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このマガジンは、あたくし熟田津一帆がこの目で見た「阪神・淡路大震災の最初の2日間」を綴った実話なの。震災当日、友人の王妃様(仮名)とF夫の安否を気遣い、大阪から神戸まで7時間かけて自転車で駆けつけた“おかまの物語”よ。どうか最後まで読んでちょうだいね。

  • 最新号:2008-07-29
  • 発行周期:毎月17日から毎日発行、13話完結
  • 読んでる人:14人
  • 創刊日:2008-01-09
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おかまと震災 —あの日、あたしは神戸に行ったの— <第9話>

発行日: 2008/7/25

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 おかまと震災 
       ―あの日、あたしは神戸に行ったの―

=========================
 <第9話>
            避難所で

=========================
 でもねぇ、いざいろいろ買い始めると、あたしはどう
しても大阪のおばちゃんっぽくなっちゃって、なんでも
かんでもカゴに入れちゃうのよ。カップ麺にポテトチッ
プス、渋いところではお味噌とか、普段コンビニでは買
わないものまで手当たり次第よ。でも周りの人たちも、
一見平静を装ってるけど、目つきはかなり真剣よ。
 そうしてるうちに王妃様が実家から戻ってきたの。軍
資金の到着よ! でも、あたしのカゴを見るなり…。
「あんた、買いすぎやで!」
「ええやないの! 今買(こ)うとかな今度いつ買える
か分からへんやん!」
「せやけど、スポンジや歯ブラシは要らんわ…」
「今は要らへんかもしれんけど、いつ要るか分からへん
やん!」
「要らん要らん、絶対要らん!」
 …と、まあそんな押し問答の末、減らしてはみたもの
の結局カゴ三つ! しかも山盛り…。レジに並んだら、
さっきの店長さんが中にいたの。だってこんな状態
ですもの、アルバイトの人も来られないわよね。
 清算してもらったら、なんと2万円以上! レシート
が「びよ〜ん」って30cmぐらい出てきたわ。あんな長い
レシートを見たのは初めてよ。でも他の人も同じぐらい
買ってたわ。
 それから王妃様と二人、両手にレジ袋を二つずつ持っ
て部屋に戻ったの。ほんと近所ににコンビニがあって助
かったわ。店長さんにも大感謝よ。
 ま、これだけあればしばらく食糧には困らないわ。と
りあえず王妃様のお部屋に置いておくのと、ご実家へ持
っていくのを分けたんだけど…。
 その時あたし、ふとF夫のことを思い出したのよ。
「なぁ、お水とかちょっとだけF夫のとこに持って行っ
たってもええやろか?」
「ええで、かまへんで」
 なんて寛大な王妃様! 御慈悲に満ちたお言葉だわ。
なにしろあたしの所持金はたったの2千円。この物資は
すべて王妃家のものなのよ。
 F夫は今夜、避難所にいるはず。そうと決まればあた
しはお水1本と避難所でもすぐ食べられるようにパンや
缶詰を持って、懐中電灯を片手にまた外に出たのよ。
 やっぱり一人だと怖いわねぇ。なにしろ震災当日の夜。
一番混乱してた時よ。今になれば、よくまああんな時に
一人でうろうろしたと思うわ。幸い余震に遭うことはな
かったんだけど、目を閉じても開けてもおんなじぐらい
真っ暗で、懐中電灯がなしじゃ歩けなかったわ。
 とりあえず最初はF夫の家に行ってみたの。細長い路
地を入った古い日本家屋なんだけど、やっぱり明かりは
点いてないの。試しに「F夫!」って何度か呼んでみた
けど、闇夜におかま声が空しく響くだけだったわ。
 仕方がないので、今度は避難所に。すぐ近くの小学校
よ。校門を入ると避難してきた人がドラム缶の焚き火を
囲んでたわ。こういう炎ならなんだかほっとするわね。
でも次の瞬間、あたしは愕然としたのよ…。
 なんと、体育館の入口で寝てる人がいるじゃない! 
下は堅くて冷たいコンクリートよ。それも一人や二人じ
ゃないわ。中に入れなかった人たちが、着れる切れるだ
け着込んで軒下でびっしり横になってるのよ。
 ああっ、なんてことかしら…。あたしたちは電気も点
き暖房も入る暖かい部屋で、コンビニで買い占めた物資
に囲まれてるっていうのに、歩いてほんの数分、目と鼻
の先ではこんな状況になってるなんて…。あたしはなん
だとっても悪いことをしているようで、激しい罪悪感に
襲われたの。でも、せっかく王妃様から下賜された物資
よ。なんとしてもF夫に届けなくちゃ!
 あたしは意を決して真っ暗な体育館の中に入ったわ。
するといきなり異臭が…。それは今まで嗅いだことのな
い臭い。なんていうのかしら、腐臭じゃないんだけど、
あきらかに人間の発する臭いよ。
 通路らしきものもあるにはあるんだけど、ほんとに狭
くてまるでけもの道。真っ暗だから懐中電灯で照らしな
がら歩くんだけど、あたしのつま先に寝てる人の頭があ
ったりしてびっくりするの。きっと向こうもおんなじよ
ね。何度も「すみません」って謝りながら、それでも
「F夫、どこや? F夫!」って呼びかけたのよ。
 でもね、やっぱり無理…。寝ている人をひとり一人照
らしながら歩くなんて、いくらなんでもできないわ。み
んな取るものも取らずに、着の身着のままここへ逃げ込
んで来た人たちよ。あたしはもう申し訳なさと情けなさ
で胸がいっぱいになっちゃって、10mも進まないうちに
入口に引き返したの…。とてもじゃないけど、あの広い
体育館の中でF夫を見つけるなんてできないわ。
=========================
■おかまと震災
  ―あの日、あたしは神戸に行ったの― <第9話>
■発行:2008.7.25
■著者:熟田津一帆(にきたついっぽ)
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発行者プロフィール

ペンネーム : 熟田津一帆(にきたついっぽ)

  •  メディアヒエラルキーの最下層部にブラ下がる“エセ業界人”。齢37にして心機一転、大阪から上京したんだけど、東京はそんな甘いもんじゃなく、夢見た生活はまだはるか彼方…。かくなる上はと、大胆にもメールマガジンの発行を決意したの。住んでるとこは、高級住宅街で名高い田園調布の“場末”(←家賃が払えないの…)。ペンネームは万葉集第一巻・額田王の歌〜熟田津に船乗りせむと月待てば〜に由来するのよぉ。

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