘れて勉強しました。成績もたしかにあげることができました。そして、そのことを両親は高く評価してくれたのです」

 もう1年頑張ってみるかと、父親は言ってくれた。でも、T少年は素直にその申し出を受ける気持ちにはなれなかった。涙を流しながら悩んだ。自分の思いを大切にしてくれた両親、でも、これ以上、負担をかけることはとてもできない。医師への夢をあきらめ、防大に入校することが最後の決断だった。

 父親は言ってくれた。自衛官も、世の中の人のためになるということでは何も変わりはない。ただ、防大はふつうの大学とは違うぞと戒めてもくれた。規律を守る、団結を大切にする、体力も要求されるだろう。ただし、男がいったん決めた道だから、最後まで貫くようにと励ましてもくれた。


▼防大生活の3つの教訓

 いや、もう大変でしたとT2尉はふり返る。入校してすぐはカルチャーショックの連続だったという。起床から始まる1日の生活、それは目まぐるしいものだった。
 起きてすぐにベッドの整頓、シーツや毛布をきれいにたたむ。上半身は裸になって外へ出る。列を作っての乾布摩擦、それをしながら大声を出す号令調整もある。

 点呼を受けて、その後は腕立て伏せなどの体力錬成。くたくたになったところで、上級生の指導のもとに半分シバキとしか思えない清掃。
 やっとの思いで部屋に帰ると、整頓が悪いといって毛布やシーツが部屋中にまき散らされていることもあった。

 「人造人間サイボーグじゃあるまいし、何か自分で意味を見つけなければ、20歳になろうとするような大人がふつうにやれる生活ではありません」

 教訓の1つは、適時適切な時間管理の必要性だった。限られた時間の中で、自分のこれからの行動を予測して、周囲との連携までも考えて自分の行動方針を決めるということだ。

 第2は、結束力のある同期の団結をつくりあげること。ほんとうの仲間と呼べる、呼んでもらう環境をつくること。同期のミスは自分のミスと心から思える連帯責任の意識の獲得だったという。

 そして、第3は、自分への挑戦だった。郷に入れば、郷に従え。不慣れな状況に積極的に対応してみる。そうすると、今までと違った視点を手に入れることができる。

 自衛官を、しかも幹部を養成する防大での生活は、まさに異文化の連続だった。細かい規則や、うるさい躾。しかも、たいていのことが納得できるようなことではなかった。シバキのような清掃指導も、いい加減なところで妥協は許さないというものである。

 学生は武器を持つことを許された自衛隊員でもある。一瞬の不注意や、甘い判断が、自分ばかりか周囲も危険におとしいれてしまう。そうした立場の人間が、これくらい良いだろうというような感覚で育ってしまうわけにはいかないというのだ。

 「私を育ててくれたのは、何よりもラグビー部でした。学業や訓練、学生舎生活というように、防大生活の構成要素はどれも重要ですが、私はラグビー部での生活を通じて監督、先輩、同期、そして後輩の方々から、たくさんの教えを受けました」


▼現地の人との意思疎通の方法

 現地の人とは、まず、死生観が違うと思ったという。現地の人は、先祖の、あるいはよその家の墓の上で遊んだり、昼寝をしたりしていたらしい。食文化も変わっていて生魚は食べない。犬を食べてしまう。ゴミのポイ捨ては当たり前。強い者が勝つのは当然で、弱い者をかばうといったところがない。子どもたちに与えた物を、親や年長者が当たり前のように取り上げてしまう。

 何より困ったのは言葉の壁だった。現地の人を雇用したが、英語が通じない。テトン語という現地語があったが、こちらはそれが分からない。通訳がいても、細かい技術上のことはまるで伝わらなかった。

 そこでやむを得ずとった方法があった。そして、それが意外にも、たいへん有効な手段だった。誰が指揮官かを、はっきりさせることだったという。
 部下に向かって命令口調を徹底した。命令や号令をはっきりかける。そうすると、現地の人も、指揮官一人に注目するようになった。そして、その言葉を真似するようになる。

 指揮官が大げさなくらい指揮官らしい言動をとることが有効だった。そうすると、自然に意思疎通ができるようになった。どんな小さな集団でも、リーダーたる者を明確にすれば。意志は通じるようになるという。
 帰国して自分が変わったと思う点はと聞いてみた。

 「困難な事態に出会ったとき、派遣先での苦労と比べればたいしたことはない、そんなゆとりが生まれて、動揺しなくなりました。広い視野で考えた上での判断力が育ったという気がします。また、部下の前での威風堂々とした態度が身に付きました。そして、何より、教育訓練の重要性を改めて認識しました。いつもの部隊での訓練がものをいう。訓練通り、実行する。現場では訓練でできた以上のことは、決してできません」

 
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