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このマガジンは、あたくし熟田津一帆がこの目で見た「阪神・淡路大震災の最初の2日間」を綴った実話なの。震災当日、友人の王妃様(仮名)とF夫の安否を気遣い、大阪から神戸まで7時間かけて自転車で駆けつけた“おかまの物語”よ。どうか最後まで読んでちょうだいね。

  • 最新号:2008-07-29
  • 発行周期:毎月17日から毎日発行、13話完結
  • 読んでる人:13人
  • 創刊日:2008-01-09
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おかまと震災 —あの日、あたしは神戸に行ったの— <第11話>

発行日: 2008/7/27

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 おかまと震災 
       ―あの日、あたしは神戸に行ったの―

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 <第11話>
           盗まれた食料

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「えっ、コンビニで買うた? どこのコンビニが開いて
てん?」
「ほら、昨日泊まった友達とこの…」
 やだっ! あれは近隣住民限定のマル秘営業だったん
だわ。たとえF夫にも、うかつなことは言えないわ。
「友達とこの近くのコンビニが開いてるんか?」
 F夫はもうなんだか、手にしたポリタンクを置いて駆
け出しそうな様子なの。
「ちゃうちゃう! 友達が前にコンビニで買うた時の袋
にパンとかおにぎりとか入れて、あんたの家のドアノブ
ぶら下げといてん」
「えーっ!? 今朝家帰ったけど、そんなもんなかったで」
 ひぇぇ〜っ! 盗られちゃったのぉ!? あんな路地の
奥だったのに、気づいた人がいたの? せっかく王妃様
と二人で買い込んだ物資だったのに…。がっかりだわ。
「まあ、みんな困ってるからなぁ〜」
 F夫は別に怒る風でもなく、あっさりそう言うの。あ
たしも「そやな、しゃーないなぁ」って答えるしかなか
ったわ。
 そうよね、こんな非常時ですもの。家の中まで押し入
ったんならともかく、近所のドアノブに食べ物が入った
コンビニ袋がぶら下がってたら、あたしだってきっと黙
って持って帰ったと思うわ。もしかしたら、ぶら下げる
ところを誰かに見られてたのかもね。
 どっちにしても、あの食料が見知らぬ誰かの空腹を、
たとえひとときでも満たしたんならそれでよかったんじ
ゃない? もしかしたら、お腹を空かせた小さな子に持
って帰ったのかもしれないわ。そう、物は考えようね。
「おまえ、これからまた自転車で大阪帰るんか?」
 寒さに首をすくめながら、F夫が言うの。
「うん、まぁぼちぼちこいで帰るわ」
「気ぃつけてな」         
「そっちこそ気ぃつけや。また来る、絶対また来るし…」
 あたしはそう言いながら、自転車に跨ったままF夫の
肩をパンパン叩いたわ。なんだかいろんな思いが極まっ
て涙が出てきたの…。
「泣くな、泣くな。何でおまえが泣かなあかんねん」
「せやかて、なんも役に立ってへんやん」
「そんなことあらへん。来てくれたんおまえだけや」
 人間の無力さを痛いほど感じながらも、あたしはその
言葉に救われたような気がしたわ。なんだかあたしの方
が励まされて力をもらったみたいね。
 と、感傷に浸るのもほどほどに、F夫と別れたあたし
は一路大阪へ向かって自転車を走らせたの。ニュースじ
ゃ43号線沿いにはガス漏れで非難勧告が出てる地域があ
るって言ってたし、復路はできるだけ山手幹線に沿って
大阪まで帰ることにしたのよ。ところが、周りの状況は
来たときよりもっと悲惨だったの…。
 高級住宅街で名高い芦屋なんて、一見被害が少ないよ
うにも見えたんだけど、それは比較的新しい建物だけ。
古い木造の建物は狙い撃ちされたみたいに根こそぎ倒壊
してたわ。まるでジャイアントロボみたいな巨人がモグ
ラ叩きをしたみたいに、たとえ大きな家でも木造家屋だ
けがぺしゃんこになってぽっかり空間ができてるのよ。
 人も大勢道にあふれてて、街路樹の脇に座り込んで毛
布に包まってる人もいたわ。中には歩道に布団を敷いて
寝ている人まで…と思ったら、それは後で分かったこと
なんだけど、安置する場所がなくて仕方なく道端に寝か
されていた遺体だったの…。あたし、知らずにすぐそば
を自転車で駆け抜けたのよ。まさか、あの布団に亡くな
った人が包まれていたなんて…。
 おまけに道路はどこもかしこも、人や自転車やバイク
が入り乱れてもう大変! 中国の通勤風景以上よ。幹線
道路なんかもう渋滞だらけで、クルマなんか全然動けな
いの。しかも悪いことに、消防車や救急車、自衛隊の装
甲車までがそれに巻き込まれちゃってるのよ。あたし、
サイレンを鳴らしたまま立ち往生してる救急車を初めて
見たわ。急病人が待ってるっていうのに、あれじゃどう
しようもないわ。結局、道路が壊れちゃうと、どんな緊
急車両も被災地には入れないのね。
 そんな中、荷台に物資を山ほど積んだバイクの一団が、
自衛隊の装甲車を尻目に渋滞を縫ってするする進んで行
くのを目撃したの。どこの救援隊かと思うと「創価学会
○○青年部」っとかいうのぼりを立ててたわ。
 さすがねぇ〜。こういうとき宗教団体は強いわ。しか
もバイクで救援に駆けつけるなんて、きちんと被災地の
現状を把握してる証拠ね。融通の利かないお役人にはで
きない芸当だわ。ほんと、いざっていう時に“お上”な
んてものが、いかに無能で頼りにならないかっていうの
を目の当たりにしたわ。
=========================
■おかまと震災
  ―あの日、あたしは神戸に行ったの― <第11話>
■発行:2008.7.27
■著者:熟田津一帆(にきたついっぽ)
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発行者プロフィール

ペンネーム : 熟田津一帆(にきたついっぽ)

  •  メディアヒエラルキーの最下層部にブラ下がる“エセ業界人”。齢37にして心機一転、大阪から上京したんだけど、東京はそんな甘いもんじゃなく、夢見た生活はまだはるか彼方…。かくなる上はと、大胆にもメールマガジンの発行を決意したの。住んでるとこは、高級住宅街で名高い田園調布の“場末”(←家賃が払えないの…)。ペンネームは万葉集第一巻・額田王の歌〜熟田津に船乗りせむと月待てば〜に由来するのよぉ。

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